第二十三節 助けられた
前回のあらすじ
ついに始まった武衛大と峰空のエキシビションマッチ、『超武戦』!
丈に引っ張られた峰空の一年生達は想像を超える力を身に着け、快進撃を始める。
しかし、丈にこれをひっくり返してもらおうと教官補佐、一斗は裏切りを示唆してきて……。
「補佐、もうこれに意味なんてあるんですか? あの男を倒せば勝ちとほぼ同義ですよね?」
「意味、そうだね。この戦いには重大な意味がある。かつての自衛隊の名誉を取り戻すということがね。そのためには観客共々、武衛大が強いことを教えてやる必要があると思わないかい?」
「それは……教官は何と言っているんですか?」
「『殺しても構わん。徹底的に潰せ』と言っていましたよ」
リクと教官補佐が喋っている。ありがたいことに峰空の彼女達はまだ情報を送ってくれていた。
まったく、勝負なんだ。俺が動きやすいよう考えなくていいのに。
「……俺は、反対です。きっと相手もこちらのことを必死に研究したはずです。彼も裏切るかも?」
「そんなことはないと思いますよ。彼は何もできない。そのために人質を準備したのですから」
今回の超武戦の戦略は彼のメモが本当に役に立っている。リクはわざとメモのことを言わず、彼女達の力を大きく評価するようなことを言っていた。
でも俺は、ここで勝ちを急いで欲しくはなかった。たぶん、リクは俺達の負けを確信していると思う。俺達を守るためにいってくれている。
移動しながらの実休光忠でみねうち、女子生徒たちを気絶させる。話を聞きながらの攻撃は結構きついな。
それでも、敵を安心させないと!
「つ、強い‼ これが剣神様の力‼」
「おいおい、つたない技術だと思うぞ。それでも一発一発がクるのは実休光忠の裏切りの力だな」
この刀は裏切りに反応する、それは自分が裏切っても効果は同じだ。なのでわざと裏切るのも、戦法としてアリだ。
「起点隊、応援を! 戦線が持たない!」
「わかった~。剣神様にかたなで切られる。ハアハア」
「ちょっと! 興奮してわざとやられないでね⁉」
次元隊が遠くからつるで足止めしようとし、創造隊が上空で最高の一発の準備をしている。起点隊が前線に出るときは確か、それぞれ二つの隊に合流して威力補強だったな。
「数を減らしておくか。耐えて見せろよ‼」
刃を峰空の生徒達に向け柄を胸近くに、刀を地面と水平に保つ、練習はしたことはない。
数人は飛ぶかもな。
『‼ 次元隊観測チームから連絡‼ すごい威力の攻撃が来ます。おそらく、立っているものは半数以下!』
「え、ちょっと待ってよ!」
「剣神様、殺す気だ。あわあわあわあわあわ」
「創造隊攻撃中止、防御、防御‼」
「剣神様に切られる。ハアハア」
『お前は死ねーーーーーーーーーー‼』
いくぞ。
――キリギリス‼
飛んでいく、扇状に放たれる炎刃の衝撃波。草原に入った女子生徒を中心に森の奥まで迫ってくる。守りが間に合ったものでも十メートルくらい弾き飛ばされた。あたった者を二回切ったように錯覚させる。
自分でもびっくり。少し減るだけで良かったから、名前も『キリがいい程度にギリギリ死ぬ』という意味で付けたんだけど。
「ほら見てごらん! 彼が超能力者の鼻を折ってくれている。彼を操っているのは私達だ。観客はその武衛大とは何者だと思うだろう!」
やり過ぎ、か? 本当にごめん。
「……」
「ふん。一応、追撃ミサイルや銃の攻撃をしておけ。ヘリコプターと情報収集も」
「わかりました」
本格的に動き出す武衛大。彼らによる戦闘不能数が多くなってくる。もう混戦といってもよかった。
ヘリコプターの小型爆弾投下。情報収集力も戦場に影響を与えてきた。
「そろそろ、限界、です」
創造隊から悲鳴が上がる。
「私達も」
次元隊メンバーの戦闘不能数は他の隊より酷い。
「裏方しんどい~」
起点隊もサポートが中途半端になってきた。何処の隊も無理が来ている。ここで俺がいれば、彼女達は立ち上がってこられるだけの力があったはずだ。
「さすがにやりすぎじゃね?」
「ああ。いくら彼の裏切りを考慮してもさ」
観客が疑問を持ち始める。そろそろ、決めてくるだろう。
(時間稼ぎも、限界か)
『超武戦、負けたら許さないからね‼』
もうちょっとだと思うんだ。だから、あとちょっと。
「方後君、もういいよ」
戦車に乗って近づいてくる教官補佐、ニタニタした笑いで満足げだ。
「さて勝負の幕切れだが。後は、そうだな。そこで自滅してくれないか」
センサーが反応する場所が壊れたら負けだ。それを壊せってか。
俺は言われるがまま、その場にへたりこむように座った。
どう思う? 過去の歴史に似ていると言っても、否定できないよな。実休光忠を持っている人間が、今度は仲間を裏切って自害することになるとは。
くそ、勝ちたかった。
俺は胸に付けられたセンサーに標準を合わせる。少しでも悪あがきで、ゆっくりと。
ここまできたのに、みんなと一緒に血のにじむような努力をした。それはこの日のため、中途半端な超能力で傷つけた彼女らに勝利という証を手に入れさせるためだった。
「どうした! 早くしろ!」
手がぶるぶると震える。壊したくない!
(俺がもっと強かったら。世良、ごめん‼)
教官補佐がせかした声に合わせて、
勢いよく、突き刺した。
壊れる感覚が手に残る、でも破壊されたのは、
実休光忠の方だった。
「今、何かが飛んでこなかった?」
「峰空の男子生徒が刺そうとしたら、空から丸く曲がった剣が刀を折った……」
「な、なんだ今のは⁉ こいつの能力は裏切りの刀だけじゃなかったのか⁉」
教官補佐が事前にない情報で、狼狽えている。
それは、井谷が付けてくれた数本の円武器。
能力名、【円定理】。全ての丸を操る力。
まるで、俺を優しく包んでくれている、そう思った。
(俺の自決を止めてくれた、ありがとう)
「う、撃て‼ 何が起こるかわからない。撃てーーーー‼」
逃げるように戦車の中に戻った彼は後退の指示を出しながら致死性の低い砲弾を襲いかからせる。
ドド、ドド、ドオオオオンっっっっ!!!!!!!!!!!!!!
「剣神様!」「コーチ!」「丈くん!」
峰空の生徒達が地面に倒れながらも必死に呼びかける。
観客席から見ている長谷川博士も砲撃の着弾煙で見えなくなった俺に心配そうな声をあげた。
「な、なんだと⁉」
スコープで覗く教官補佐が、見えたもの。
それは傷一つ負っていない、俺の姿だった。




