21話:カラオケと忘却
戻ると——
美久が倒れていた。
「!?」
駆け寄る。肩をゆする。
「おい!大丈夫か?」
反応がない。
一体、この個室で何があったんだ......!?
もう一度、強く揺する。
カチッ。
何か小さなボタンを押してしまった音がした。
——再起動します。
無機質な機械音声が、狭い個室に響き渡る。
「やべ....」
誤って押したのは、再起動ボタンらしい。
ぐい、と不自然な動きで美久の上体が起き上がる。
「おはよう。熱海君。」
ぞくりとした。
「あれ?ここはどこ?」
周囲を見回す。
カラオケに来たこと自体忘れているのか....?
「美久、どこまで覚えている?」
「んー、......熱海君にカラオケ行こうってメールしたところまで?」
本気で分からない顔をしている。
「ところで」
視線が鋭くなる。
「熱海君の隣にいる女は誰?」
未綺を睨む。
……だいぶ飛んでいる。
前再起動した時はこんなに記憶が消えることはなかった。
再起動を頻繁に繰り返すのは危ないのか....?
嫌な汗が背中を伝う。
......美久が心配だ。
「未綺だよ?忘れちゃったの?いくらあたしのことが嫌いだからって酷いなあ」
未綺は美久の身に起こったことがよくわかっていないようだ。
「まだまだ時間あるし、せっかくカラオケに来たんだからたくさん歌お?」
空気を変えるように言う。
「......そうだな」
俺は美久を見る。
「今カラオケにいるんだ。せっかくだから歌ってくれないか?」
「うん。」
「熱海君が言うなら」
多少混乱しながら、美久は歌うことに同意した。
イントロが流れるー
さっきとは別の曲。
しかし、また演歌。
歌詞が流れるー
「ーあなたのいない特急列車♪」
....なんで演歌ばかりなんだ?
だが圧倒的に上手い。
美久が歌っている様子を見て
「演歌なんてダサいんですけど」
ボソッと未綺は呟く。
ビクッとする。
やめろ。
今はまずい。
お願いだから、爆弾発言やめてくれ。
美久に聞かれていないだろうな。
ゆっくりと美久を見る。
歌うのに夢中で気づいていないようだ。
ほっと胸を撫で下ろす。
この二人が同じ空間にいるだけで、何かが起きそうで不安で仕方がない。
できるだけ接触させないようにしなければ。
そう、強く思った。
....
少し離れた場所から、3人の行く末を見守るものが一人。
翼だ。
「カラオケですか。高校生活満喫していていいですね」
「なんで僕は、横山熱海の行動偵察、美久さんの暴走後の後始末、こんな面倒なことをやらされているのでしょうか」
彼女は自分の仕事に不満があるようだ。
「あとは上官。最近、僕に冷たい気がします。」
「はあ。」とため息をつき、
....少しくらいなら高校生活満喫してもいいのかな。
足が勝手にカラオケ店へ向く。
入店。
個室へと案内される。
「10番。この部屋ですね」
部屋に入る前にふと隣の部屋を見る。
扉の小窓越しに3人の姿。
真ん中に挟まれる横山熱海。
両側で何かを言い合い火花を散らす美久と未綺。
「....あー、もう今日は関わりたくないです」
小さく呟き、部屋に入った。
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