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東京幻怪録  作者: めくりの
五章 彼方の光との共鳴

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閑話休題1-「鍋と湯気と、心を繋ぐひととき」

 冷たい風が通り抜ける中、本庄麗奈、深見夏菜、相馬葵の三人は、商店街の賑わいを楽しみながら食材を探していた。夕陽に照らされた屋台や店舗の看板が暖かい雰囲気を醸し出し、どこか懐かしさを感じさせる光景が広がっている。


「見て、あの白菜。すごく立派じゃないですか?」

葵が指差したのは、青々とした大きな白菜が並ぶ八百屋の店先だった。葵はまるで宝物を見つけたように目を輝かせ、すぐさま手に取る。

「鍋には絶対これが必要だよね!」

勢いよく買い物かごに入れる葵を見て、麗奈は柔らかな笑みを浮かべた。


「葵ちゃん、本当に鍋が楽しみなのね。けれど、量には気をつけないと……お腹いっぱいになっても余ってしまうわよ。」

麗奈の優しい声に、葵は少しだけ口をとがらせる。「いやいや、麗奈さん、鍋の良いところは次の日の雑炊も楽しめることなんですよ!だから多めに買っても問題なし!」


一方、夏菜は少し離れたキノコ売り場で、真剣な表情で品定めをしていた。手にした舞茸をじっと観察し、鮮度や香りを確かめている。

「夏菜さん、そんなに真剣に選ぶんですか?キノコって何でも鍋に合う気がするけど。」

葵が軽い調子で声をかけると、夏菜は一瞬だけ葵を見やり、淡々と答えた。

「どうせ食べるなら、最善の選択をしたいの。適当なものを入れて鍋の味を台無しにするつもりはないわ。」

その冷静な答えに、葵は「さすが夏菜さん、完璧主義だなぁ」と呟きながら笑った。


麗奈の家に帰る道中、ふとした会話が弾む。

「麗奈さんの家って、どんな感じなんですか?」

「そうだね。古いけれど、木の温もりがあって落ち着ける家よ。小さな庭もあって、四季折々の花を楽しむのが好きなの。」

麗奈が穏やかに話すと、葵の目がさらに輝いた。「いいなあ!なんか心がほっこりしそうな家ですね。私、次は花見にも呼んでくださいよ!」

「もちろんよ、葵ちゃん。」


夏菜は二人のやり取りを黙って聞きながらも、ふと視線を麗奈に向けた。「家にそんな庭があるなんて、落ち着いた暮らしぶりね。特務機関の仕事をしながら、それを維持するのは簡単ではないはず。」

その言葉に麗奈は少し目を細め、「庭を手入れしている時間が、私にとっての癒しなのよ」と答えた。


______________________________________________


玄関を開けると、木の香りと柔らかな照明が迎えてくれた。リビングには、手入れの行き届いた古風な家具が並び、温かみのある雰囲気が広がっている。

「わぁ、想像以上に素敵!」葵が声を上げ、部屋を見渡す。

夏菜も少し興味深そうに棚の上の花瓶や写真立てを眺めた。

「どれも落ち着いた雰囲気ね。ここなら、忙しい日々を忘れられそう。」

その言葉に、麗奈は微笑みながらキッチンへ向かう。「さあ、鍋の準備を始めましょう。買ってきた食材を使って、たくさん楽しみましょうね。」


___________________________________________


麗奈は手慣れた様子で具材を切り分け、出汁を整える。一方で、葵は野菜を洗ったりテーブルを整えたりと活発に動き回る。

「夏菜さん、手伝いましょうよ!私だけ働いてるみたいじゃないですか!」

そう言われた夏菜は、仕方なく立ち上がり、キッチンへ向かう。「わかったわ。でも、私の手際には期待しないで。」

葵はそんな彼女の言葉に笑いながら「大丈夫、麗奈さんがいるから何とかなりますよ!」と軽口を叩く。


麗奈は二人のやり取りを聞きながら、包丁を動かしていた。「こんな風に皆で集まれるのは嬉しいわ。戦いの日々が続いていると、こうした日常のありがたさを感じるものね。」


_______________________________________________


鍋から立ち上る湯気が部屋を温め、三人の笑顔がその場を明るくする。葵は最初から勢いよく食べ始め、鍋の美味しさに感動しきりだった。

「麗奈さん、この出汁、本当に美味しい!料亭に負けない味ですよ!」

「そんなに褒めても何も出ないわよ」と麗奈は笑うが、その表情には嬉しそうな色が見える。


夏菜も静かに鍋を味わいながら、一言。「確かに美味しい。これが家庭の味だなんて驚きだわ。」

その感想に葵が「夏菜さんも意外とグルメなんですね!」と茶化すが、夏菜は「ただ事実を言っただけ」と冷静に返す。そのやり取りに麗奈は小さく笑みを浮かべた。


時間が経つにつれ、会話は自然と個々の思い出や苦労話に移る。葵は自分の失敗談を面白おかしく語り、夏菜がそれを冷静に突っ込みながらも微笑む。そして麗奈は二人を見守りながら、ふと心の中で思った。

「この子たちが笑顔でいられることが、何よりも大切ね。」


そして、彼女自身もまた、癒される時間を共有できたことに感謝していた。


鍋の湯気の向こうに浮かぶ三人の穏やかな表情。それは、戦いの日常を忘れさせるひとときであり、彼女たちの絆を深める大切な時間となった。


夜も更け、麗奈の家には静けさが戻りつつあった。鍋の熱気が徐々に冷めていく中、リビングに残る三人は、それぞれの心に温かい余韻を抱えていた。空になった鍋の横には、食べきれなかった野菜や少しの具材が皿に並び、部屋には柔らかな灯りが静かに揺れている。


葵は、クッションに身を預けながら、満足そうに伸びをした。「いやー、お腹いっぱい!今日の鍋は最高でしたね!」

彼女の笑顔は無邪気で、まるで任務中の緊張感をすべて忘れたかのようだった。


「全力で食べて、全力で感想を言うのが葵ちゃんらしいわね。」夏菜が淡々とした口調で言いながらも、目元にはわずかに柔らかな表情が浮かんでいた。彼女の前には、麗奈が淹れた熱いお茶が置かれ、立ち上る湯気がその顔をぼんやりと包んでいる。


麗奈は片付けをしながら、二人のやり取りを微笑ましく眺めていた。長い戦いの日々の中で、こうして穏やかな時間を持てることが、彼女にとって何よりの癒しだった。片付けを終えた麗奈が二人の隣に腰を下ろすと、部屋の空気はさらに落ち着いたものになった。


「今日は、ありがとうね。こんな日がもっと増えたらいいわ。」

麗奈の穏やかな声が部屋に響き、葵が元気よく頷く。「次は何にしましょう?鍋もいいけど、お好み焼きとかも楽しそうじゃないですか?」

「そうね。でも次回は皆も呼びたいわね。」麗奈の提案に夏菜が軽く頷いた。「あの騒がしい連中が集まると、賑やかどころか大騒ぎになるでしょうけど。」

その言葉に三人は顔を見合わせ、思わず笑みを交わした。


ふと、外から風の音が聞こえてきた。冷たさを感じる風の中でも、部屋の中は鍋の余韻と彼女たちの笑顔で温かかった。


「それにしても、麗奈さんの家って本当に居心地がいいですね。」葵がぽつりと呟き、天井を見上げた。「こういう空間があったら、どんな任務も乗り越えられそうな気がします。」

その言葉に麗奈は微笑みながら答えた。「私の家がそう思えるなら嬉しいわ。でも、それはここにあなたたちがいるからよ。」

葵と夏菜は少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み返した。


静かに流れる時間の中、三人の絆はさらに深まっていた。戦いの日々は続くが、こうしたひとときがある限り、彼女たちはきっとどんな困難も乗り越えていけるだろう。


鍋の香りと笑顔の記憶を胸に、それぞれが次の任務へ向けて少しだけ元気を取り戻す夜だった。

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