ミニスカ
その後も十八階層で戦った。
ベスタも問題はなさそうか。
何度か攻撃は喰らったが、弱音を吐くこともなかった。
「よし。少し早いが今日はこのくらいにしておくか。買い物もあるしな」
「買い物ですか?」
ロクサーヌが食いついてくる。
ベスタのものを買うのだが。
ロクサーヌなら自分のものじゃなくても大丈夫か。
ベスタにメイド服とエプロンを買わなければいけない。
大柄なのでメイド服が似合うかどうかは分からないが、エプロンはありだろう。
それに寝間着も買う必要がある。
「まずは帝都の服屋だな」
「ベスタのネグリジェが必要ですね」
ロクサーヌも選ぶ気満々だ。
文句を言われるよりはいい。
「私のですか?」
「ベスタのものをいろいろ作る」
「ありがとうございます」
ベスタが頭を下げた。
「今日は初日だからいろいろ大変な面もあっただろうが、これからも頼むな」
「はい。迷宮の魔物はものすごく手ごわいかと思っていましたが、このくらいなら問題ありません。大丈夫だと思います」
弱音を吐くどころの騒ぎじゃないな。
竜騎士のレベルが上がっていけばさらに楽になるはずだ。
恐ろしい。
帝都に移動する。
冒険者ギルドの外に出た。
ベスタもあまり周囲を見渡したりはしていない。
「ベスタは帝都に来たことがあるのか」
「いいえ。ありません」
「そうか」
「ついていくだけですから」
そういうもんなんだろうか。
服屋に赴く。
「ここだ」
「ええっと。すごく立派なお店なのですが」
「大丈夫だ」
「よろしいのでしょうか」
ついてくるだけだろう。
中に入った。
入り口を見上げていたベスタも続いてやってくる。
「いつもありがとうございます。ようこそお越しくださいました」
いつもの男性店員が女性店員二人を引き連れて近づいてきた。
「この間頼んだエプロンをまた作ってもらうことはできるか」
「はい。もちろんでございます」
「今度は彼女の分を頼む」
ベスタの肩に手を乗せる。
俺の顔くらいの高さにあるが。
オーダーメイドだから作るのは問題ないだろう。
「ありがとうございます。では採寸いたしますので」
「こちらへ」
男性店員が目配せすると、女性店員がベスタの前に立った。
体を半分折っていかにも慇懃な姿勢だ。
手で方向を示してベスタを導く。
「ええっと」
「行ってこい」
「は、はい」
ベスタを送り出した。
というか、採寸って何をするのだろう。
別室に行くところを見ると、服まで脱がせるのだろうか。
服を脱がせてメジャーを身体に巻きつける、と。
大きな双球のサイズも測らなければならない。
どうやって測るのか。
興味津々だ。
「昔作ってもらった侍女服も彼女の分を頼む」
とはいえ覗くわけにもいかないので、商談を進める。
「かしこまりました。使用する布は前回と一緒のものでよろしいでしょうか」
「そうだな」
「エプロンは五日、侍女の衣装は十日ほどかかります」
「分かった」
十日後いっぺんに取りに来ればいいか。
と一瞬思ったが、別々に受け取るのもいいだろう。
一度に両方を着せることはないのだから。
「後はこれですね。さっきの彼女に合う大きさのものもありますでしょうか」
ロクサーヌたちはサテン地のキャミソールのところに行っていた。
「こちらは既製品ですので、サイズの方はここまでになってしまいます」
「これですか。一応ちゃんと着れそうですね」
「肩幅などは十分だと思います」
女性店員が答える。
セリーのも小さいやつはなかったしな。
サイズはそんなにないのだろう。
「そうですね」
「ただし裾が少々短いかもしれません」
「うーん。どうしましょうか」
「これ以上のサイズとなると、別注で作ることになりますが」
裾が短いのか。
それはそれでありだ。
ロクサーヌが悩んでいると、ベスタが戻ってきた。
ロクサーヌがベスタの身体にキャミソールを当てる。
キャミソールの裾がベスタの膝あたりに。
いい位置じゃないか。
「やはり短いですか」
「さすがに短いでしょう」
「みじかい、です」
「そうですね」
「とりあえず買ってみて、どうしても困るようなら作ればいいだろう」
話がまとまりそうなのであわてて口を挟んだ。
いやいや。
十分な長さですって。
「そうですか? もし着れないと無駄な出費になってしまいますが」
「大丈夫だ」
少なくとも着れないということはない。
この世界にミニスカの女子高生はいない。
ミニスカのお姉さんもいないし、ミニスカのお姉様もいない。
チャンスを逃してなるものか。
「こちらのサイズは現在白か黒しかございませんが」
いいじゃないか、黒。
妖艶な感じが大柄なベスタにぴったりだ。
なんとか作らせて注文を得ようという女性店員の思惑などに踊らされてなるものか。
「ベスタは黒でいいですか?」
「よろしいのですか?」
「大丈夫です」
白はセリーが着ている。
ロクサーヌが中心となって、黒のキャミソールを選んだ。
選んだものをロクサーヌが持ってくる。
「では、これももらえるか。あと、兎の毛皮も引き取ってくれ」
アイテムボックスから兎の毛皮を取り出し、カウンターに置いた。
「あ。お客様は帝国騎士団のかたではなかったのですね」
男性店員がつぶやく。
俺のことをどっかの騎士団員だと思っていたようだ。
思わぬところから素性が発覚してしまった。
タイミング的に兎の毛皮か。
騎士団員は店で兎の毛皮を売ってはいけないのだろうか。
いや。今までも兎の毛皮は売り払ってきた。
他の何かか。
尋ねるのもどうかと思うので、精算を済ませて店を出る。
やぶへびになっても困るし。
「店員はご主人様のことを帝国騎士団員だと思っていたようですね」
店を出るとロクサーヌが自慢げに話しかけてきた。
「なんでだろうな」
「ご主人様を見れば当然のことです。あの店員には見所があります」
ロクサーヌは誰かに騙されないかと心配になるな。
素晴らしいご主人様に是非こちらの壷を。
「普通の探索者は荒くれ者がほとんどです。きちんとしたマナーを守ることができるのを見れば、帝国騎士団員だと判断してもおかしくないでしょう」
まあセリーがいうのならそうなんだろう。
現代日本人として普通なら、行儀はしっかりしているということか。
そういうものかもしれない。
「ブラヒム語、です」
なるほど。
ブラヒム語がしゃべれるというのもあるかもね。
「ああ。それだ」
「はい、です」
ブラヒム語に苦労しているミリアならではの発想だ。
ネコミミをなでて褒めておく。
続いては防具屋に向かった。
クーラタルの商人ギルドにワープしてから、歩いて移動する。
「プレートメイルだっけ?」
「はい。そうです」
防具屋に入ると、ベスタに確認してプレートメイルを探した。
鋼鉄のプレートメイル。
これか。
フルアーマーじゃなくて、肩から腰にかけてを囲む金属の筒だ。
腰の部分には、甲冑によくあるスカートみたいなひらひらがついている。
別々ではなく一体型となっていた。
装備すると出来の悪いロボットみたいな感じになるんじゃないだろうか。
どうやって着るのかと思ったら、横からぱっくりと二つに割れるようになっている。
どう見ても重そうだ。
実際に手で引き上げてみる。
持てないほどではないが、重い。
これを着て迷宮を歩き回るのか。
「お。こっちの方が、ひらひらがよさそうだな」
「草摺ですね。あまり違いがあるようには見えませんが」
セリーが教えてくれた。
草摺というのか。
違いがあるとは、俺も思えない。
空きのスキルスロットが三つあるだけで。
「重いけど、ベスタは着れそうか?」
「そうですね。大丈夫だと思います」
ベスタが鋼鉄のプレートメイルを引き上げる。
おかしいな。
ベスタが持つと軽そうに見える。
竜人族が持つと補正がかかるのかもしれない。
「鎧はそれでいいか?」
「はい。十分です。ありがとうございます」
他の売り場にも移動した。
プレートメイルにあわせて鋼鉄のガントレットと鋼鉄のデミグリーヴも選ぶ。
金属製の籠手と靴だ。
鋼鉄のデミグリーヴは膝の高さくらいまである脛当がついている。
空きのスキルスロットがついているものの中から、ベスタに選ばせた。
頭装備だけやめておく。
フルフェイスのものをつけさせたら完全に騎士になってしまうしな。
頑丈の硬革帽子がもったいない。
「好きなのを選んだら持ってこい」
「はい」
ベスタに任せ、俺は先にカウンターに向かう。
重いのを持ち歩くのは嫌だ。
「大盾というのは、置いてないか」
「竜人族用の盾ですね。あいにくとうちでは取り扱っておりません」
「そうか。ならいい」
店員に訊いてみたが、大盾はやはり置いてないようだ。
ないものはしょうがない。
十八階層でもダメージは大きくないようだし、ベスタの装備は両手剣二刀流でいいだろう。
「これをお願いします」
ベスタたちが防具を持ってきた。
セリーが鋼鉄のガントレット、ミリアが鋼鉄のデミグリーヴ、ベスタが鋼鉄のプレートメイルを抱えている。
一人で全部は持てないか。
結構大変だ。
金を払ってアイテムボックスに入れた。
大きなプレートメイルでもアイテムボックスにはちゃんと収まる。
ありがたい。
「後は食材を買って帰るか。牡蠣は俺が焼くから、他の料理を頼む」
「かしこまりました」
防具屋を出てロクサーヌたちに話した。
牡蠣を調理したことは誰もないみたいなので、俺がやるのがいいだろう。
家に帰ると、牡蠣をよく洗い、小麦粉をまぶしてバターでソテーする。
ベスタに搾ってもらったレモン果汁をかけたら、できあがりだ。
ベスタがやるとレモンも簡単に搾れるな。
レモンというよりちっちゃいミカンを搾っている感じだ。
これからもせいぜい手伝ってもらうことにしよう。
牡蠣のバターソテーはかなりうまくいった。
外はこんがりと焼け、中は柔らかく濃厚な味がする。
レモンの酸味がいいアクセントになっていた。
「さすがご主人様のお作りになる料理は最高です」
「やはり美味しいですね。確かにこんな味だったような気がします」
「おいしい、です」
「こんな美味しいものを食べさせていただいてよろしいのでしょうか」
四人にも好評のようだ。
「ベスタ、食事が終わったら防具を着けてみろ。明日になってあわてても困る」
「はい。分かりました」
牡蠣を食べながら話す。
大振りとはいえ一個しかないので、牡蠣はすぐなくなってしまった。
しょうがない。
夕食の後、ベスタにプレートメイルを着用させる。
明日の朝まだ暗いうちに着ることを考えたら、一度試着させてみるのがいいだろう。
「どうだ。一人で着られるか」
「一人では難しいかもしれません」
「だろうな」
「やる、です」
プレートメイルを開き、ミリアが持ち上げた。
ベスタの身体に押し当てて、閉じる。
ちゃんと入ったようだ。
「ミリア、ありがとな」
「お姉ちゃん、です」
「ありがとうございます」
ベスタも礼を述べた。
続いてデミグリーヴを履く。
「グリーヴをはいてから着るのでした」
ベスタがぼやいた。
ガントレットもつける。
プレートメイルをつけてから身体を曲げるのは大変なんだろう。
今日のうちにやっておいてよかった。
鋼鉄の装備品は、思ったよりスタイリッシュだ。
出来の悪いロボットとか考えて悪かった。
身体のラインも強調されることなく、引き締まっている。
フォルムが美しい。
どう見ても男装の麗人だ。
この世界では男装というわけでもないのだろうが。
オスカルと名づけたい。
「よく似合ってるな。重くはないか」
「少しは。でも大丈夫だと思います」
やはり重いのか。
そこは耐えてもらうしかない。
試着させただけで、すぐに脱がせた。
服も脱がせて、風呂場に行く。
お湯で汗を拭いた。
汗を落とした後、ネグリジェのキャミソールを着せる。
「どうだ、ベスタ。ちゃんと着れたか」
「はい。ええっと。少し裾が短いですが」
寝室に入ると、ベスタが黒いキャミソールを着ていた。
大きな胸に、キャミソールが尋常でなく持ち上げられている。
まさにピラミッドか。
クフ王と名づけたい。
「おお。いいじゃないか」
「ありがとうございます。ですが、短くてちょっと恥ずかしいです」
裾は膝上辺りまである。
ミニといっても別に極端に短いわけではない。
ミニスカートなんて存在しないこの世界では膝小僧が見えるだけでも恥ずかしいのだろう。
ツイッギーと名づけたい。
その分こちらには悩ましい。
日本ではミニスカートの女性に何かするなんてことは考えられなかったし。
くそ。
たまらんな。
ベッドの横に座らせる。
座るとさらに太ももまであらわに。
キャミソールの色が黒というのも、また艶かしい。
これはもう無茶苦茶にせねばなるまい。
ベスタを抱き寄せた。
膝をまさぐる。
サテン地の裾と生足が織り成すなめらかさがたまらない。
手を動かしながら、唇を求めた。
寝る前のキスの順番は、ロクサーヌが最後。
ベスタが一番最初だ。
この順番に感謝しなければならない。
これを決めたときの俺にグッドジョブと言っておきたい。