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5月

登場人物

 満月 雅:才色兼備の優等生。

     全校生徒の憧れの的。

     感情をあまり外には出さない。

 陽光 欠:不思議な雰囲気のある雅の親友。

     かわいい。

 星空 数多:満月 雅の親友。

      雅とは違い勉強が苦手。

      でも、性格がいい。

 闇空 覆:少し不真面目な雰囲気のある少女。

     二年生になってから雅の友達になった。

 鳶葦 伝:新聞部の少女。

     雅の番記者を自称する。


注意

- この物語はフィクションです。

実在の人物、団体、建物とは一切関係ありません。

- 学力と生活態度には相関関係はありません。

- この物語には百合的要素があります。苦手な方はご遠慮ください。

また、ユリ小説ではありません。そのため、親友より上の関係に発展することはありません。ご了承ください。

- この作品を生成AIの学習等に使用するのはご遠慮ください。

風薫る朝早い学校。

緑色の葉っぱに覆われた桜の下を通り雅は校門をくぐった。

ついこの間までの静かな朝とは違い、校内は市総体に向けた運動部の朝練により騒がしかった。校門から教室に向かうまでの間にも運動部員と思わしき人々とすれ違う。

とは言え、賑やかなのは運動場や体育館のみで、教室には電気がついておらず、静かであった。

雅が教室の扉を開けると何時ものように欠が薄暗い教室の中で本を読んでいた。

欠と朝の挨拶を交わすと、雅は教室の電気をつけて自分の席へと着いた。

何時ものようにカバンの中から数学ⅡBの青色の参考書を取り出し、自習を始める。

一人の教室。でも、今日は運動場から集団走の号令が聞こえ、体育館からボールの跳ねる重音が聞こえた。

そのためか、不思議と数学の問題は進んでいた。二問目を解き終えて顔を上げると星空が向かい合うようにして座っていた。

「星空。もう来ていたのね」

雅はそう言って筆箱と参考書を自分の側に寄せる。

「さっき来たとこ。

 雅がいつもになく集中していたから声かけるのは悪いと思って」

星空はそう笑ってカバンから雅と一緒に買いに行った数学の問題集を出した。


雅は三問目が終わると参考書から目を離し星空の方を見た。

星空は問題集から目を離し背もたれにもたれかかっていた。視線は天井を漂っている。

諦めたのか、集中力が切れたのか……。

星空は視界の端で雅が見ているのに気が付いて、取り繕うように慌てて問題集に向かった。が、もう遅い。

雅には、星空が全然進んでいないことが察せられた。『手を差し伸べなければ』と思い声を掛けた。

「星空。

 私は今日の分終わったから、わからないところがあったら教えるわよ」

雅の言葉に星空は「ありがとう」と言って顔を上げた。

そして、問題集のずっと躓いていた問題を指さそうとした。

その問題は昨日雅に教えてもらった問題の次の問題である。星空は昨日の昼休から問題集を一切進められていないのだった。

そのことがばれるのが嫌で「もう少し考えたらわかりそうだから、大丈夫」と言って問題集へと向かった。

「それなら良かった。

 ところで、どれくらい進んだのかしら?」

雅はそう返して、星空のノートを覗き込もうとした。

星空のノートも昨日から時間が止まっていた。そのため、星空は身体でノートを隠すように机に突っ伏した。

「星空……」

「……」

星空は黙ったまま上目使いで雅のことを見ていた。

雅は星空を見返す。雅の目には、星空は怯えているように見える。

「分かっているわよ。

 昨日から全然進んでないのでしょ」

雅は星空の肩をもって机から引きはがそうとした。

星空は机にしがみついたまま、「ごめんなさい」と謝った。

「謝らなくていいのよ。

 昨日家に帰ってから手を付けていないの?」

「家に帰ってやったけど、考えてもわからなかった」

「それなら、大丈夫よ。

 今やっているところはこの問題集の中では一番難しいところだから、できなくても仕方ないわ。

 星空には諦めずに考える癖をつけて欲しくて黙っていたのだから……。

 昨日の続きから頑張りましょう」

雅は優しい笑顔を作ってそう言った。

星空は雅の様子に安心して体を机から離した。


星空はその後雅に教えてもらいながら何とか(雅の力で)2問ほど問題を解いた。そのころには朝練に参加していた生徒たちが教室に戻り始めていて、教室の中は賑やかになっていた。

「ねぇ、雅。2問も解いたのだから、ここで終わりにしない?」

星空は問題集のページの端に右手を掛けながら提案した。ほとんど雅の力とは言え頑張った方だ。

雅は押し殺しきれずため息をついた。

「星空。もうすぐ中間テストがあるのよ。

 なのにまだまだ理解が甘いでしょ。

 まだ、時間もあるしもう1問頑張りましょう」

雅はそう言いながら問題集の次の問題を指さした。

星空は

「ここ3週間は毎朝雅に付き合って勉強しているから、中間テストなんて大丈夫だよ。

 だから、今日はここまで」

と言った。星空は覚えず口をとんがらせていた。

最近星空は頑張っている。それは雅も認めている。でも、……。

「大丈夫じゃないから言っているのよ」

雅は鋭く忠告した。

「でも、ここ3週間で数学の実力はついて来たでしょ。

 他の教科も学年末テストの前よりかは断然いいはずだし……」

星空は不服そうにそう溢した。雅はそんな星空を一度褒めた。

「星空。

 貴方が頑張っていることも、実力がついてきていることも認めるわ」

星空は「そうでしょ。雅の親友として恥ずかしい真似はできないもの」と得意げに返した。

親友として恥ずかしくない……今までのテストでの失態は何だったのか?

雅はそれに言葉を続けた。真剣な雰囲気を纏って。

「でも、それは10点が20点になるようなことなのよ。

 テストだと30点は取らないと補習でしょ。

 以前の貴方よりもできているわ。

 ただ、以前のあなたと比べてできているだけであって、及第点にさえほど遠いのよ。

 テストまで時間もあまりないのだし、もう少し頑張りましょう」

星空はため息をつきたい気分になる。

いくら星空でも少しは自覚があった。そのことを指摘されてしまったのだ。

「今日の雅なんか厳しいよー」

星空は小言を言いながらまた机に突っ伏した。心の中では『頑張らなければ』と思っていたのだが、自分の気持ちと折り合いが付かない。

雅はそんな星空の肩にそっと手をおいた。

「星空が補習になるとあまり遊べなくなるでしょ。

 そうなると二人っきりの時間も必然的に少なくなるのよ。

 だから、星空には最低限補習を回避して欲しいのよ」

「雅……」

星空は顔を上げて雅の目を見つめた。

雅の目は、当事者のはずの星空よりも真剣であった。凛々しく美しい。

「現実的な話、中間テストまで後2週間しかないのだから、

 ゆっくりしている暇はないわよ」

雅はそう付け加えた。

星空はしばらく考えた後、いやしばらく間をおいて覚悟を決めた後返した。

「……雅の言うことが正しい。……雅の言うことが正しい。

 今回のテストは今日から頑張ってみることにする。

 放課後とかも教室に残って頑張ってみる」

星空はそう言って起き上がった。

雅はそんな星空を応援するように、

「私も完全下校まで一緒に残って勉強するわ。

 わからないところはみっちり教えてあげる」

と言った。

雅の言葉を聞いて、星空は先ほどの自分の言葉を後悔してしまった。が、仕方ないので次の問題へと取り掛かった。


数学Ⅱ、化学、数学B、国語という午前の授業。

いつもの星空であれば小言を言っていたであろう。しかし、今日の星空はそれらの授業達を(比較的)集中してこなした。

雅の机での昼食を終えると、雅と共に早々に問題集を取り出し勉強を始めた。闇空はそんな二人を見ながら窓際の壁に体重をかけて文庫本を開いていた。

雅は数学の問題を解き、問題を解きながらときたま星空の様子をチラッと見た。星空はシャーペンのノック部分を額に跡が着くぐらい押し当てて考え、雅に教えられるたびに断続的に問題が進んでいった。闇空は文庫本越しにそんな二人の様子をチラチラ見ていた。

雅は数学の問題と星空に集中していたため、闇空の視線には気付かなかった。星空は集中し切れていなかったため、闇空の視線をうるさく感じた。

問題が進まないのもありイライラして星空は威嚇するように睨みつけた。

「こっち見ないで問題に集中しろ」

闇空は文庫本に目を通しながらそう言って顎でしゃくった。

星空はそんな闇空の言葉を聞かずに「闇空は何読んでいるの?」と聞いた。星空の集中力は午前中の頑張りで完全に切れていた。

闇空はため息をつくとブックカバーを剥がして本のタイトルを見せた。

「『人物関係でみる安土桃山時代 第九ノ巻 明智光秀 上』?

 闇空にしては難しそうな本を読んでいるのね」

星空は小馬鹿にしたようにそう言った。

「私にしてはってなんだよ」

闇空はツッコむようにそう言い返した。

「そのままの意味よ。

 闇空はあまり難しい本とか読みそうにないし……。

 それにあまり勉強もできないでしょう?」

星空はそう説明を付け加える。闇空は珍しく控えめな口ぶりで反論した。

「うぅむ。

 確かに難しい本は読みそうにないかもしれないが、

 勉強はそれなりにはできる方だぞ」

星空は闇空の反論に冷やかす様に返した。

「闇空にしては勉強が出来るほうなのね」

星空は特に『にしては』と言う部分を強調して言った。

それに対して、闇空は何気ない感じで返した。

「いや、客観的に見ても勉強が出来る方だと思うぞ」

星空は少しむきになって「どれくらい?」と聞いた。

闇空は「虚の次ぐらいかな」と返す。

星空は『虚』という言葉に即座に目を見開いた。

「虚って。あの、新月 虚?」

星空は呆然としながらそう聞いた。

闇空は「ああ」と軽く返した。

星空は固まった。

新月 虚。それは満月 雅と双璧をなすこの学校の天才。

自他ともに認める雅のライバルである。

成績の1位は雅、2位は当然ながら新月 虚である。

それなら闇空は……。

「理系学年3位ってこと?」

星空は食い気味になりながら闇空に聞いた。

闇空は「そうだよ」と返した。

さっきから闇空は一貫して淡々と答えていた。

そのせいか誇張しているようには見えず、本当のことを言っているかのように思えた。

しかし、闇空の普段の素行の悪さからして、(もちろん素行の良さと学力に関係があるわけではないのだが、)学力の高さは信じがたい事実だった。だから、星空は闇空の発言が嘘だと思い込むことが出来た。

「……。

 闇空。嘘は良くないよ」

星空は説教気味にそう言い聞かせた。

闇空は少し困ったように「いや、嘘ではないのだが……」と言い返した。

星空は完全に思い込みの世界に浸っていたため、闇空の言葉は届かない。

星空は闇空を決めつけで冷やかし、闇空は冷静に対応した。

そんなやり取りを何往復かしたのち、数学の問題に区切りがついたのか雅が顔を上げた。

「星空、闇空が勉強できるのは嘘じゃないわよ」

雅が二人のやり取りに決着をつけた。星空も雅の言葉は疑えなかった。

「嘘じゃない……」

星空は確認するように雅を見た。雅は「闇空は新月さんの次に勉強ができるわよ。」と返した。

星空は……固まった。

だらしなく緩んだリボンタイ。何度もおられたスカート。

これが、学年三位の少女の姿……みたいだ……。

固まった星空を置いてきぼりにして、雅が言葉を続けた。

「まぁ、そうは見えないわよね」

雅は闇空を見た。

闇空は「悪かったな」と返した。

「人って何があるかわからないものね。

 昔の闇空はしわ一つないブラウスを着て、スカートの丈はきっちりひざ下まであって、顔つきは少し引き締め過ぎていて、悪い意味でも優等生というオーラが溢れ出していたのに……」

雅はどこか遠くを見るようにそう言った。

闇空は「それだけ私も成長したということだ……」と誇らしげに返した。


星空は密かに仲間だと確信していた闇空に裏切られたことで焦り、集中力を使い果たしていながらも問題集の上を藻掻いていた。雅はある程度自分の今日の目標が終わったこともあり、星空につきっきりで教えていた。闇空はそんな星空の頑張りに納得いかないながらも、二人を邪魔しないように文庫本を開いた。

三人の充実した時間。

昼休が終わりに近づいたころ、そんな時間に割り込むように鳶葦がやって来た。

星空は足音で気づいたのか、問題集から早々に目を離し、「何?」と言って鳶葦を睨みつけた。

いきなり睨みつけられた鳶葦は「星空さん。何か気に障りましたか」と言って首を捻った。

星空は重ためのため息をつく。

そんな星空の代わりに闇空が「間が悪いんだよ」と返した。

「間が悪い……ですか?」

鳶葦は答えを求める様に闇空の方を見た。闇空は目線で机の上を見るように促す。

机の上には星空の側に向いて問題集とノートが広げてあった。そして、星空の向かい側に座る雅の手にはシャーペンが握られていた。鳶葦は納得がいったように「あぁ」と声を漏らす。

「二人っきりでお勉強中でしたか……。

 申し訳ございません。」

鳶葦は『きり』というところを強調して言って、軽く頭を下げた。

そして、「二人っきりの時間を邪魔するのもなんですので、手短にしましょう」と言って雅の方を向いた。

雅は鳶葦の方を見て、闇空の方を見た。闇空は雅の意図を察してため息をついた。

「ここだと星空の邪魔になるから外でお願いできるかしら?」

雅はそう言うと立ち上がった。そして、鳶葦と共に教室の外へと出ていった。

闇空は文庫本を閉じると雅の席に座った。

星空はあからさまに嫌そうな顔をした。

闇空はあからさまに面倒そうな顔を返す。

そして、雅の置いていったシャーペンを持った。


「テスト前のインタビューか何かだと思うのだけど、それで合っているかしら?」

廊下に出ると雅がそう切り出した。

「満月さんの予想通りです。

 中間テストが近づいて来たので、それに向けて学年の成績上位勢に意気込み等をインタビューしておこうというものです」

鳶葦はそう答えながら、教室の扉にもたれかかる。そして、胸ポケットから取材用のメモ帳を取り出した。

雅は「いつものやつね」と言って、扉に張り付くようにして、鳶葦の横に立った。

鳶葦は「話が早くて助かります。」と言ってメモ帳にボールペンを立てた。そして、質問にはいる。

「まずは今回のテストに対する意気込みを教えていただけますでしょうか?」

雅は鳶葦のために少し考えた。が、結局いい回答が見つからず「いつもと変わらないわよ。今回も精一杯頑張るだけよ」と答えた。

内容が薄く話題性のない定型句の様な回答。

雅はあまり期末テストに関心がないのだろう。意気込みなんてものはなく、ただ日々の授業の延長線としてテストを受けるだけ。テスト勉強なんてしない。いや、日々の予習と復習で十分だからする必要がない。だから、カレンダーの上ではテストの日時を把握していても、実際には意識していない。

学生としては一種の理想形だが、取材対象としては毎度扱いに困る。

鳶葦は形式として「もう少し何かありませんか?」と聞いた。

雅はもちろん「ないわよ」と返す。

雅は当たり前だがいつも通りである。これ以上は何も出ないので次の質問に移る。

「分かりました。では、次の質問に移ります。

 新月さんは今回こそはあなたを超えると言っていましたが、それに対してコメントをお願いします」

雅は「いつもと同じように迎え撃つわ」と素っ気なく返した。

言い方に熱がこもっていない。だから、ここから話題を広げるのは難しい。鳶葦は早々に次の質問に移った。

「では、満月さん、自身のファンクラブ会員の皆様に、テストへ向けての応援メッセージのようなものをお願いします」

雅は「からかっているのかしら。そんなものないでしょ?」と軽く流した。鳶葦が質問に困ってありもしないファンクラブをでっち上げたのだと思ったのだ。

「実在しますよ。

 私も入っていますし……」

鳶葦はそう言いながらスカートのポケットから二つ折り財布を取り出した。財布の中から名刺サイズ程の紙切れを取り出すと、雅に見せた。

紙切れには、

『満月 雅を崇める会 会員番号 No.82

 特別広報補助 鳶葦 伝』

と書いてあった。

雅は「そんなものあったのね。知らなかったわ」と返した。初耳であった。

鳶葦はそんな雅に「ちなみに新月さんのファンクラブもあります」と言いながら別の紙切れを財布から取り出した。

紙切れには、

『新月 虚を愛でる会 会員番号 No.132

 特別広報員 鳶葦 伝』

と書いてあった。

雅は「両方入っているのね」と相槌を打った。

鳶葦は

「ええ。ファンクラブにいるとお二人に関するいろいろな情報や噂が聞けるので……。

 他にも黄道先輩や黒白さんや高薙さん、後闇空さんや星空さんのファンクラブ等大体のファンクラブには入っています」

と答えた。

「この学校にそんなにもファンクラブがあるの?しかも、星空のファンクラブまであるのね」

「はい。

 星空さんに近づければ、間接的に満月さんにも近づけると考える人がいますから……。

 それに、星空さんは意外と男子に人気ですから……。」

「わかるような、わからないような」

雅はそう言いながら首を揺らした。

鳶葦は話が発散しているのに気づいて、軌道修正を行った。

「本題からずれてしまいました。ファンクラブへのメッセージをお願いしてもいいですか」

雅は「そうね」と返して、メッセージを考えた。

が、思い付きそうにない。

「ファンクラブへのメッセージって難しいわね。

 何を言えばいいのかしら?」

雅は困ったような顔でそう言った。

「テスト頑張ってみたいなことを満月さんの口から言ってもらえればいいです。

 参考までにですが、新月さんのコメントを読み上げましょう」

鳶葦はそう言って喉の調子を整え始めた。そして、いつもの微妙に新月 虚に似ている声を出した。

「あなた達は私のファンクラブの選ばれし一員なのよ。

 今回のテスト、そのことを胸に刻み込んで挑みなさい。

 私は今回のテストで満月 雅に勝つ。

 そんな私の、ファンクラブの一員として恥ずかしくない結果を残しなさい。

 もしくじけそうになったら次の言葉を唱えなさい。『打倒!満月 雅を崇める会』。

 最後にくれぐれも無理はしないように。以上」

言い終えると鳶葦はいつもの聞き取りやすい口調に戻って「こういうのをお願いします」と言った。

雅にはハードルが高すぎる。雅は少し悩んでから無難なコメントを返した。

その後も、鳶葦のインタビューはしばらく続いた。それらに雅は淡々と答えて言った。

やっと20cm×30cmのインタビュー欄を埋めるだけの情報を引き出せると、

鳶葦は「インタビューは以上になります。ありがとうございました」と言って頭を下げた。

雅は軽く返礼をして教室に入ろうとした。

鳶葦はそんな雅に「すみません。最後に闇空さんを呼んできていただけますか」と言付けをした。雅は少し面倒くさそうに引き受けた。

雅が教室に戻ると、闇空が星空に数学を教えていた。

闇空は「やっと終わったか」と言って文庫本を手に取った。星空は「やった……終わった……」と言って机の上に倒れ掛かった。雅は闇空に鳶葦が呼んでいたと伝えた。闇空は眉間にしわを寄せつつ鳶葦の元へと向かった。

闇空が居なくなると星空は「助かった」と呟いた。

雅は星空に「どうだったかしら?」と聞いた。

星空は「闇空はとってもスパルタだった」と言い残して力尽きた。

雅が星空のノートを覗き込むと、短時間であったにも関わらずかなり進んでいた。


雅と星空は放課後の誰もいない教室で2人っきりの勉強会をした。

始めは雅と星空がそれぞれ自分の勉強をしていた。しかし、星空の進み具合があまり良くなかったため、後半からは雅がつきっきりで星空に勉強を教える形となった。

2人は一般生徒の完全下校時刻まで勉強をしてから教室を後にした。

2人は裏門を抜けると軽く手を振って別れた。

雅は裏門からまっすぐ伸びる裏路地を通って駅へと向かう。改札を抜けいつもの2番ホームに着く。

運動部員の生徒たちは学校で延長練習をしている。そのためこの時間にしては珍しく人があまりいなかった。

まばらな人の中をホームの奥まで歩いていくと、途中で1人の少女と目が合った。

陽光 欠だ。

欠は雅と目が合った一瞬だけ顔が緩んだ。が、すぐに雅から目を逸らした。雅も欠から目を逸らしホームの奥まで進む。そして、電車が来るまでの時間潰しに日本史の参考書を開く。

薄暗いホームに3両編成の電車が来ると雅は1両目に、欠は2両目に乗った。


雅は1両目に、欠は2両目に乗ったまま電車は走り出した。

オレンジ色の電車は同化しそうな色合いに染まった街の中を進み、高架橋を通ってK山駅へと着いた。

K山駅では乗客のほとんどが下りた。電車がK山駅を出発すると、欠はいつものように1両目まで歩き雅の隣に座った。

「ごめんなさい。今日も待たせてしまったわね」

雅がそう謝るのも待たずに欠は自分の右手を雅の左手に重ねた。

「気にしないで。おかげで読みたかった本も読めたし……」

欠はそう返してくれた。

「……。欠。ごめんなさい。明日も少し遅くなりそう……」

雅は少し間をおいてから言い辛そうにそう言った。

「大丈夫よ。明日も星空さんと勉強会?」

欠は気にしていない風を装ってそう聞いた。

「ええ。今週は毎日勉強会になるかもしれないわ」

雅は申し訳なさそうに目線を下げた。

「分かったわ。

 ちょうど長編小説でも読もうかと思っていたところなのよ」

欠は元気な声でそう返してくれた。

雅は「それなら良かったわ」と言って顔を上げた。

欠はそんな雅に微笑んでくれた。

雅は、夕日で染まった欠の笑顔にやせ我慢じみたものを感じてしまった。

ドキッという音が聞こえる。

雅は両手から力が抜けて無言になってしまった。それにつられて欠も無言になる。

欠の右手に伝わる雅の手は微かに震えていた。そして、微かに湿っている。

しばらく二人は黙っていたが、電車がN山駅に着くと欠が話を切り出した。

「ねぇ、雅。遅くまで学校に残って、友達の勉強に付き合うなんて偉いわね」

雅は「ごめんなさい」と謝った。

「謝らないで、別に皮肉を言っているつもりじゃないから」

欠は自然な笑顔でそう言った。

「……」

雅は反応に困ったのか黙ってしまった。

「星空さんが勉強に前向きになるなんて滅多にないことでしょ?」

欠の言葉に雅は頷いた。

「だったら、私のことは気にしなくていいから、勉強をたくさん教えてあげて」

欠はそう言って不自然な笑顔を浮かべた。

「欠……」

雅は何かを言いたかったがとっさに言葉が出なかった。

欠は何かを言う代わりに雅の手を握る右手に力を入れた。

「雅。この話はおしまいね」

雅は躊躇いがちに頷いた。

二人はしばらく黙っていた。

その間に電車は住宅街を抜けてY駅に着いた。

電車のドアが開くが、時間帯的に誰も乗る人はいなかった。

「ねぇ、雅。今度の土曜日暇?」

欠は空気を入れ替えるように話題を切り出した。

雅は回答に困った。土曜日は星空と闇空の3人で勉強会をする予定だったから。

欠は雅の言葉を待たずに話を続けた。

「そろそろ暑くなって来たでしょ。

 土曜日暇なら夏服見に行かない」

「……」

「もしかして、土曜日も星空さんと勉強会がある?

 それなら、テスト期間開けにしましょう」

「大丈夫よ。休日は勉強会はお休みだから」

雅は空気に耐えかねずにそう返してしまった。欠には逆らえない。

欠は雅の返答を聞いて上機嫌にニコッと笑った。雅はそんな欠の笑顔を見て心が軽くなってしまった。



土曜日の午後8時48分。

雅は家からの最寄り駅であるM山駅のホームにいた。

M山駅は、トタン屋根の乗ったホームが1つあるだけの無人駅である。

ホームの中には、1台の自動販売機と、3人掛けのベンチを2つ背中合わせにくっつけたような6人掛けのベンチが2つある。

雅は6人掛けのベンチの端に腰を下ろし、ショルダーバックから小説を取り出した。先月星空におすすめされた小説だ。昨日の夜の続きから小説を開き、読み始めた。

まだ朝方は少し肌寒い。しかし、今日の天気は快晴であり、斜めからの日光が雅の体へと直接降り注いだ。雅はポカポカとした温かさを感じた。そのうえ、近くの海岸から聞こえる波の音が雅の心を自然と安心させる。

心地よくって、体が浮くように意識が遠のいていく。瞼がどんどんと重くなっていく。

腕の力が抜け小説を落としそうになり、はっと意識が戻る。

「大丈夫?お疲れみたいだけど」

隣から欠の声がした。雅の横には欠が座っていた。

雅が寝ている間に来ていたのだろう。

雅は「大丈夫。心地がよかったから眠ってしまっただけよ」と本を閉じて欠の方を見た。

今日の欠はいつものヘアピンを外し前髪を下ろしていた。貼るタイプの眼帯で左目を隠し、下した左の前髪で眼帯を隠す。眼帯は完全に隠れている。そのせいか、普段は意識しない美しく整った容貌が強調されている。

服装は黒のスラックスに、白に近い水色の長袖シャツ、靴は白の厚底スニーカー。

首元には深緑色の蝶ネクタイが結んである。蝶ネクタイは2つの剣先が垂れるように結び、垂れた剣先をクロスさせネクタイピンで1つにまとめていた。欠の最近のお気に入りの結び方である。

首筋にはシトラス系のオーデコロンが振ってあり、ほんのりとさわやかな柑橘系の匂いがする。

雅には、少し背伸びをしようとしている年下の美少年のように感じられた。

そんな欠も雅のことを見ていた。

白のしわ一つないシャツに黒のロングスカート、ちょっとしたアクセントに落ち着いたワインレッドのボウタイ。

前髪は2種類のヘアピン(月の飾りのついたヘアピンと太陽の飾りのついたヘアピン)で左右に流し、薄く化粧をしている。

ロングスカートとパンプスの間から覗く足首にはフローラル系のオーデコロンが振ってある。

シンプルながらも雅の本来の美しさを引き立たせる少し気合の入った格好だ。

欠は雅の目を見ながら「今日の雅もとても綺麗だよ」と言った。少しむずがゆい。

雅は「欠も綺麗よ」と返した。

欠は苦笑いをして「それは良かったわ」と返した。

「……」

雅は黙ってしまった。それにつられて欠も黙った……。

ホーム手前の踏切の警報機がカンッカンッカンッカンッとなり始めた。

「ねぇ、雅。もうすぐ電車が来るみたいね。

 予定の電車より1本早いけど乗らない?」

欠はそう言って立ち上がった。

雅は「そうね」と返して立ち上がった。

2人の前に2両編成の上り電車が停車した。2人は1緒に電車に乗り込んだ。


2人はK町駅で降りて、パルティトゥーラへと向かった。

パルティトゥーラは市内の割と中心部にある6階建ての都市型ショッピングモールである。

真ん中には1階から6階までを通す吹き抜けの大通路が1本透っていた。大通路はガラス張りの壁からの光で明るく、そのためか外とつながっているように感じる。

その大通路の両脇には専門店街がある。1階はスーパーと飲食店、2階は主に婦人服売り場、4階はフードコートと紳士服売り場、4階が書店やおもちゃ屋さん、ゲームセンター、5階が映画館、6階が駐車場となっている。

2人は雅の服を見るために2階の婦人服売り場へと向かうことにした。

婦人服売り場へと向かう途中、欠は隣を歩く雅に「今年はどんな感じの服にする?」と聞いた。

雅は興味なさげに「お任せするわ」と答えた。

欠は「本当にいいの?」と確認する。

雅は少し考えてから、「大丈夫よ。私は欠のセンスを信じているから」と笑って返した。

欠は口元を緩めて、「それなら任せて」と言った。


婦人服売り場に着くと欠は雅の手を引っ張って専門店を見て回った。

欠は意慾的に雅に似合いそうな服を選んだ。

雅は自分の意見は何も言わずに、欠に言われるままに鏡の前で服を合わせていった。まるで人形のように。

欠は雅が服を合わせるたびに「かわいいけどこれじゃない」とか「いいのが無かったらこれにしよ」と言って服を返した。

婦人服売り場を右回りで10件程回ったが、雅の服は1着も決まっていなかった。欠は雅のことになると妥協しない。雅は欠のそんなところを知っていた。

が、あまりにも決まらなかったのでつい口を出してしまった。

「なかなか決まらないわね。

 そろそろ1着ぐらいは決めてしまわないかしら?」

雅の言葉に、欠は「大丈夫よ。次の店できっと決まるから」と自信ありげに返した。

欠の中では次の店は本命中の本命であった。

欠の理想とする雅が着ていそうな服が揃えてある店だった。

実際、今雅が着ている服も春休み欠がこの店で選んだものだった。

欠は店の中に入るとブラウスを見に行った。

雅は姿見の前に取り残された。その間に周りの服を見ていた。

全体的に装飾が少ない服が多い。欠は雅に対して落ち着いた優等生という理想像をいだいているのだろう。

ふと、『これらの服を欠に着せてみるとどうなるのだろう』と考えてみた。

割と着こなせそうな気もするが、雅の中の欠のイメージとは矛盾するものだった。

雅がそんなことを考えていると巡回をしていた店員に話しかけられた。

「何かお探し手ですか?」

雅は「夏服を探していて、今友達に選んでもらっているので大丈夫です」と答えた。

店員は「そうですか。何か気になったことがありましたら声をかけてくださいね」とほほ笑んで巡回へと戻った。

しばらくすると、欠が何着か服を選び終えて戻ってきた。

欠は近くにいた店員に「試着室お借りします」と一声かけて、雅を試着室へと押し込んだ。


雅が試着室に入ると、欠は1セット目の服を渡した。

1セット目の服は白のフレンチスリーブのブラウスとこげ茶色のロングラップスカート。

シンプルでエレガントな大人の女性と言った組み合わせである。

雅は着替えが終わるとカーテンを開けて欠に声を掛けた。

「欠。どうかしら」

鏡で見た感じだと欠は気に入ってくれそうだった。

欠は雅の姿を見て「とっても似合っているわよ」と言った。そして、すぐさま2セット目の服を渡してきた。

「次はこの組み合わせを試してみて」

「分かったわ」

雅はカーテンを閉めて着替えを始めた。

2セット目は水色がかった白の半袖シャツと黒のロングシアースカート。

後、欠の指示で試着室に備えてある小物のボウタイをつけた。

夏にぴったりな涼し気な組み合わせである。

雅が着替え終わってカーテンを開けると、雅より先に欠が口を開いた。

「今年の夏のメインコーデはこれで行きましょ」

欠はたいそう気に入ったみたいだ。

「これもきっと似合うと思うわ」

欠はそう言いながら、3セット目を渡した。

レースのついたブラウスと薄ベージュのキャミソールワンピース。

雅はカーテンを閉めると鏡の前で首を傾けた。

今まで欠に勧められた服の傾向から少し外れていた。

欠は雅に可愛さよりも美しさを求めている。実際、雅にはかわいい系の服よりもきれいめの服の方がよく似合う。

しかし、今度の服はいつもの服よりもかわいい系に傾いていた。

物は試しにと試着してみたが、似合っていない気がした。

雅は恐る恐るカーテンを開いた。

欠は雅を見て黙って考えた。反応が芳しくない。やっぱり似合っていないのだ。

雅は「これで最後よね。着替えるわね」と言って早々にカーテンを閉めようとした。欠はそんな雅を「待って、もう少し見せて」と言って静止した。雅はカーテンを閉めるのを止めて、欠の方へ体を向けた。

雅は欠に「この服って似合っていないわよね?」と困惑気に聞いた。

欠は「似合っていないよ」ときっぱりと即答した。そして、「今のままだと」と付け足した。

雅は「今のままだと?」と復唱した。

欠は雅の疑問に答えた。

「雅は綺麗だけど、可愛いところもあるから、その部分を上手く引き出せば似合うようになるはず。

 化粧の仕方を変えて、髪型を変えてみたり。

 例えば、化粧は今よりも明るめにして、髪型は三つ編みのハーフアップとかどうかな?

 まぁ、そこらへんは今度雅の家に行ったときにいろいろ試してみよう」

雅は欠の中ではこの服は買うことに決まっていることに気づいた。が、それも込みで「分かったわ」と返した。

ただ、似合うとしても雅には今の恰好に少し抵抗があった。自分を守っていた何かを引きはがされるような恥ずかしさを感じた。

欠はそんな雅の気持ちを察したのだろう。「雅。何か不満でもあるなら言って」と声を掛けた。

雅は、

「似合うのは分かるけど、普段着ているものと違いすぎて抵抗があるわ。

 それに星空とか闇空に見られるのは恥ずかしいわ」と返した。

欠は雅にすら聞こえないほどの小声で「それは良かったわ」と言った。

「欠。何か言ったかしら?」

「なら、その服装は私と出かけるときだけに着るというのはどうかな?

 そうすれば、星空さんや闇空さんに見られることはないよ」

欠はそう返した。雅は「そうするわ」と返した。雅は欠に逆らえない。

欠は満足そうな笑みを浮かべた。


欠は雅に関することだと熱中してしまう。

一度始まった雅の洋服選びは欠が満足するまで終わらず、途中で中断もしない。

そのため、欠と服を選びに行くといつもは15時頃に昼食を取る羽目になっていた。ただ、今日は比較的早く欠が満足し、13時に終了した。

雅は最終的に3セットの服を買った。

半袖シャツとシアーロングスカート、ブラウスとキャミソールワンピース、と後1着無難な組み合わせだ。

その後で、2人は昼食を取るために3階のフードコートへと向かった。最大のピークの時間は避けていたが、混雑時には変わりなかったため席の8割程が埋まっている状態だった。2人は何とか端の方の2人席を確保することができ、雅の購入した洋服を置いてそれぞれ注文へと向かった。

欠はもう決まっているらしく一直線にお店へと向かった。

雅は取り敢えずフードコート内をぐるっと1周した。

フードコート内にはハンバーガー、海鮮丼、天丼、中華料理、カレー、セルフうどん、ステーキの店がある。

雅は昼食を15時にとっても大丈夫なように、朝食をしっかり目に食べてきていた。そのため、あまりお腹がすいていない。軽めの海鮮丼かうどんのどちらかにしようと考えた。

そして、今立っている位置からより近いというだけの理由でセルフうどんにした。

あっさりめの冷たいおろしぶっかけと、それだけでは物寂しいのでかしわ天を注文した。

雅が席に戻ると、欠は席に座って呼び出しベルを真剣に睨んでいた。

雅に気づくと欠は目線を上げた。

「雅、私のは時間がかかりそうだから先に食べていてね」

「分かったわ」

雅は欠の言葉をありがたく受け取り先にいただくことにした。手を合わせて軽く「いただきます」と言って、うどんをズルズルと音を立ててすすった。うどんは太めでツルツルとしてコシが強い。出汁は甘めで大根おろしがさっぱりとしたみずみずしさを足している。そして、出汁がうどんによく絡む。お腹がすいていなくてもおいしく感じる。

雅がふと顔を上げると欠が物欲しそうに見ていた。

「一口食べるかしら?」

雅はそう言って箸でうどんを掴んで欠の方へと近づけた。

「大丈夫。あまりお腹すいていない。

 それに、余計なものを食べたらミックスグリルが食べられなくなるから」

欠はそう言って断った。欠のことだから、昼食が遅くなっても大丈夫なように、朝食に4枚切りの食パンを3枚ぐらい食べてきたのだろう。

雅は「そう」と返してうどんをすすった。少し食べにくい。

欠は雅の方を見ないように頭を下げて呼び出しベルを睨んでいた。雅がうどんを食べる音だけで無性にお腹がすいてくる気がした。

1、2分程するとついに待ちに待ったステーキ屋の呼び出しベルがなった。

欠はすぐに立ち上がり、「とってくるわ」と言ってステーキ屋の方へと向かった。


ジュゥジュゥと鉄板の上で音を立てているミックスグリルと共に、欠はご満悦の表情で帰ってきた。フードコートのステーキ屋のミックスグリルには200g、300g、400gの3種類がある。欠はいつも400gのミックスグリルを注文していた。

しかし、今日はあまりお腹がすいていないためか300gのミックスグリルを注文した。

ミックスグリルは牛肩ロースステーキ100g、合挽ハンバーグ100g、チキンステーキ100gの合計300gだ。ご飯は控えめ(欠比)の大盛り。お茶碗の上になだらかな山ができるぐらい。

欠の体型は、身長140.2±0.05cm、体重38.5±0.5kgの低身長痩せ型である。そのため、欠の前に置かれると、控えめの300gミックスグリルであるのだが、すごいボリュームがあるように感じてしまう。

実際300gでもお腹がすいていないときに食べるにはきついものだろう。雅は見ているだけでもお腹一杯になれそうに感じた。

欠は軽く手を合わせて「いただきます」と言うと、フォークとナイフを手に取った。

欠はまず牛肩ロースステーキから食べ始めた。その細い腕にグッと力を込めて硬めのステーキにナイフを入れていく。何度もナイフを引いて、一口台に切り口へと運ぶ。口の中ではよく咀嚼して飲み込む。牛肉は程よく塩が効いている。奥の歯で噛むたびにその塩気はだんだんと薄くなっていく。が、代わりに油と牛の臭みの混じったような肉汁が溢れ出てくる。肉を食べているという感覚が一噛み毎に全身に染みわたってくる。

欠はそんな硬くて食べ応えのあるステーキをガツガツと平らげてしまった。

ステーキを食べ終わると次はハンバーグへとナイフを入れる。ハンバーグの表面は焼き目が着き硬い。が、ひとたびナイフが入ると抵抗なくすっと切れる。切れ目からは透明の肉汁が水と油の渦模様を描きながら染み出てくる。ステーキよりも少し大きめに切り付属のオニオンソースをつけて食べる。醤油ベースのオニオンソースの酸味とハンバーグの柔らかさのせいか、ジューシーであるのにさっぱりとしている。ステーキを食べた後の油で満たされた口内をオニオンソースの適度な酸味が洗い流していく。

雅はうどんを食べながら、おいしそうに食べる欠をほほえましく見ていた。

欠はそんな雅に「おいしいわよ。一口どう?」とハンバーグの最後のひと欠片を進めた。

雅は「見ているだけで十分よ」と返した。

雅のうどんはまだ残っていたがお腹一杯になってきていた。

欠は雅に進めたひと欠片を口へといれ、ハンバーグをぺろりと平らげた。

最期にチキングリルを食べ始めた。ミックスグリルの中で一番さっぱりとしたチキングリルを最後に食べると口の中がさっぱりする気がする……らしい?

チキングリルにナイフを入れると繊維に沿って割けるように切れた。オニオンソースに絡めて口の中へと入れるとさっぱりとした淡白な味がする。ステーキやハンバーグに比べると物足りない気もするがそれがいい。

瞬く間にチキングリルは無くなり、ごはんや付け合わせの野菜等も含めてミックスグリルを完食した。

そのころには雅もうどんは完食していた。

ただ、『うどんだけでは物足りないかもしれない』と思い一緒に注文していたかしわ天は手つかずの状態で残っていた。

欠はかしわ天をしんどそうに見ている雅に「食器返してくるね。ゆっくり食べてて」と言い残して立ち上がった。

欠が食器の返却から帰ってきても、雅はまだかしわ天に箸をつけていなかった。

雅は箸をおいて欠の方を見た。

「欠。私お腹一杯なのだけれど、欠はまだ食べられるかしら?」

「いいの?」

雅はだまって頷いた。

「それならいただくわ」

欠はそう言って雅から箸を受け取り、かしわ天に口をつけた。

衣はサクサク、中身はジューシーで柔らかい。塩気と旨味が効いていて美味しかった。


二人は昼食を取り終えると、席に座ったまま少し休んでいた。

「欠のお洋服は私が選んでもいいかしら?」

雅は欠にそう提案した。

「……うん」

欠は少し迷いながらも了承した。

「どんな感じの服がいいとかあるかしら?」

雅がそう聞くと、欠は「こんなのがいい」と言って自分のシャツの第一ボタンの辺りを引っ張った。

「昔みたいに可愛い服を着てみる気はないのかしら?」

「……雅はそっちの方がいい?」

「私は……」

雅は言葉に困った。欠の意志を尊重したい。

欠はそんな雅に言葉を続けた。

「雅に任せるよ。

 でも、雅にあまりこだわりがないなら、今着ているような服がいいな」

「分かったわ。

 ところでそう言う服っていつもどこで買っているのかしら?」

「私は紳士服売り場で買っているわ」

「それなら、紳士服売り場から回りましょうか……」

二人は立ち上がって紳士服売り場へと向かった。


紳士服売り場では雅が欠に似合いそうな半そでシャツを2、3着選んだ。

欠はそのうち1着を購入し、もう1着を自分の好みで選んだ。後、スラックスを一枚と蝶ネクタイを一つ買った。

半袖シャツとスラックスはすぐに決まったが、蝶ネクタイはなかなか決まらなかった。欠は蝶ネクタイに対しては謎のこだわりがある。雅はどっちでも似合うと思っていたが、欠は紺色と藍色どっちの蝶ネクタイにするかで迷っていた。

あまりに解決が見えなかったので、雅は「両方気に入ったのね。予算に余裕があるのなら両方買うのはどうかしら?」と提案した。

欠は「両方買ってしまうとお出かけのたびに家で迷う羽目になるから。もう少しだけ待って」と雅の提案を断って、蝶ネクタイを交互に見た。さんざん悩んだ末に藍色の蝶ネクタイを買って紳士服売り場を後にした。

「ねぇ。欠。まだ、予算に余裕あるかしら?」

3階から2階へと降りると雅はそう聞いた。

欠は振り返って「ええ」と答えた。

「それなら、もう一着欠の服を選びたいのだけどいいかしら?」

雅がそう提案すると欠は「分かったわ」と言って2階から3階へと昇るエスカレーターに乗ろうとした。雅は欠の手を握って引き留めた。

「そっちじゃないわ」

「……」

「一着ぐらい可愛めのお洋服があってもいいと思うのよ」

雅はそう言って婦人服売り場を指さした。

欠は「……分かったわ」とどこか乗り気ではない感じで言った。

雅は「決まりね」と欠の手を引いて婦人服売り場の中央付近にあるお店へと向かった。

そこは中学時代の欠がよく利用していたお店だった。欠は自然と嫌な顔をした。

雅は欠の様子に気づかず中へと入っていった。

欠は雅に引っ張られて中へと入っていく。

中には昔の欠が好きそうな可愛いお洋服がたくさんあった。雅はそれらの中から欠に似合いそうな1着を探していた。

欠はあたりの服を適当に見てため息をついた。どれも憎たらしいほど可愛いらしい。

しばらくすると1着の服をもって雅が現れた。

雅は近くの店員に声をかけ、欠を試着室へと押し込んだ。

欠は雅に渡された服を広げて試着室の鏡の前で合わせてみた。

今の服装よりも自分に似合っていることが分かった。欠はため息をついた。

『人は早々変われないものなのかしら』

欠が試着するのをためらっているとカーテン越しに雅が話しかけてきた。

「欠。そろそろ開けてもいいかしら?」

欠は「今から着替える」と返事をして覚悟を決め、レース付きの白いキャミソールワンピースを試着した。

試着室の鏡には中学生の頃のような美少女の欠が映っていた。欠の大嫌いな陽光 欠が……。

そのはずなのに鏡の中の自分は自然と頬を緩めていた。

『なにを笑っているの』

欠は鏡の中の自分を睨みつけた。あちらも睨み返してくる。

そして、試着した服を脱ごうとした。そこに雅が「まだかしら?」と声をかけてきた。

欠は雅の希望には応えたい。

欠は躊躇いながら試着室のカーテンを開けた。

欠は雅に嫌な顔をされると思っていた。でも、カーテンの向こうで待っていた雅はいつもとは違う自然な笑顔でほほ笑んで「とても似合っているわよ」と言ってくれた。

「……」

雅の言葉に欠の頬が赤く染まる。

「欠。これ買っていきましょう」

雅の言葉に欠は戸惑い気味に「可愛い私が嫌いじゃないの?憎くない?」と聞いた。

雅は自分の身からでた何かが背筋を這い上がってくるようなゾワッゾワとした感触を覚えた。その感触が首筋まで来ると一瞬肩が竦む。昔の自分が憎らしい。

雅は繕うようにぎこちない笑顔を浮かべて「欠。可愛い欠は大好きよ」と答えた。

欠は「本当に?」と不安げな表情でじっと見つめた。

雅は深呼吸をして息を整えた。そして、嘘偽りのない笑顔を張り付けて「本当よ」と返した。

欠は雅の笑顔に「それなら、この洋服を買うわ」と答えた。雅は肩の荷が一つ下りた気がした。


欠が白のキャミソールワンピースを買って婦人服売り場を出ると、時刻は16時前になっていた。

雅はそろそろいい時間なので帰ろうと思っていた。しかし、欠が「少しお茶してから帰らない?」と言ったため、二人はお茶をしてから帰ることになった。

パルティトゥーラ内には某コーヒーショップのチェーン店等がある。しかし、今日は欠がおすすめの喫茶店があるということでそれらには立ち寄らずに、二人はパルティトゥーラの外へと出た。

天気が良いせいか、外は今の二人の恰好だと少し暑かった。

「雅。1駅分ぐらい歩くけど大丈夫?」

欠は外へと出た後で今更ながらそう聞いた。

「大丈夫よ」

雅は頬を意識的に上げてそう返した。

欠は「良かった」と言って歩き始めた。

パルティトゥーラの裏の踏切を超えて見慣れぬ道へと入る。

車道は二車線であるが、歩道の幅は狭く一人分しかない。道案内もかねて欠が前を歩き、雅が後ろをついていく形となった。二人は何度か角を曲がりながら進み、車1台が通れるほどの狭い裏道へと入っていった。

そこからしばらく歩いた後、少し古めの4階建てのビルの前で欠が立ち止まった。

「ついたよ」

欠はそう言ってコンクリートうちっぱなしのビルに取り付けられているガラスの扉を指した。

扉には白く丸みのある文字で「純喫茶 ぽすと」と書かれている。

欠が扉を開けるとチャラランという軽やかな呼び鈴が鳴り、開いた扉からコーヒーの香りと微かなたばこの臭いが溢れ出してきた。

中に入るとカウンターで新聞を読んでいたママが親しみやすい声で「お二人?お好きな席へどうぞ」と言った。二人は窓際の四人掛けの席に腰を掛けた。赤い皮張りのソファーは沈み込むように体を捉え、立てなくなるほど心地がいい。

欠はメニュー立てからメニューを取り、ガラス張りの机の真ん中に置いた。

メニューには写真はなく文字だけであり、日光によってセピア調に色褪せている。

「私のおすすめはこのカツサンド」

欠はそう言いながらメニューの軽食欄を指した。

「カツサンドは重たいわね」

雅はそう返した。あまりお腹がすいていないところに昼飯を無理やり食べたので当然ではある。

「大丈夫よ。ハーフサイズもあるわ」

欠はそう言って食い下がった。よっぽど欠のおすすめなのだろう。

「それでも、夕食も近いし……。

 欠。半分食べられるかしら?」

「昼はあまり食べなかったから大丈夫よ。

 そろそろお腹がすいてくる時間帯だし」

欠はそう答えた。あまり食べなかった(欠比)である。

「それならカツサンドのハーフにするわ。

 飲み物はブレンドコーヒーにしようかしら。

 欠は?」

雅はそう言いながら、メニューを欠の方へと向けた。

欠は「もう決まっている」と言ってメニューを戻し、卓上の呼び出しベルを人差し指でポンッとはじいた。

カウンターの奥からママではなく、ウエイトレスが注文を取りに来た。

黒のストレートの髪をカチューシャでまとめて、シンプルな制服に身を包んだウエイトレス。

顔つきは少し地味だが誰かに似ている気がする。

彼女は慣れた手つきで胸ポケットから伝票を取り出し、注文を取る準備をした。

二人が注文を終えるとウエイトレスは一例をしてカウンターの奥へと戻っていった。

「ねぇ。欠」

「何?」

「あの店員さんどこかで見たことある気がするのだけど……」

「気のせいじゃない?」

「……気のせい……かな?」


雅のブレンドコーヒーと欠の注文したクリームソーダはすぐに来た。

ブレンドコーヒーは「じゅんきっさぽすと」という文字が書かれた白いコーヒーカップに注がれていた。

クリームソーダは円錐形を逆さにしたようなグラスに注がれ、金属の細長いスプーンがついてきた。

雅はブレンドコーヒーに口をつけた。

口を付けた瞬間焙煎豆の香ばしい香りが鼻腔に広がる。酸味は少なめで飲みやすく、後から深いコクがやってくる。

雅は思わず「このコーヒー美味しいわね」と言った。

「それはよかったわ。

 ここのお店、自家焙煎のコーヒー豆の販売も行うぐらいにコーヒーにこだわっているの。

 だから、コーヒーはおいしいはずよ」

欠はそう言いつつ透き通るメロンソーダを目を丸くして眺めていた。案外子供っぽいところもある。

「欠はいつもはコーヒーを頼むのかしら?」

雅はコーヒーカップをソーサーの上に置いてソファーに身をゆだねた。

「いや、私ここのコーヒー飲んだことないのよ。

 いつもクリームソーダを頼むわ」

欠は見るのに満足したのか、スプーンを手に取った。

「なら、一口飲んでみない。

 とってもおいしいわよ」

「大丈夫。私、苦いの苦手だから」

欠はそう言ってアイスクリームをスプーンで掬って口へと入れる。

「甘い」と幸せそうに言った。思わず雅の頬も緩む。

「ここのお店、コーヒーもだけどクリームソーダも特別なのよ」

欠はそう言ってもう一口アイスクリームを食べた。今度はメロンソーダを少し掬って一緒に食べた。

「クリームソーダに違いがあるの?」

雅は少し懐疑的にそう言った。

「結構店によって違うものよ。メロンソーダの濃さとか、甘さとか、炭酸の強さとか、後アイスかソフトクリームかとか……」

「そう言うものなのね。

 意識したことなかったわ」

「ちなみにここのクリームソーダはアイスが美味しい。

 アイスクリームと言うよりかはいわゆるアイスクリンと言った感じで優しい甘みが特徴なの。

 メロンソーダもその優しさに合わせて標準的なものよりも少し薄くしているの。

 どう、一口食べてみる」

欠はそう言ってアイスクリームの乗ったスプーンを雅の方へと向けた。

あまりにもおいしそうに食べる欠の姿と、熱弁から伝わるクリームソーダへの情熱から、一口貰うのは躊躇われた。

「大丈夫よ」

雅はそう言ってコーヒーに口をつけた。

欠は「そう、残念」と言いながらも美味しそうにアイスを食べた。雅はそれを嬉しそうに眺めた。

欠は口の中のアイスがなくなると「今年の夏休みはどこか遠くに行かない」と話題を変えた。

雅はコーヒーをおいて「いいわね」と返した。

「せっかく雅が私のために可愛いキャミソールワンピースを選んでくれたから、

 あれを着てお出かけしたいの。だから、遠出しよう」

欠はそう言いながらストローに口をつけた。この店のメロンソーダは子供でも飲みやすいように炭酸が弱めだった。そのため、心地よく喉を通過していった。

「夏休みに遠出するのは賛成だけど、あの服を着るだけなら近場でもいいんじゃないかしら。

 そもそもあの服を私は普段着のように着こなしてもらいたいのだけど……」

雅はそう返した。『今の欠の服装よりも私は好きだし……』

欠は「ダメだよ」と即答した。雅は反応に困った。

「ねぇ、雅。クラスの誰かに見られたらどうするの?」

欠はどこか圧を感じる口調でそう言った。

「そんなにあの服を着るのが恥ずかしいの?本当に似合っているわよ」

雅はそう返した。欠の意図は雅には伝わっていない。

欠は補足した。

「今の恰好ならクラスの誰かに見つかっても雅の弟か従弟だろうなと思われるぐらいでしょ。

 でも、あの服を着ていると私だとわかる。

 つまり、雅と私が親友だとばれちゃうわ」

雅は欠の言っていることが分かったが理解はできなかった。

「別に私たちが親友なのは事実だし、別にばれたって問題ないでしょ?」

雅の言葉に欠はトーンを下げて平坦な口調で答えた。

「私の理想とする満月 雅はね何もかもが完璧なの。

 学力は学年一位、スポーツもできる、絵も上手いし、歌も上手い。

 そして、交友関係も華々しくなくてはいけない。

 私なんかみたいな嫌われ者は雅の友達にはいちゃいけないの。

 それに、私と一緒にいると雅まで嫌われてしまうかもしれないよ。

 中学生の時みたいにみんな『私たち二人には自分は釣り合わないから……」みたいなそれっぽいことを言って、

 雅から離れて行っちゃうよ。

 雅の大好きな星空さんだって、私が側にいると雅に近寄れなくなっちゃう。

 いいの?だから、私たちの関係はばれてはいけないの。

 雅、わかるよね」

欠はニコッと笑った。雅は引きつった笑みを浮かべる。

雅は「ええ」と返した。欠がそう言うならそうなんだ。雅は欠に逆らえない。

「だから、夏休みは遠出しよ」

雅は「そうね」と適当な相槌を打った。

それから(欠にとっては何故か)会話が途切れてしまった。

そんな苦しい沈黙に空気を切り替えるようにウエイトレスがカツサンドを持ってきた。

お皿のうえにはカツサンドが2切れ乗っていた。

8枚切りのパンに、厚さ3㎝程のトンカツ、キャベツの千切り、そして卵サラダが挟んであった。トンカツは表面に薄く油が着き光を反射している。揚げたてである。

具材が多くカツサンドは崩壊しそうでサーベルをかたどったピックを刺して何とか形を維持していた。

雅はカツサンドを手に持った。

ずっしりとした重さを感じる。なんか色々あってお腹一杯だった。

でも、間を持たせるためにカツサンドへとかぶりついた。

流石は揚げたて、衣はサクサク、中身はジューシー。キャベツは新鮮でシャキシャキとしている。

卵サラダの濃厚な味わいで中和されるかと思ったが、しっかりと濃いソースの味がする。

「美味しいわね」

雅は色々を誤魔化すようにそう言った。

欠は得意げに「でしょ」と言った。欠のカツサンドはもう半分程になっていた。

雅もそれに負けじと喰らいついた。が、半分ぐらい食べたところでお腹いっぱいになった。

先にカツサンドを食べた欠は、アイスクリンと混ざり合い濁った薄緑色になったメロンソーダを飲みながら、カツサンドを物欲しげに見ていた。

「欠。私もうお腹いっぱいだから、残り食べるかしら?」

雅がそう聞くと、欠は「いいの?」と嬉しそうに言った。

雅はカツサンドを欠に渡し、お手拭きで手を拭き、口の中を洗い流す様に水を飲んだ。

少し口の中には油のもったりとした感触が残った。

欠は雅の歯形が着いた場所からカツサンドを食べ始め、すぐに平らげた。


喫茶ぽすとをでると辺りは赤く染まり始めていた。

「雅、今日は楽しかった」

欠はそう言って歩き始めた。

雅は「そうね」と返して欠の後をついて歩いた。

「雅、来週も暇ならまた一緒にどこかに行こう」

欠は歩く速度を落として雅の横に並んだ。

来週も星空との勉強会の予定があった。

でも、雅は欠に逆らえない。

雅は「ええ。いいわよ」と返した。

「約束ね」

欠はそう言って雅の手を握った。雅は「ええ」と返した。



二人はM山駅で降りると別れの挨拶を交わし、別々の方向へと歩き始めた。

欠はふと空を見上げた。

明かりの少ない田舎道の真っ暗な夜の空。

数多の星々に紛れて何一つ欠けることのない満月が浮かんでいた。

一か月という時間のせいか満月は前見た時よりも大きく見えた気がした。

そっれはまるで、数々の星々の中から自分の元へと近づいてきているかのようだった。

欠の頬には思わず笑みがこぼれた。

読んでくださりありがとうございます。

面白ければ次回も読んでいただければと思います。

次回は6月25~27日の間で投稿する予定です。


以下、次回予告と今回の話の感想を書きます。

[今回の話の感想]

 今回も喫茶店でお茶をするシーンをかけました。

 前回はアンティーク感の強い喫茶店でしたが、今回は筆者の思うザッレトロと言った喫茶店にしました。本当はこういう喫茶店によくある回転式のおみくじ機で二人が遊ぶシーンとかも書きたかったです。ですが、ゴールデンウイークに遊んでしまったせいで、27日に間に合いそうになかったので省きました。

 どこかで余裕があれば入れたいです。


[次回予告]

 次回は球技大会回です。

 雨の多い6月に球技大会を行うのはどうかと思いますが、筆者の高校の球技大会が6月と12月だったので、6月に球技大会を持ってきました。

 名前だけは登場していながら、存在が出ていなかった雅のライバルがついに出ます。

 雅とそのライバル。二人の熱い戦いをぜひとも楽しみにしてください。

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