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増撃

 ストッキングを依頼して、四人のところへ戻る。

 四人はまだ服を選んでいた。

 とりあえず様子を聞いてみるか。

 まず、鬼気迫る表情のロクサーヌはパスしてと。


「小さいサイズは少ないです」


 愚痴をこぼしているセリーのところもパスし。


「××××××××××」


 ミリアもなにやらつぶやいているのでパスする。 


「大きいサイズはもっとないですね。どれにしましょう」


 ベスタも大変なようだ。

 ベスタもパスと。

 あら。

 結局はロクサーヌのところに行くのが一番か。


「どうだ。いいのはありそうか」

「高級なドレスばかりですね。迷宮に着ていくようなのは難しいです」

「一着くらいはそういう服があってもいいだろう。公爵のところからまた招待を受けているし」

「ありがとうございます」


 やはり小さいながらも高級店のようだ。

 まあ一着くらいは好きに選んでくれればいいだろう。


「ところで、ミリアは何と言ってるんだ?」

「魚が獲れる服を探しているようです」


 どういう服を探しているのやら。

 この世界にはそんな服があるのかもしれないが。

 あるいは、蛍光塗料が入ってくる服なら寄ってくるかもしれない。


 後はおとなしく見守ることにした。

 四人の中で最初にドレスを選んだのはベスタだ。

 選択肢が少ないからか。


 ドレスといってもちょっと豪華なワンピースくらいの服だ。

 ああいうのでいいんだよな。

 ピアノの発表会みたいなのを選ばれても困る。


 ただし残念ながら、ベスタが選んだ服はロクサーヌのめがねにかなわなかった。

 なにやらダメ出しを受けて戻っていく。

 それでも、方向性は間違っていなかったのか、四人はたっぷり時間をかけ、試着までして豪華なワンピースを選んだ。


「なかなか似合っているな」

「はい。ありがとうございます。ではこれにしようと思います」


 最後にロクサーヌが服を決める。


「みんなそれでいいか?」

「はい」


 セリーとベスタもどうやら気に入った服があったようだ。

 ミリアも、漁火の服というコンセプトは諦めてくれたらしい。


「では、これを頼む」

「はい。こちらの衣装をあわせますと、えー、皆様に一着ずつお買い上げいただきましたし、特別サービスで八千七百五十ナールとさせていただきます」


 三割引が効いてそれか。

 三割引がなければ金貨の出番になるところだった。

 やはり高いものらしい。


 各自の服は四人にそれぞれ持たせ、店を出る。

 俺はストッキングを入れた袋を手に持った。


「こんな高い服をありがとうございました」

「みんなにも似合ってたしな」


 お金に困っているわけでもないのでこのくらいはいいだろう。

 四人が着飾っていれば俺も嬉しい。

 いろいろと楽しめるというものだ。


「ご主人様も何か手に入れられたようですが」

「まあちょっとな」

「ちょっとというのは?」


 ロクサーヌが探りを入れてくる。

 女性用のストッキングだからな。

 何を買ったかは分かっているのだろう。


「昨日セリーが酒をもらったから、そのお礼みたいなもんだ」

「そうですか」


 納得してくれただろうか。

 酒をもらったお礼にストッキングというのも変だが。

 事実は小説よりも奇なり。

 渡す相手は、常識では思いもよらない群を抜く変態ということだな。


 帝都の冒険者ギルドから、ロッジへと飛んだ。


「これはようこそいらっしゃいました、ミチオ様、ロクサーヌ様、セリー様、ミリア様、ベスタ様」


 セバスチャンが迎える。


「昨日は店舗を見ることができなかったのでな。少し見に来た」

「はい。かしこまりました」

「それと、ガイウスが来ることがあったら、これを渡してほしい」


 セバスチャンにストッキングの入った袋を渡す。

 店から手で持ってきたのをそのまま渡したから、女性に渡すのでないことはロクサーヌたちにもはっきり分かっただろう。

 ガイウスが妙齢の女性でないことは、セリーが証言できる。


 あれ?

 セリーの前で名前は出なかったか。


「これをでございますか?」

「昨日セリーが酒をもらったから、その礼も兼ねてだ。危険なものではない」


 ある意味、危ないものだが。

 皇帝に渡すものだからセバスチャンもチェックくらいはするだろうが、中身はストッキングだ。

 爆薬とか刃物とか毒物とかではない。


「承りました。お預かりいたします」

「精進するようにと伝えてくれ」


 ストッキングだけ渡して皇帝が理解できるかどうかは分からない。

 ヒントだけ出しておいた。

 精進の意味については、皇帝が自分で考えるだろう。

 どうやって踏まれるかも皇帝が考える。


「それでは、こちらへおいでください」


 その後、セバスチャンの案内で店舗をチェックした。

 めぼしい装備品はなかったが、いくつか商品が入れ替わっているようだ。

 六日もたてば多少は入荷するらしい。

 毎日来るのは面倒だが、週に一度くらいは顔を見せるのがいいだろうか。


 前は見なかった装備品に、増撃のスタッフというのもあった。

 ダメージ逓増のスキルがついている。

 セリーの言っていたスキルだ。


「これは前に来たときはなかったな」

「はい。最近入ってきた品で、増撃のスタッフでございます。魔法使いがパーティーにおられるなら、初心者から上級クラスのかたまで、非常にお勧めできる杖でございます」


 初心者は帝国解放会にいないと思うが。

 まあプレゼント用ということもあるか。


「確かに、杖としてはいい武器だ」

「事情が事情でございますので、会員様ご本人のいるパーティー以外でご使用になられるのは問題があるかもしれません」

「あー。やっぱりそうなんだ」


 プレゼントは駄目らしい。

 ダメージ逓増のスキルがついた優秀な武器を使えば、ダメージ逓増が実は使えるスキルであることが分かってしまう。

 だから会員のパーティーだけで使えと。

 情報の漏洩にそこまで気をつけろということか。


 そのくらいは公開してもいいような気もするが。

 ただ、なんでもかんでもというわけにはいかない。

 その辺の見極めが難しいから、一律禁止ということなんだろうか。


 秘密結社の面目躍如というところだ。

 秘密の漏洩があった場合に秘密の処分がなされていそうで怖い。

 俺もせいぜい気をつけよう。


 というか、俺がもし事情を知らなくて、増撃のスタッフはいい武器らしい、なんてことを外でぽろっと言ったらアウトだ。

 気をつけないとまずい。

 四人にもよく言い聞かせておいた方がいいだろう。


「それでも、かなり人気のある品でございます。十日か二十日もしないうちには売れるのではないかと思います。お次にこられたときあるかどうかは分かりません。いかがでございましょうか」


 売れるのもそのくらいのペースか。

 やはり一週間に一度のぞくくらいで大丈夫だろう。


「まだポイントも持ってないしな」

「さようでございますか」


 増撃のスタッフもいい武器なのだろうが、今購入する手はない。

 セバスチャンにはまた来ると言い残して、ロッジを後にした。

 一度家に帰って服を置く。


「あの杖もそうだが、気をつけないと帝国解放会の情報をうっかり洩らしてしまいそうだな。みんなも気をつけろ」

「そうですね。注意します」


 セリーだけが反応した。

 ミリアやベスタにはぴんとこないようだ。

 首をひねっている。

 ロクサーヌも何も言わないが、ロクサーヌなら外でべらべらとしゃべることはないだろう。


 その日の夕方、ルークからコボルトのモンスターカードを入札したと伝言が来ていたので、次の日の朝に取りに行った。

 コボルトのモンスターカードは、数日前に買ったのがあるから、これで二枚めだ。


 ちなみに、風呂から上がると、四人は購入したばかりの服を着けた。

 綺麗なシルクのワンピースに、場が華やぐ。

 しかしそれはどういう意味なのかと。

 四人は俺をどういう人間だと思っているのかと。


 しわになったらどうするのか。

 柔らかなシルクのワンピースは、手触りもよかった。

 触り心地も抱き心地も素晴らしい。


 もちろん、しわになるのもいとわずに楽しむ。

 俺はそういう人間だった。


「こちらがコボルトのモンスターカードになります」


 商人ギルドでモンスターカードを受け取る。


「コボルトのモンスターカードはまだまだ予備があってもいい。引き続き、五千ナールで頼めるか」

「分かりました」


 コボルトのモンスターカードの注文は出したままにしておいた。

 いくらあっても困ることはないだろう。


「身代わりのミサンガも予備を作っておくことにした。以前のように芋虫のモンスターカードを積極的に狙っていってほしい」

「迷宮の方は順調そうですね。なによりのことです」

「まあ予備を作れるくらいにはな」

「かしこまりました」


 身代わりのミサンガは、実は予備ではなくロッジでの売却用だ。

 予備はすでにある。


「それと、ハチのモンスターカードを入手したい」


 今回の本命であるハチのモンスターカードも依頼する。


「ハチのモンスターカードでございますか」

「そうだ」

「ハチのモンスターカードは、融合してできるスキルに人気がない割りに、カードの方は比較的高値での取引となっております」


 セリーも知らなかったくらいだし、本当にスキルには人気がないらしい。

 オークションに出るような弱い武器につけたスキルなら特にそうなんだろう。

 だから値段も高くない。


 一方で強い武器に融合できるモンスターカードの状態ならこの限りではない。

 知っている人は高い値段で落札する。

 帝国解放会会員とか。

 だからハチのモンスターカードの値段は高いと。


 もちろん、ハチのモンスターカードが実は使えるなどとは言えない。

 それは帝国解放会の守秘義務違反だ。


「そうなのか。まあちょっと知り合いから頼まれてな」

「ハチのモンスターカードを融合した剣なら一本所持しておりますが、いかがでしょう。以前あるところからまとめて購入したものです。どうせ高くは売れないので在庫になってしまっている品ですが」


 適当に言い訳したら、食いつかれた。

 弱い武器に融合したスキルはいらないのだが。

 どうやって断るか。


「本人が使っている武器に融合してほしいそうだ。何度か失敗すれば諦めるだろう」

「そうですか。では仕方がありません。増撃のダマスカス鋼剣というのですが」


 ありゃ。

 増撃のというなら、ついているスキルはダメージ逓増だ。

 ロッジにあった増撃のスタッフと同様だろう。


 ダマスカス鋼レベルなら十分だとセリーも言っていた。

 俺たちのパーティーで使えるかどうかはともかく、手に入れておいて損はないだろう。

 ロッジの店舗に売却するには問題がないはずだ。

 どうやって確保するか。


「ダメ元でこういうのもあると勧めてみようか。乗ってくるかもしれん。何度か失敗したときがチャンスだろう」

「お願いできますか」

「増撃のダマスカス鋼剣だな」


 聖槍に融合するので、ハチのモンスターカードはほしい。

 気軽に頼めるカードでもなさそうなので、ついでに予備まで調達しておいた方がいいだろう。

 増撃のダマスカス鋼剣の入手はその後でいい。

 俺たちのパーティーの強化というよりはロッジへの売却用だし。


「元となる剣やモンスターカードの値段を考えれば二十数万、最低でも二十万ナール以上はいただきたいのですが、人気のないスキルですから、十八万というところでいかがでしょう」

「十八万ナールか。折を見て相手に提案してみよう」


 ルークも、自ら剣を取って迷宮で戦っていれば、増撃のダマスカス鋼剣の有用さが分かっただろうに。

 仲買人としてだけ行動していると、こういう落とし穴があるな。


「ハチのモンスターカードですが、五千以下での落札は厳しいと思います。もう少しかかるでしょう」

「五千五百というところでどうか」

「それなら早期に手に入るでしょう」

「ではそれで」


 ハチのモンスターカードの入手を依頼して、商人ギルドを後にする。

 実際、ハチのモンスターカードの入手は早かった。

 翌々日、一日の探索を終えて迷宮から帰ってくると、ルークからのメモが残っていた。


「ご主人様、ルーク氏からの伝言です。ハチのモンスターカードを五千五百ナールで落札したと書かれています」


 ロクサーヌがメモを読む。

 コボルトや芋虫のモンスターカードより先に来るのか。

 落札価格はきっちり五千五百だ。

 それは分かっていたが。


「これからでも間に合うか。ちょっと行ってくる」

「はい。いってらっしゃいませ」


 見送られて家を出た。

 商人ギルドにワープする。

 呼び出すと、ルークはすぐに現れた。


「こちらがハチのモンスターカードです」


 会議室に移動するとモンスターカードを出してくる。

 きっちりとハチのモンスターカードだ。


「確かに」

「今回はあまり競うことがなかったのですぐに落札できました」


 競わなかったのに五千五百まで引き上げたわけね。

 自分が言っていることの矛盾に気づいてほしい。

 きっと依頼を受けてから間をおかずに落札できたことをいいたかったのだろうが。


「それなら五千百でもよかったか」

「い、いえ。競合者もゼロではありませんでしたので」

「次はそのくらいにするか」

「それですとかなり時間がかかるかもしれませんが」


 ルークが所有している増撃のダマスカス鋼剣の売却話は何度か失敗した後ですると言ってある。

 時間がかかって困るのはルークの方だろう。

 俺は、ハチのモンスターカードが一枚手に入れば、後は予備だからいつでもいい。


「では、次は五千三百までで頼む」

「かしこまりました」


 それもかわいそうなので間を取って五千三百にしておいた。

 後は、ルークがなんとかするだろう。

 しなければしないでもいいし。

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― 新着の感想 ―
まだロクサーヌとセリーしかパーティにいなかった頃にあったピロートークが懐かしいな〜。ミリアとベスタも交えるエピソード期待してます!
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