第四十三節 銭湯
前回のあらすじ
メイドの楽園、そこにいたのは――、
同じクラスじゃないよな、年齢も違うはず、
って、お前は!
ドキドキしながら銭湯に入らなくなったのは、いつからだっただろうか。
着替えながら、少しでも意識を逸らそうとさっきの会話を思い出してしまう。
メイド長と少し会話した俺達は、すぐにその場から撤退させてもらった。
なぜなら、ツインテールが不機嫌を隠さないほど揺れている世良は話を聞けば聞いていくほどメイド長に掴みみかかろうとする雰囲気だったし、
キリルも相手の真意を聞き出そうとピンと張りつめた空気に変えていた。
濃姫は我関せずで少しも協力してくれず、もう火に注ぐ油と同じだった。
俺はデートの途中なのでと言い倒して、離れる雰囲気にやっとなったんだ。だけど、
「とりあえずは、考える時間が欲しいみたいだね。いいよ、わかった。でも覚えておいて、私達には主人がどっちにしろ必要なんだ、それを受け止められるのは、君しかいない」
主人から始めません。友達から始めましょうよ。そして、そこで終わりだ!
と、言えたらどれだけいいだろう。助けてもらった手前、あまり大きく出られないのが辛い。
超能力理論を証明した頭は上手く切り抜ける方法を持っているだろ大丈夫! なわけない。
なぜならそれを証明できたのは一つのことに全神経を集中させたからできたんだ。
君は出来るだろうか、寝ても覚めても取り掛かり、壁に当たろうと迷わない。それを可能にする、言っておくが月並みな表現だけど。何か、大きく変わった意識が胸にすとんと落ちて俺を動かす原動力になっていくそんな、感覚を。
最近勉強机に向かっているのは、もっぱらこの感覚を取り戻そうとしているのは秘密である。
話がそれた。
え、ドキドキする理由を教えろだって? 最初にいったつもりだったが。
銭湯に入るからだよ。それも、女の子かもしれないって話だぜ。
峰空の施設を全部見てまわるつもりだったのが結局、訓練場で時間を食ってしまいいつの間にか夕方になって、ハイ解散だった。
はっきりいって、かなりあっさりした解散だったな。
濃姫はそうすると思ったが、すぐにどこかに消えていくと
世良ももうムカつく‼ と言って寮に戻る方角に行ってしまった。
そして残った二人は約束通り、学校近くの銭湯に向かったんだけど、俺、大丈夫かな。ここまできたんだ、やっぱり男なんだろうと思うけどさ。
「キリル着替え終わった、か‼」
バッと後ろを向く。鼻を抑えた。
「どうしたんだい、方後君?」
ちらっと見えた、女性のようにきめ細やかな肌。全体的に男らしさがないといった言葉を使いたくなる背中で、大事な所はタオルで隠す、美少年がそこにいた。
待て待て、絶対男じゃないだろ‼ 明らかに化粧水とか使っているはずだ!
振り向け俺! そして確認するんだ。 胸、上半身は胸に答えがある!
「な、なんか恥ずかしいね」
俺は男だ、よって今の行動の方がおかしい。当たって砕けろ‼ 砕けないはずだ!
「俺は負けない‼」
「あ、なんだよぅ」
ガチっとキリルの正面から肩を掴んだ。スベスベで肌触りがいい、程よい弾力が目を開けさせることを拒む。
でも俺は目を、こじ開けた。
そして、ホッとする。
胸には、恐れていた二つの果実はついていなかった。
平たい胸板があっただけ。
そ、それはそうだよな。だってここは男性用の脱衣所だし、女の子だったら裸を見られることに抵抗があるはずだしな。
何を勘違いしていたんだよ。馬鹿野郎。
「は、離して」
「あ、悪い、ごめん!」
付き物が落ちた顔をしていると、彼は横を向いて小さく呟いた。
慌てて手を放す、いったいどうしたんだ? 今日の自分、頭がバグっている。
か弱い声が妙に心を揺さぶった、かわいい、なんて言ったらそれこそ相手に失礼どころじゃないことはわかっているはずなのに。
でも、ドキドキしたんだ。どうしよう、これから一緒にお湯に浸かるんだよな。
まだ浴室にも入っていないのに、俺は頭がのぼせているようだった。




