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食い道楽

 二十九階層でボス戦を繰り返した。

 元々戦えていた上にルティナの加入で純粋に戦力がアップしているのだから、戦闘に懸念はない。

 危なげなく狩っていく。

 この分ならまだまだいくつか上の階層へ行っても大丈夫そうだ。


 ボス戦そのものは、ミリアが一匹めとボスまでを石化するのは確定で、三匹めを、俺が倒すのが先かミリアが自力で石化させるのが先かの競争、という感じの進行か。

 最後の一匹には、状態異常耐性ダウンはかけない。

 かけてしまえばミリアがあっさりと三タテを喰らわせることは確実だ。


 状態異常耐性ダウンをかける一匹めなど、石化は異様に早い。

 うまくいけば最初の一振りで石化とか。

 石化にならなくても麻痺してしまうことも多く、麻痺してしまえば魔物からの攻撃を気にすることなく剣を振り回せばいいので、石化は時間の問題となる。

 俺の雷魔法で麻痺することもある。


「ミリアのおかげで戦闘が楽に進みます。もう少し早く動き出してもいいかと思います」


 石化の恩恵を最も受けるのはセリーだ。

 経験値獲得のためにデュランダルは出さないようにしているから、詠唱中断のスキルがついている武器はセリーの槍しかない。

 魔物が魔法やスキルを使ってこようとした場合、セリーが止めなければいけない。

 注意を払う魔物が三匹から素早く二匹に減るのは歓迎だろう。


「では、それでやってみてくれ」


 セリーの提言を受け、戦い方も少しいじった。

 いずれにしても最後が俺とミリアとの競争になるのは変わらない。

 今回は俺の魔法で倒す。

 ルティナが魔法を二回使ったので、そのサポートもあったとはいえ。


「やった、です」


 その次はミリアが三タテだ。

 ルティナのサポートがないとこれか。

 ええい。

 よろしい。ならば競争だ。


 と思ったら、そこからミリアの快進撃が。

 俺が三タテを喰らってしまった。


「そろそろ日の昇るころですね」


 などと勝手にゲームを設定していたら、時間も早くすぎたようだ。

 ロクサーヌにタイムオーバーを告げられる。

 残念だがここまでのようだ。

 今朝のところは勝ちを譲っておくしかないだろう。



 迷宮から出た後は、朝食を取り、商人ギルドへ赴く。

 ギルドでは芋虫のモンスターカードを買っただけで、すぐ家に帰った。

 金銭的には、もっとあれこれ頼んでもいいのだが。

 迷宮での稼ぎは大きくなってきているので、装備品だろうがモンスターカードだろうがばんばん買いあさっても問題はない。


 心配なのは、相場が崩れることだ。

 出品されるモンスターカードを片っ端から落札していけば、いつかはそうなるだろう。

 かく乱要因になれば誰かから恨みを買う。

 仲買人を介しているとはいえ、不要な軋轢は避けたい。


 俺たちの成長スピードと装備品の強化速度が合わなくなるが、仕方がないだろう。

 こればかりは一朝一夕で解決できる問題ではない。

 普通のパーティーはもっとゆっくりと強くなっていくのだろうし、長い目で見ていこう。


 持ち帰った芋虫のモンスターカードはセリーに融合してもらう。

 セリーはあっさりと身代わりのミサンガを作り出した。


「できました」

「よし。無事成功だな。ありがとう」

「確実に成功させるという話は本当だったのですか……」


 ルティナも感じ入っている。

 セリーのいいアピールになっただろう。

 別にそんなことをしなくてもルティナがセリーを軽んずることはないだろうが。


 身代わりのミサンガは大切にアイテムボックスへ収め、迷宮に戻った。

 ミリアとの競争再開だ。

 ここからは少し本気を出させてもらおう。


 ボス部屋に入ると、煙が三箇所に集まる。

 そのタイミングでオーバードライブと念じた。

 煙がしっかりとした形に整い、魔物の姿を示す。

 ボスタウルスと、今回はモロクタウルスが二匹だ。


 アクアストームとサンダーストームを念じた。

 ややあって、魔法が発動する。

 発動までには結構な間があった。


 オーバードライブ中だが魔法の発動まで早くはならないようだ。

 俺の動きは早くなっても、発動は別らしい。

 念じることは素早くできたから、いくぶんか早くなっているだろうが。

 動きが早くなっているので、かえって発動までが間延びして感じる。


 その間、ミリアがゆっくりと近づいていっているモロクタウルスに状態異常耐性ダウンをかけた。

 試しに魔法も念じてみたが、こちらは発動しないようだ。

 最初に念じた魔法が発動して少したったころ、オーバードライブの効果が切れる。

 魔物やパーティーメンバーの動きが速くなった。


 オーバードライブ一回につき魔法二発は無理か。

 オーバードライブの効果が切れると、雷光が急速に収まり、霧が晴れていく。

 晴れたところで、またオーバードライブと念じた。

 次の魔法を放つ。


 戦闘中とはいえ俺だけが突出して動いてもしょうがないので、発動までじっと待った。

 オーバードライブが切れて魔法が使えるようになったら、またオーバードライブをかけ、次の魔法を。


「やった、です」


 ボスまであっさりと石化されてしまったが、オーバードライブを繰り返した。

 石化したモロクタウルスが煙になる。

 同時に、石化していない魔物も倒れた。

 今回は俺の先着だ。


 やはりオーバードライブは使える。

 オーバードライブ中の攻撃は威力が上乗せされると感じたが、魔法でもそうなるようだ。

 魔法の攻撃力もしっかり上乗せされている。


 現象としては、戦闘時間が短くなった。

 今までの半分だ。

 つまりオーバードライブで威力が約二倍になるのだろう。


「……戦闘時間がいきなりかなり短くなったようですが」

「ルティナも少しは慣れてきただろう。これからはこれでいこう」


 ボスにアクアボールを撃ち込みながら、セリーの突っ込みにも応じておく。

 まだまだ魔法を使える余裕があるから、オーバードライブは常時使用しても大丈夫だ。

 オーバードライブ一回につき魔法を二発放ち、その威力が二倍になるのだから、オーバードライブ一回で魔法二発分のMPを節約できることになる。


 オーバードライブ一回の消費MPは、魔法二発のMPより少ないか、仮に多いとしても体感できるほどの違いはない。

 少なくともガンマ線バーストやメテオクラッシュの比ではない。

 オーバードライブを常時使用してもMPが問題になることはないだろう。


 問題があるとすれば、寿命か。

 オーバードライブは寿命を削るとか、そういう副作用がありそうな気がする。

 副作用としてはなかったとしても、俺は体感長く生きることになるから、その分客観的な寿命は短くなるのではないだろうか。


 細胞は老化していくだろうし、一生の間に心臓が脈動できる回数には上限があるという。

 オーバードライブ中に鼓動が遅くなったりはしていないと思う。

 それでどのくらい寿命が短くなるか。


 戦闘時間の半分でオーバードライブを使ったとして、迷宮に入っている時間のうち戦闘時間の占める割合は多くても二十五パーセントくらい、一日八時間迷宮に入ったとするとオーバードライブのパーセンテージはさらにその三分の一、全体では五パーセントに満たない時間だろう。

 俺が今後六十年間迷宮に入り続けるとして、オーバードライブを使っている時間は三年以下ということになる。

 その分だけ寿命が減るとして、短くなるのは三年だ。


 そのくらいなら、まあしょうがないのではないだろうか。

 オーバードライブで寿命が短くなると決まったわけでもなし。

 短くはならないかもしれない。


 仮に現在の寿命が七十七まであるとして、七十七歳まで生きるのも七十四歳まで生きるのもそんなに違わないような気がする。

 七十三歳になったとき後悔するかもしれないが。

 そのときはそのときだ。


「どこまで強くなられるのでしょうか。まだ何か隠していそうです」

「今のところはあまりないな」


 セリーにはそう答えておいた。

 ジョブに英雄と魔法使いをつければ、もう少し戦闘時間は短くなるだろうが。

 魔法使いの魔法もオーバードライブが乗って威力が二倍になるだろうから、結構な違いになるかもしれない。


「さすがご主人様です。この分だとすぐにももっと上の階層へ行けそうです」

「上の階層ですか。いえ、わたくしもついていけるはずです。それよりも、わたくしのために手加減してくれていたようで、申し訳ありません」


 ルティナが謝ってくる。


「あー、いや。別にそこまでではない。気にするな」


 ルティナが慣れてきたからこのやり方にするというのは、慣れるまでこのやり方にしなかったということだ。

 勘違いさせたかもしれない。


 ボス部屋を出て、また戦闘を繰り返す。

 オーバードライブが使えることが分かったので、ボス部屋への移動途中で出会う魔物に対しても同様の戦い方でいくようにした。

 戦闘時間が短くなって、かなりいい感じだ。

 命の危険どころか攻撃を浴びる可能性が大きく減って、半分ピクニック気分で迷宮を歩ける。


 魔物と直接対峙する前衛陣は、そこまで気楽ではないだろうが。

 短くなったといっても魔物と接触する前に倒せるほどではないし、かといってあわてて魔物のところに駆けつけてもすぐにこともなく終わってしまう。

 少々ストレスの溜まりそうな状況だ。

 まあ危険があるよりはいいだろう。


 それよりも問題点は、石化しにくくなったことか。

 戦闘時間が短くなったので、そのこと自体はしょうがない。

 三匹以上魔物がいるときにミリアが全部を石化させるような時間はなくなった。


 全部の魔物が石化すればデュランダルを出してゆっくりMPを回復できるのだが、それができない。

 オーバードライブを使ってもMP消費に大きな違いがあるのではないが、MP回復には難が残った。

 現状では、ボスが確実に石化したまま残るので、ボスをデュランダルで倒して周回分のMPを補給している。

 ボスは経験値的に大きいだろうから毎回全部デュランダルを出すのはもったいないし、今のようにボス戦メインの戦いをしなくなったときにどうなるかという懸念はある。


 いや。そのときはそのときか。

 ボス戦メインでなくなるということは、戦闘時間も延びて厳しくなってきたということだろうし。

 戦闘時間が延びれば石化は増える。

 あるいは、普通の雑魚戦でも状態異常耐性ダウンを使って、ときどきは全部石化させるように誘導してもいい。


 戦闘時間が短くなったのでボス戦で三匹めを俺が先に倒すかミリアが先に石化させるかの競争はなくなったかといえば、なくなっていない。

 やはり最後はその競争になっている。

 思うに、オーバードライブは状態異常耐性ダウンにも効果が乗るのではないだろうか。

 耐性ダウンなので威力が増すのではなく、下げ幅が増える方向で。


 状態異常耐性ダウンをかける一匹めなどは、ミリアが文字通り一振りか二振りで石化させるようになっていた。

 ボスが石化するのも早い。

 状態異常耐性ダウンの効果が上がっているのでなければありえない確率だ。

 俺の雷魔法で麻痺することも増えたし、間違いないだろう。


 ちなみに、雷魔法の麻痺確率はオーバードライブで増えていないと思う。

 威力は上がっているのでそこまでは贅沢か。


 三匹めは状態異常耐性ダウンをかけないので、ミリアとの競争はトータルではやや俺の方が有利だ。

 今回も、石化したサイクロプスに続き、石化していないモロクタウルスが俺の水魔法で倒れる。

 俺の勝ちだ。

 モロクタウルスが煙となって消え、アイテムが残った。


 あ。

 三角バラだ。

 ボスタウルスはまだザブトンを残さないが、料理人をつけた効果がここで出た。

 今夜の夕食は魚ではなく焼肉に決定だ。


「ここまで楽に戦えるのでしたら、今日明日と二日間も様子を見る必要はないのではないでしょうか。すぐに上の階層へ行っても大丈夫だと思います。わたくしのことなら心配には及びません。戦ってみせます」


 ルティナが進言してくる。

 確かに、状況的にはそのとおりなんだろう。

 ただ、調子に乗ってほいほい上がっていくのも怖い。

 ここでロクサーヌに相談などしたら、上に行くと主張するに決まっているし。


「うーん。どうしようか」


 回答保留のまま、ボスをデュランダルで始末した。

 ボスが倒れ、煙になる。

 煙が消え、肉が残った。


 あら。

 ザブトンだ。

 三角バラに続いて、ザブトンが残った。

 今回のボス戦はついている。


「ご主人様と私たちなら上の階層に行って何の問題もないと思います」


 そんなことよりロクサーヌよ、ちょいと聞いてくれよ。

 まあ俺のようなド素人は、ザブトンでも食ってなさいってこった。


「お。これはザブトンが残ったな」

「あ。すごいです」


 話をそらす。

 ザブトンは、鑑定がなくてもアイテムボックスにロースと一緒には入らないからそれで分かる。


「上の階層か。さすがに今からでは調子に乗りすぎだろうが、今日一日この階層で戦ってみて明日からならいいだろう。それでどうだ」

「はい。それでいいと思います。さすがご主人様です」

「……やはり、食い道楽」


 ルティナがつぶやいた。

 あちゃ。そりゃそうだ。

 今、上に行こうと言ったら、ザブトンが出るまで粘っていたみたいじゃないですか、やだー。

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食い道楽さんw
ルティナの強さ感覚がバグっている様だが、困ったものです。お肉良いですねー♪。 ご飯は焼肉三昧。ベッドで肉林三昧。良きかな、良きかな(^^)♪
ルティナはパーティ入りしたばかりでパーティの凄さと自分の実力がよくわかっていないだろうにだいぶ積極的だな。それとも道夫が慎重派過ぎるのか。
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