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二階層


 ボスを倒した場所の隣の部屋には、黒い壁だけがあった。


 その黒い壁に入り、一瞬の闇を抜けると、一階層の出入り口にあったのと同じような小部屋にたどり着く。


 大きさは四、五メートル四方ほどで、前と左と右に道が一本ずつ延びている。一階層と同じだ。

 後ろには俺が出てきた黒い壁があった。これも一階層と同じである。

 目隠しされて連れてこられたら、区別がつかないんじゃないだろうか。


 多分ダンジョンウォークが有効だろうから、念じればここにこれるのだろうが。

 試してみるか。


 いや、試して成功しても、移動したここが二階層かどうかが分からん。


 後ろの黒い壁を抜けたら、さっきの場所に戻るのだろうか。

 そっちから試してみるか。


 俺は黒い壁を抜ける。


 真っ暗な空間を通ると、急にまぶしい場所へ出た。

 迷宮の入り口だ。

 昨日と同じ探索者の男が立っている。


 目がなれないが、夕刻まではあと少しというところか。

 外に出てしまったことだし、今日はここまでにしておこう。


 道の反対側から六人のパーティーがやってきた。

 パーティーの探索者が入り口近くに立っていた探索者と会話する。


「どこまでだ」

「四階層です」


 俺は、少し道をずれ、リュックサックを置いて中を確認する振りをしながら、聞き入った。

 情報収集は大切だ。


 パーティーの探索者が騎士の顔を窺う。

 このパーティーでも騎士が偉いみたいだ。

 そういうものなのかね。


「四階層には何がいる」


 騎士が直接入り口の探索者に話しかけた。


「ミノです。一階層から、ニードルウッド、グリーンキャタピラー、コボルトです」

「三階層のコボルトはやってられんな。四階層からにしよう」


 やっぱりこの迷宮の魔物の組み合わせは駄目みたいだ。

 騎士がパーティーの探索者を見て、うなずいた。


八百やお千五百ちいほのお宝を、収めし蔵の掛け金の、アイテムボックス、オープン」


 あれがアイテムボックスの呪文か。

 パーティーの探索者が何か取り出す。



銀貨



 よく見えなかったが、取り出したのは銀貨だ。

 さすが、鑑定は役立つ。


 入り口の探索者が受け取り、やはりアイテムボックスを出して銀貨をしまった。


「友に応えし信頼の、心のきよむ誠実の、パーティー編成」


 入り口の探索者が続いてなにやら唱える。

 こっちがパーティー編成の呪文か。


 パーティー編成なんかしてどうするつもりなのかと思っていると、パーティーにいた探索者と二人で迷宮の中に入っていった。

 そしてすぐに戻ってくる。


 騎士側のパーティーにいた冒険者がやはりパーティー編成呪文を唱えた。


「よし。四階層から行くぞ」


 騎士が宣言し、六人が迷宮の中に入る。

 全員が消えるのを見届けずに、俺も町の方へと歩き出した。


 あれは何をしていたのか。

 多分、探索者二人で四階層まで行ってきたのだろう。


 探索者のダンジョンウォークは、一度行った場所なら迷宮内を移動できる。

 六人が移動するところを何度か見たし、唱えた本人だけではなく、パーティーメンバーなら有効なのだろう。


 迷宮入り口に立っていた探索者は、案内人で、四階層に行ったことがあるのだろう。

 新しく来たパーティーの探索者はもちろんこの迷宮に入ったことがない。

 二人がパーティーを組めば、四階層に行ったことのある案内人の探索者が四階層に行ったことのない探索者を連れて四階層に行ける。

 一度四階層に連れて行ってもらえば、次からは四階層に行ったことのない探索者も自分のパーティーを連れて四階層に行くことができる、という仕組みだ。


 パーティーメンバーが五人以下ならば、案内の探索者が全員を連れて行くのかもしれない。

 巧いこと考えてるもんだ。


 俺も利用すべきか。

 しかし、下の階層へ行けば魔物も強くなるだろう。

 自分の強さが分からない以上、一階層ずつ順番に降りていくのが安全だ。


 昨日、冒険者ギルドで二人の冒険者が出てきたのも、同じことをやっていたのだろうか。


 フィールドウォークを使える冒険者が二人いて、片方が行ったことのある町であれば、一度二人で移動することで、両方ともその町に行けるようになる。

 この世界では、人の往来はかなり自由で頻繁だと考えていいのだろう。



 迷宮の入り口から少し離れたので、キャラクター再設定でデュランダルを消す。

 ボーナスポイントが1ポイントあまっていた。いつの間にかレベルアップしたようだ。

 使い勝手が分からないクリティカル率上昇とMP回復速度上昇に1ずつ振ってあるポイントと、ワープをはずし、4ポイント消費してフォースジョブを獲得する。

 ジョブ設定を利用してジョブを整えた。



加賀道夫 男 17歳

探索者Lv8 英雄Lv6 戦士Lv5 剣士Lv1

装備 シミター 皮の鎧 サンダルブーツ



 一日としては驚異的な伸びだと自画自賛しておこう。


 いったん宿屋に戻って生薬生成を行った後の売却額は千九百十一ナール。

 今日一日の売上は計四千二百七十六ナールだ。

 昨日拾ったリーフの分もあるが、ワンドを売っていないから、差し引きすればそんなに変わらないだろう。

 ワンドは、アイテムではなく装備品の杖だから、多分武器商人にでも売るのではないかと思う。


 金貨一枚には足りないが、一日の稼ぎとしてはかなりのものではないだろうか。

 装備品を整えたり、衣料を買ったり、こまごまとした日用品が必要になれば、もっとお金を使うのかもしれないが。

 今のところ、使うのは宿賃二百二十四ナールとお湯二十ナールだけだ。

 お湯を頼むときに何故三割引が効かないのかは謎である。



 夕食を取ったら、今日はもう寝る。

 すっかり早寝早起きの健全な生活が身についてしまった。


 日が暮れたら本当にやることがない。

 もう一回迷宮に入るという手もあるが、途中で眠くなったら危険だし。



 早く寝れば、早く起きる。

 というわけで、次の日も暗いうちから迷宮行きだ。


 ジョブ設定をはずしてつけたワープで、二階層の入り口に出る。

 見た目だけでは一階層の出入り口のある小部屋と区別がつかないが、多分二階層だろう。


 今回のワープは、あまり気分が落ち込まなかった。

 レベルアップしたおかげか。

 とはいえ、まだ連続で使うつもりはない。あれは本当にきつかった。


 一階層では二階層への出口は右にあったので、二階層では左に進んでみる。

 左側の道は、入った先に十字路があった。

 一階層とは違う。無事二階層にこれたようだ。



ニードルウッド Lv2



 最初に遭遇した魔物は、一階層と同じニードルウッドだった。

 二階層は何とかいう魔物になるんじゃないのか。

 Lv2というのは、単に二階層だから、ということだろうか。


 デュランダルで袈裟がけにし、一撃で斬り捨てる。

 ニードルウッドもLv2で強くなっているのかもしれないが、デュランダルを使えばやはり一発だった。


 まあ俺がレベルアップしたおかげもあるのだろう。

 あるいは、ジョブを四つ重ねている効果とか。

 あると思いたい。



グリーンキャタピラー Lv2



 次に遭遇したのが、グリーンキャタピラーだ。

 そうそう。二階層はグリーンキャタピラーだった。

 二階層は二種類の魔物ということだろうか。


 緑色のでっかい芋虫である。

 正直かなり気持ち悪い。

 中型犬くらいの大きさのブヨブヨの幼虫だ。いや、中には筋肉がつまっているのかもしれないが。


 観察もそこそこに駆け寄った。上段からデュランダルを振り下ろす。





 こっちも一撃のようだ。

 緑の煙が消えると、束になった糸が残った。


 その後何匹か狩ったが、出てきたのはニードルウッドLv2かグリーンキャタピラーLv2だ。

 二階層は二種類の魔物のどちらかであるらしい。


 などと考えていると、今度は両方の魔物と遭遇した。



ニードルウッド Lv2


グリーンキャタピラー Lv2



 二匹連れなのか、たまたま居合わせただけか。

 あの魔物が大量に潜んでいた小部屋を除けば、迷宮内の道で複数の魔物に出会ったのは初めてだ。


 まずは寄ってきたニードルウッドにデュランダルを叩き込む。

 続いてグリーンキャタピラーの方を、と見ると、魔物の胸部の下にオレンジ色の魔法陣ができていた。

 魔法陣はすぐに消え、グリーンキャタピラーが何かを吐き出す。


 糸だ。


 魔物の口から糸が吐き出され、俺の正面を広く塞いだ。

 四方八方に大きく広がりながら、飛来する。歌舞伎の蜘蛛の糸を見ているような感じだ。

 デュランダルを振って幾分かは巻き取るが、全部は防げなかった。


 防ぎきれなかった糸が手足や頭に絡みつく。

 気持ち悪い。だけではなく、手足を自由に動かすことが難しくなった。

 粘着テープを体に巻きつけられたような感じだ。


 腕の動きを確保しようともがいている間に、グリーンキャタピラーの体当たり攻撃を受けてしまう。

 不自由な足でなんとか耐え、デュランダルを振り下ろした。


 糸による拘束は攻撃力に影響しないのか、あるいは影響を受けてなお撃破するだけの攻撃力を保てたのか、グリーンキャタピラーはやはり一撃で沈んだ。





 魔物が消えると同時に、体に絡みついていた糸も消える。

 ドロップアイテムの普通の糸が残った。


 グリーンキャタピラーは糸を吐いてこちらの行動を制約するという特殊攻撃をしてくるようだ。

 一匹二匹なら多分問題はないが、大量に湧いたらどうしようか。

 一階層にあったあの小部屋のように……。


 まずい。

 かなりまずい結果しか思い浮かばない。


 複数のグリーンキャタピラーに囲まれたら、四方から糸を吐かれ、動きの鈍くなったところをめった打ちにされるだろう。

 こちらの動きが鈍くなれば、殲滅速度が遅くなるだけでなく、デュランダルによるHP回復も遅れることになる。

 魔物からの攻撃に耐えられるだろうか。


 何か対策を考えた方がいいか。


 もちろん、何の対策も採らない、という手もある。

 考えてもみるがいい。

 あそこまで大量に魔物が湧く小部屋は、かなり稀なトラップではないだろうか。


 一階層には、見習いを含む騎士の六人パーティーや、ボス待ちの部屋に来たレベルの低いパーティーもいた。

 あの人たちは魔物が大量に湧いた小部屋に対応できるのだろうか。

 俺がなんとかなったのはデュランダルのおかげであり、レベルの低いパーティーでは対応できないのではないかと思う。

 それなのにあの人たちが迷宮内にいるということは、大量の魔物と遭遇するような危険性は実際にはかなり低いということを示唆している。


 大量の魔物が湧く危険性がそんなに高いのなら、レベルの低いパーティーは迷宮にはいないだろう。

 レベルの低いパーティーが実際迷宮にいるということは、大量の魔物が湧く危険性はそんなに高くないということだ。


 あまりに楽観的なような気もするが、現実はこんなものかもしれない。

 あのレベルの低いパーティーも二階層にやってきているだろう。あの人たちが二階層で戦っていけるなら、俺にもできるはずだ。


 とはいえ、危険を放置するのはまずい。

 迷宮では安全を過信したやつから死んでいくだろう。

 一度あることは二度ある。

 魔物が大量に湧く小部屋を経験した以上、これからもあると考えておくべきだ。


 ではどんな対策を採るか。


 対策の一つは、レベルアップを続けることだ。

 レベルが上がればそもそもの殲滅速度が速くなるだろうし、HPや体力も上がるだろう。

 グリーンキャタピラーから攻撃を受けても蚊に刺された程度の痛みしか感じないようになれば、袋叩きにされても問題はない。


 ただし、そこまでいくのにどれだけレベルを上げる必要があるのかと考えると、相当に大変だろう。

 大量のグリーンキャタピラーに囲まれても大丈夫だと、いつどうやって判断するのか、という問題もある。

 ロクサーヌを買い取るのに期限も設定されている。のんびりとレベルを上げているわけにはいかない。早く下の階層へ行って、金を稼がなければならない。


 もう一つできる対策は、複数の魔物に対する攻撃手段を獲得することだ。

 集団リンチされて困るのなら、その集団をまとめて攻撃すればいい。


 オーバーホエルミングやラッシュは複数攻撃のスキルではなかった。

 剣士のスキルであるスラッシュも使ってみたが、ラッシュとあまり変わりはないようだ。というか、スラッシュは剣士版のラッシュという感じなのだろう。


 現実問題として、剣を使って複数の敵を同時に攻撃することは難しい。

 分身のスキルでもなければ、無理なのではないかと思う。


 しかし、剣が駄目であれば、魔法がある。

 魔法を使えば、全体攻撃も可能なのではないだろうか。


 村の商人は、魔法使いになるには五歳までに特別な薬を服用しなければならないと言っていた。

 おそらくなんらかのアイテムだろう。

 では五歳をとっくにすぎている俺は魔法使いになれないのか。


 可能性として考えられるのは、魔法を使ってみることだ。

 ものを盗んだとき盗賊になり、農作業をしたときに農夫のジョブを得、迷宮に入ったことで探索者のジョブを獲得した。薬草採取士も薬草を拾ったことで入手したジョブだろう。

 それならば、魔法を使えば、魔法使いになれるのではないだろうか。


 もっとも、空間魔法や移動魔法では魔法使いのジョブを得ていない。

 考えてみれば当然だ。ダンジョンウォークで魔法使いのジョブが獲得できるのなら、探索者なら誰でも魔法使いになれることになる。


 空間魔法や移動魔法ではなく、攻撃魔法を使わなければならないだろう。

 魔法使いはきっと攻撃魔法を使える。


 商人になるには何かを売らなければならないし、戦士になるには戦わなければならないし、剣士になるには剣を振らなければならないのだろう。

 俺は全部やった。

 それならば、魔法使いになるには、攻撃魔法を使わなければならない。


 ニワトリが先か卵が先か。

 魔法使いになれば攻撃魔法が使えるが、その魔法使いになるには、攻撃魔法を使わなければならないのだ。

 だからこそ、特別なアイテムが必要なのだろう。


 しかし俺にはボーナス呪文がある。

 ボーナス呪文は魔法使いでなくても使えるはずだ。

 現にワープは使えている。


 ボーナス呪文にある攻撃魔法を使えば、魔法使いのジョブが獲得できるのではないだろうか。

 英雄Lv1のときにはMPが足りなかったボーナス呪文の出番がやってきたようだ。


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― 新着の感想 ―
小説家になろうだと迷宮は下に降りて行く仕組みなんだな。
[良い点] 大まかなストーリーは面白いと思います。誤字脱字、誤用も無く丁寧な文章だと思います。 [気になる点] 独白、説明文が多いのでとても読み辛く疲れました。 その為テンポも悪くなっているのが残念で…
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