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聖槍

 

 ハルバーの迷宮二十三階層に入った。

 聖槍とひもろぎのイアリングをテストしてみる。

 いきなりシザーリザード相手は怖いような気もするが、聖槍は前にも試したことがある。

 問題はないだろう。


 試してみると、やはり今までより早く魔物を倒せた。

 しっかり強くなっている。

 聖槍そのものはひもろぎのロッドより弱かったから、ひもろぎのイアリングの知力二倍がちゃんと効いている。

 大丈夫だ。


 聖槍だといい点がもう一つあった。

 セリーがやっているように、槍なら二列めから攻撃が届く。

 ミリアかベスタの斜め後ろから魔物を攻撃することもできた。

 ロクサーヌの後ろは危険すぎるとして。


 聖槍を持てば魔法を使う合間合間に攻撃ができる。

 今はまだ突いたり叩いたりするだけだが、慣れていけば斬ったりなぎ払ったりすることもできるようになるだろう。

 MP吸収のスキルでもつければだいぶ楽になるな。


「この先にいる魔物はマーブリームだけのようです」

「お。そうか。さすがロクサーヌだ。次はちょっと実験してみるから、倒すのに多少時間がかかる」


 ロクサーヌがアドバイスをくれたので、聖槍をしまいダマスカスステッキを取り出した。

 ダマスカスステッキを試すのは、さすがにシザーリザード相手ではない方がいいだろう。


 魔物が現れる。

 マーブリーム二匹だ。

 サンドストームを二回念じた。


 念じた後で走り出そう、としたら、誰も動かない。

 何故だ。

 いや、そうか。

 マーブリームしかいないのだから、こっちから近づく必要はない。


 ロクサーヌがわざわざ進言してきたのはそのためか。

 ダマスカスステッキを手に入れたことは教えていないし、マーブリーム相手に試すとも言ってないからな。

 走り出さないように、敵はマーブリームだけだと教えたのか。

 動いたときに聖槍を放り投げるのが嫌でアイテムボックスにしまったのだが、この場で迎え撃つならしまうことはなかった。


 ミリアもベスタもよく走り出さなかったものだ。

 セリーはともかく。

 二人ともすましているが、きっと内心では驚いているに違いない。

 気づかなかったのが俺だけということはないはずだ。


 俺も何ごともなかったかのような顔で魔法を放っていく。

 魔法を撃ってから移動する魔法使いでよかった。

 下手をしたら一人だけ走り出して恥をかくところだった。


 マーブリームを倒す。

 ダマスカスステッキの強さは、ロッドよりも上でスタッフよりは下というところか。

 アクセサリーにつけた知力二倍はもちろん有効になっているはずだ。

 聖槍より弱いからメインで使うことはないが、予備としては十分だろう。


 武器を聖槍に戻して、探索を続ける。

 シザーリザード四匹にロートルトロール一匹が現れた。

 大所帯だ。


 今度は四人がすぐに駆け出す。

 ちゃんと分かっているのか。

 不可解だ。

 俺はその場でサンドストームを二度念じてから、追いかけた。


 ロートルトロールを先に倒すなら弱点は火属性だが、シザーリザードは火魔法に耐性があるので使えない。

 耐性がなかったとしても、ロートルトロールを優先して倒すべきかどうかは相変わらず判断が難しい。

 今の場合、ロートルトロールを一匹減らしてもあまり意味はない、かもしれない。


 二十二階層までの魔物に比べたらシザーリザードはかなり強くなっている。

 シザーリザードを倒すのを遅らせることはないだろう。


 ロクサーヌたちが魔物に対峙した。

 ロートルトロールを挟んでシザーリザード三匹が横に並び、迎え撃つ。


「来ます」


 後ろに回ったシザーリザードの足元に魔法陣が浮かんだ。

 ロクサーヌの警告の後、周囲に火の粉が舞う。

 全体攻撃魔法だ。

 魔物の全体攻撃魔法もファイヤーストームと変わらないらしい。


 一瞬、体全体がカッと熱くなった。

 胸が締めつけられ、節々が痛む。

 足の指がもがれそうだ。

 肌がちりちりと焼け、痛覚神経が悲鳴を漏らした。


 三匹のシザーリザードが隙を逃さず攻めかかる。

 ロクサーヌが身体を揺らして避け、ミリアが大きく足を引き、ベスタが剣で弾いた。

 今のがよくかわせるもんだな。

 俺なら確実に喰らっていた。


 それでも、痛かったのは一瞬だ。

 すぐに熱さはやみ、痛みも引く。

 服やリュックサックに燃え移ることもないようだ。

 体だけが熱せられたのかもしれない。


 ロートルトロールが遅れて大きく腕を振った。

 ロクサーヌが何ごともなかったかのようにかわす。

 俺はお返しにサンドストームをぶち込んだ。

 セリーは、連発されないように槍をかまえて魔物をにらみつける。


 シザーリザードの全体攻撃魔法に致命的なまでの威力はないようだ。

 これなら一発二発で死ぬことはない。

 サンドストームを連発し、次を浴びる前に魔物を倒した。


「これが全体攻撃魔法か」


 それでも、さすがに二桁は耐えられる自信がない。

 連発されると結構大変かもしれない。


「単体の魔法より威力があるような気がしますが、気のせいでしょうか」


 ロクサーヌがシザーリザードの単体攻撃魔法を受けたときにはメッキをかけていた。

 いずれにせよ威力の正確な測定はできない。

 測るとしたら、何発浴びたら死ぬか、くらいだ。

 測りたくない。


「分かりませんが、耐えられないほどではないですね。きついことはきついですがしょうがありません。何発かは耐えられそうですから問題ないでしょう」


 セリーは頼もしいことをおっしゃる。


「はい、です」

「革もあったのか」


 全員に順次手当てをかけていると、ミリアが革を持ってきた。

 革のブラヒム語は、すでに忘れているらしい。


「そうですね。これくらいならたいしたことはないと思います。あ、手当てはもう必要ありません」


 ベスタにいたっては手当て一回で断ってくる。

 たくましすぎだろう。

 竜騎士だから堅いのだろうか。


「危なそうじゃなくても、ダメージが残ってそうなら言え」

「はい。大丈夫です。ありがとうございます」


 別に遠慮しているわけでもないようか。

 俺なら大丈夫と思ってから念のためにさらにもう一度自分に手当てしてしまうが。


 この差は何だろう。

 覚悟の違いだろうか。

 必要ないそうなので手当てを終え、探索を再開する。


 全体攻撃を喰らったとき、全員に手当てをかけるのは面倒だな。

 戦闘中に手当てが必要なくらいダメージを受けたら、間に合わなくなる恐れもある。

 全体手当てができる神官の早期取得が望まれる。

 あるいはセリーのジョブを巫女にするか。


 セリーを巫女もいいが、鍛冶師のレベルを伸ばしていきたい感じもするんだよな。

 これからもいろいろ新しい装備品を作ってもらうことを考えると。

 ミリアは暗殺者だし、ベスタには竜騎士があっているだろう。


 となると、消去法で残るのはロクサーヌか。

 ロクサーヌならどんなジョブでもこなしてしまいそうではある。

 まあそれはもっと厳しくなってからでいいだろう。


 その日は、夕方まで探索を行い、風呂を入れて一日の活動を終えた。

 ロクサーヌやセリーたちには夕食の後片づけや鍛冶も残っているが。

 遊び人のスキルに初級水魔法をセットすれば風呂を入れるのも楽になったし、今日は少し温度も高かったようだ。

 風呂でさっぱりするのがいいだろう。


 汗も少しはかいたはずだ。

 迷宮の中はそれほど暑くはないとはいえ。

 寝汗とか。

 朝方はベスタにひっついているとひんやりした感じもあるとはいえ。


 とにかく、風呂に入って一日を終える。

 風呂に入った後、少し運動もしたが、終える。

 色魔をつければ疲れることもない。

 腰の運動など、あってないようなものだ。


 翌朝、地図を持ってクーラタルの二十二階層に入った。

 さすがに二十二階層までくると早朝に入る必要はないかもしれないが、混んでたりしたら嫌だし。


「ミリアのジョブだが、石化の剣を生かすため、暗殺者にしようと思う」


 二十二階層の入り口で、全員に告げる。

 昨日ついにミリアのジョブが戦士Lv30に達した。

 暗殺者と騎士もちゃんと取得している。


 黙って変えるのも悪いような気がするので、宣言した。

 いっても暗殺者だしな。

 嫌がらないだろうか。


「はい」

「確かに、毒付与なんかがあるといいそうです」

「はい、です」


 ジョブの名前は暗殺者だが、別に嫌われているわけでもないようか。

 取り越し苦労だったようだ。

 まあLv1になるという問題もある。


「新しいジョブに就くので、慣れるまで少しの間、ミリアは後列に回した方がいいだろうか」

「必要ないと思います」

「ギルド神殿でジョブを変更した場合でもパーティーを組んでいるのなら奴隷にそんな配慮はしません。必要ないのでは」

「だいじょうぶ、です」


 ロクサーヌ、セリー、ミリアが大丈夫だと言い張った。

 パーティーの中にいれば他のパーティーメンバーが持つジョブの効果がその人に及ぶ。

 Lv1になったからといって極端に弱体化はしないのだろう。


「うーん。問題ないのか」

「いつまで後列にいればいいか分かりませんし、二十三階層より上の階層の魔物には全体攻撃魔法があるので、後列だからといって安心はできません」


 セリーのいうことは、この世界では合理的なんだろう。

 俺には獲得経験値二十倍があるし、レベルを見て判断することもできるが。

 ミリアが後列にいるのは多分クーラタルの二十二階層にいる間くらいだ。


「分かった。だが、しばらくはくれぐれも慎重にな」

「はい、です」

「ベスタは硬直のエストックを試してみたくないか?」

「ええっと。そうですね、興味はあります」

「なら、魔物の数が少ないときには、ミリアは武器をベスタと交換して後列に回ってくれ。二匹以下ならそれで問題ないだろう」


 妥協案を出す。

 ミリアのジョブを暗殺者にするのは魔物が二匹以下のときにすればいいだろう。

 パーティージョブ設定でそれはどうにでもなる。

 魔物が三匹以上のとき戦士Lv30のままにしていても分からないはずだ。


「はい、です」

「ありがとうございます」

「では、途中魔物の少なそうなところがあったら積極的に回ってくれ」


 ロクサーヌに地図を渡し、案内してもらった。

 魔物が二匹以下のときには、ロクサーヌとベスタが相手をする。

 ミリアのジョブを暗殺者にして、後列に回らせた。

 二匹だから横から攻撃させてもいいが、安全のため下がらせる。


 ミリアの暗殺者のレベルは順調に上がっていった。

 後はベスタの石化待ちだ。

 ベスタが魔物を石化させたのは二十二階層をある程度進んだときだった。


「できました」

「やった、です」


 クラムシェルが石化している。

 ロクサーヌが相手をしているクラムシェルとともに土魔法で始末した。


「これでベスタも硬直のエストックの威力を感じただろう」

「はい。すごい武器だと思います」

「次からはミリアが専用で使ってくれ。ジョブを変えたばかりだから、あまり無理はしないようにな」

「はい、です」


 暗殺者はLv5まで進んでいる。

 前列で戦わせても大丈夫だろう。


「ではボス部屋まで頼む。魔物の少ないところにはもう回らなくていい」


 指示を変更し、ロクサーヌの先導で進んだ。

 途中何度か戦ったが、ミリアの石化がいきなり増えたということはないようか。

 それはそれでいい。

 というか、むしろその方がいいのかもしれない。


 暗殺者のスキルには状態異常確率アップがある。

 暗殺者になっていきなり石化の確率が上がったら、そのスキルが効いたということだ。

 いきなりは上がらなかったとしても、状態異常確率アップのスキルが効いていないということでは、必ずしもない。

 暗殺者になってもいきなりは石化の確率が上がらないのなら、状態異常確率アップは暗殺者のレベル依存になっている可能性がある。


 ミリアはこのまま暗殺者で使っていくつもりだ。

 レベルもすぐに上がるだろう。

 状態異常確率アップはレベル依存であった方が、最終的には確率がアップするかもしれない。

 レベルが上がるのを楽しみにしておこう。


 オイスターシェルに対してはミリアの石化が発動した。

 暗殺者のおかげ、かどうか。

 博徒の状態異常耐性ダウンとの相性はいいのかもしれない。


 しかしオイスターシェルは元々貝殻なので石化してもよく分からんな。

 動かないだけで。

 料理人はつけずに、デュランダルをしまって魔法で片づける。


 狙いどおり、オイスターシェルは牡蠣を残さなかった。

 残されても一個だけでは困る。


 残したボレーはベスタに渡す。

 ベスタにボレーが必要なことを考えると、クーラタルの二十二階層はこれからもまだ世話になるな。

 人の多い夕方にどれくらいボス部屋が混雑するか、確かめておいてもよかったかもしれない。

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