第九節 敵の勧誘
前回のあらすじ
学校唯一の男性である金山先生に≪超武戦≫のリーダーになるかもしれませんと言われました。
はい。無理です。
あなたのことでメンドクサイ、だから許してくれませんかね。
「失礼しました」
俺は扉を閉じようとする。丁度休み時間に入ったようだ。いったん教室に帰ろうとすると、ガラガラという音に合わせて生徒会長がちんまりと裾を握ってくる。
「なんで受け入れてくれたの?」
「どういうことだ?」
すっかりと大人しくなった、敬語を抜いても気にしていない。廊下の床に顔を向けてポツポツと話す。
「私の告白。私のこと、特に好きってわけじゃないんでしょう」
「そうだ。でも後悔はしていないぞ」
ううう、と声が聞こえた。声にはならない声ってやつ。それを、わざと聞いていないふりをする。
何かを堪えている。分かっているから、話しかけない。
話さなくても俺は、お前の言いたいことは分かっているからさ。
ゆっくりと歩きながら待つ。少しの時間で回復するのは、やはり生徒会長だからだろう。
大きく息を吸い、キリッと持ち直した顔でこちらの目を見る。
「実は」
「生徒会長様‼ それに剣神様も」
「剣神様は捕まえなさい! 一緒にきてほしいの!」
「な、なんだなんだ?」
剣神様って誰だ? 俺のことか⁉ 何を考えてそんなことを??
女子生徒、これは一学年だけじゃない。二年三年もいる⁉ これはもしかして、
ハーレムか!
きっとそうだ。俺が御園生よりも強いことを知った。それで俺と付き合いたい人がこんなに出てきて、しまった⁉
ふ。俺って罪な男だな。やっぱり、どんなものでも強いっていうのは恋愛のステータスになるようだ。
な~んてさ。冗談、冗談。別にそうであっても悪くはないけどさ。
と、あれ、なんで超能力を発動させている生徒がいるんだ?
「生徒会長様だけ戦わせるな。仇を取れえぇぇぇぇぇ!」
はい。こいつらは男からの屈辱を倍返しするポリシーを持っているってことね。
…………………………???!
「だから戦国武将顔負けの臨戦態勢でくるんじゃねぇぇぇぇぇぇぇぇぇ‼」
この学校、もう嫌だ! 俺は御園生を置いて逃げ出す。捕まったら最後、休み時間は戦いのエンドレスになることは分かっていた。
「だいじょぶですか生徒会長様、へんなことされてませんか」
「え、ええ」
御園生は走り始めた俺を熱い目線で見つめ続けている。ごめんな。言いたいことは今度聞くから。
たぶん、アイツに掴まれた弱みのことだと思うしな。
「逃げたよ、追って! 回り込んで!」
女子生徒の連携は目を見張るほどだった。
俺が、ある時は狭い場所を通ったり、階段を飛び降りて走り続けても、
必ず臨戦態勢が完璧な女子生徒が待ち伏せしているからだ。それはもう、逃げ場がどんどんなくなっている恐ろしさがあった。
「だ、誰か助け」
休み時間が長く感じる。中学で一緒につるんでいた、友人の気持ちはこんなだったのかもしれないと、ぼんやり思った。
「こっち! 早く‼」
力強く手を捕まれた。これは、男の手?
空き教室に一緒に入る。後ろから追いかけていた女子生徒達は隠れている空き教室に目もくれず走り去っていった。
一息つけた。ホントに。
「助けてくれてありがとう」
「どういたしまして」
助けてくれた人はこの学校の男性服に身を包んでいる。にやりと犬歯がのぞく、顔が整った陽キャだった。
なんか嘘くさくなったな。本当にこの学校は俺だけが男なのか?
「はは、もしかしてなんで男なのかとか思ってる?」
「い、いや別に……」
「大丈夫、俺はこの学校の生徒ではない。簡単に説明すると『交換大使』ってやつだ」
交換大使? 交換留学生みたいなものか? いったいどこと、
「自己紹介だ、俺は来月開催される超武戦の情報を手に入れる武衛大の先行隊陸士長。名前は呼びやすいものがいいな。リクって呼んでくれ」
嘘だろ。敵! もしかしてこいつが峰空の情報を話しているやつなのか?
でも、こっちの学校の生徒じゃないって言っていたし、スパイというのはおかしい気がする。
戦闘態勢をとる。助けてくれたとしても、正体が分からなければ話にならない。
「申し訳ないが、武衛大が俺に何の用だ。俺を助けたいからわざわざ面倒事に関わったわけじゃないんだろ?」
「おお、察しが良くて助かるよ。実は君のことについて調べてこいっていわれていてね。あの事件を解決した、超能力者唯一の男である君のことについて知りたいんだ」
そういう事だと思ったよ。
はあ、さっきの保健の先生とか、こいつとか、俺の深い部分まで探りを入れてくるのはマジで勘弁してほしい。
こいつらと戦うからじゃない。
超能力の中身についてなら最悪、全然ばれても大丈夫なのだが超能力の論文を完成したかもしれないと思われることが一番、俺にとって危険なんだ。
なんで?
~*~
「丈くん。なんで自分が開発したことを発表したくないの~? きっと君ぐらいの年齢なら逆じゃないのかな~。ほら、女性にモテモテになりたいとかでさ」
それは長谷川博士の研究所で唐突だった。もう論文もまとめきり、一息ついた時だ。
はっと、自分の研究するエネルギーが何だったか思い出す。そういえば嫌なやつを見返したり、金持ちになりテレビにかっこよく映りたいと思っていたのが始まりだった。
でもいざ論文が完成すると、
「博士、いったことあるでしょう? 俺は守りたいものを守れるようになりたいんです。この理論を守るのも、俺の願いです」
「そうなんだ~。その願いは彼女を守ることに繋がっているの?」
「はい⁉ 彼女だけじゃないですよ!」
「わかったわかった。でもさ、もし公表することが守れることになるんだったら、どうするんだい?」
「決まっています。表舞台に出てやりますよ。それが責任です!」
「へ~かっこいいね~」
~*~
「なあ、俺のことはすべて話す。だからこれ以上深い所まで入ってこないでくれるか?」
「へぇ」
彼はその眼光を鋭くする。出し渋るのなら強引にという気持ちで構えていたのだろう。
それがあっけなく口を割った。聞いてはいけない内容を条件に。
「でもいいのかい? 交換大使、上司にすべて報告する立場だ。超武戦に勝ちたくないのかい?」
「迷惑はかけたくない。でもそれよりも俺には大事なことがある」
「犯罪行為ではない、か。政府も知っていそうだ」
きっと彼なりの照らし合わせた推測でそこまでわかるのだろう。優秀だな、と覚えておく。
「いいよ。僕も深入りはしないつもりだった。それより今は超武戦だ。もちろん、言ったことは嘘偽りないように」
「わかった」
俺は現状の超能力について説明した。裏切りのこと、他の刀は今の所使い物にならない事。まだ力をすべて把握はしていない事。
彼はそれをメモするわけでもなく、真剣な表情で相づちを打ちながら、時折質問をはさんでくる。
話が終わったのは、休み時間が終わったころだった。
「ありがとう。意味のある休み時間になった」
情報を聞いた彼は爽やかな笑顔だった。きっと出世に響いてくるからだろう。成り上がり頑張って下さいね、と嫌味を言ってやろうか。
と思っていたのだが、
「じゃあ、こっちの情報も渡そう」
……、へ?
「大丈夫、もともとただで手に入れようとは思っていなかった情報なんだ。それに、君に親近感が湧いた」
メモを渡してくる。これって、いいのか?
「最後に、聞いておきたいことがあるのだけど」
「いったい、なんだよ? これ以上言えることはないぞ」
「違う。方後、俺達の学校に転校してこないか?」
「は?」
「色々調べてみたが、この学校は超能力に頼りすぎている。精神的に弱すぎるんだよ。こっちで俺達となら、今以上の強さを手に入れられるぞ」
武衛大か、いいじゃん! 男子が多いからきっと疎外感も感じないだろうし。訓練を受けることになってもお釣りがくるくらいだ。
でもさ、
「それが?」
伝えた言葉にリクは若干イラっとしたようだった。
「大問題だってことが分からないのかい? これじゃあ、国の大事な部分を任せるわけにはいかない」
「俺には関係ないな。もともと強くなりたいから入ったわけじゃないんだ」
俺は空き教室から出る。後ろから追いかけるように言葉をぶつけられた。
「いいか? 上はそんなに甘くない。転校していればよかったと後悔することになるぐらい徹底的に潰しに来るよ! 覚悟しておいた方がいい‼」
おいおい、俺を誰だと思っているんだよ?
伊達に、国に交換条件を提示されている訳じゃないのだがな。




