第五十二節 慣れないことは急に始めるな
前回のあらすじ
刀に盛り上がる勝倉。
いいものをやろう。特別だぜ?
「じょ、丈、あなた本当に丈なの?」
「うるせ~よ。悪いか俺で?」
昼休みの教室で、俺は一緒に訓練をしようと世良を誘っていた。そうするとこの反応だ。
もっとも急にこんなことを言うのは、自分でも性格が変わったのかと思うけど。
「だって、だって。いつも通りなら、『俺は一人でやる』て言って屋上で寝ているじゃない!それが、今もなんか、少しボロボロで」
「俺にも目指すものが出来たってことだ。気にするな」
「はっ‼ そう、ついに≪序決訂申戦»をやる気になったのね!」
序決訂申戦とは略さずに言うと序列決定訂正申請戦という。
キモチ嚙み砕いていうと、『俺があいつより弱いわけない、さっさと明け渡せ』という話。
そうそう、≪序決八位≫はそれをやらずに襲撃してきた。理由は簡単。先生の許可が必要だからである。
許可されないことが分かっていたのだろう。といっても、上手くやったのか罰もなかったのだが。
どちらにしても、やりません。これ以上敵を増やしたくありません。
姉貴に聞いたこと、≪序決≫の一位から六位はそれぞれの派閥で動いているって話だし、これ以上、これ以上、
あぁ~、そうか‼ いつか姉貴とメイド長の派閥に所属している≪序決三位≫とも戦う決断をしないといけないのか、くそぉ。決意が揺らいでしまう。
「そうと決まれば一緒にやりましょう。いいわ。私が編み出した、対峰空全校生徒用の必殺技を防いでみなさい」
「ああ! 肩がぁ! ごめん世良、やっぱ俺ちょっと調子が悪いみたい」
一瞬で、触れてはいけなかったのを理解しました、はは。
「いいえ、それだけじゃ駄目ね。もっと死にそうになるくらいの方が……、この際姉様に協力してもらって」
俺から訓練申請書を奪って、スキップでもしそうなくらい上機嫌になりやがった。
「引きずらないで、行きたくない、助けて、ああ~‼‼」
少し冷たくなった目で見るクラスの生徒。今は世良と戦う時ではない、もっと強くなってからじゃないと負け癖が付く、
助けてやる義理はないと言っているような目だった。
その一人である根本。でも、はっとして目を閉じ下を向き、頭のてっぺんにあるつむじを人差し指でぐるぐるなぞり始めた。
ぽんっと手を打ち付けて何かを納得した。
俺に見せつけるように、にょきっと指を三本立てる。
どういう意味だ? 分からないがコクコクと頭を上下に振った。
うっ、意地悪い笑みが見える。俺はいったい、何を了承したのだろう。
根本が近づいてきた。切羽詰まったような顔を作っている。
「いだにさん、いだにさん」
「? どうしたの根本、さんだっけ?」
「さっき、生徒かいちょーをみたけど、一年生と二階の図書館に入っていったよ? どうしたのかな?」
ぱさっと申請書が地面に落ちた。
「一年生は生徒かいちょーのことをじっとみていたし、きっと何かお願いするようなかんじだっ」
「姉様ぁ。パートナーなのに。ええ、姉様の悪い虫は私が追い払う、待っていなさい八つ裂きにしてやる!」
何をどう勘違いしたのか分からないが、世良の目に嫉妬の炎がやどる。
はあ、お前にとって姉貴はなんなんだよ? 図書館に友達と一緒に入るくらい、別に気にするなよ。
いや、これは気にしないといけないのか? よし。嫉妬心を燃やせ世良!
「あとこれは聞いたはなしだけど」
ビクッとフルフルと震え始める世良、聞きたくないような、聞きたいような。現実を受け入れるタイミングを失ってしまったようだった。
これは、言葉が超能力に見えるよ。世良は、どんどん余裕がなくなっていっている。
「パーティーで『一緒にいてほしい』って思っているひとがいるらしいよー」
「姉様、今すぐそばに行きます!」
申請書を置き去りにして、世良は全速力で図書館に向かっていった。
俺は彼女が襟から手を離したことにより、頭を振りながら体の自由が戻ったことに一息つく。
良かった。本当に良かった。あのまま世良と一緒に練習したときには、二度と太陽を見ることが出来なかっただろうからな。
ふんふん、と目的を達成した顔をして、根本はその小さい手を尻もちしている俺に差し出してきた。
「だいじょぶ、こーち? 立てる?」
「ああ、ありがとう根本。助かった」
手を何気なく掴んだ。瞬間、俺は体の自由が奪われる。
これって、【人格操作】か⁉
『根本、お前!』
声にはならない。でも伝わったようだ。
「お願いみっつ聞いてくれるっていったよ? これはその一つ。でも、最後のお願いはたくさ~んお願いを聞いてっていうつもりだけど」
一難去ってまた一難ってことですか?
次から次に、はあ。
ロボットのように無表情になった俺は、心の中で盛大にため息を吐いてしまった。
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