表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/14

静寂な間

資料室の中、俺と芝目はもくもくと作業を進めていた。


島村のおかげで、先生から資料整理の仕事を頼まれることになった。偶然を装って教室に居合わさった芝目にも声をかけ、二人でこの作業をすることになったのだ。


ここまではよかった。だがーー


二人の間に横たわる壁はずっと張られて、一向に崩れる気配を感じなかった。


手がけているリストに沿って、テーブルの上にある段ボールの中からファイルを棚に収めた。単純作業だけど、量だけは多かった。


けれど2人がかりなら、1時間ぐらいで片付く。


「…えっと、じゃ…この資料は…?」


「……あそこ…」


指だけ指して、芝目さんは顔を上げなかった。妙に警戒心があるのを体感でわかる。


俺たちの会話は、そんなそっけないやりとりばかりだった。その空気が、何よりも苦しかった。


話題を何度も振ってみたものの、「…そ、そう…ですね…」か「は、はい…」か「……い、いえ…」の3パターンしか返事が返ってこず会話は一切成立しなかった。


時計の針の音が部屋にやけに響く。その音は俺に切り刻んでいるようにすら感じた。


「あ、あのさ…!その…先生も大変だよな!この量の書類は一人では絶対苦労するよね!」


少し笑って見せた。


それでも…


「そ、そう…ですね……」


話題性が悪かったかもしれない。でももう話せることは他に思い浮かばなかった。


むなしくて唇を噛んだ。


手だけ動かし今の言葉にうなずくぐらいしかできなかった…


外から聞こえるカラスの鳴き声が、妙に耳についた。


「……カラス…うるさいなぁ…」


「……は、はい…」


やはり…ダメだったか…


小さくため息をついてしまった。無意識に漏れたその息を笑顔でごまかそうとしたが、今の気分を隠し切れなかったか言葉がぽつりと零れた。


「……ごめん、俺もうるさかったな…」


咄嗟に出た言葉にハッと息をのんだ。けれど、すでに出た言葉を取り消せなかった。


恐る恐る芝目の方へと目を向けるが、芝目は変わらず資料を棚に収めているだけだった。


今度は、返事すらなかった。


せっかく島村が俺たちにきっかけを作ってくれたのに、俺は芝目さんに何も伝えることができなかった。


守りたいと思ってるからなんなんだ…言葉で触れ合うことすらできない俺は、ただ妄想に浸っているバカと同じだ。


そう思って、作業が終わるまで静かに、手を休まずに没頭した。


「……終わったな…」


「は、はい…」


円の軌道を描いて出発点に戻った気分だ。自分に対する嫌悪感が増すのを感じながら息を吸い込んで、芝目に最後に言った。


「…っ…お疲れさまでした。一緒に手伝ってくれて、ありがとう、芝目さん。」


作り笑顔で彼女にそう伝える。


頼む…どうかせめて何か返してくれ…!


「は…はい…」



俺は頷いて踵を返す。帰ろう。俺は…やっぱりダメかもしれなかった。


ーーふと、そう思ったときに小さな声が俺の背中にぶつかった。


「あ、あり…がとう…ございました。」


耳を疑って振り返ってみた。


芝目さんはお辞儀して、肩にかけたカバンを整えながら足早にその場を去っていく。


顔は俯いたままだった。


けど、ほんの少しだけ芝目の声を聞けた気がした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ