第十八節 パーティーに仕掛けられたもの
俺が起こした武衛大の風呂事件は、誰にも責められることがなかった。
いや、そもそもどういう攻撃だったのかもわからないから調べようがないらしい。
でも悪影響はある。合同訓練がなくなったのだ。
それは使用許可が下りていないのにもかかわらず風呂に入ろうとした四人が罰を受けることも関係していた。
武衛大はこのことを世間に公表しないといけないと思っている。しかしそれの背景を説明しようとするとどうしても彼らの説明をしないといけない。
なので詳しい説明を彼らから聞いたみたいだったが、『急に入りたくなった』と噓のような供述ばかり。
嘘をつくということは彼らが犯人だと上は睨んでいるようだが、どうにも辻褄が取れないらしい。
ということで、俺達はその日に帰宅。四人は給料差し押さえなど、厳重注意で一先ず経過を見ることにしたようだ。
つまり、
万事オーケーってことだ‼ なくなって本当によかった!
早めに帰ることが出来たからどういう訓練をした方がいいか研究できたし。合同訓練より効率が良かったかもな!
「では峰空を入学された方々に、乾杯!」
『乾杯!』
ビヤガーデンで姉を慕う後輩と同級生、そして俺の友達数人はささやかながらパーティーを開いていた。
俺は、本当は友達だけが良かった。でも数が集まれば安くなるところもあるし、姉貴も俺と祝いたいと言ってくれていたから。
でも、友人達は嬉しそうだ。
「やっぱりあの子、かわいいじゃん! お前玉砕して来いよ!」
「は? それもう失敗するって言ってる?」
「あの三つ編み、かわいい」
「聞いちゃいました‼ これは返事を待っている愛しの子に報告だな」
「は! や、やめてくれ! お願いだ‼」
「う~ん、焼きそばパン一つだ」
彼らはかわいい女子と一緒に食事できることが嬉しいらしい。たとえ、誰にも振り向いてもらえなくても。
だって見てみろよ。あの女子達の目。
(完全に姉貴しか見えていないなあれ)
仲良く談笑しているように見える、でも実際は、姉の好意を求めていることがはっきりと見て取れた。
信じられるか? この集まり、女子だけでみるとほとんど姉貴をいじめていた奴らで構成されているんだぜ。
よくそれをここまでもっていったよ。聞いた話では押しピン攻撃や無視、暴力などされたはずなのに。
優しいというか、姉貴というものが末恐ろしい。
と、姉貴の後輩が学校生活のことを聞いている。その魂胆は、おもに近づく生徒についてだ。
「姉様、部屋は一人部屋なのですか?」
「いいえ、違うわよ。可愛い男の子みたいなショートの子と一緒」
「‼ そうですか。その方とは高校で初めて会われたのですか?」
「うん。激しく責められているところを守ってもらっちゃった、私は、一緒にいてほしいって話すつもり」
あ、今、女子の中で電撃が走った。お互いに顔を見合わせ、髪の毛を触る。
「姉様は、その、ショートが好きなのですか?」
「そういうわけではないのだけれど、初めてだったな」
姉貴。それ以上いったら全員ヤンデレ化するぞ~。
「おい、方後!」
勝倉達に声をかけられる。
「ん? どうした?」
少し気にしすぎだったかもしれない。女子の方に行きたいと勘違いされたか?
「話聞いていたか? お前ら、いったいどうなっている?」
「何がだよ?」
「井谷とだよ! 今日も普通だったら必ず来るはずなのに来てねえし。あの屋上の痴話げんかからお前ら、別れたのか?」
「あのさ⁉ お前はなんで俺の話を聞かない! 付き合ってねえよ!」
「方後、隠さなくても分かる」
「そうそう」
「だな」
なぜか、彼らは俺と井谷に妙な勘繰りをしているようだ。
言いたい、彼女の傍にいたい理由は超能力が強すぎるからだ。けっして付き合いたいからじゃない。
そもそも、あいつは男なんて興味はないだろう。いつだって姉貴一筋だとお前等も知っているだろう!
「もう、いいよマジで。それより料理食おうぜ」
「てことは、井谷と付き合っている、他に興味はないってことでいいな?」
「なぜそうなる⁉」
「実は、俺達お前に相談したいことがあるんだ」
なんだ? 急に真剣な顔になって。誰も突っ込みがいなくなったから自制を覚えたのか?
「よくよく考えたんだ。俺達、年上でも好きになれるって!」
「はぁ?」
「考えた末、たどり着いたんだ! 俺達には方後の傍に寄ってくる女性を手に入れるチャンスがあるんだ!」
「よって、俺達に高校の女子生徒を紹介してくれ!」
「頼む!ジュース一本奢るから!」
お前ら、もしかしてそのためにこのパーティーに参加したんじゃ。
友達ってこういうものなのか?
もう死んじゃえよ。無駄に。
なんでだろう。こんなにも、他の客は幸せそうなのに。
無邪気に走り回る男の子がふらっとエレベーターに興味を持ったり、女の子にべっとりと着いたソースをふき取るためトイレに行く母親。親父達はビールを片手にわいわい騒ぐ。
幸せそう、ん?
それは直感的だった。けっして論理的に考えたわけじゃない。
他の客はいるにはいる。しかし、どこかぎこちないのだ。
そして、決定的だったのは、男性しか残らないこと!
「姉貴!」
花火が上がった。時期的に上がるはずもない花火が。
それと同時に、カランコロンと何かが投げ込まれる。
煙幕だ!
「うわ!」
「きゃ!」
辺りが次第に煙で埋め尽くされていく。
突然のことで、俺も身動きが取れない。
「なん、何しやがる!」
「触らないで!」
皆が襲われている! くそ‼ 実休光忠が間に合わない。
「姉貴!」「じょーくんこっちに来な」
鈍い音が聞こえた。それと同時に走り去っていく気配。
「くそが!」
煙を一瞬で払う。でも、遅かった。
辺りを包むのは静寂、近くのテーブルの上でコップが、飛びそうな一つの紙切れを抑えていた。
『超武戦は勝つな』
俺はその紙切れを、敵だと思って無くなるまで切り刻んだ。




