3人の朝
登校する学生に紛れて学校の門を通る。
県立朝代高等学校の文字は大きく縦に並ぶ。
涼しい風を顔で感じながら歩くと、走って来る足音が耳をくすぐる。
後ろへ振り向く間もなく、後ろからドンと誰かがぶつかってきた。
「やっほぉ~!あっきー、全然回り見てないんだねぇ!何度手振ってたと思うの!」
茂が笑いながら、まるで猿みたいに背中に飛びついてきた。
「お、おい!やめろって!人前だから!」
「だって無視しちゃうもん!お仕置きだよ~!」
と言った茂はとうとう背中に乗っておんぶさせられた。
「…ッグ!わかったから降りろ!謝るから!」
重いし、勘弁してくれ…昔から手の焼くやつだ、まったく。
ふと昔の家を思い出すと少しだけ心がくすぐったく感じる。
しばらく茂の体重に耐えたら、茂もおとなしく降りてくれた。それは飽きたからではなく、校舎の方から三門がやってきたのを見たからだろう。
「朝から騒がしいな、お前ら。」
「茂に言ってくれ…」
「僕だけ悪いみたいじゃん?!」
三門は笑って改めて挨拶をした。
「おはよー。春休み、なんかしたか?」
「いや、とくには。」
俺はずばりと答えた。すると、茂はむっと頬を膨らんだ。
「茉奈姉が会いたがってたから、家に来てくれたらいいのに…」
茉奈姉…坂田家に移ってから確かにあまり行っていなかったな。
俺は孤児だった。本当の両親を亡くした後はしばらく相川家で茂と茉奈姉と住んでいたが、事故がまた起きては今度坂田家に移った。
事故、事件、別れ……俺のいる場所はいつも壊れる。まるで呪いの子だと思ったこともある。
「……そうか…悪かったな…」
「まあ、茉奈姉も忙しいからあまり会えないのも事実だけどね。今度はアポ取ってちゃんと来いよ!」
茂はふんっとそっぽ向いて言う。気のせいだろうけど、俺が後ろめたくなったのを察知して茶化したように感じた。
「アポって、医者に診てもらうわけじゃないだろう?…まあ、お前んとこの姉ちゃんは医者だけど。」
三門は小さく笑って、茂をつつくように言った。うまいと言わんばかりに三人で笑った。
茉奈姉は街の病院の医者だったから、それに掛けていた。
変な奴らだ、こんなバカなジョークにも笑ってさ。でも、これはこれで心地よかった。
俺たち三人で積もった春の話を交わしながら校舎に入った。