ノンホモ
魔道士のジョブを獲得した。
しかし、スキルの名称は相変わらず中級火魔法とか中級水魔法とかで、実際に使える魔法の名前が分からない。
不親切な。
「セリー、魔道士が使う魔法がどういうのとかって分かるか」
困ったときのセリー頼み。
冒険者ギルドから出た後、買い物をしながら訊いてみた。
「ええっと。はい。確か、バーン、アクア、ウインド、ダート、アイス、サンダーの六種類のはずです」
知ってるのか。
さすが雷電、いやセリーだ。
「ありがとう。魔道士の上にさらにジョブがあるか?」
「あるという説もあります。そこまでいくと伝説ですね」
「そのジョブが使う魔法とかは」
「さすがにそこまでは分かりません」
伝説というくらいだから、そうなんだろう。
中級魔法があるのだから、上級魔法を使えるジョブがあることは多分間違いない。
それが本当の上級職か。
魔法までは分からないようだ。
上級職を得られたとしても魔法を探すのに一苦労だな。
風魔法に関しては、ブリーズ、ウインドときているから、トルネード辺りでどうだろうか。
他は分からん。
そのときにいろいろ試すしかない。
「アイス、サンダーが氷魔法と雷魔法だな」
「そうです。どちらも特別な魔法ですね。氷魔法は、魔物の弱点が水属性でも土属性でも効果があるようです。逆に、水属性と土属性の二つの耐性を持っていないと、ダメージを減らすことはできません」
氷魔法は水と土両方の性質を併せ持つようだ。
固体が土の特性ということか。
魔物はいろいろの組み合わせで出てくるから、有効な場合もあるのだろう。
弱点にはならなくても、耐性も両方持っていないといけないなら使える敵は多い。
「なるほど」
「雷は、弱点とする魔物がいない代わりに耐性を持つ魔物もいないという特殊な属性です。また、雷魔法を浴びると麻痺状態になってしまうことがあります。その点でも優秀な魔法です」
雷魔法は特に俺にとって有用な魔法かもしれない。
何故かというと、俺には遊び人と複数ジョブがある。
遊び人のスキルに雷魔法をセットすれば、雷魔法を一度に二発撃てる。
単純計算で倍近い魔物を麻痺させることができるのではないだろうか。
もしならなければ一発ずつ交互に放てばいい。
さらにいえば、暗殺者の状態異常確率アップと組み合わせることもできるかもしれない。
これは明日が楽しみだ。
ただし、ジョブをどうするかは問題だ。
今現在冒険者を育てている段階で、他のジョブをセットする余裕はない。
暗殺者や博徒まではとても手が回らない。
遊び人、魔道士、魔法使いと並べれば、おそらくは魔法を三発連続で放てるだろう。
素晴らしい。
魅力的だ。
そのためには、冒険者を諦める、探索者を諦める、神官を諦める、英雄を諦める、いろいろ考えなければならない。
魔法使いは雷魔法を使えない。
遊び人に雷魔法を設定するなら、魔法使いをファーストジョブにしても運用上問題がない。
探索者を諦めるのが現実的だろうか。
探索者と魔法使いは現在ともにLv50だ。
Lv30、Lv40でもレベルが上がりにくくなったから、Lv50もやはりそうなんだろう。
探索者と魔法使いのレベル差が開くことはあまりあるまい。
探索者の方が早くLv51に達するだろうが、ボーナスポイント1ポイントの差がそこまで致命的ということもないし。
問題があるとすればインテリジェンスカードのチェックか。
探索者をはずすなら、アイテムは冒険者のアイテムボックスに入れることになる。
チェックのときに冒険者をファーストジョブにすることはできない。
探索者をファーストジョブにつけることはできるので、単純に今と変わらないだけだが。
冒険者でなければ、魔法使いでも探索者でもあまり大差ないような気はしないでもない。
いつチェックを受けても冒険者だと胸を張れる日は来るのだろうか。
「使えるのは、ボール、ストーム、ウォールで変わりないか?」
「確か三つだと聞いています」
そこは変化なしか。
買い物を終え、冒険者ギルドから家までワープで帰った。
クーラタルの家には遮蔽セメントが使われているので、フィールドウォークは使えないはずだ。
迷宮から直接移動するのも多分ワープでなければいけない。
ワープとフィールドウォークの使い比べは、今のところまだ何もやっていなかった。
魔道士のジョブも得たことだし、いろいろ試してみるべきか。
まずは、風呂を入れるため風呂場にこもる。
風呂はいつも一人で入れているので、ここなら好きに実験できる。
アクアウォールと念じた。
水の壁ができる。
ウォーターウォールより一回りは大きいだろうか。
大きいだけではなく、厚い。
量にすれば結構違うだろう。
その分、MP消費も少し多い、ような気がする。
感覚でしか分からないので、明確ではないが。
多いといわれれば多いだろう。
魔法が解け、水が風呂桶に落ちた。
湯船に直接溜めたのではさすがにはっきり分かるほど量に違いはない。
水がめに溜めれば比較できなくもないが、そこまですることもないか。
遊び人のスキルに中級水魔法を設定し、今度はアクアウォールとバーンウォールを同時に作った。
業火の壁の中で水が煮え立つ。
バーンウォールもファイヤーウォールより一回り強化されているようだ。
使い勝手は、初級魔法と中級魔法で変わらない。
次はアイスウォールを試した。
湯船の上に氷の壁ができる。
氷魔法に関しても使い方は同じようだ。
時間がたつと、氷の壁はそのまま落下した。
一度垂直に湯船に落ちた後、横に倒れる。
風呂桶のふちに当たるが、割れずに滑ってお湯に浮かんだ。
せっかくさっきバーンウォールで温めたお湯が。
テストなのでしょうがない。
氷の板は、まだ水の少ない湯船の中でもしっかりと浮き、少しずつ融けていっているようだ。
氷魔法で作られるのは、ちゃんと水の固体らしい。
ウォーターウォールで作った水は飲んでいるし、アイスウォールの氷も大丈夫だろう。
デュランダルを出し、氷を砕いた。
アイスピック代わりに使われる聖剣。
しかしここはゼロから作られるデュランダルを使うのがいいだろう。
衛生的に考えて。
ひとかけら口に含んでみる。
冷たい。
氷だ。
気持ちいい。
風呂場の中はまだ暑くなっていないが、夏場だし氷が爽快だった。
これはなかなか素晴らしい。
いい魔法が手に入った。
「迷宮ですか?」
デュランダルを持ったままキッチンに行くと、ロクサーヌが迎えた。
風呂を沸かす途中で迷宮に行きMPを回復するのはいつものことだ。
「いや。今は涼をおすそ分けだ。全員、風呂場へ来い」
「涼、ですか」
戸惑うみんなを尻目に、コップ代わりの小さな桶を取り出す。
早くしないと全部融ける。
融けたら作ればいいだけだが。
コップを持って戻ると、氷は、多少薄くはなっていたが残っていた。
薄くなっていたおかげか、デュランダルで突くとざくざくと砕ける。
コップで氷をすくった。
「これが涼だ。手を出してみろ」
風呂場に集まったみんなに手を出させる。
コップから手のひらに氷のかけらを載せてやった。
「冷たいです」
「これって、ひょっとして氷ですか?」
「××××××××××」
「確かに涼だと思います」
夏場だしやはり好評だ。
氷が苦手というようなこともないらしい。
ミリアは何を言っているのか分からんが。
率先して口に入れ、食べられることを教えてやる。
「氷が水に浮いています。本当だったのですね」
セリーが風呂桶を覗き込んだ。
そういえばそんなことを教えたこともあったな。
信じてなかったのか。
「言ったとおりだろう」
「これは氷魔法ですか?」
「そうだ」
「魔道士のジョブを取得なされたのでしょうか」
セリーは無駄に鋭いな。
信じてなかったくせに。
氷はちゃんと水に浮くっちゅうねん。
「そういうことになるな」
「さすがご主人様です」
「ですが、魔道士など上位のジョブを得るには十年以上も研鑽しないといけないそうです。ドープ薬ではうまくいかないそうですし」
「ご主人様なら当然のことです」
セリーに出会う前に十年単位で修行していた可能性について思い当たってもいいのではないだろうか。
もちろんそんな鍛錬はしていないが。
ロクサーヌのこの素直さを見習ってほしいものだ。
そしてドープ薬ではうまくいかないと。
ドープ薬で強化しても必ずしも強くはなれないそうだから、ドープ薬でレベルアップしてもステータス上昇はないか、少ないのではないかと思う。
もし魔道士を取得する条件にステータス値が含まれていれば、ドープ薬でレベルを上げてもジョブは得られない。
大量に使ってしまうと悲惨なことになりそうだ。
「すごい、です」
「素晴らしいと思います」
ミリアとベスタも褒めてくれた。
ミリアにはネコミミをたっぷりなでて返しておく。
後で氷菓でも作ってやろう。
とりあえず四人を外に出し、風呂を入れた。
試しにサンダーウォールも使ってみる。
風呂場で出してもしょうがないが、やってみたいよな。
白く閃光を放つ壁ができた。
これが雷魔法か。
風呂場ではフィールドウォークの実験も行う。
フィールドウォークと念じても、黒い壁は現れなかった。
遮蔽セメントを使っていると、発動さえしないらしい。
途中、ロクサーヌを連れて迷宮にも入る。
中級魔法を使っても、風呂を入れるのにMPの回復は必要だった。
MP効率が改善されてはいないようだ。
ただし魔道士はまだLv1だ。
レベルが上がれば楽になるだろう。
効果が結構違うし。
「ロクサーヌ、これからちょっと実験してみる」
「はい」
ロクサーヌに断ってから、迷宮内でフィールドウォークも使ってみる。
黒い壁は現れなかった。
迷宮の中では、フィールドウォークは発動さえしないらしい。
遮蔽セメントが使われている風呂場の壁で試したときと同じだ。
迷宮には遮蔽セメントと同じ効果があるのだろうか。
いや。ダンジョンウォークは使えるのだから、関係ないか。
どうせ黒い壁も出ないなら、わざわざ実験だと宣言することもなかった。
セリーのいる前でもよかったな。
実験だと言ってしまったが、ロクサーヌには実験したことさえ分からないだろう。
何も言わずに、一度クーラタルの冒険者ギルドにワープする。
そこから、ベイルの町近くの森にフィールドウォークで移動した。
懐かしい。
ここなら人目もない。
家の壁を思い浮かべて、フィールドウォークと念じた。
黒い壁が現れる。
が、中に入ることはできなかった。
フィールドウォークの使える場所から使えない場所に移動しようとすると、こういう失敗になるのか。
今度はワープを使い家まで帰った。
フィールドウォークもワープも使い方はほぼ同じだ。
MP効率については、違いがあるのかもしれないが、よく分からなかった。
「うーん。なるほど」
「何かお分かりになられたのでしょうか。さすがご主人様です」
全然たいしたことではなかったが。
解散して風呂を入れる。
風呂を入れた後で、氷菓も作ってみた。
失敗だ。
氷菓子にも失敗した。
アイスクリームを作ろうとしたのに、変なシャーベットもどきみたいなものにしかならない。
アイスクリームは作れなかった。
アイスクリームはだめなのだろうか。
まあアイスクリームを実際に自分で作ったことはないしな。
細かい作り方までは知らない。
氷に塩を入れて温度を下げ、ぐるぐるとかき混ぜながら冷やしてやればいい、というのは間違っていないと思うが。
それに、砂糖も少し足りなかった。
もっと入れないといけないらしい。
「冷たくて美味しいです」
「これは味わったことのない感覚です」
「すごい、です」
「わ。冷たいです」
それでも四人には好評みたいだ。
アイスクリームと考えなければ、悪くはないのか。
シャーベットならかき混ぜる手間はいらなかったが。
アイスクリームというくらいだから、牛乳に砂糖を入れて冷やすだけでなく、生クリームを加えないといけないのではないだろうか。
この世界にも生クリームはある。
というか、牛乳を一晩放置しておくと、生クリームの上澄みができる。
この世界の牛乳は少しおかしい。
さすがは異世界だ。
日本の牛乳とは違う。
最初に見たときは腐ったのかと思った。
その代わり生クリームの量は取れない。
ほんのちょっとしか浮かんでこない。
一度クレープで生クリームを巻いてみたかったのだが、そこまでの量は取れないと思って諦めていた。
ただ、アイスクリームのためならやってみるのもいいだろう。
今度牛乳を大量に買ってみよう。