第21話:約束の場所で
朝の光が霧の合間を照らし、街に長らく訪れなかった“色”が戻りつつあった。ギルドの掲示板には、数日ぶりに明るい雰囲気が漂い、人々が小さな笑顔を交わしている。
リリアとアリシアは、最後の確認のため、霊場跡となった地下礼拝堂へ向かっていた。あの夜以来、霧の結界は崩れ、子どもたちの魂の残響も消えていた。
だが、ただの“終わり”ではなかった。アリシアの中に眠っていた“声”が、あの夜以降も微かに残っていたのだ。
「まだ、何かがこの街に残っている・・・そんな気がしてならないの」
その言葉に、リリアは黙って頷いた。
そしてふたりは礼拝堂に辿り着く。天井の崩れた堂内には、ほのかな朝日が差し込み、灰色の床を金色に染めていた。
その中央に、ひとつの光の輪が浮かび上がっていた。魔法陣とも違う。儀式の痕跡とも違う。それは“願い”だった。
「・・・これは・・・」
アリシアの手が輪に触れると、周囲の空気が柔らかく震えた。
幻が現れる。
かつて失踪した子どもたちが、ここで銀の騎士とともに笑っている光景。今度は、哀しみではなく、安らかな回想として現れていた。そして、その輪のなかに、ひとつの小さな声が響いた。
「ありがとう・・・おねえちゃんたち。ぼく、もう、さびしくないよ」
アリシアは思わず泣き笑いになりながら、うなずいた。
「・・・うん。じゃあ、約束ね。もう、どこにも置いてかないって」
輪がやさしく消え、堂内には静寂だけが残った。リリアがアリシアに手を差し出す。
「行こう。次の街へ」
アリシアは、その手を取った。
「うん。もう・・・怖くないよ」
ふたりが去っていったあと。廃墟の梁の上、黒いマントがひるがえり、赤い瞳がやさしく瞬いた。
(見事であった)
そう呟いたように、アルセリウスの気配は、静かに霧の中へと消えていった。