雷
薬草採取士をつけて柔化丸を作ってから、二十五階層に向かう。
薬草採取士にもLv50で取得できる中級職があるのだろうか。
しかしLv50までとなると育てるのも大変だ。
あれこれ試すのは、もっと上の階層へ行って楽にレベルアップできるようになってからでいいだろう。
「セリー、クーラタル二十五階層の魔物は何だ」
「ブラックフロッグです。水魔法に耐性があり、全体攻撃魔法を含め水魔法を好んで放ってきます。弱点は火属性です。表面がぬるぬるしていて、うまく斬りつけないと攻撃を弾いてしまうそうです」
カエルか。
弱点は火魔法らしい。
しかし、今遊び人のスキルを中級火魔法にセットする手はない。
ハルバーの二十五階層に行けば風魔法が有効になる。
一、二回戦ってみる程度なら遊び人のスキルはこのまま氷魔法で押し切るべきか。
ブラックフロッグは、水属性に耐性があっても土属性にはないので、氷魔法は使える。
グミスライム、タルタートルと一緒に出てくるなら氷魔法が最適解になるし。
「ロクサーヌ、ブラックフロッグのいそうなところへ頼む」
「分かりました」
数の少ないところを条件に加えてもいいが、ロクサーヌも分かっているだろう。
ロクサーヌの先導で進んだ。
魔物の団体と出会う。
ブラックフロッグ三匹とタルタートル一匹の団体だった。
分かってねえじゃねえか。
いや。ブラックフロッグが三匹いれば前衛陣三人が全員相手にできることになる。
分かっているというべきなんだろうか。
ブラックフロッグの方が数が多いので、バーンストーム、アイスストーム、ファイヤーストームの三連発でいく。
火と氷を一緒に使って大丈夫かどうかは、試してみるよりほかはない。
相殺されたりして。
ブラックフロッグは、名前のとおり黒いカエルだった。
結構でかいので気持ち悪い。
巻物を口にくわえたら上に乗れそうだ。
背中は黒いが、腹は白い。
必ずしも保護色にはなっていない。
全身が黒くなるか這ったまま進んできたら、ミリア以外には厳しい戦いになるところだった。
ロクサーヌ、ミリア、ベスタが相手をする。
彼女らが攻撃を浴びることもなく、ブラックフロッグ三匹は倒れた。
戦闘時間が短くなったのでそこは問題ない。
火魔法と氷魔法を同時に使っても、大丈夫なようだ。
残ったタルタートルをダートボール、サンドボールとアイスボールで片づける。
単体魔法は一発ずつ撃っていったが、結局三発かかってしまった。
サンドボールが必要だったかどうかは分からない。
ダートボールとサンドボールで倒れるかと思ったが、倒れなかった。
ダートボールとアイスボールだったら倒れたかもしれない。
この辺の最適化は、面倒だが戦いながらだな。
「ブラックフロッグとも戦ってみたし、ハルバーの迷宮に移ってもいいか?」
「そうですね。大丈夫だと思います」
ロクサーヌに確認を取って、ハルバーの二十五階層に移動する。
遊び人のスキルは、氷魔法のままでまだ変えない。
グミスライムとサイクロプスには風魔法が有効だが、一度使ってみてからの方がいいだろう。
雷魔法という選択肢もあるし。
最初は、ロクサーヌにどの魔物を探してもらうべきか。
風魔法を試したいのだからグミスライムとサイクロプスの組み合わせにすべきか。
しかしサイクロプスが相手では氷魔法がもったいない。
グミスライムとシザーリザードの組み合わせを探してもらうべきか。
グミスライムとシザーリザードなら氷魔法も効く。
まあ何でもいいか。
出たとこ勝負で十分だろう。
考えることを放棄して、何も指示を出さずに探索した。
最初に出会ったのは、グミスライムが二匹、サイクロプスとシザーリザードが各一匹の団体だ。
魔物の種類が多いといろいろ試せていい。
出たとこ勝負で十分だったようだ。
グミスライムなら風魔法でも氷魔法でも有効になる。
ウインドストーム、アイスストーム、ブリーズストームの三連打を放った。
中級風魔法と氷魔法を使うなら、グミスライムが最初に倒れるはずだ。
魔法使いの初級魔法はグミスライムとサイクロプスに共通して有効なブリーズストームにすべきだろう。
グミスライムは土属性のみ弱点ではない。
魔法の種類が多くなったので、魔物の種類が多くなると選択が大変になるな。
そこはしっかり考えてやるしかない。
セリーに笑われない程度には。
こんな主人で困ったものだと思われては問題だろう。
吹雪の中、グミスライムは三回めの三連発で煙になった。
次はウインドストーム一発を使ってみる。
サイクロプスが倒れた。
サイクロプスはここで終わりか。
残ったシザーリザードにはアイスボールを撃ち込む。
トカゲはまだ倒れなかった。
次にサンドボールを撃って始末する。
シザーリザードLv25を倒すには、中級風魔法四発+下級氷魔法四発+初級風魔法三発+初級土魔法一発か。
これらの方程式を解けば、最適な魔法の組み合わせを弾き出せるのだろうか。
むちゃくちゃ大変そうだな。
さらにはまだ使っていない雷魔法とかもあるのに。
こうなるとセリーにだって解けまい。
もう適当でいいだろう。
魔法一発で魔物を倒せる階層に行けば各種魔法の威力の違いを計ることはできるが、そこまですることもない。
Lv25の魔物でどうかということも関係してくるのだし。
戦闘を重ねていけば、経験によって自然と分かるはずだ。
そして、慣れたころ二十六階層に移動すると。
やってられへんで。
次に出くわしたのは、グミスライムが二匹にサイクロプスの団体だ。
サンダーストーム、アイスストーム、ブリーズストームを試してみる。
初めてのサンダーストームだ。
粉雪が吹きつける中、ちかちかと何かが光った気がした。
閃光とか、そんなにはっきりしたものではない。
軽く光ったかな、という程度だ。
雷だからそれでいいだろう。
感電でもしたら困る。
一回めの三連発でグミスライムが一匹動かなくなった。
麻痺だ。
ミリアはまだ魔物のところに到着していないので、雷魔法で与えた麻痺で間違いない。
結構麻痺するものなんだろうか。
残ったグミスライムがこちらに来る。
ロクサーヌが正面で迎え撃った。
ミリアとベスタが横から囲む。
風魔法に妨害されたサイクロプスが遅れてやってくると、ミリアがその相手をした。
アイスストームがグミスライムに有効、ブリーズストームはグミスライムにもサイクロプスにも有効だから、このメンバーの中ではサイクロプスが最後まで残る。
硬直のエストックを持つミリアがサイクロプスの相手をするのは正解だ。
ただし、ミリアがサイクロプスを相手に選んだのは、グミスライムが二匹でサイクロプスが一匹の団体だったからだろう。
二匹と一匹の組み合わせなら、数の多い方から片づけている。
魔法の属性をきっちり理解して、方程式を解いたわけではあるまい。
サイクロプスが前線にやってきた直後、二回めの三連発を放つ。
今回は麻痺が出なかった。
と思ったら、サイクロプスの動きが止まった。
これはミリアの攻撃が効いたのだろう。
三回めの三連発でも麻痺は出ない。
煙になった魔物もいなかった。
やはりグミスライムやサイクロプス相手には中級風魔法の方が有効だ。
おそらく、雷魔法も氷魔法と同様、ピンポイントで弱点をつくなら中級魔法の方が威力が上なんだろう。
次はウインドストームを使ってみる。
グミスライム二匹が倒れた。
グミスライムはここまでか。
サイクロプスが残ると、ロクサーヌの指示で四人が正面を空けてくれる。
よく分かってらっしゃる。
ブリーズボールを放った。
サイクロプスは倒れない。
「やった、です」
倒れなかったが、ミリアが石化を発動させた。
サイクロプスは麻痺していて反撃の恐れがないので、横からやたらと攻撃したのがよかったのだろう。
デュランダルを出しながら四人のところへ走る。
サイクロプスがどこで倒れるか確認もしたかったが、石化したのではしょうがない。
石化すると魔法に弱くなる。
方程式が複雑になる。
「今のが雷魔法ですか?」
「そうだ」
セリーの質問に答えながら、サイクロプスにデュランダルを叩きつけた。
石化したサイクロプスが一撃で倒れる。
かなりダメージが蓄積していたようだ。
「雷魔法に氷魔法、風魔法も使っているように感じましたが」
「使ったな」
「……」
セリーが絶句した。
三種類の属性を同時に使ったのは初めてだったかもしれない。
魔道士のジョブを得たから使える魔法も一つ増えたのだ。
とは教えないが。
それだけではすまないだろうし、いろいろ面倒なことになりそうで。
雷魔法は、三回撃って麻痺が一度か。
試行回数が少ないのでまだ何ともいえないが、それなりという感じだろうか。
魔物の数が増えれば、もう少し出るかもしれない。
あるいは、遊び人のスキルにもセットすれば二倍撃てる。
ただし、グミスライムやサイクロプス相手には中級風魔法の方がいい。
倒すのに必要な魔法の数が元々多くないので大きな差ではないが、少しは異なる。
戦闘時間に違いが出るのなら、中級風魔法を使うべきだろう。
ハルバーの二十五階層ではグミスライムとサイクロプスが出てくることが多い。
中級風魔法より雷魔法の方がいいのは、ハルバーの二十五階層ではシザーリザードがメインで出てきた場合のみだ。
そういう団体はあまり多くない。
出てくる魔物の弱点と耐性の組み合わせがもっと混沌としている階層なら、遊び人のスキルは下級雷魔法にすべきなのだろう。
遊び人のスキルは中級風魔法にすべきか。
スキル設定と念じて、遊び人のスキルを中級風魔法にする。
次に遭遇したグミスライムとサイクロプス二匹ずつの団体は、風魔法のみで屠った。
ウインドストーム、ウインドストーム、ブリーズストームの三連発だ。
正確には、二度の三連発の後ウインドストーム一撃で終わる。
サイクロプスなどはほとんど何もできずに終了した。
やはり風魔法が弱点の魔物に風魔法をピンポイントで使うのは強い。
ハルバーの二十五階層では一抹の不安もなく戦えるだろう。
魔物は選ばず、探索メインで迷宮を進んでいく。
問題があるとすれば、早く倒してしまう分、ミリアの石化が出ないことくらいか。
贅沢な悩みだ。
あるいは、シザーリザードが一匹二匹紛れ込んだ場合か。
そのときはそのときでミリアが無力化してしまうが。
夕方近くまで何の問題もなく探索を行った。
グミスライム、サイクロプス、シザーリザードの組み合わせの団体にも出会う。
まずは、風魔法でグミスライムとサイクロプスを片づけた。
魔物が一匹だけになると、ロクサーヌとミリアが横に開き、シザーリザードへのラインを通してくれる。
シザーリザードはまだ動きが止まっていない。
ここはサンダーボールを使ってみるべきだろう。
麻痺でシザーリザードの動きが止まるかもしれない。
雷属性の単体攻撃魔法はまだ使ったことがない。
初めてのチャンスだ。
俺はサンダーボールと念じた。
頭上に明るい光の球ができる。
ボールに雷光がまとわりついていた。
おおっ。
なんかかっこいい。
いかにもという感じだ。
魔王とか、重要な悪役の登場シーンの背景にありそうな小道具。
稲妻がきらめく雷の球だ。
くっくっくっ。
ヤマトの諸君。
私の名はゴア。
サンダーボールが飛んでいく。
トカゲに命中するが、倒すことも麻痺させることもできなかった。
失敗か。
今の攻撃を受けきるとは敵ながらたいしたものだ。
続いて魔法使いでサンドボールを放つが、シザーリザードはこれも耐え切る。
合間に走って近づいた。
次に三連打を浴びせれば。
今度こそはあの雷の球で。
サンダーボールで倒す。
「やった、です」
あら。
トカゲの動きが止まった。
何を石化なんかしちゃったりなんかしてくれちゃったりなんかするわけ。
まあ別に石化したからといって魔法で倒したとしても何の問題もないが。
しかし最後の一匹が石化した以上は、デュランダルで倒して安全にMPを回復したいというのも事実。
ミリアの石化がこんなに残念だったことは初めてだ。