第四十二節 メイド長
前回のあらすじ
メイド長の乱入、それによりしっぽを撒いて≪序決八位≫は逃げかえってくれた。
でもそのさなかのことで、俺と濃姫との間には明確な亀裂が入ってしまい――。
「あれは、剣神様では?」
「ええ、そうです! ということは、メイド長様はついに始めるのね」
いったい何を始めてくれるんだ、歓迎パーティーですか~?
「ここまでくれば大丈夫です。ここは、私達メイドにとって城みたいなものですから」
学校から少し離れた、木造建築でできているその建物はほとんどもう一つの校舎といっても差し支えない広さで泊るところもあるようだ。
メイドの楽園。彼女達だけが入ることを許された、治外法権のようなものが適応されている場所。
つまり、メイド姿の女性達があちら、こちら――。
「ニヤニヤして、気持ち悪い」
おい、そこ。気持ち悪いっていうんじゃありません! 男の夢が、ここにはあるんだ!
「ふん」
喧嘩した手前、濃姫との間には見えない壁のようなものがある、
でも、知ったことではない。俺は見えてしまうものに反応しているだけだ。
だから、仕方がないのだ。うん。
クスクス、と俺を助けてくれたメイドさんが廊下を歩きながら笑っている。
「仕方ありませんよ、男の子ですもの。どうですか、彼女達は?」
それは、もう想像以上であります。
彼女達は峰空の生徒であることに変わりはまったくない、だからだろうか。
純粋にオシャレとして楽しんでいる層が多い傾向にあるようだ。
服の布面積が少ない。スカートが短い、派手でメイド服とは呼べない格好など。
結果、彼女達にお世話していただきたい気持ちを抑えないと。この、湧き上がる欲望が俺の中で暴れてしまう!
「凄いね。可愛い女性が多いよ。ちょっと僕には合わないけど」
「まあ、キリル様にはありきたりでしたか?」
キリル、お前凄いよ。もっとも、そうだな。俺はこの目の保養になるくらいがちょうどいいのかもしれない。
「丈様、そこまで気になっているのであれば一人、お傍にお付けしましょうか?」
「いや、いいです」
「あら」
もう、ベタベタする女性は欲しくありません。ただでさえ、峰空の女子生徒達からは逃げているようなものなのに。
これ以上一人の時間を奪われてたまるか。
「いいのですか? 彼女達は部活動で男性をたてる、それも男性に都合の良い女性になる努力をしています。あなたの女性像をそれはもう完璧に表現してくれますよ?」
「本当ですか!」
さりげなく、それでいてそっと手助けしてくれる、自己主張しない女子生徒メイドはいますか‼‼‼
「でも、その前にやっていただ――と、着きましたね」
何か言いかけていたようだけど気にしない。
なにせ頭の中は俺に都合の良い幸せな学校生活を送らせてくれる、そんなメイド想像していっぱいいっぱいになっていたからね。
部屋の表札。そこには、『メイド長室』と書かれていた。
ついにメイド長に会う。長というくらいだ、それはもう言い表せないくらいの美人なんだろうな~、
美人で思い出す、縦ロールに金髪の女子生徒を。
は、違う、違う‼ まずは目的を聞かないと。
おかしいものな、だって水面下で画策されていた可能性が高い作戦を止めに来られたんだからな。
しっかりしろよ。俺!
「メイド長、失礼します」
「いいよ、入りなさい」
「失礼します」「入るよ」「入りますわ」「お邪魔しま~す」
それぞれ、ガラガラと開け放たれた部屋に断ってから室内に入る。
そこに立って俺達を出迎えていたのは、
「こんにちは≪序決七位≫、方後丈くん」
「……」
一時の間が、場を支配した。
「あの、すいません。何かの罰ゲーム? 何しているんだよ。
根本」
もう一回繰り返そう。そこにいたのは、目がうつろになったフリフリのメイド服を着ている、俺と同じクラスの根本愛乃さんだった。
「メイド長様、また授業中の生徒を操っていますね! 授業に影響が出てきますから止めてくださいって言っているのに!」
「え~だってこの子かわい~じゃん。ほれ、目が死んだ顔で体を好きなようにされているようなひょうじょ~」
「はあ、それ以上口を半開きにしたら風紀委員会に突き出しますよ?」
「大事な話を始めようか。うん」
目が死んだ顔は変わらないが、きちんとした真面目な表情を作って机の椅子に座ったメイド長さん。
「余計なことをされていましたが、彼女がこの峰空高等学校のメイド長であらせられる、根本様、その人です」
『いや、知ってる!』
なんだなんだ? 俺はなにを説明されている??
「いえ、そういうことではなく、彼女は」
「いわなくていい、どうせ気付くぞ。それも含めて、お前は素質があるかどうか確かめさせるためにここに連れてきたんだろ?」
素質、ってなんだ?
「はい。その通りでございます」
「あるからだいじょぶだぞ。急いで知らせろ」
「はい! 失礼します!」
なにか慌てた表情で、俺を助けてくれたメイドさんはメイド長室から飛び出していった。
「さて、方後くん。君に、してもらいたいことがあるんだけど」
雷に打たれたように悪寒が全身を駆け巡った。
これは、俺の刀達が危険を知らせてくれている! な訳はない。
俺自身の経験則が次の会話を聞き返さない方がいいと訴えかけている!
「なんでしょうか? 私達も協力させてもらいます!さっき助けてもらいましたので」
バカ‼ 俺の質問に世良、お前が答えるんじゃないぃ‼
「方後くん、いいズッ友をもったじゃないか~。いいよ。協力してクリアしてね。それで、私のお願い事は」
ゴクリ、と唾を飲み込んだ。まだ、遅くはない! ここで断る考えを伝え、
「俺はこと「私達の主人になって欲しいんだぞ」わ、え?」
俺もバカの馬鹿です。あまりの意味不明さに、聞き返してしまいました。
「願ってもないことだろう、ん?」




