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第十二節 練習場

前回のあらすじ

卒業した中学に戻った丈、そこで友達と再会する。

戻った目的は井谷をパーティーに誘うためであったが、断られてしまった。

いったい何が原因でこうなったのだろう。丈は彼女の気持ちを分かっていなかった。


入学から三日後、俺は敵地、武衛大と名前が変わった高校生自衛隊の訓練場に来ていた。


 なぜここにいるか、超武戦は一学年ごとにどちらかで三泊四日の訓練をしたら、その逆の方で本戦をする決まりがあるらしい。


 どちらも平等に経費を使うとか、そんな理由だろう。別に同じところで良かったのに。


 バス移動するこっちの身を、考えたことがあるのだろうか?


 なぜこんなことをいうかというと、朝早い時間。体育館に集合していざ出発する時、


 同じクラスである女子生徒が、全員俺の後ろに並ぼうとしてきやがった。


 その目は虎視眈々と何かを狙っている。なんだ⁉ 俺は恐ろしくなった。



「お~感心感心~。そうだね。それぐらいじゃないとこの学校では勝ち抜いていけないからね~」



 その行動に、長谷川博士や先生達は納得していて、他のクラスはうらやましそうにこっちを見ている。


 一般常識を、整理しよう。うん。普通は、先生に話を聞かれないように後ろに生徒達は座りたがるはずだよな? 例外として酔ったりする人は前に座る、と。


 それが、このままいくと俺が後ろに座ったあとに席が埋まっていくことになるぞ。


 俺に聞かれたくない話とかもあるだろうに。え、あ‼

 もしかして、俺と座りたくて!

 止めてくれ‼ 俺は大人しく先生と座るからさ‼ 女子の隣とかゆっくり出来ねえよ‼



「方後君、誠に、誠に残念ですが~、先生も二人組なので私達と座ることはできませんよ~?」

 地獄に落ちろ‼ 超能力がある今じゃ、バスより走った方が早いんだよ‼ つまり効率が悪い!



「そして、女子のみんな~。誠に、誠に残念ですが、彼の隣には座れません~」



『え~⁉』


 クラスメイトが落ち込む中、俺はガッツポーズを隠すのが大変だった。


 神様です。長谷川先生‼ 一生ついていきます!


 一人で座れるってことですか⁉ それが一番いいです‼


 もし隣に座られるとしても女子じゃなければこの際だれでも構いません。もう、観察されないならだれでも、

「彼の隣は御園生生徒会長です」

「最悪だ~~~~~~~‼」


 よりにもよって、一番関わりたくないやつが来た。


 いやさ、御園生自体はそれほど問題じゃない。無害になったし、けど、彼女の信者が怖すぎるんだよ‼


 前も、『私と付き合うはずだった生徒会長を‼』とか言いながら竹刀を振り回して追いかけて来たんだぜ。先生に助けを求めようとしても【透明人間(インビジブル)】使いで役にたたず。


「今日だけよろしくな、丈、様」


 軽くウインクしてきたことでぐんぐん上がる上がる、他の女子生徒たちの殺気。


 お前それ、やらされていな、さ、そうだな。好意? 純粋な好意ですか?


 一番前に座った。せめて女子の包囲網から、抜け出すために。


 そして俺の隣に御園生が座りこそっと耳打ちしてくる。



「バスデートなんて珍しいね。これを機に、私達が恋愛の形を作りましょう。熱く火照ったバスデートの形を」



「すみません。ここで降ります」



「運転手さん~気にしないで大丈夫ですよぉ~」



「カーテン閉めましょう。私は大丈夫ですけど、丈様の可愛い顔を世間に見せたくありません」


 俺は、もう少しで人生最大の過ちをするところだった。御園生はスカートの内側をピラピラと見せてきて、胸は大きく見えるようにしなだれかかってくる。


 それに修行僧の気持ちで耐えて、


 あの動く監獄から出ることが出来た。


 もう、思い出したくない。フラッシュバックするたびに、俺は大人の階段を数段上ってしまう気がした。


 俺は頭を振り払った。思い返すのは止めよう。


 バスから降りた駐車場での出迎えは、はっきり言ってあっさりしたものだった。


 一人の男子生徒に強面の男性指導教官。ちょっと気になることはニヤニヤとバカにしたような表情を二人、しているところか。



「わざわざ私達のために来ていただきありがとう。峰空の皆さん」



「いえいえ~、丁寧なお出迎えありがとうございます。これはきっと最大級の敬意だと理解しています」


「そんなことありませんよ」


「私達もです」


 長谷川博士、い、いきなりバチバチの視線の応酬。戦いはすでに始まっているんだ。



「女子生徒の皆さん、私、教官補佐の(とう) 一斗(いっと)が部屋に案内します。どうぞこちらへ」

 ニヤニヤした顔を隠さない。それもプラスして、部外者で明確な敵である彼を見たうちの生徒はピリッとした空気を醸し出す。



「そんなに怖い顔をなさらないでください。まだ試合は先、お互いに相手を知る機会があることを大事にしましょう」



「ごめんなさい。どうもうちの生徒たちは、初めての異性に気が立ってしまって」 


 御園生生徒会長がコロコロと優雅に笑いながら謝る。実は、彼女が一年生のバスに乗ったのはこういう対応とみんなをまとめるためだったらしい。俺とデートしたいために乗り込んできたわけじゃなかったのだ。


 それならどのバスでもよかっただろ、と思う。でもうちのクラス、俺がクラスにいるからって一年生の中心的なクラスらしいよ。


 と、だったら。彼は俺のクラスメイトにしっかり対応しないと勝負の時に殺されかねないんじゃないか。と思うのだが、



「すみません。僕の記憶が正しければ、この学年に男子生徒がいたような。もしかして不自然な男子に味を占めて、男に飢えているのですか?」


 あ、何かがプッツンと切れた。


「生徒会長、急ぎましょう。教官補佐さん、早く部屋に案内してくださらない? 私達早く体を動かしたくてたまらなくなってきました」


「ははは、頑張ってくださいね」


 クラスメイトの学級委員長が闘争心剥き出しに割って入ってくる。他の女子生徒たちも更にボルテージが上がったようだ。


 俺、足を引っ張らないかなぁ。ああ、何でよりにもよってこんな試合に。


 それはクラスのリーダーの役目を任された、俺の切実な感想だ。


 ほんと、ほんとうに粘ったんだ。立ち位置決めに。


 生徒会長に勝った、そのことが発端で保健室の先生が言った通り一年生のリーダーに任命されるところだった。


 それを一年生のリーダーは女子生徒が相応しいと何とか説得して今の少し責任が軽い立場に収まることが出来た。


 でもこのままじゃ、平穏に終わりそうじゃない気がするよ。


 そう、それは予想していた。でも、もっと悪い方向に転がった。



「皆さんが気持ちよく訓練が出来るように、私達の建設を担当する科と一年が共同で客室を作りました! どうぞゆっくりとくつろぎ下さい。では、私は戻ります」


 客室というものは駐車場から五分くらい離れたところにあった。気持ちよく訓練が出来るように、その言葉をいいように解釈すれば武衛大訓練場が近くにあるということになると思う。


 だけど、その言葉はきっと嘘だ。だって、

 こんなおんぼろな掘立小屋、悪意がなければきっと作れないだろう。


 一学年入る広さはある、しかし、屋根とかちょっとした風で飛びそうで今にも崩れそうだ。



「みんな、中に入るわよ」



「そうだね~」



「え、御園生生徒会長⁉ 長谷川先生まで⁉ これは明らかに失礼ですよ! 上に訴えて」



「何をしにここにきているの? あなた達は」


 ついこの間までないと感じていた、責任ある堂々とした御園生の言葉に、女子生徒達ははっと気が付く。


 ここに遊びに来たのではない、白黒つけに来たのだ。



「なめた行動は試合で償わせましょう。勝つことは必須条件よ」



『はい、生徒会長‼』



 彼女達。ガチな空気だ、これ。





「できれば、ね」


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