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第4話:生者は、私を赦さない

 リリアは、村の境界に足を踏み入れたとたん、空気が変わったのを感じた。


 花の枯れた匂い。血の混じった土の湿り。かすかに漂う死の気配。それは、病で死んだ者たちの痕跡だった。


 この村では、数日前から原因不明の疫病が広がっていた。既に十数名が死亡し、他村との往来も絶たれ、誰も助けに来ない。


 だからこそ、リリアが来た。疫病の正体を暴き、死者の苦しみを終わらせるために。だが、彼女の到来に村人たちは顔を歪めた。


「あれが・・・ネクロマンサーか」「死体使いめ・・・疫病を呼んだのはあいつじゃないのか」「追い出せ、穢れを持ち込むな」


 彼女は何も言わず、ただ俯き、墓地へ向かった。


 リリアは墓を暴く。死者の骨を手に取り、語りかける。


「・・・どうして、こんなことになったのか・・・教えて・・・」


 静かに浮かび上がる霊の影。


 その者は、自分が飲んだ水の中に奇妙な味を感じたこと、村にやって来た旅の神官が何かを井戸に投じていたのを見たことを語った。


 リリアは、それだけを聞いて黙礼すると、儀式を終えて墓を閉じた。


 村人たちが距離をとる中、彼女は淡々と呪を詠み、井戸を清める。


 誰も彼女に礼は言わない。


 だが、その日の夜、死者たちが集まってきて、彼女に向かって膝をついた。


「聖女さま、ありがとうございます」「私の声を聞いていただけたこと、本当に嬉しいです」「村を救っていただき、感謝いたします」


 それは、生者たちは、決してかけてはくれない言葉だった。


 リリアは、そのようにして、死者たちから向けられる多くの感謝に対して、小さく頷いた。ただ、その瞳には何の感情も浮かんでいなかった。


 彼女は、生者の言葉ではなく、死者の想いを聞いて行く者。


 彼女は、誰にも赦されぬまま、今日も戦っている。

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