第六十一節 薬研藤四郎
前回のあらすじ
濃姫の知るため、そして男子として父親に従うだけの、
キリルを止めると言ってくれた勝倉。
今回の俺は役に立たないかもしれない、でも。
俺達は勝つ、勝ってみせる!
「そらそらそらぁ!」
「くっ!」「だぁ!」
もう、これはサンドバックだった。
キリルの攻撃を二人で交互にさばく、余裕をもって出来ることではなかった。
「ハァ、ハァ、ハァ!」
「勝倉、大丈夫か⁉」
「い、よゆーよ。ハァ、ハァ」
木刀を持って三日たったか、たたないかというところでの実践、どんどん木刀を振る力が弱まっているのが手に取るようにわかった。
俺は実休光忠の能力で体力にブーストがかかっていたり、色々と刀を振る時間があったためついていけているけど、勝倉は違うんだ。
「方後君、そろそろ言ってしまえばいいんじゃないかな?」
「何をだよ!」
距離を取った、転校生は聖剣を地面に差して笑って言う。
「勝倉君といったかな? お前は足手まとい、だから見捨てるってさ」
相手は手を抜いている、
確実に勝ちにいくため俺達のペースに付き合っているんだろう。
きっと転校生の頭の中にあるのは、俺の実休光忠の所有変刀能力〝心切り”だ。
それを使われたら負けるかもしれない。
だから相手と戦うことを躊躇している間に体力を削り切る算段。
「こいつが足手まとい? 馬鹿にしているのか? 俺はこいつがいるから裏切られていないお前の相手が出来ているんだよ!」
「あは、何をいうかと思ったら、冗談はそのナマクラ坊主を連れていくだけで十分だよ」
「どうやら、お前もそこまでのやつらしいな」
「……なんだ? 何が言いたい」
すると、彼は何かに気づいたようだ。すぐさま勝倉の木刀を攻撃する。
「そういう事、結構頑丈な木刀らしい。こいつ、本当に男子なのかな……もしかして女、変装した井谷さんか? でも」
くる! 受け止めて、返しに剣を叩き落とす!
「倒れたら意味ないよね‼」
「あぁ?」
「マズい! 勝倉一旦距離を!!」
ズザンンンンンンン!
飛び込むので精一杯だった。くっ。
「丈⁉」
勝倉に放たれたエクスカリバーの衝撃波。それを俺は体を張って受け止めてしまった。
らしくない。もっとやりようはあったのに。
もっと、そうだ。訓練をしっかりしておけば。そんな悔やみきれない思いが心を満たす。
「両手を広げて仲間を守る。う~ん、カッコいいなぁ。でも、納得したよ。どうやらその人は君の学校の生徒の一人だろう? だってその木刀は少しずつ君達の体力を回復させている、でも、そもそもあのただのバカにここに来る覚悟なんてあるわけがないよね!」
「勝倉を馬鹿にするな! 勝倉はお前に負けて努力を始めた! 俺はそれを、凄いことだと知っているんだぁ‼‼‼‼‼」
刀を天に掲げる、もうここで使うしかない。俺達は、限界だった。
「――――――――心切り!!!!!!!!!」
刀は、そのままだ。
しかし、何も起こらない。
「どうしてだよ⁉ 『実休光忠』‼」
「はははははは‼‼ どうしたの? ついには刀にまで見放された?」
力が抜ける。もう立っていられなかった。
立たないといけない。勝倉をサポートして彼の存在を証明するんだ。
だから、倒れるわけにはいかない!
そんな俺を振り返らず、一歩前に進む――。
がくがくに震えていて剣を受け止めるだけで精いっぱいだった、はず、
「丈、もういい」
「でも、お前だけじゃ、勝てない!」
「大丈夫だ」
「へえ、大きく出たねぇ」
言ったのに、転校生を倒すには二人で対応しないといけない、そういう作戦だっただろう?
「どうやら、今やっと俺にもこいつが分かったような気がする」
震えが止まった理由を教えてくる。
嘘、だろ? それって!!!!!????
それは自身の欠損部分すら治してしまう、俺が不自然に思われないように隠していた、木刀。その内側から鉄の刃が割れて出てきた!
「そ、それは・・・・・・!」
「三日前、俺はルートを決めた、刀は打ち合う時に持ち主と会話するという。相手は力を解放するほどの敵か、それに俺は、適しているか」
『薬研藤四郎』と言われる、持ち主には傷がつかない刀を目の前の相手に差すように向ける。
キリルがプルプルと震えだした。怒りで我を忘れてしまうように。
「嘗めるなぁああ‼ 本物だったとしても、方後から借りただけの、傷をつけられないような刀で俺を倒す!? 冗談も休み休みいえ!」
「俺は本気だぜ。そうそう、知っているか? 丈の刀ってな、規則性があるらしい。例えば、」
「遊びはおしまいだ。死ね!」
「俺の場合は音が同じで、意味を別に訳すようだ。
心切り―――――――――――――――」
痛いと感じるような光の後、向けた刀が、再構成され始めた。
どういう、渡したのは自分だが予想以上のことを。
刀が勝つため、力を蓄える、進化する、成長する。
そのどれにでも当てはまるように感じて躍動している。
ときどきちらつく火花、俺は目が離せなかった。
刀が俺以外にも答える。
確か、俺を持ち主と認めたときは信長が本来求めていた気持ちが、能力として武器に定着していた。
それに微かに何かが変わった、戦闘に参加していない濃姫も、無表情に見つめている。
許さないつもりだった。でも、彼女の目はあの、金山先生の命令の中期待していた、真智のものと似ている感じがする。
収束して弾ける刀の光。
生まれでてきて勝倉が手にしているのは、二つに別れた刀だった。
「武器の気持ちがわかるってこういうことなんだな。そうだ、名付けは『心移し』でいこう」
「くッ!」
キリルはすぐには、動けないか。
何せ、超武戦でその名をとどろかした、昔の所有者を裏切って刀のなりたい力、それを解放したから。
「来ないのか? なら、」
「な、早い!」
「こちらからいくぜ!」
寸前でキリルは2つの上段切りを受け止める。でも勝倉には想定内だ。
「な、僕、ボクの。気持ちが」
「拡大解釈。心に傷をつけさせない、それの状態にする。相手の俺を傷つけようとする内面的感情を削り取って戦闘を有利に進めさせてもらう。安心しろよ。二つ目の刀でちゃんと返すから。でも、急に来る感情は結構受け止めるのが大変だぜ?」
打ち合う両者、武器の扱い方はキリルの方が上だが、勝倉の刀に対応できていないようだ。
「こんな、ぬくぬくとした家庭で育ったような、へらへらしたやろうに!! ボクが」
「おっと、そろそろ返すよ! 『羽返し』」
「あ、ああああああ!!!!」
急な感情の波にのまれそうになっているキリル。
今、勝倉に全てがかかっている。足手まといは俺の方だった。
「俺は、寄りかかっていただけだったのか?」
ペタペタとした足音の主が俺の問いに答えた。
「信長様。あなたは一番大切なものが見えていない。だからいつまでたっても気付けることに気付かないのです」
「なんで、なんで実休光忠は俺の声に答えてくれない。どうしてだ濃姫?」
「私は分かります。それはもうあなた様もおっしゃっていた、それを思い出してください」
答えは見つけていた、でもそれは心の奥底にあって、まれにしか浮かんでこない。
「俺は、なんなんだ?」
抜け出せない正しい答え。
それは、俺の求めていた正しさなのだろうか。
「呼んで下さい、信長様。いえ、もういいですね。丈様の力は少しずつあなた様を見つけてくれます。今は差し出された手を掴むだけでいいのです」
ふっと思った。きっと、濃姫は断ち切らなければと思ったのだろう。
本当の気持ちをさらけ出そうとせずに、相手に使う偽りの気持ちを。
にっこり微笑んで、手を差し出してきた。
「一緒に行きましょう。あなたが守るべき人の所へ」
手を掴んだ。
「今更だよな。力を、貸してくれるか?」
「はい!」
体を投げ出し、顔が俺の口に迫る、濃姫は俺の顔を突き抜けて、淡く消えた。
手には、一本の刀が握られていた。




