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霧に立ち向かう

昨日の雨が嘘のように朝の空は澄んでいた。

窓から注ぎ込む日差しは柔らかく教室を照らしていた。


先生の授業の内容をノートに書き込みつつ、今日のやるべきことを頭の中で整理していた。


島村に連絡してみて、どこかで昨日の”あれ”を話し合う。

そして、先週話したED治療についても。


……いや、やっぱりキスのことは…あんまり深掘りしないほうがいいかもな…


黒板を消す音が教室にわたるとともに、筆記用具を片付ける音があっちこっちから耳に届く。それが止まる途端、先生がクラスの皆に振り向いた。


「えー、ちなみにゴールデンウイークが近いから、来週小テストやります。範囲はプリントにあるから、しっかり勉強してくるように。」


クラスメイトの嘆き声が教室を響かせていた。


先生の言葉には軽い絶望感を漂わせている。茂も頭を抱えて涙目になりながらこっちを向く。チャイムがなると、すぐさま俺にしがみついてきた。


「あっきー!助けて!勉強教えてー!」


「ちょ、抱きつくな!」


中間でも期末でもないのに、そんなに慌てたら今年は苦労しそうだな。

茂の顔を遠ざけるように押しやりながら、目が気づかず芝目の方を見る。

顔は腕に埋めたまま、微動だにしなかった。


芝目の成績は、誰も感づいていたはず。

点数は明かされることはなかったが、結果が渡されるたびに肩は落ちていた。

先生が無言のままに試験紙を芝目に渡す表情も、朗報の影もなかった。


今回も、そうなるかもしれない…


俺を芝目から引き戻すように茂のわめき声がまた耳に詰まる。


「今日じゃなくてもいいからさ、週末でも助けてー!」


「わ、わかったから、放せって!」


ふと、芝目が顔をこっちにちらつかせたように感じた。だが、確認すると顔は腕に埋まったまま。


前、彼女からの挨拶切り、俺は話かけに行けていないことに気づく。


確かに進展はあったけど、結局それ以上はまだ進めていない…


喉元まで彼女に掛ける言葉が上がるのを感じる…が、それと同時に島村の言葉が重なって頭に浮かぶ。


(ーー治す気は、まだあるのよね?)


……まずは先のことを片付けないといけない。島村とは、もやもやしたままではあとのことの雲行きが怪しく感じる。


茂が絡めてきた腕から逃れ、ようやく喉に唾が通る。

芝目に話しかけることを飲み込んで、放課後のやるべきことに決意するように手が拳になっていく。


なぜか…すごく緊張する…


***


小テストの知らせを受けた芝目は、胸にざわつきを感じた。


授業の内容は、何も覚えていなかった。


中学時代の彼女なら教科書を見れば何とかなるだろう…だが今は違う。


息を深く吸って、それでも緊張がほぐれず顔を腕に埋めてしまう。


落ち着いて…!小テストだからそんなに心配することは…!


そう言い聞かせると、試験結果を受け取るときの周りの沈黙が頭に浮かぶ。

赤字で十何点しか取れていない紙の重さが手に伝わる。


先生の何とも言えなさそうな表情も、彼女の胸を鋭く刺さっていた。


その映像に、彼女は唇を噛み締めた。


……どうすれば…


「あっきー!勉強おしえてー!」


大袈裟に騒ぐ声に芝目はふと顔をあげる。教室の後ろ側に、坂田が男子に抱き着かれているところだった。


勉強を…教える…


……教えてもらう…


気がつけば、目が坂田の顔に定まっていた。

この間の手伝いで、彼女は一歩進めた気がした。


ならば、このテストも、彼なら助けてくれるのかな…


足が揺れるのを感じる。今でも話しかければーー


その考えが頭をよぎる瞬間、鼓動が早まった。

足元が、スッと冷えてしまう。

そして抱き着いている男子の顔に、芝目は顔をしかめる。


……ダメ…迷惑かけちゃうだけ…

あの人は、友達がいる…こんなことに私なんかのために時間を割いてもらうなんて…


飲み込んで、再び顔を腕に埋める。


腕の中の暗闇に身を潜めて、次第に鼓動は何段か和らぐ。

しかし、来週に向ける緊張はまだ残ったまま。


…坂田のおかげで、少しぐらいは人と話せるようになった気がしていた…

だから……もしかしたら勉強も…できるようになったかも…


拳を握りしめる芝目は、小さく希望を胸に抱かせてどうにか息を吸い込んでいた。

今夜、本気を出してみて、結果を確認することの決心を刻み込むように。

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