第32話:そして、四人の旅が始まる
呪いの核を浄化したあと、森はまるで長い眠りから目覚めるように、静かに生気を取り戻していった。
霧が晴れ、歪んでいた空間は整い、木々の葉はわずかに色を取り戻す。生者の歩くべき地としての“現実”が、再びこの地に戻ってきたのだ。
森を抜けた先、小高い丘の上で四人は休息をとっていた。朝陽が差し込む草原の中、アリシアは目を細める。
「こんなに空が広いって、忘れてた・・・」
彼女の隣で、重騎士の死霊は、その姿を影に隠しながら、静かに佇んでいた。守護の意志だけを残してそこにあるその姿に、リリアもまたそっと頭を垂れる。
「あなたがいてくれたから、私も、そしてアリシアも前を向けた。ありがとう」
騎士の霊は、微かに頷いたように見えた。
そして、アルセリウスが木陰に向かいつつ、立ち上がる。紅い瞳が、次なる道を見据えている。
「この森は終わった。けれど、この世界の深淵はまだ続いている」
リリアは静かに頷いた。
「だからこそ、私たちは歩き続ける。命と記憶と、死者の声を繋ぐために」
アリシアもまた、小さく拳を握って答える。
「私も、誰かの“光”になりたい。あなたみたいに」
リリアは笑った。
そして、四人は背を向ける。朝陽の逆光の中、それぞれの影が長く、ひとつの道に重なっていく。
新たな旅が、静かに始まっていた。