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第三節 秘密を守ることが絶対か

前回までのあらすじ

方後丈は秘密を守ってもらうため、国のある条件を呑んでいる。それは女性だけ超能力を持っていいこと

国はよくわからない言葉を残していたが、気にせず彼は峰空を調べ始めた。



オープンキャンパス当日。

 


 俺はなぜか、井谷と二人で校内を歩いていた。



 理由は三年の姉貴が教師と意気投合。彼女と両親だけに色々と面白いものを見せてくれるらしい。


 たぶん建前だ。きっと、俺に見せたくないものがあったのだと思う。

 見てみろよ、この俺に対しての強い目線の数々。


 いくら俺が女子高見学に同行しているからって、おかしくないか?



「……」



 井谷は姉貴とは花が咲いたように喋るくせに俺とはだんまりときているので会話は全くない。それが、更に辛い。


 もしかして女性と男性が競うようになった、弊害なのだろうか。そうスケールが大きいことを考えてしまう。


 男女平等という世界のはずなのに。


(帰りたいと思っても、この学校の安全性を把握してからじゃないと帰れないけどさ)


 仕方ない。話題を振ってこの空気をどうにかするか。



「おい、井谷」


「……なによ」


 彼女は姉貴と同じで学校の制服を着ている。大人しいのはあいかわらずだ。すっかり屋上の一件から小動物のようになっている。


 いつもはもっとうるさいくらい暴力的であるにもかかわらず。



「食堂いかね? 姉貴達は勝手に食べるだろ? ほら、もう昼過ぎているし」



「舞さ、姉様はきっとこの学校が私達に相応しいか一生懸命調べてくださっているの。それなのに私だけ食事は――」

 ぐぅ~。


「私はおなかが減って――」

 ぐぅぅ~。


「私は!」

 ぐぅぅぅぅぅぅぅ~。



「諦めろ。いうだけ野暮だぞ」



「――――――――――っっっっ!」



 俺は真っ赤になった彼女を連れて食堂に向かった。中に入るとさすがに昼時ともあってとても混んでいる。


 席はもうほとんど空いていない。誘導の学生が行ったり来たりしている。忙しそうだ。


 自分の分の食券を買い、優しそうなおばちゃんに渡す。井谷はどうやら最後の意地とばかりに一般的な量にしたようだ。

 そんなことしなくても好きなだけ食えばいいのに。


 彼女は視線に気が付くとふんっと顔を背けた。ウゼえ、なんて可愛げのないやつなんだ。



 なんて思う、その時が、



 俺にとっていつもの日常を感じることが出来た、最後だった。



 ジリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリッ!!!!!!!!!!!!!!





 な、なんだ?

 まるで防犯訓練の火事で聞くサイレン、だった。


 そのもの、って嘘だろ、よりにもよってまさか! どうなっているんだよ安心安全のうたい文句は!



『火事です! 場所、食堂!!!!!!!!!』



 さっきまでの何気ない調理音が嘘のように、叫びながら人が調理室から飛び出してきた。


 ここから見えるのは、冷蔵庫付近での火の手だ。

 直ぐに消し止めれば大丈夫。消火器を持ってくれば、



 ダァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァンンンンン‼‼

 爆発!


 不味いものに引火してしまったらしい。


 食堂は一瞬でパニックになった。我先にと出口に殺到するせいで上手く進まない。



「皆さん! 落ち着いて、落ち着いてください!」


 対応が早かったのは、親である大人ではなく生徒の方であった。


 いち早く避難誘導に切り替え、複数出口を超能力で作り出す。ガラスなどを壊して何ヶ所も大きくくりぬいた出口が出来た。


 それもあり爆発の恐ろしさを乗り越えて、徐々に皆が冷静な行動を取ることが出来始める。



「井谷! 俺達も逃げるぞ!」

 出口は沢山ある。今なら安全に逃げられる。



「井谷?」


 いない。さっきまで近くにいたのに。


「きゃあ!」

 ドガン‼ という大きな音に紛れて井谷の声がする。調理室からだ!


 そのドアに飛びつく。開くと顔が焼かれるかと思うくらい、炎が上がっていた。


 早く避難しなければ、いつまたさっきの爆発が起こるか分かったものじゃない。



「もういい、もういいよ」

 いた! 足を挫いたおばさんを引っ張っている!


「お嬢さん、私は大丈夫だから早くお逃げ」


「そんなこと言わないで。私ならきっと助けられる。少し待ってて、少し待ってて」


 井谷はふらふらしている。よく見ると頭から血を流していた。それとこの酸素量、超能力も思うように使えないのだろう。


 今引っ張っているのは考えずに体が動いているから。そこまで、彼女には強い思いがある。

(いつでも助けられるとは限らない、こんなことがいつ起こるか分からない)



「おい井谷! もう無理だ、逃げるぞ!」

 その通りだ。このおばちゃんは助けられない。俺には、無理だ。

 おばちゃんのために今までのもの全て、失うわけにはいかない。


「大丈夫よおばちゃん、大丈夫、大丈」


「おい、聞こえているか?」


 反応がおかしい。このままじゃ井谷も無事じゃすまない。


「彼氏さんかい? 早くこのお嬢さんを連れて行っておくれ。爆発で頭に壁の破片が当たったみたいなんだよ」


「いいのか?」


「いいさ、私はこれでも頑丈だよ」


 強がりだ。子ども扱いするつもりかよ。


「助けを待つさ、この学校の生徒は優秀だって知っているだろう?」


 これからのことを思う初老の女性は、お茶をすすっているように自然体だった。


 食堂のおばちゃんという曖昧な思い出になるから、記憶に残らないはずだったのに。


 一生抱える傷になるかもしれない。それに身を震わせる、最低だ。


 無言で頭を下げた。俺は井谷を担いで調理室から脱出、そのまま超能力で作られた出口に飛び込んだ。


「人が出てきた! 誰か、水をかけて!」


 充分離れた芝生に井谷を下ろした俺は、ピシャっと水をかけられる。燃えていた箇所は鎮火する、でも心の暗い部分はねっとりと何かが絡まりつき、いっこうに落ちそうにない。



「すごいよ君、よく頑張った!」



 この学校の女子生徒が声をかけてくる。タオルをかけられ、飲み物をもらった。


 俺は、口にしてはいけないとわかっていた。でも一抹の望みを期待せずにはいられなかった。



「消火、するんですよね?」



「うん、そろそろ【水の能力者(ハイドロキネシス)】が到着するよ」


「中の、人は、いつ、助け!」


 必死に喋る。喉に痛みが差し込む。


「消火してからになるわ。今近くに救出できる生徒はいないのよ。まだ残っている人は何人もいるみたいだけど」


 そうか、あの人はもう……。


 少しの間じっとしていると、誰かが俺の肩を叩く。

 手当をしている女子生徒だ。ケガをした井谷が不思議そうに俺を見ているのだ。


「おばちゃんは、どうしたの?」

 目を合わせられない。



 ぶわっと井谷の目に涙が込み上げた。

「どうして、助けてくれなかったの?」

 起き上がろうと彼女は力をこめようとする。しかし上半身を支えるだけで精いっぱいだ。介抱していた女子生徒が慌てて押さえる。

「動かないで‼ 頭の傷に障るわよ」


「触らないで! ねえ、どうして私は助けられておばちゃんは助けられないの? 一番困っていたのはおばちゃんなのに」


「仕方がなかったのよ。彼は自分のするべきことをしっかりとやってくれたわ」


 俺と会話していた女子生徒が助け船を出す。


 そう、俺は人並みにできうることをやった。




『なら、後悔はしないよなぁ?』




 おばちゃんを助けられたかもしれないことは分かっているさ! でも、国を敵にまわすだろうが。


 それはまわりまわって、守りたいものを危険にさらす。



「あなたは黙ってて! ねえ、どうしていつもアンタは人並みなことしかしないの? 私よりもよっぽど優秀なのに」


 買いかぶりすぎだ。自分が優秀だなんて。


 そうだ。超ヒモ理論で超能力が使えると考えたときは自信しかなかったかな。



「言ってやるわ! あなたは出来ないんじゃない、行動して変わる勇気がないだけ」

 

 変わった、俺は変わったはずなんだ。超能力理論を発表した時に。


 だって、この力は世界から争いを失くせると思った。


 今、救えていないとしても。



「私は、助けたかった。助けることを後悔したくなかった。だから」





 お願い、助けてあげて‼ 私の、主人公(ヒーロー)なら





 彼女の顔から涙が流れ落ちる。そしてふっと、意識が途切れた。


 介抱していた女性がすんでの所で体を受け止める。


「……すみません。彼女を預かってもらえますか」


「君! 駄目よ! まだ能力者は来ていないのよ!」


「分かっています。火を消すだけです」


「え⁉ 君男性でしょ? そんな力ど、こに……」



 俺は右手を横に真っすぐ伸ばす。空気に触れている、その箇所がパックリと開こうとして、ひび割れていく。今回は大きい。ギザギザが広がり十メートルほどになった。



 お前もイライラしていたんだな。ごめん。


「うそ、でしょ」


 実休光忠、その不定形の炎刃が、幾分か伸びている気がした。


「待って! 君は、いったい?」


「風で吹き飛ばして火を消します。大丈夫です。こいつもやる気十分みたいなので。では、行ってきます」


 走り出し、足の回転を早める。トップスピードまでもっていく。火の粉が落ちる刀を力いっぱい握りしめながら食堂にギリギリまで近づいて精一杯の力をこめて、刀を薙いだ。


 かつて、この刀は大切な人を火事から守ることが出来なかった。

 でも、今は。


 食堂を卵型に囲み激しい炎風が発生した。それは鋭い切れ味も内包していて建物の上半分をスッと切って細切れにする。火も全て俺が出した炎に飲み込まれ、消えていった。


 しかし、避難が遅れた人はこの力によって傷一つない。危険物も安全に保たれている。


 おばちゃんもその中にいた。


 これは、感情に流されただけだったのだろうか。この時の自分には、分からなかった。



 小さなガラスが反射してキラキラと落ちていく、その光景は後にダイヤ事件といわれ、男性の能力者という存在を世間に知らしめた、重要な転換点になる。





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