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第十七節 好きでいてくれる

一日目を終えて寝ようとした時、


 敷布団を敷く。そしてその上にシーツを被せてしわを伸ばした。


 いいね! 上出来!


 それに毛布と布団を乗せて、寝床が出来上がる。


 体を滑り込ませた。今日は、疲れたよ。さあ、休もう。いざ、夢の世界に。


 瞼を閉じる。ひとつ、ふたつ、みっつ。羊が一匹、二匹、三――、


 目を開いてしまった。



(って、こんなところで寝られるかーーーーーーーーー!!!!!!!!!)


 峰空女子一年生全員が寝ている掘立小屋、その中心でガタガタいっている天井を凝視してしまっている。


 伝わるだろうか? 逃げられないように取り囲まれているような恐怖を覚えるこの現状を。


 羨ましい? なら変わっていただけないでしょうか? 警察に見られたら捕まるかも知れないんだぜ。



「う、ううん。あっ」「もっと、もっと」「ダメ、これでも」



 それに夢でさえも訓練しているのか、寝言が欲情も誘っているかのように感じるよ。


 これはヤバい、末期だ。まるで時計の針の音のように、無視すればするほど気になってくる。


 お嬢様だからといって、起きたりしていいんだよ?


(先生もいるし、こんなものなのか?)


 ハッキリいって都合が悪いことこの上ないよ。後で体を触った! とか言われないかな?


 寝返りも、手を伸ばした先には女の子の胸とかだったらやばいですよね?


 ダメ、だ。このままじゃ寝ることができない。一回トイレに行こう。女子を踏みそうで何回もいけないと思うし。


 忍び足で、なんで俺はこんなことで緊張感を持たないといけないんだろう? 切実にそう感じる。


 もちろん、掘立小屋にはトイレはない。グラウンドのトイレに行くしかない。


 どんな選択をしてもめんどくささが付きまとう、生きるって大変だよね。


 四月、外はまだまだ冷える。ぶるぶると震えながら夜道を歩いていると、


 三人組の武衛大学生と御園生生徒会長がグラウンドトイレで一触即発の空気を漂わせていた。


 武衛大学生の一人は顔を覚えている。あの沸点が低い不良学生だ。


 姿を出さない方がいいと思った、なのでそばにあった木々に隠れて聞き耳を立ててしまう。



「へへっ。生徒会長様よぉ? 一緒に来てもらおうか?」



「嫌です」



「あれ~着信があるな~誰だろうな~。代わりに出ろよ」


 投げ渡される。触りたくもないのかアスファルトにガタガタっと落ちた。しかしふと目に入ったスマホの画面に、御園生ははっとしながら言葉を飲み込む。何故か電話に出た。



「もしもし」



『………』



「それはどういう? 私は‼」



『………‼』



「わかりま、した」


 通話を終える。震えていた。



「やっと終わったか? 手間がかかる女だ。さっさと来い‼」


 もう一人、痩せぎすの生徒が手を引っ張る。が、御園生はその手を弾いた。澄み切った目に力をこめて最後のプライドを、出さまいと隠していた抵抗の意思を表に出したようだった。



「いいね‼ その絶対に堕ちないという覚悟。教官も喜ぶ!」



「私には何をしても構わない‼ だから、もうこれ以上生徒には手を出さないで!」



「あぁ⁉ 意見が言える立場か? お前は俺達に使われていればいいんだよ!」



「近づかないで‼ ちゃんと行くから」



「うるせえ‼ 俺に指図するんじゃねえ‼」



「おい、いいじゃないか。好きにさせてやれよ。どうせ、この威勢も最後になるんだからさ」


 止められる不良学生。焦点が定まっていない目で襲い掛かるつもりだったようだが、この後のことを考えたらしい。ニヤニヤとした顔に変わった。



「そうだ。そうなんだよ。この後、俺達はこの何も娯楽がない場所で最高の思い出を作るんだ」


 行くぞ‼ そういって武衛大学生は本部に向かう。早足で、御園生を逃げないように監視しつつ。


 追跡する、拙いがなんとか気づかれていないようだ。


(本部に向かって何をするつもりなんだ? 電話で話していた相手は? 武衛大との関係は?)


 考える。しかし、答えは出てきそうにない。


 本部の入り口にたどり着く。そこに気持ち悪いくらい醜悪な笑みを浮かべている男が待っていた。


 俺に訓練中、煮え湯を飲まされた武衛大教官だ。



「遅かったな。トラブルでもあったか?」



「すみません。こいつがゴネまして」



「ほう、いいことだ。脂の乗った魚ほど食べるときの快感は全身に生きる活力を与えてくれる。お前達も彼女ほどの成功者を食べられる幸福に将来きっと感謝するぞ」



「はい、俺みたいな童貞には最高のご馳走です。わかっています」


 もう一人の太った生徒がハイエナのようにネチネチとした口を広げたあと、優雅に頭を下げた。



「おいおい、壊すんじゃないぞ。まだまだ時間はある。ゆっくり堕としていけ。最初はお姫様のように扱うのがコツだ」



「教官こそ、壊すんじゃね?」



「どうだろうな? 今日はストレスが溜まった。あの女々しい男子相手に返り討ちしたい気持ちを抑えたんだ。発散する対象に年甲斐もなく夢中になるかもしれない」



 三人組と教官が笑い声をあげる。心ここにあらずの御園生を置いて。



「さて、風呂に行くぞ。心をきれいにするために」


(……だいたい話を読めた。御園生に下心を持ってしまったってことか)


 それほどに彼女を縛っている敵は武衛大と仲良くしたいらしい。ということはだ。保険の先生が言っていた、峰空の秘密を喋っている人間は御園生を操っているやつの可能性が高いと思う。だとすると、根本的に解決しないとまたこんなことが起こらないとも限らないはずだ。


 俺は御園生の彼氏なんだ。


 大々的にやってしまっても別に構わない。


 バレても彼氏として仕方なくやりましたって言い訳に使えるかも。


 俺は風呂場がある外の壁に先回りする。


 しばらく待って、教官達が男子風呂に入ったのを確認。


 俺がやろうとしていること。それは決して体を傷つけず、精神的に抉ってやるものだ。


 男性達が脱衣所で裸になる。予想通り、御園生は恥ずかしさからか最後まで服を脱がない。



「いまさら何をしている? 早く脱げ」



「へ、変態! あなたたち」



「そうだよ。今気づいたの? 別に脱がなくてもいいよ。一枚一枚脱がすのも、水を吸った制服を見るのも好きだからね」



 太った生徒はねっとりとした視線で見つめている。もうスイッチはついているようだ。



「くっ‼」


 御園生が苦渋の表情をしながら、ついに衣服に手をかける。


 そろそろ頃合いだった。


 彼らがここに来る前に実休光忠は召喚していた。それは貯めに貯めた衝撃波を風呂場に繋がっている壁に叩きつけるためだ。裏切りの補正はかかっていないが、威力はきっと風呂場をきれいさっぱり消し飛ばしてくれるだろう。


 男性共の裸を公開しながら、な。


(今だ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!)



 パリンガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガンンンンンンンンンンン!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!



「なんだ⁉」



「ひぃ! 寒い!!!」



「周りに何もなくなった……」



 ジリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリ‼



『広範囲攻撃確認‼ 避難誘導を第一に、戦闘員は現場に急行せよ』


「逃げるぞ‼ 今は不味い!」


「逃げるって、裸のままでってことか?」


「仕方がねえじゃねえか!」


「先生、どうすれば⁉」



 裸のまま右往左往する武衛大のやつら、きっと彼らの捨てられたはずの幸福な時間は黒歴史となって語り継がれることだろう。



 醜態丸出しをな!



 これは、嫉妬。


 俺はオーケーを出した。それは確かだ。例え好きではなくとも。


 でも、言わされたからだとしても、他人に好意を寄せられる嬉しさは大切だと思う。

 

 それは、時として自分を認めて貰ったかのように自信に繋がる。


 それにこう言えるんだぜ。



『コクられたこと? あるある!』


 嘘でもそう言いたい人がどれくらいいるだろう。 


 好きでいてくれる人を守る。それは、初めの一歩だ。


 涙を貯めて逃げる御園生を見て、一つ気持ちに整理がついた気がした。



「ホントに、優しいんだから……」






 あれ、バレてる~?



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