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東京幻怪録  作者: めくりの
六章

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第六十九話 「鬼火、つかまえます!」

 冬の澄んだ空気に包まれた奥多摩の神社は、一見すると霊気の欠片も感じさせないほど静寂に満ちていた。雪が舞い落ちる中、相馬葵は境内で手袋をはめ直しながら言った。


「ねえ、亮。こんな静かで綺麗なところに、本当に鬼火なんているの?」


隣で軽い剣を背負った風間亮が肩をすくめる。「知らないよ。でも上層部が『奥多摩の神社に異常な妖気が集まってる』って言ったんだから、間違いないだろ。」


「そうは言っても、この景色だよ?」葵は手元のタブレットを操作しながら、周囲を見回した。「雪が積もった鳥居と苔むした石段、完璧な冬の写真映えスポットじゃん!妖怪が出てくるなんてイメージ崩れる~!」


亮が呆れたように笑う。「任務中にそんなこと言うの、葵さんくらいだよ」


「いいのいいの!だってこういうの、緊張ほぐれるでしょ?」


二人は神社の奥へと足を踏み入れた。古い本殿の前で、葵がタブレットを構える。「妖気探知モード、起動っと。」画面に広がる波状のグラフが、少しずつ異常な動きを見せ始める。


「お、来た来た。やっぱり何かいるみたい」葵がニヤリと笑い、タブレットを亮に見せる。「ね、やっぱり鬼火でしょ?」


「うわ、本当に妖気濃いな。ってことは……そろそろ来るか?」亮が警戒しつつ、指輪に触れて風を呼び起こした。


その時、不意に薄暗い神社の隅から青白い光がふわりと浮かび上がった。


「うわっ、出た!」亮が驚きながら構えると、葵は目を輝かせて「これぞ鬼火って感じ!」と声を上げた。


「いやいや、感心してる場合じゃないでしょ!」


鬼火はふわふわと空中を漂い、二人の周りを旋回し始めた。その動きは予測不可能で、まるで彼らをからかっているようだった。


「亮、捕まえて!」葵が叫ぶと、亮は風の刃を放った。しかし、鬼火はその刃をひらりとかわし、木々の間を抜けていく。


「速い!なにこれ!」亮が息を切らしながら追いかけるが、鬼火はさらにスピードを上げて逃げる。


「うーん、こうなったら……」葵がタブレットを操作し始める。「捕獲用モード、起動!」画面上に表示された指示に従い、特殊なエネルギー網を展開する準備を整える。


「葵、準備できた?」亮が走りながら振り返ると、葵はニヤリと笑った。「もちろん!あとはタイミング勝負だね!」


亮が風を操りながら鬼火を追い詰めると、突然、鬼火が逆方向に急旋回した。「えっ、待って、そっち行くの!?」


鬼火は葵の方に一直線に向かってきた。


「ちょ、ちょっと!待って!」葵は慌ててタブレットを構え直し、捕獲用ネットを展開する。


鬼火が網に突っ込む瞬間、予想外のことが起こった。鬼火が突然、人の顔のような形を取り、笑い声を上げたのだ。「ふふふ、捕まえられるものか!」


「え、しゃべった!?何これ」葵が驚きつつも笑いをこらえきれない。


「葵、真面目にやって!」亮が叫ぶが、鬼火もどこかふざけた様子でふわふわと宙を舞っている。


二人は再び鬼火を追い始めた。本殿の裏手から山道にかけて、鬼火は自由気ままに動き回り、二人を翻弄する。


「亮、そっちから回り込んで!」

「了解!」


亮が風を利用して鬼火を追い詰めると、葵がタブレットを構えた。「これで捕まえたら、私たちの勝ちね!」


タブレットから放たれたエネルギー網が鬼火を包み込む。すると、鬼火は一瞬だけ抵抗したものの、網に絡め取られた。


「やったー!」葵が歓声を上げると、亮も息を切らしながら笑った。「マジで大変だったな……」


捕獲された鬼火は、再び人の顔を浮かべて言った。「まさか本当に捕まるとは……やるな、お前たち」


「なにこれ、褒められてる?」葵が首をかしげると、鬼火は続けた。「我は、この神社の守護霊のような存在だ。ただ、ここ数日、濃い妖気に影響されて悪戯心が抑えられなくなっていた」


亮が眉をひそめて尋ねた。「じゃあ、お前が悪さしてたってこと?」


鬼火は申し訳なさそうに「まあ……その通りだな」と答える。





_______________________________________________


捕獲作戦を終え、二人は鬼火を封印する準備を整えた。


「まあ、こんなに騒がれることはもうないよね?」葵が笑いながら言うと、鬼火は「反省している。今後は静かに神社を守るつもりだ」と答えた。


亮が「次はおとなしくしてろよ」と釘を刺すと、鬼火は「はいはい」と気の抜けた声で応えた。


神社を後にする二人。空には満天の星が輝いていた。葵がふと呟く。「亮、こういう任務も悪くないね」


亮は苦笑いを浮かべながら答えた。「もうちょっと簡単だったらな」


二人の笑い声が夜空に響き、冬の奥多摩は再び静寂に包まれていった。

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