13話:メイ博士と汚部屋
日本の軍事基地。
翼は、ある人物に会うため久々に帰還した。
上官は不在。
ちらりと上官の机をみる。
机の上には写真立てと指輪だけが整然と置かれている。
——任務中でも、この机だけは乱れない。
あの人と違って、綺麗好きで尊敬できる。
そう思いながら、翼は例の人物を待った。
数十分後。
「元気してるう?」
呑気な声。
あの人がやってきた。
久々に会った。
青い短いツインテール。
白衣姿の小柄な少女。
一見すれば小学生にも見える。
だが、日本軍最高の技術顧問。
——メイ博士だ。
「メイ博士、お久しぶりです。P289(美久)の点検をお願いできないでしょうか?」
「詳細を聞く必要がありそうだねえー、私の部屋で話そう?」
何かを察したように、翼は嫌がる表情をする。
「いえ、この場でも大丈夫だと思うのですが」
「P289(美久)ちゃんを点検したい経緯なんかに、
私たち以外に聞かれてはいけない内容とかあったら困るしい、
私の部屋で話すのが一番だよおー」
そう言って、メイは嫌がる翼を引っ張り、自分の部屋へと案内する。
メイの部屋は
検診台が中央に置かれており、周りは点検、修理道具で散らかっている。
果ては床にはおそらくメイが食べたであろう弁当のゴミが散乱し、
弁当の醤油の匂いが部屋全体に漂う。
足元で何かがぬるっと滑る。
コードが絡まっていて足の踏み場がない。
汚部屋だ。
「うえ...どうしてこんなに汚いんですか」
前にこの部屋をチラ見したことがあり、
メイ博士の部屋っておぞましそうだなと思っていたが
こんなにもおぞましいとは……。
よくこんなところでロボットの点検や修理ができるものだ。
……というか僕も普段この部屋で点検されているのか。
と思うと、胸部の冷却装置が一瞬、誤作動を起こした。
——吐き気、という感覚に近い。
「うん?汚いって何が?」
メイは不思議そうに言う。
「この部屋のものはみんな私の宝物だよお」
「この空の弁当箱もですか!?」
「うん。私が触れたものはみんなお友達だから捨てることなんてできないよお」
捨てる、という発想そのものが理解できないという顔だった。
話が通じる相手じゃない。
「……そうですか。」
呆れた。本題に戻ってもらおう。
「で、何か気になっていることでもあるのおー?」
「この前なんですが、美久さん暴走したんですよ。」
「んー、美久ちゃんには安全装置がついてるはずだから、暴走したとしても強制停止するはずだよー」
「いや、暴走の回数が問題なんですよ。聞いたかぎりだとかなりの回数暴走しているようで。」
「修理屋で色々点検してもらったはずなのにおかしいなあと思いまして」
「あー、ダージュね。あいつの能力じゃ完璧に点検、修理はできないでしょお」
メイは例の修理屋のことを見下しているようだった。
「その点、私は天才だからちゃんと完璧に修理、点検できるしい、
今は結構手が空いているから、いつでも点検OKよおー」
メイは私なら余裕ともとれる声で言う。
「本当ですか!?」
ラッキー!
「それにしてもなんで上官を通さず私に言ったのお?」
「現在、上官はどこかに派遣されているらしいんですよ。上官と連絡がとれない場合は自主的な行動を許可すると軍の規律にありましたので。それに従った限りです。」
...意外と軍の規律は緩い。
……
ある日、休日。
早朝。
ピロン。
スマホの着信音。
何度目だろうか。早朝の着信は嫌な予感しかないんだが。
「熱海君♡勉強したいって言っていたよね、今日図書館で一緒にテスト勉強しよ♡」
この間勉強するって肯定してしまったからだ。
拒否できない。
「わかった。」
重い指を動かし返信した。
……
図書館内。
「あ!熱海君♡」
「待ちわびていたよ♡」
美久は静かな声で俺に向かってこっちだよと手を振る。
「さあテスト勉強しよ♡」
美久の目の前の机には参考書がぎっしり積まれている。
見ただけでやる気が失せてくるんだが。
「ああ、勉強しようか。」
本心言ったらまた暴れそうなので。素直に従う。
……数分後。
さっぱりわからん。
俺は頭を抱える。
それを察したのか、
「ここはね、xを乗算すればいいんだよ」
美久はアシストする。
「そっか。ありがとう。」
形式的に感謝はするが、
じゃあなぜxを乗算しないといけないのかがわからない。
これを数時間続けないといけないのか。
間違えるたびに、美久の指が机を叩く。
コン、コン、コン。
無意識の圧。
地獄だ。
俺は考えるのをやめた。
……数時間後。
「お...終わった...」
熱海は疲れ果てていた。
「これでテストは100点満点だね」
美久は満足そうだ。
無理やり頭に詰め込まれたんだから100点なんて取れるわけないだろ。
本心ではそう思うが、
「うん、テストではなるべく頑張るよ。今日は勉強教えてくれてありがとう。」
この返答が最適解だ。
「こちらこそ。熱海君に勉強教えることできて幸せだったよ。」
美久は笑っていた。
だが、その笑みの奥に何があるのか、俺にはわからなかった。
こうして図書館での勉強会は終わった。
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