29話:秩序崩壊
「......熱海君?」
目を開いた瞬間、
世界が赤かった。
目の前に、
血が広がっていた。
「熱海君!?」
理解が追いつかない。
腹部から血が溢れている。
違う。
こんなの、違う。
さっきまで、
笑っていたのに。
「熱海君!」
「起きて!熱海君!」
血が止まらない。
やばい。
手が震えている。
「誰か!」
「誰か....!」
目の前にはフェスタ上官。
一体どういうこと?
でも、
「フェスタ上官!助けてください!」
フェスタは動かない。
助けようともしない。
ただ、
結果を確認する研究者のように、
こちらを見ていた。
「上官?」
「どうして......」
あれ?
呼吸が苦しい。
視界が黒い靄で覆われていく。
あ、だめ、意識が。
熱海の上に倒れ込む。
靄が広がる。
校舎が歪む。
遠くでガラスが割れる音。
誰かの悲鳴。
世界が、
静かに壊れていく。
....
靄の中だからはっきりしないが、
黒い靄が街全体へと広がっていってるのが見える。
侵食は順調に広がっている。
......。
「はあ……話し相手もいなくなったことだし、独白の時間だ。」
「美久君が転校してきた日。
君は殺されかけ、告白し、
そして彼女は停止した。」
「その後、私は彼女を回収し、改造させた。
感情が高まれば武装し周囲を破壊する兵器としてね。」
「だが失敗だ。何度暴走しても、君には届かない。」
「だから人格を更新し、自滅機能を追加させた。」
「人間らしくなれば、君は必ず彼女を好きになる。」
「彼女を守りたいと思った瞬間――作戦は完成だ。」
「自滅を止めようと近づいた君が撃たれ、
血を流し、
黄泉喰が目覚める。」
「すべて計画通りだ。」
倒れた美久を見つめ言う。
「美久君、は最初から、
世界を壊すための鍵だったんだ。」
靄は濃くなる。
防護マスクをしているとはいえ限界は近いだろう。
「そろそろ私もあちらの世界へ行こうではないか。」
フッとフェスタは防護マスクを外そうとする。
その時だった。
靄の向こうから、
足音が響く。
秩序を戻す声。
「......遅くなったわね」
そこに立っていたのは、
防護マスクを纏った女。
横山京子。
熱海の姉。
「は、来ると思ったよ」
フェスタは何かを察した。
京子はフェスタの言葉には応じず無言で黒いチョークを取り出す。
倒れている熱海の周りにチョークで陣を引く。
そして。
「土御門の名において境界を定む。」
「黄泉の悪しき霊脈よ、彼の身体に戻りなさい」
ガタガタガタッ
激しい轟音。
陣がひび割れる。
「......どういうこと!?」
「くっ!」
「......間に合っていない!」
ゲホッ
口から血が出る。
諦めてはだめ......!
再び、
「土御門の名において境界を定む。」
「黄泉喰よ、彼の身体に戻りなさい!」
バチンッ
「痛っ!」
陣に弾かれる。
このままでは本当に...。
もうこれを使うしか。
陣を描いた手から血が滴る。
「我が犠牲を持って命じる。
黄泉喰よ、彼の身体に戻りなさい!」
黒い靄が少し薄れる。
これは封印じゃない。
侵食を遅らせているだけだ。
あとはなんとか、弟が目を覚ましてくれれば。
......体力が限界だ。
倒れゆくなか、
フェスタは淀んだ顔で笑っているのが見える。
勝利を確信したかのように。
フェスタを睨みつける。
「これはーー
あなた程度が触れていい領域ではない......」




