第四十一節 序決三位と八位
前回のあらすじ
怒り。いや、動転していたようだ。
俺はなんとか立ち直って、逃げようと出口に向かったが。
≪序決八位≫に戦いを挑まれてしまったよ。
「‼ 離しなさい、負け組の分際で!」
ぱっと、後ろに飛びのき取り巻きの生徒達の陰に隠れる≪序決八位≫。触られた場所をしきりに気にしている。
「いや、いや、うつる、なんてこと、ああ、ああ‼」
「この突発的戦闘、≪序決三位≫を有する、私達のメイド長が預かります!今回の一件に不満があるのであれば、『メイド宿舎』にて聞きましょう」
「どうしてですの⁉ お前達は昔から序決争いに関して中立を貫いてきたはず、そうじゃないの!」
少し怯えているように見える、≪序決八位≫。二人の間に、決定的な強弱があるようだ。
冷ややかに、無機質な顔をプリンセスと呼ばれている先輩に向けているメイドさん。
「プリンセス、ここは……」
「ええ、分かっているわ。引くわよ。さすがに≪序決三位≫と≪序決七位≫両方の相手は骨が折れる、今日は軽い挨拶にしましょう」
話が勝手に進んでいく。俺は、取りあえずは戦闘にならなかったことに安堵していた。
「剣神様、一つ言っておくわ」
「な、何でしょうか? ぷりんせす先輩??」
「あなたを好ましく思っているのは大勢いますわ、現に私もその一人。あなたがもたらした基礎訓練理論は、目から鱗が出てくるほど衝撃的でした」
ですが、と前置きして大仰な態度で髪をぱっと散らすように流す。
「私達のここにいる目的は、世界で一番と強い女になること。そのために沢山の物を捨ててきたの。次は、こうはいかないですから」
ちょうど、取り巻きが扉を開けて頭を下げている。
それを縦ロールを揺らしながら、ゆっくりとプリンセスは出ていった。
「ああ、そうですわ」
いや、そのまま早く帰ってくれよ。ふっと余計なことを思い出すんじゃない!
「生徒会長も太鼓判を押していましたし、超武戦も解決していらした、だから私はこれだけの準備をしましたが、杞憂でした」
当分会わないでしょうね、ではごきげんよう。
捨て台詞だろう。あなたは強いのではないのですか? といいたいようだった。
べつに、最強ですと公言しているわけではないのだけど?
「剣神様方、取りあえずは場所を移動しましょう。付いて来てください」
メイド服を着た女性が俺達に温かい声をかける。すっかり血が通った、安心する顔になっていた。
「ほんとに、ありがとうございます。え、と」
「ありがとうございます。序決さ」
「最後まで言わないで。私の評価は知っていらっしゃるでしょう?」
「え、でもあれは新聞部が作り出したデマだって」
「いいから、ね」
「分かりました。でも、今のは本当に驚きました! 私達のために中立を破ってまで助けていただいて、これのお返しはちゃんと、させて下さい」
「邪魔しただけですわ。もう少し遅かったら、あのお嬢ちゃんの首を飛ばしていたのに」
「濃姫‼」。
廊下で大きな声をあらげてしまう、余りの声に他の三人はもちろんのこと、通りかかった教室の生徒や先生にも迷惑をかけてしまったようだ。
少し、潤んだ目をしている、反省の色はない。
「お前、先輩を殺そうとしたな! 始めに会ったときに言ったよな?『絶対に人は殺すな』って」
「……、私はこう返しましたわね。『私は守りたいものを守ることに手段は選ばない』、と」
「濃姫さん。お願いだ。俺のことを守ってくれるのは嬉しい、けど、それ以上に俺は守らなきゃいけない人がいるんだ。その中で、お前もじっとしてくれないか」
「私は!」
「お願いだ」
「――、そうですか。でしたら、今使いましょう」
なんだ? 三人も心配そうに見ている。
「一時、お暇をいただきます。信長様は何でも聞いてくれるとおっしゃっていましたわね。どうせ、私が意に反することをすると知ればどんな邪魔をするか分からないですし」
「……好きにしろ」
「分かりました。決して約束をたがえないようにしてくださいね」
俺達は決裂した。
空気が、凍る。もう誰も喋らない。
黙々と歩く俺はイライラと悲しみと不安が、渦を巻いているようだった。
どうして、理解しても貰えないのだろう。そう、ストンと落ちた疑問。
難しいことを言っているわけじゃない、常識だって頭のいい濃姫は把握しているはずだ。
相手のことを理解しようとしていない人が話す言葉は相手に理解はしてもらえない。
まだそんなことも知らない俺は現実的に、まだ子供だった。




