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26話:代役のジュリエット

舞台直前。

控室。


美久はジュリエット役のドレスを身に纏い、

こちらに歩み寄る。


まるで物語の舞台から出てきたかのように。

......綺麗だ。


頬が熱い。

思わず下を向く。


「ねえ、熱海君。」

「私の手、震えてない?」

触れたら、冷たく、震えているのが分かる。


「緊張しているのか....?」


美久は小さく頷く。


「......大丈夫、代役だから。」

無理をして言ってるのがすぐ分かる。


......いつも自分の保身に走っていた。


だけど今は......。


....

舞台が始まる。


最初の演技。

ーー「ロミオ、ロミオなのね。あんまりだわ、そんなところに隠れて。立ち聞きしていたのね。」

少し硬い。


やはり急造だ。

未綺の方が上手かった。


中盤。


ーー「ロミオ......」

美久のセリフが途切れる。

......セリフを忘れたのか?


沈黙。


観客ざわつく。


......まずい。


美久は小さく息を吸う。

そして。

ーー「……あなたに会えたから。」


一瞬。視線が客席ではなく、

真っ直ぐ俺に向く。


ーー「もう、怖くない。」


台本にない。

でも。

その目は、

ジュリエットじゃない。


舞台に立つのが怖かったはずの、

ただの美久の目だった。


目が離せない。


……なんで。

なんで俺を見る。


分かってしまいそうで、

目を逸らせなかった。


胸の奥が、

強く掴まれる。


心臓の音だけが、やけにうるさい。


「君......」

一瞬セリフを忘れる。


口が勝手に動いた。

「君を失うくらいなら、名前なんていらない。」

半分アドリブ。

もう半分は......。

いや、今は演技に集中しないと。


終盤。


毒を飲み、倒れる俺。

それを美久が抱き寄せる。


美久の手が震えている。


......演技なのに。

本当に、

本当に失いたくないものを見る目だった。


幕が降りる。


拍手。


普通なら離れる。

でも。

美久が手を離さない。


離したくないのは、

演技のせいじゃないと分かってしまった。


一瞬。

ほんの一瞬。

遅れる。


その時間が、

やけに長く感じた。


「……ちゃんとできてた?」

小声で言う。


「......!」

心臓の鼓動が早い。

……あの目の意味を考えたくなくて、俺は逃げた。


....

その頃。

誰もいない教室。


「何やってんだろ。」

逃げてしまった。

いつも大口叩いて、肝心な時に失敗するのが嫌で逃げてしまう。


「みんなに迷惑かけといて」

「ほんっとあたしって悪い奴。」


ガラッ。

ドアが開く音。


「何やってるんですか!」

あたしを怒る声。

声の主を見る。

翼だ。


「あなたっておせっかいよね」


「....はい、おせっかいってよく言われます。」

図星なのか一瞬黙った後、肯定する翼。


「一緒に戻りましょう。」

「みんなあなたがいなくなって心配しているんですよ」


「でも、もう手遅れでしょ?」


「そんなこといいから、戻るんです」


翼は未綺の腕を強引に引っ張る。

「やめて!離して!」


「やめません!」


おせっかいなクラスメイトは未綺を連れ戻すのを諦めようとしなかった。

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