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竜皮

 

「じゃあ、次はロクサーヌだな。魔物の正面には俺が行くから、肝は二つ渡しておく」

「はい」


 ドラゴン狩を続ける。

 ロクサーヌに肝を渡し、先導してもらった。

 二つ渡したのは失敗したときのためだ。

 俺が魔物の正面に立つなら、アイテムボックスから出すのは難しい。


 ロクサーヌは肝を投げるから、ロクサーヌの代わりに誰かが魔物の正面を引き受けなければならない。

 俺には肝をアイテムボックスから出して渡すという役目があるのでそれを言い訳にしてドラゴンの正面に立たない手もあるが、戦わないのはまずいような気がする。

 一度は対峙しておいた方がいい。

 せっかくLv1のドライブドラゴンと戦えるチャンスだし。


 サイクロプスもなかなか怖いし、一撃の強さならロートルトロールも負けてないだろうが、やはりドラゴンは恐ろしい。

 大きな体と爪の生えた手足、牙をむき出しにした口は相当の迫力がある。

 もっと上に行ってから初めて相手をするより、ここで正面に立つことを経験しておいた方がいい。


 上の階層でいきなりドライブドラゴンの正面に立たざるをえなくなって何匹もの竜に囲まれたら、パニックになりそうだ。

 MPを回復するためにデュランダルを出して魔物の正面で戦うことはこれからもある。

 Lv1一匹を相手に慣れておくべきだろう。


 ナイーブオリーブが現れたので走って近づく。

 途中でロクサーヌを抜き、魔物の正面に立った。

 ナイーブオリーブLv1程度ならあまり怖さもない。

 慢心してはいけないが。


 油断せず魔物の動きを監視していると、ロクサーヌが横から肝を投げた。

 ナイーブオリーブが煙となり、煙がドラゴンの形に変わる。

 成功のようだ。


 変化している間にロクサーヌに正面を替わってもらうこともできたかもしれないが、それはやらないでおく。

 全員で囲んだ。

 ここまで陣形ができれば必勝パターンだ。

 俺が正面でなければ。


 煙がドライブドラゴンになる。

 動き出す前に先制攻撃を加えた。

 こちらが先にデュランダルを振ったのに、カウンター気味に竜が突進してくる。


 よろけるように大きく左に倒れ、なんとか回避した。

 ぎりぎりだ。

 ドラゴンが上半身を戻す。

 デュランダルをかまえなおして、竜と対峙した。


 隙がない。

 二発めを打ち込めるような隙がなかった。

 うかつに攻撃すればカウンターの餌食になりそうだ。


 ドラゴンを見ながら、攻撃のタイミングを計る。

 いずれにしても攻撃しなければ始まらない。

 いくしかない。

 デュランダルを動かそうとすると、ドライブドラゴンと目が合った。


 睨まれちゃったよ。

 目だけで動きを封じられた。

 いけばカウンターでやられる。

 とても飛び込めたもんじゃない。


 背中に変な汗が流れた。

 じりじりと嫌な時間がすぎていく。

 ドラゴンが口を開き、牙を出した。

 今度は向こうの攻撃か。


 来る。

 両足に力を入れ、いつでも動けるようにしておく。

 右か、左か。


 と思ったが、来なかった。

 あら。

 麻痺だ。

 ミリアが麻痺させたらしい。


 動けないならこちらのものだ。

 デュランダルを叩きつける。

 麻痺している間に連続攻撃で竜を退治した。

 ドラゴンも動かなければわら人形に等しい。


 しかし、これでは上の階層へ行ってデュランダルでMPを回復するときが大変そうだ。

 それが分かっただけでも戦っておいてよかっただろう。

 足元にドロップしたので、竜皮をさっさと拾っておく。


 竜皮を拾ってもジョブは得られなかった。

 さすがに竜皮を拾って取得できるようなジョブはなさそうか。

 ロクサーヌにも新たなジョブはない。


「残った肝はセリーに渡しておけ。次はセリーな」

「はい」


 今度はセリーに肝を投げさせて、魔物をドライブドラゴンに変化させた。

 竜の正面はロクサーヌだ。

 横からだと楽にドラゴンを攻撃できた。


 ロクサーヌは、竜の攻撃をかわしながら、ときおりレイピアを突き立てている。

 うまく攻撃を誘発して、後の先を取る感じだろうか。

 俺には無理だな。


 セリーもやはりジョブは取得しなかった。

 ドラゴンに関するジョブはなさそうか。

 可能性があるとすれば、竜人族のベスタか。

 それだと竜人族の種族固有ジョブになってしまいそうだから、違うかもしれないが。


「どうせだから全員いっとくか。次はミリアだな。それと、ベスタにこれを渡しておく」

「はい、です」

「はい」


 ベスタにデュランダルを渡す。

 次はミリアが肝を投げ、ベスタがドラゴンを仕留めた。

 ミリアもベスタも新規のジョブは獲得しなかったので、竜に関するジョブはないと結論づけてもいいだろう。


 それでも、ベスタにも肝は投げさせる。

 ここまできたのだからみんなにやらせた方がいいだろう。

 ベスタも肝を投げてナイーブオリーブをドライブドラゴンにした。


 魔物をドラゴンにすることは全員一度で成功している。

 ナイーブオリーブLv1をドライブドラゴンに変化させるのは簡単なようだ。

 コボルトLv1なら百パーセント成功するらしいし、このくらいでなければ上位の魔物をドライブドラゴンにして弱体化させることは難しいのだろう。


「やった、です」


 ベスタが変化させたドライブドラゴンはミリアが石化させた。

 そういえば、ミリアが魔物をドラゴンに変化させたのには暗殺者の状態異常確率アップが効いていた可能性もあるか。

 魔物にとってドラゴンになることが状態異常にあたるのかどうかは知らない。

 さすがにちょっと違うか。


「せっかくだし、こいつはロクサーヌが倒してみるか?」

「はい」


 デュランダルを渡し、石化したドライブドラゴンをロクサーヌに倒させる。

 竜に関するジョブはなさそうだが、最後に念のため。

 ジョブは誰も取得しなかった。

 やはり竜に関するジョブはない。


 竜皮だけをゲットして、二十六階層に戻る。

 それからは二十六階層で探索を行った。

 ケープカープやグミスライムを火魔法で倒していく。

 火属性に耐性のあるサイクロプスとシザーリザードがちょっと面倒だが、二十六階層なら出てくるのは一、二匹だし、戦闘が長引けばミリアが無力化してくれる。


 ましてやケープカープ二匹の団体など。

 バーンストーム二発とファイヤーストームの三連打があれば敵ではない。


「来ます」


 二回めの三連打を念じたとき、ロクサーヌの警告が飛んだ。

 片方のケープカープの下に赤い魔法陣ができている。

 俺の火魔法の火の粉が舞う中、さらに火が追加された。

 一瞬体が熱くなり、締めつけられるような衝撃が来る。


 火属性の全体攻撃魔法だ。

 ケープカープの火魔法は初めて受けた。

 熱くなったのは一瞬だけで、たいした威力はないようだ。

 水魔法や風魔法や土魔法の方がダメージがあったと思う。


 俺の火魔法と相殺されたのだろうか。

 しかし相殺されてこちらにダメージが来るということは、俺の三発の魔法がすべて無効になったということだ。

 さすがにそれはないんじゃないだろうか。


 ケープカープ二匹は、いつもどおりの魔法回数で倒れた。

 やはり相殺はないか。


「ケープカープの火魔法は水魔法よりダメージが小さかったか?」


 みんなの意見も聞いてみる。


「そうですね。小さかったかもしれません」

「水魔法とそんなに変わったとは思いませんでしたが」


 あー。ロクサーヌとセリーには耐水と防水の装備があるんだよな。

 ロクサーヌは耐火装備もしているから、比較上は一緒かもしれないが。

 あてにはならないだろう。


「そうか」

「ケープカープが使う火魔法の威力が小さいという話はありませんでした。ただ、あまり使ってこないようですし、はっきり判別するのは難しいでしょう。そのために書かれてなかったのかもしれません」


 受けた感じだけで火魔法が弱いと断定はできないだろうしな。

 セリーの調べた本に書いてなかったとしてもしょうがない。


 ケープカープが使用する魔法は、得意の水属性が多い。

 苦手の火魔法は今回が初めてだし、かなり少ないだろう。

 少なければ調べることはさらに難しくなる。

 威力が小さいならもっとどんどん使ってきてほしいが。


「ちいさい、です」

「水魔法も火魔法もどちらもたいした威力はないと思います」


 役に立ちそうなのはミリアの意見だけか。

 火魔法はともかく、水魔法はそれなりだったと思うがね、ベスタ君。

 ミリアも小さいと感じたのなら、やはり他の属性より威力は小さいだろう。


 となると、ケープカープが苦手とする属性だから破壊力が小さいということか。

 得意の水属性で威力が上がることはなかったが、不得手の火属性は駄目らしい。

 弱点属性だし、そういうこともあるのだろう。


 それ以降は火魔法を浴びることなく、一日の探索を終えた。

 夕食にはロクサーヌが竜皮のポトフを作ってくれる。

 食べたことのない食材だけに期待を持って食べてみた。


「これは、なんというか、あれだな」

「何でしょうか?」


 鶏皮だ。

 確かに旨くはあるけども。

 竜皮はほとんど鶏皮のような味がした。


 よくいえば極上品の鶏皮だ。

 極上品の鶏皮というのは食べたことがないが。

 プリプリとして柔らかく、噛むとしっとりした脂が舌の上に広がる。

 蜜のように甘くはないが、甘いといっていい感じの味わいだった。


「さすがはドラゴンという感じか」

「はい。美味しいですね」


 旨いことは旨いのだし、作ってくれたロクサーヌにぶしつけなことは言えない。

 なんにせよほめておく。


「スープも、コクがあって深みが出ているな」

「そのようです」


 スープの方は、出汁が出たのだろう。

 軽く煮込んだだけの今までのポトフより確実に美味しい。


「スープの味がアップするというのは本当のようです」

「あした、です」

「美味しいと思います」


 ミリアの興味はすでに明日作る尾頭付きと竜皮のスープに移っているようだ。

 出汁も取れる竜皮は、鶏皮と鶏がらを足したような食材だ。

 鶏肋といえば、捨てるには惜しいが執着してもたいした利益はないものとして、曹操がつぶやいたこの言葉を楊修が勝手に解釈して利益のない戦場からの撤退準備をし後に処刑されたことで有名だが、竜皮を捨てる人はいないだろう。


 ただし、竜皮の美肌効果については特に確認できなかった。

 風呂でじっとりとなで回しながら見てみたが。

 風呂を出てからもなめ回すようにベッドでまさぐってみたが。

 みんなの肌は、いつもと同程度になめらかで、柔らかく、しっとりとしていた。


 美肌効果などなくても、四人の肌は十分に美しい。

 艶といい張りといいきめ細やかさといい最高だ。


 もっとも、食べてから効果が肌に出るにはある程度日数がかかるかもしれない。

 これからも毎日観察は続けなければならない。

 具体的には、なで回し、なめ回し、ねっとりと検分する必要がある。

 科学のためには仕方がない。


 翌朝、地図を持ってクーラタルの迷宮に入った。


「ブラックフロッグのボスは、フロックフロッグです。耐性のある属性と弱点はブラックフロッグと同じです。ボスとして強い方ではありませんが、ときおり強烈な一撃を繰り出してきます。なめてかかって殺される人も多いといいます。十分気をつけてください」


 セリーが注意を促してくる。

 まぐれ当たりの出る魔物のようだ。

 十分に気を引き締めて、ボスと戦った。


 まぐれが出なければ強い魔物ではないらしい。

 難なく倒せた。

 主にミリアのおかげで。


 ミリアは、タルタートルを瞬く間に石化させ、フロックフロッグを初撃で戦闘不能にしている。

 これは石化ではなく麻痺だったが、ボスが再起動を果たす前に石化もさせた。

 状態異常耐性ダウンの助けもあったとはいえ、たいしたものだろう。


 状態異常が発動したのはミリアの実力だ。

 まぐれ(フロック)ではない。


「ミリアのおかげで楽に倒せたな。さすがだ」

「上がる、です」


 クーラタル二十六階層の魔物はハルバーと同じくケープカープだ。

 そのために張り切ったのか。

 がんばったから石化が発動するものでもないだろうが。


 大体ケープカープならハルバーでも相手にしている。

 いや。一刻も早くハルバーの迷宮に戻ろうということか。

 ミリアの要求どおり、二十六階層は一度戦っただけでハルバーに移動した。

 クーラタルの二十六階層は、ケープカープ、ブラックフロッグと火魔法が弱点の魔物が多いから、特に問題になるようなことはないだろう。


 なお、その日の夜も四人の肌に特に変化は見られなかった。

 竜皮と尾頭付きのスープのかなりの部分を平らげたミリアにしても変化はない。

 いつものようにきめ細やかで美しい。

 ネコミミをいじり倒しながら観察したので間違いない。


 他の三人も同様だ。

 その翌日も変化はなさそうか。

 大体、これ以上肌が綺麗になるというのもあまり想像はできない。

 竜皮の美肌効果については、怪しいものだろう。

『異世界迷宮でハーレムを 三巻』が発売になりました。

よろしくお願いいたします。

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