表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
137/225

石像

 

 石化とクリティカルで、戦いは多少楽になった。

 とりわけ、石化が発生すれば戦闘は半分終わったようなものだ。

 気を抜いてはいけないが。


 元々数匹しかいない団体の魔物のうち一匹が戦えなくなるのだ。

 戦局が大きく傾く。

 そこにクリティカルまで加われば鬼に金棒だ。

 ロクサーヌとミリアたちはうまく連携して、後で倒す方の魔物をミリアが担当できるように動いている。


 ただし、石化はあまり発生することはない。

 クリティカル率上昇をセットしている俺のクリティカルで魔法の数が減ることよりも少ない。

 そこは、ミリアが戦士Lv30になって暗殺者のジョブを取得することに期待しよう。


 どちらも運頼みというのが、一つ問題点ではある。

 階層の最大数である五匹の魔物が出てきたときに、石化もクリティカルも発生しなかったらどうなるか。

 二十階層では問題はないが、石化とクリティカルを頼みに上まで進んでいったときに起こったら、ピンチになるかもしれない。


 クリティカル率上昇は五パーセントまでで留めておく所以である。

 ボーナスポイントを使う以上、クリティカル率上昇はいつもいつもずっとつけられるわけではない。

 今はもう少し伸ばすこともできないではないが、はずしたときとのギャップは小さい方がいいだろう。


「ご主人様、ルーク氏からの伝言メモが残っています。コボルトのモンスターカードを落札したようですね」

「コボルトか。なら明日でいいか」


 夕方、探索を終えて家に帰ってくると、ルークからのメモが残っていた。

 次の強化は、ヤギのモンスターカード待ちだろうか。

 早く落札できればいいのに。

 別に戦闘がつらくなってきているわけでもないが。


 コボルトのモンスターカードはすぐに使う予定もないので、受け取りに行くのは明日の朝にする。

 夕食に取りかかった。

 とんかつだ。

 パン粉を作るのも肉を切るのもベスタにやってもらう。


「パン粉ができました」

「ありがとう。ベスタが手伝ってくれるので楽だ。ベスタがうちに来てくれて本当によかった」

「こちらこそありがとうございます。何を作っておられるのですか?」


 ベスタに手伝ってもらって暇なので、俺はその間にクレープを作ってみた。

 牛乳、小麦粉、砂糖、卵を適当に混ぜる。

 クレープなんか作ったことはないが、多分牛乳少し多めの柔らかいくらいの感じでいいだろう。


「ちょっとしたテストだ。見ておけ」

「はい」


 生地を落とし、フライパンに薄く延ばした。

 実験なので作ったのは一枚分だ。

 生地を全部投入する。

 フライパンの上をとろとろと流れていった。


 こころもち柔らかすぎたか。

 牛乳はもうちょっと少なめでいいだろう。

 失敗というほどでもないが。


 フライパンはきっちり温めていたので、すぐに固まっていく。

 クレープ屋の店頭で焼いていたのもこんな感じだったような気もする。

 初めてなのにここまでできれば十分だろう。

 後は折りたたんで……。


 あ。失敗した。

 焼けたクレープをフライパンからはがそうとするとき、うまくはがれず、くしゃくしゃになってしまった。

 もっと慎重にやらないといけないのか。

 あるいは、フライパンの上で折りたたんでから取り出すのがいいか。


 今日のところはテストだからこれでいい。

 クレープを適当に五つに切る。

 最初の一切れを口の中に入れてみた。


 お。クレープだ。

 普通にクレープができている。

 磯辺焼きは無理だが、クレープはできた。

 柔らかさは似たようなもんかもしれない。


「試しに作ったものだ。みんなも一切れずつ食べてくれ」


 他の四人にも勧める。


「ご主人様がお作りになったものなら、楽しみです」


 ロクサーヌが真っ先に次の一切れを取った。

 順番が大切らしい。

 適当に切ったから、大きさも違うと思うしな。

 五等分は大変だ。


「あくまでテストだからな。次はもう少し本格的に作る」


 期待されてハードルが上がっても困るが。


「これは、すごいです。さすがご主人様です」

「柔らかくて、甘くて、美味しいです」

「すごい、です」

「美味しいです。こんなにふわふわしていて、こんなにもっちりしていて、こんなに美味しいものがこの世にあるなんて知りませんでした」


 セリーとミリア、ベスタも順番に一切れずつ取って食べた。

 四人とも喜んでくれるようだ。

 普通にちゃんとクレープができたしな。

 とりわけベスタに好評だった。


「ベスタはこういうの食べたことなかったのか」

「はい。こんなに美味しいものを食べられる日が来るとは思ってもみませんでした。いつもいつもありがとうございます。ご主人様にはどれだけ感謝しても感謝しきれません」


 ベスタには刺激が強すぎたらしい。

 まだとんかつもあるのだが。


 ベスタは、とんかつにも感激していたが、クレープほどではなかったようだ。

 同じ感激では同じに感じなくなってしまうだけかもしれない。

 同じ感謝では同じに感じなくなってしまったのかもしれない。


 感謝は行為で見せてもらった。

 ベスタははじめから積極的ではあったが、最近ではそれに加えて徐々にねっとりとするようにもなってきたと思う。

 いい傾向だ。



 コボルトのモンスターカードは翌朝受け取った。

 予備用で使い道はないのですぐ迷宮に入る。

 入った直後、ハルバー二十階層のボス部屋に到着した。

 探索は順調に進んでいたらしい。


 現れたのは、ハットバットとボスのパットバットだ。

 煙が集まって魔物が二匹現れる。

 早速雑魚から片づけようと駆け寄った。


 と、ハットバットの正面にベスタが立ちふさがる。

 何故邪魔をする、と思ったが、ボス戦ではそうするように言ったのだ。

 忘れてた。

 ありがたいが、微妙にありがたくない。


 ちょこまかと飛び回るハットバットの場合、誰かが相手にしているところを横からぶん殴るのも大変ではあるんだよな。

 相打ち上等で正面からやりあった方が多分早く倒せる。

 どうせデュランダルを持っているのだからダメージはHP吸収でカバーできるし。


 まあしょうがない。

 何が出てくるか判断してから指示を出して動かすのもワンテンポ遅れるだけだろう。

 横から殴ればあまり攻撃はされないから楽ではある。

 文句を言ってはいけない。


 ハットバットがベスタを攻撃する。

 ベスタが剣を当ててこれを受け流し、魔物は右から左に抜けた。

 俺はその外側をさらに大回りで追いかけていく。


 ハットバットが空中で体勢を整えたところになんとか間に合い、スラッシュを叩き込んだ。

 魔物は再度ベスタに体当たりを敢行し、俺とは反対側の左に抜ける。


 嫌な方へと動きやがる。

 絶対わざとだろう。

 というか、当然そう動くか。


 あわてて追いかけたが、スラッシュは間に合わない。

 次の突撃には予め一歩踏み出し、ベスタがかわしたところにデュランダルをぶち当てた。

 おっと。

 手ごたえがよかったので、今のはクリティカルになったらしい。


 バランスを崩したハットバットが立てなおしたところにもう一撃浴びせる。

 魔物がベスタを攻撃した。

 ベスタが弾き返したところにデュランダルをぶち当て、さらにもう一発スラッシュを放つ。

 ハットバットが墜落した。


 ようやく倒せたか。

 ハットバットに振り回され、多少時間がかかってしまった。

 ここで一息入れることもできず、ボスの囲みに加わる。


 ボス蝙蝠は、攻撃をすべてロクサーヌが盾で弾き返したので、それほど動き回られることなく、始末した。

 さすがはロクサーヌだ。


「途中で素晴らしい一撃が出ていました。さすがご主人様です」


 ボスを倒すと、ロクサーヌが褒めてくれる。


「ありがとう」

「さすが、です」

「私のは竜騎士のジョブが持つ特性らしいですが、同じことがおできになられるなんてすごいです」


 そしてロクサーヌに騙される面々。

 パットバット相手には、二回クリティカルが出た。

 ベスタもクリティカルを出している。

 それなのにミリアの石化は出なかったのか。


「セリー、ボスは状態異常にならないのか?」

「なったという報告はあります。ただし、頻度が大きく下がるようです」

「そうなのか」


 唯一人ロクサーヌに騙されないセリーに訊くと、答えが返ってきた。

 ボスは状態異常になりにくいのか。

 やはりボスだけのことはある。


 というか、そういうときこそ状態異常耐性ダウンの出番ではないだろうか。

 今はシックススジョブまでつけているので、博徒と剣士を同時に使える。

 だからクリティカルも出た。

 次は試してみよう。


「ハルバー二十一階層の魔物は、ロートルトロールです」


 セリーの話を聞いて、二十一階層に移動する。

 ロートルトロールか。

 マーブリームは最後の二十二階層ということになる。


「午前中はこのまま二十一階層の探索をやろう。昼に休んだ後、クーラタルの迷宮に行く。二十階層の突破と、その後で十七階層へ行こう。な、ミリア」

「はい、です」


 マーブリームが最後でも、ミリアはそんなに残念そうにはしていない。

 どうせ次に行くことになるわけだし。

 問題があるとすれば、二十二階層を突破するときか。

 二十二階層の次の階層には行きたくないかもしれない。


 いや。二十二階層ではトロが残るまでボスを狩るのか。

 二十三階層でもマーブリームは出るしな。

 うまいことできている。

 先に進みたくなくなるのは二十三階層を突破するときだな。


「尾頭付きを二個取って、明日の夕食だ。今回はミリアに調理をまかせる」

「はい、です」


 ミリアを鼓舞して、迷宮を進んだ。

 別に鼓舞しようがしまいが石化の確率に変わりはないだろうが。

 進んでいくと、ロートルトロールが三匹とラブシュラブ一匹が現れる。


 ファイヤーストームを浴びせた。

 十八階層のフライトラップと十九階層のラブシュラブはロートルトロールと同じく火魔法が弱点だ。

 マーブリームを間にはさむより、ロートルトロールは二十一階層に出てきてくれた方がありがたい。


 火魔法を撃ちながら、魔物を待ち受ける。

 ロートルトロールは割と大柄だが、ラブシュラブ一匹を含めた四匹全部で最前線に並んだ。

 並んで迫ってくる姿には迫力がある。

 前衛陣が斬りつけると、お返しに殴りかかってきた。


 威力のあるパンチだ。

 ロクサーヌが軽くそらし、ミリアが避け、ベスタが剣で受け流す。

 ロクサーヌは続くフライトラップの挟み込みも上半身を巧みにそらしてかわしている。


 フライトラップが間に入ったので、ミリアもロートルトロールを相手にするようだ。

 毒持ちのフライトラップの方が厄介といえば厄介だが、ロートルトロールの攻撃も厳しい。

 石化してくれるならどちらでもありがたいところだろう。


 結局、石化は発動せず、火魔法だけで四匹を同時に倒した。

 魔法を放った回数は順当に増えているので、クリティカルは発生しなかったと思う。

 クリティカルが発生してなおこの回数だったという可能性もあるが。


 クリティカルがあると正確な回数が計りにくいという問題点はあるな。

 最初だけ博徒をはずすか。

 別にそこまですることもないか。

 クリティカルがなくても石化が発生して狂うこともあるだろうしな。


 クリティカルもそんなにたくさん発生するわけではない。

 最悪で一割くらい戦闘時間が延びることもある、と考えておけばいいだろう。


 次の相手は、ロートルトロール一匹にハットバット二匹だ。

 ウォーターストームで迎え撃つ。

 今は二匹と一匹だからいいが、一匹ずつだったらどっちを先に倒すべきか。

 麻痺攻撃があるロートルトロールが先だろうか。


 ハットバットの突撃をベスタが弾いた。

 ベスタもかなり慣れ、ハットバットの攻撃にも対処できるようになってきている。

 やはりロートルトロールが先だろう。


 そのロートルトロールが拳を振り上げる。

 こっちの重い一撃の方が大変そうだ。

 と、腕を振り上げたところで、ロートルトロールの動きが突然止まった。


「お」

「やった、です」


 石化したようだ。

 腕を振り上げたまま、固まっている。


 二本足だと何かの石像のようにも見えるな。

 振り上げた腕が恐ろしい。

 今にも襲ってきそうだ。


 実際、襲ってきていたわけだし。

 世の彫刻家が見れば口惜しがるくらいのできだろう。

 ラオコーンより写実的だ。


 ゴリアテを殴ろうとするトロール像。

 サモトラケのトロール。

 考えるご老体。

 別に考えてはいないか。


 どっちかというと、運慶・快慶の方が近いだろうか。

 金剛トロール像。

 仏像というなら、トロール苦行像か。

 あれは歳をとっているわけではないが。


 水魔法でハットバットを倒した後、ファイヤーボールで石像も片づけた。

 ロートルトロールはすぐに煙になる。

 石化してもちゃんと火魔法が弱点というところが、いじましい。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 主人公のベスタがとんかつ食べた感動のところ 同じ文二個並んでる
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ