第二節 二十一世紀の天才
前回までのあらすじ
自分で証明した超能力を隠している方後丈はごく普通の一日に疑問を感じながらもそれなりに過ごしていた。
でも、この生活を送るようになった理由とは?
その後は何事もなく、言ってしまえば全てに平均値を出して帰ることが出来た。ほんの少しクラスメイトである井谷が大人しかった気がするけど。
でもいい薬だな。あのまま実力行使に磨きがかかったら本当に誰かを傷つけてしまうかもしれない。
俺は、悲しみのためにこの力を開発したんじゃないから。
(さて、今日は長谷川博士の所に行くか)
俺は超能力を持っていることを隠しているのと同じように、この理論を完成させたことも隠している。
長谷川博士はそれを匿名で発表してくれた、言ってしまえば身代わりになってくれた頼りがいのある俺の師だ。
彼女は肌がピチピチであるための筋肉だけつけていて、栄養は胸だけにいくようにしているらしくそれはもう体から実がなっていると思うくらい大きい。
背は高く髪はロングで白。目は鮮やかな濡羽色の黒だ。知りたくもなかったのだが、肌年齢は自分の努力と知り合いの研究者が作った特注の化粧品で二十歳らしい。実年齢は教えてくれないくせに。
とにかく、彼女の家は俺の近所だから足を運びやすいので世の中の変化を色々教えて貰うのだ。
匿名とはいえ今や世界に影響力のある博士になっているけれど、俺のためならすぐに時間を取ってくれるだろう。
「博士~、長谷川博士~。あれ、留守かな」
「丈くん! いい所に来た! 早くこっちに来てくれぇ~」
バチバチと音がする。なにか失敗でもしたのだろうか。
まったく。足早に研究所の奥に向かうと長谷川先生が肩から上をはだけて死にそうになりながら、一台の小さなロボットに追いかけまわされていた。
すごくエロい、エロいな。
どこか抜けている、と思われるかもしれないが彼女は超ヒモ理論について詳しく研究していた立派な博士だ。でもその理論の完成形を俺が作ってしまうとピタリと止め、それを平和利用する研究に切り替えた。
今の当面の目標は、青い狸を作ることと言っていたが、
「博士、いったい何を作ったんですか? 目的のものと比べて小さすぎません?」
「やっぱりぃ、可愛いほうがいいと思ってぇ、ミニ狸にしてみぁぁ~」
う~ん、言われてみると確かに似ているな~。
そこまで危険性はなさそうだが、しょうがない。助けるか。
俺は手を上に伸ばす。伸ばした掌、触れている空間がジグザグに亀裂が入りこの世のものとは思えない物質が零れ落ちる。
ビシビシとどこかから、空気かもしれない、それから悲鳴のような音が聞こえてきた。
「来い‼ 実休光忠‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼」
織田信長の刀、これが俺の超能力、過去の武将が持っていた刀の力を自由に使うことが出来る【武将刀召喚】だ。
この実休光忠は柄の部分以外の、刃の部分は全く見ることが出来ない。なぜなら、炎で燃えていてどんな刀か判断することが出来ないのだ。
それは過去、本能寺の変の時、織田信長に最後まで使われて燃えてなくなったと言われているからだろう。
つまり、この刀は燃えている状態が正しい形なのだ。
俺はなにも型なんて考えていない付け焼刃である構えをとった。狙いは、ロボットの首だ。
「はぁ‼」
一刀、両断。
ロボットは頭が吹っ飛んでその場に崩れ落ちた。
「ひ、ひゃ~、助かったよ~。さすがだね~。刀の力が強まるから腕が無くても一発だ~」
「うるさい」
実はそれぞれの刀だけを召喚するわけじゃない。この刀は持ち主の意識が反映されている。
信長はこれで自害した。つまり裏切りの中、死んでいった。
この刀は能力として、『裏切り』の力が備わっている。裏切りに関わるほど、強くなる。俺の友人が作ったロボットも例外じゃない。
「君にはほんと感謝しているよ~。おかげでノーベル賞ものの危険な研究もすることが出来るし~」
「止めてくださいよ。命がいくつあっても足りませんよ。別にそんな焦らなくてもいいんじゃないですか? 博士の素晴らしさはもう世界中に轟いていますよ」
「君が完成させた理論に甘えるほど、私は落ちぶれちゃいないよ~」
「でも、博士が始めた理論ですよ?」
「いいや、違うね。君が構築した理論の基本を理解するのに何日かかったと思っているんだい? なんだ、あの『世界が九次元ということは立証されている。なら縦、横、高さの残りである六次元を縦、横、高さと同じくらいに大きく、またはそれ以上にすれば人間は能力を持つことが出来る』って!」
「それでも、博士がいないと構築できませんでした」
「君が常識と思って判断していることは知っているけどね、あまり言いすぎると嫌われるよ~」
研究機材が雑に並べられている部屋の中、椅子にドカッと博士が座る。
「それで、今日は何の用だい? また新しい理論でも考え付いたかい?」
「……言っときますけど、俺って学校では成績下の中ですよ」
「君は多分ハマればいいだけだと、私は思うけどねぇ~」
期待しすぎだよ。勉強だってついていけないのにさ。
確かに頑張れば点は取れると思うよ。でも点だけを取る勉強は嫌いなんだ。
「今日は峰空高校のことを聞きに来ました。俺の幼馴染、井谷が気になっているみたいなので」
「はは~ん。気になるのかい? そうだよねぇ~。だって彼女、開発した理論を使って女性の中で、いや、開発者の君もまとめて世界で一番強い力を与えたからね~」
きちんと制御は出来ていないみたいだけどね~。博士はそう上をみてカカカっと笑った。
「優しいよね~。彼女が絶対暴力に屈しないようにするなんて。昔いじめから守れなかったのが悔しかったのかな~」
井谷は小学生のころ、陰湿ないじめを受けていた。理由は分からない。そもそもいじめにまともな理由が存在するはずはない。
まだ小さかった自分。友達と仲良く遊んでいる姿しか見ていなかった。本当は辛かったのだと思ったのは、彼女がこれ以上ないくらいの笑顔で、女友達から離れて俺と一緒に帰った時だった。
まだ一緒に風呂に入っているときだったから、目に飛び込んできた、あのあざの数々はもう忘れることはない。
「俺が守ってやると誓ったんです。そのためなら差別といわれて後ろ指さされようと、気にしません」
「そう。無理はしないでくれよ」
博士は優しく見守ってくれる目をしていた。
「さてさて峰空のことだったね。エリート、お嬢様、安心安全の高校というのがまず大前提にある。女性の社会進出にかなり力を入れていて、人材レベルもかなり高いよ」
そこから、かなり話し込んだ。
どうやら何かのツテがあるらしく、博士もそこについてある程度把握していたらしい。それで政府がかなり関係を強めていることも教えてくれた。
もちろん、井谷も言っていた、超能力最先端の学校だ。つまり俺の完成させた理論が何かしら影響しているからだろう。
聞いた話だけじゃ危険かどうか、イマイチ決めかねるな。いじめがないとはいいきれないし、ごたごたが起きそうな学校である気がしてならない。俺がすぐに助けに行けない所なのも問題だ。
「ところで丈くん。政府から伝言だよ。伝えられる時でいいから話しておいてくれといわれたのだけど」
「なんでしょうか?」
国々は、俺が発表したことを知っている。彼らを敵に回すことは避けたかった。
それで知らないふりをするための交換条件が女性にしか超能力を使えないという話にしてくれという事だったのだが、
理論的におかしくない程度で書き換えたのが、バレたのかな?
「目立ちすぎるなってさ」
「……それだけ?」
「言いたいことは分かっているよね? 君、政府に黙認してもらっているけど男なのに超能力を持っているし。それに完成させた理論がどういう応用に使われているか知らないから、何が問題なのか気づいていないでしょ?」
「俺は俺の守りたいものを守れているなら、それでいいです」
「……そう」
博士も深く突っ込むつもりはないらしい。すぐに会話を変えてくれる。
俺は、別に他人がどうなっていようと関係ないと思っている。わざわざ自分から超能力で傷つけあっている馬鹿なやつらは無視でいい。
無駄なことに時間を割いている暇はない。そこまで面倒を見るつもりは、毛頭なかった。
聞きたいことは大体聞けた。傍にいられないのは心配だが、まだまだ一年ある。
それまでに対策を考えればいい。
「俺、帰ります」
「おぉ~、また来いよ~。今度の発明はロボットに意思が宿っているからな~。暴走するかもしれないけど」
「次は助けませんからね」
壊れたロボットをいじり始めた博士はこっちを見ずに手をひらひらと振っている。
挨拶も適当に、俺は帰りを待っている家族の元へと急いだ。




