32話:逃亡
片足を引きづりながら、走る。
あの怪物からーー逃げる。
堕とされる。
だから私は、
掴まれた右足をナイフで切り落とした。
鈍い音。
遅れて、血が溢れる。
呼吸が荒い。
......世界崩壊は止まった。
黄泉喰がまさか”あれ”と同一のものだったなんて.....。
世界の命運は”あれ”次第。
計画は、
終わった。
私にはもう、
選ぶ権利すら残されていない。
「......どうして。」
悔しい。
震える手で、
胸のポケットから一枚の写真を取り出す。
そこにいるのは、
私がかつて愛した人。
ーーもういない人。
黒い目をした”あれ”に、
殺された人。
彼のいない世界など、
受け入れられるはずがなかった。
だから私は、
世界の終わらせ方を探した。
ある時、古典的であるが、
現世を喰らう”黄泉喰”という存在がこの世界に存在していることを知った。
しかも黄泉喰は今、子供の身体の中に封印されているという。
封印を解く方法は子供が血を流すこと。
つまり傷を負うことだ。
致命傷を負い、黄泉喰が出現したところまでは良かった。
......しかし、途中から様子がおかしくなった。
”あれ”が現れた。
背筋が凍った。
世界が滅ぶ前に、
私が死ぬ。
本能からくる危機感。
その場から逃げることだけしか考えられなかった。
....
静寂。
崩壊の止まった世界で、
私は立ち止まる。
「……そうか」
掠れた声が漏れる。
「まだ、終われないのか」
写真を握りしめる。
「……あなたのいない世界が」
小さく息を吐く。
「まだ続いている」




