第四十節 序決争い
前回のあらすじ
学校を色々回っている、その最中。
二年生の訓練場から問題は起こった。
は。お前ら、殺すぞ?
「大丈夫かな、井谷さん?」
「ううん、は! だ、大丈夫よ!」
彼女はちょっと赤くなって顔を逸らす、ちらっと俺の方を覗いた。
世良はキリルに馬乗りされている。俺は、どんな表情をすればいいのか分からなかった。そんな俺の顔を見た世良は、おずおずとキリルを手で押しのけようとする。
「ちょっと、立てないわ。どいてくれない?」
「あ! ごめんごめん」
ぱっと立ち上がり手を差し出すキリル、彼のイケメンな行動は、俺の心をチクリと刺す。
今はそれどころじゃない、わかっているはず。だけど、
「あら、あら、いい雰囲気ですわね。私達も何か甘酸っぱいことしませんか、信長様?」
「うるせ。お前は甘酸っぱいで済まさないだろ」
「気づかれまして、もう、照れないでいいのですのに」
濃姫が現実に引き戻してくれた。少し、頭が冷静になる。
ぐぢゃぐしゃになるところだった。世良を攻撃されたこと、世良とキリルの雰囲気、俺のなすべきこと。それぞれが頭の中で暴れる一歩手前だった。
考えることは一つだけでいいんだ。
「キリル、世良、濃姫‼ 逃げるぞ‼ 出口は後ろだ‼」
俺はほんの数メートルしか離れていない出口に手をかけた、ガチャ、と扉が。
誰かが入ってくるほうが、早かった。
「おっと、始まっていましたか? 真打ちは遅れてきた方がいいと聞いたもので少し紅茶をいただいていましたの」
豪華な髪飾りに金髪の縦ロールの女子生徒が大勢の取り巻きを連れて入ってきた。
白ニーソのエロさが制服を妖艶に変えている、靴は専用のブラシで磨かれているのだろうか。胸ははち切れんばかり、上気しているように色づいてる頬。ああ。
一つ一つ要素に意思を感じて、妖しさを際立出せている。目が吸い寄せられてしまって顔を逸らせない。
奪いたいと魔が差す、彼女の一部である唇をもってして。
「‼ ≪序決八位≫。【堕落お嬢】‼ あなた様がなんでここに!」
「ちょっと、その呼び名は止めて下さらない? 私は好きでその呼び名に相応しい人間になっているわけじゃないのよ?」
髪をバサッと手で風にのせるようにサラサラと揺らす、
仕草が、くう。存在自体がお嬢様の中では犯罪だろ!
「品格がないです、この方は絶対に無しですわね」
濃姫、なにが無しなのか分からないがその言い方やめろ。
ほら、相手はカチンときているだろ!
「ふん、いちいち対応していては先に進みませんわね。結論から申しましょう、今回の私達が手を組んだ目的は三つありますわ――、 はい? ええそうなの。違いましたわ、四つになりました。
一つ、世良さんへのインチキのけじめ。
二つ、濃姫さんの失礼な物言いのけじめ。
三つ、今しがたのキリルさんの挑発発言。
四つ、可愛い後輩を私のグループから無理矢理抜けさせた剣神様の報復
さて、何か言い訳はありまして?」
俺だけとばっちりです! といったら、許してもらえないだろうか?
「はははははは!」
と、突然キリルが笑い出した。おいおい、相手方の感情が高ぶっているのを感じるよぅ。
「何がおかしいのでしょうか、ヴァイマンくん?」
「いや、回りくどいことをするな~と思ってね。ハッキリ言いなよ。『丈くん、彼の首を取りに決ました。そのために色々しました』、てね」
「少し黙りなさい、転校生‼」
ここにいる半分くらいのグループがそれぞれ超能力をキリルに襲い掛からせる。
少人数だが、結構な数のグループがいるんだ、
しかも使い方を熟知した攻撃である、当たり所が悪かっただけでは済まないだろう。
くそ、ここにいる二年生のグループは事前に協力するだけの理由があったのだ。それほど、≪序決八位≫の影響力が高いのか、
いや、俺以外の三人が余計なことをしたからか?
「剣神様と戦える機会、大事にしないと‼」
「剣神様とイチャつくなんて、ダメ‼」
「ふふふ、剣神様を舎弟にして『ハグ』ポイントをザックザク稼ぐぞ~」
違いました、俺が一番の原因でした。まる。
「呼べ、【宝剣召喚】」
キリルを中心に、特殊な大理石の地面から光の奔流が飛び出してくる、
それは空中にバッと四散した。
キレイに舞っている、幻想的で少し見とれてしまっているところに。
ガチン‼‼‼‼
空から、石板のように大きい墓標のようなものが落ちてきた。訓練場の上には何もなかったのに!
その墓標の中心には、歯車が埋め込まれている。その歯に、一つ一つ固定されていた、まるで封印されているのではないかと思ってしまう剣が、深々と刺さっていて。
『きゃああ‼』
吹き飛んでいく二年生、尻もちをついて驚いた顔でこちらを見ている。
キリル、いや、つい癖で呼び捨てていましたがキリルさんと呼んだ方がいいですかね。
暴力、怖い。俺、怖い。なんて。
それにしても、何をしたのか全く見えなかったぞ。
転校生の手にあったのは、腰に携帯していた聖剣のようなものではない。
牽制したのは、持つ部分が曲がっている、刀身の長い剣だ。
「僕の超能力は伝説の剣を召喚することが出来る。それなのに武器、クォデネンツの機嫌はいつもと違って分からないな。だから次は少し痛いかも」
不敵な笑み、凍ってしまうほど低温な感情が見え隠れしていた。
「うふふ、ふふふ」
それをまったく気にするそぶりもなく、近づく≪序決八位≫の肩書を持つ先輩。
「ふふ、今日はほんと良い日です。予定とは違いますけど男子二人を侍らせることにしましょうか。ええ、それしかないですわ。それで廊下を闊歩したらどれほど満たされるのでしょう!」
ピタ、っと、俺とキリルはその体を左手、右手で触られていた。
え、まだ数メートルは離れていた、いつの間に……!
「さあ、可愛い声で鳴きなさ」
止めろ、濃姫‼
〝タントウ”が狙いを定めていた。一人、ただ動きについていけていた。
彼女を突き刺そうとする‼
「そこまでです、プリンセス」
先輩の手首をつかんで突如静止を促してきた、メイドさん?
驚き。どういう状況にも対応できる心の準備なんてしていなかった、そう俺は毒ずく。
しかし現実逃避だけは、上手くなっていた。




