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東京幻怪録  作者: めくりの
五章 彼方の光との共鳴

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第六十八話 「皆を守る光」

 東京の夜空は、星も見えない曇天に覆われていた。湿った風が海辺を吹き抜ける中、静かな湾岸の工業地帯に突如として異変が起きた。海面に不気味な光が差し込む。最初は遠くに揺らめくような青白い光だったが、それは次第に強烈な輝きを放ち始めた。


その中心には、直径100メートルを超えると思われる巨大な光球が浮かび上がっていた。光球は静かに脈動し、周囲の空間が歪むほどの強力な波動を放っていた。その影響で湾岸地域一帯の通信網が遮断され、工場の機械は次々に停止。遠く離れた民家の電化製品すらも不調をきたしていた。


光球の下、海水は沸騰するように泡立ち、その熱気が霧状となって周囲を覆い尽くしていた。異常な熱が空気を歪ませ、湾岸にはどこか現実感のない光景が広がっていた。


_______________________________________________


湾岸近くに設けられた臨時の作戦本部では、アトラスのメンバーたちが光球を遠くから監視していた。最先端のドローンやセンサー機器がフル稼働し、膨大なデータがチームのモニターに送られている。


「これは…ただの地球外物体ではない」

セリーナがモニターを凝視しながら呟く。その声は普段の軽口とは異なり、真剣そのものだった。


ジエンも隣で別のスキャナーを操作しながらデータを追加した。

「波長データの解析が完了した。既知のどのエネルギーにも該当しない。これは未知の存在が放つものだ」


セリーナが頷き、続けた。

「これほどの力を放つ生命体がいるなら、軍事レベルの対応では太刀打ちできない。すぐに冥府機関の協力を仰ぐべきだわ」


_______________________________________________


同じ頃、冥府機関のメンバーが現場へ急行していた。その中には葵もいた。移動中の車両の中、彼女は窓の外に映る遠くの光球を見つめていた。光球から放たれる波動が彼女の心に微かな違和感を与えていた。


「この波動…なんだか、どこか懐かしいような感じがする」


その時、彼女の心にルミエールの声が響いた。

「その波動は私の故郷の力に似ている。しかし、完全に一致しているわけではない。何かが歪んでいる…敵意を持った別の存在が影響を及ぼしている可能性が高い」


葵は目を細めながら問いかけた。

「つまり、私の力を使う時が来たってこと?」


ルミエールは一瞬の沈黙の後、穏やかな声で答えた。

「まだ判断を急ぐべきではない。だが、準備はしておけ。いつでもエターナルリンクを使えるように」


その言葉に葵は小さく頷いた。彼女は右腕を握り締め、深く息を吸った。誰にも知られていない自分の秘密。その力が今後、どんな結果をもたらすのか、彼女自身にも分からなかった。


_______________________________________________


冥府機関とアトラスが到着したのは、光球がピークの輝きを放った瞬間だった。光球はまるで脈打つ心臓のように膨らみ、そして突然、一瞬の静寂を迎えた。


次の瞬間、光球が崩壊するように弾けた。眩い閃光が周囲を包み込み、一帯はまるで昼間のような明るさに照らされた。その光が収まると、そこには異形の巨大な怪獣が立っていた。


その姿は、地球上のどの生物とも異なる異質なものであった。体長は100メートルを超え、硬質な外骨格に覆われている。その表皮は、漆黒に微かな紫色の光が走る模様が浮かび上がり、生命体というよりも機械と有機体の融合のように見えた。


無数の触手が体の周囲をゆらゆらと動き、それが地面に触れるたびに鉄が焼け焦げるような音が響く。その触手の動きには規則性があり、まるでそれ自体が独立した意識を持っているかのようだった。


頭部にあたる部分には、発光体が二つ配置されており、まるで目のように周囲をスキャンしている。怪獣が地面に一歩踏み出すたび、地響きが東京全体に伝わり、周囲の建物が激しく揺れた。


_______________________________________________


政府は即座に「第一級脅威」として認定し、付近の住民に避難命令を出すとともに、自衛隊の迎撃部隊を出動させた。戦車やミサイルが一斉に火を吹き、怪獣の巨体に向かって雨のように降り注ぐ。


しかし、怪獣の表皮を覆うエネルギーフィールドが全ての攻撃を無効化していた。ミサイルは爆発するどころか、触れることすらできずに弾き返され、戦車の砲弾もまた、無音のまま霧散する。


自衛隊の司令官が声を荒げた。

「防御フィールド?この化け物に攻撃が効かないだと!?」


_______________________________________________


その頃、冥府機関のメンバーが現場に到着。深見夏菜が双短剣を構え、目の前の怪獣を鋭い目つきで観察していた。彼女は妖気を敏感に感じ取り、冷静に判断を下した。


「この怪獣…ただの物理的存在じゃない。妖気の波動が明らかに混ざっている…!」


灰島凛がその言葉に頷き、影喰いを構えた。

「おそらく、黒羽根の女が関与している可能性が高い。奴の力が、この存在を歪めているのだろう」


その時、怪獣の触手が大きく動き、近くの建物を一撃で粉砕した。その衝撃に葵は足元が揺れるのを感じた。


葵は状況を見つめながら心の中でルミエールに問いかけた。

「これ…私たちだけで本当に止められるの?」


ルミエールが静かに答えた。

「我々が力を合わせれば可能だ。しかし、君が迷う限り、その力は解き放たれない」


葵は深く息を吸い込み、決意を固めた。エターナルリンクの力が必要になる瞬間が近づいているのを彼女は感じていた。


_______________________________________________


 アトラスのリーダー、アレックス・ケインが通信機を手に取り、冷静に命令を下す。

「全隊員、配置につけ。第一目標は住民の避難誘導、第二目標は怪獣の足止めだ」


その隣ではセリーナがデータを解析し続けていた。「エネルギーフィールドが見える? あの外骨格に加え、周囲に防御バリアが張られているわ。このままじゃ攻撃は通らない!」


「分かった、できる限り時間を稼ぐ」

アレックスが頷き、重火器を装備したヴィクトールと共に前線へ向かった。


その頃、冥府機関のメンバーたちは現場付近に到着していた。

「なんだ、この霊気の濃度……ただの物理的な怪獣じゃないぞ」

深見夏菜が双短剣を構え、鋭い目で怨獣を睨む。隼人も戦斧を握りしめながら息を呑んでいた。


「これは黒羽根の女が関わっている可能性が高い」

凛が影喰いを構えながら冷静に言い放つ。その言葉に全員が緊張感を高めた。


葵は仲間たちの背後で、怨獣と対峙するアトラスの戦闘を見守りながら、自分の右腕に宿る力を見つめていた。エターナルリンクは微かな光を放ち、彼女の決断を促すかのように脈動している。


「……この力を使えば、みんなを守れる。でも、バレたら……」

彼女は仲間たちの顔を思い浮かべた。その中には、自分を信じてくれる凛たちや、冗談で緊張を和らげてくれる隼人の姿があった。


「迷うな、葵。時間がない」

ルミエールの声が心に響く。その静かな言葉には、彼自身の決意も感じられた。


「分かってる。でも……少しだけ時間をちょうだい」

葵は心の中でそう返し、仲間たちに気づかれないようにその場を離れた。


アトラスと自衛隊が協力し、怨獣の動きを封じるべく次々と攻撃を仕掛けていた。ヴィクトールの重火器から放たれる弾丸は怨獣の触手を撃ち抜こうとしたが、漆黒のバリアに阻まれてしまう。


「くそっ、どれだけ撃ち込んでも効かねぇ!」

ヴィクトールが汗を拭いながら叫ぶと、リアムがスナイパーライフルを構えながら冷静に答えた。

「弱点があるはずだ。どこかを狙えば……」


「そんな余裕はないぞ!」

アレックスが咆哮し、次の指示を飛ばす。「全隊員、距離を取れ! あの触手の動きに巻き込まれるな!」


冥府機関も援護に加わる中、夏菜が短剣を投げて触手の一つを貫いたが、すぐに再生してしまう。

「再生速度が異常……ただの妖気じゃない!」


凛が影喰いを振り下ろしながら叫ぶ。「奴は全ての攻撃を吸収している。全員、距離を保て!」


その時、瓦礫の中から現れた光が戦場全体を包んだ。異星人として変身した葵が、怨獣の前に立ち塞がったのだ。その巨体は怨獣と同じサイズまで膨張し、青白い光を放つ姿は、まるで神話の英雄のごとく輝いていた。


戦場全体が一瞬静まり返り、アトラスの隊員たちや冥府機関のメンバーが彼女の姿を見上げた。

「あれは……?」

隼人が驚愕の表情を浮かべながら呟く。


凛もその姿を見つめながら静かに口を開いた。「……あの時の奴だ」


葵は無言で怨獣に向かって一歩を踏み出した。その動きは静かでありながら、圧倒的な存在感を放っていた。


怨獣が触手を振り下ろすと、葵はその一撃を右腕で受け止め、次の瞬間にはその触手を捻り上げて地面に叩きつけた。その動きには異星人の力だけでなく、葵自身の強い意志が込められていた。


胸のクリスタルが再び輝きを増し、彼女の右腕に光のエネルギーが集中していく。現れたのは、かつてのイクリプスランスを遥かに超える大きさと力を持つ槍だった。槍の先端には青い炎のようなエネルギーが揺らめき、その輝きだけで周囲の空間を浄化していく。


葵はその槍を天高く掲げ、怨獣に向かって振りかざした。


槍を構えた葵の動きは速かった。怨獣が次々と触手を繰り出してくる中、それをかわしながら一気に接近する。その槍が怨獣の胸部に突き刺さると、槍のエネルギーが爆発的に広がり、怨獣の体全体を包み込んだ。


怨獣の咆哮が戦場全体に響き渡り、触手が次々と崩壊していく。最期にはその巨体が光の中で砕け散り、跡形もなく消滅した。


戦場には静寂が戻り、葵はゆっくりと槍を下ろしながら、その場に立ち尽くしていた。





変身が解けた葵が静かに仲間たちのもとへ歩み寄った。その姿を見た凛が彼女に近づき、低い声で問うた。

「葵、何が起きた?」


葵は微笑みを浮かべ、ただ一言だけ答えた。「なんとか……間に合ったみたいです」


その背後でエターナルリンクが微かに輝き、彼女とルミエールの絆が深まっていくのを感じ取れた。葵はその光を見つめながら心の中で呟いた。


「これからも一緒に戦おう。ルミエール、私たちはもう一人じゃない」


そして、彼女の目に映る東京の空は、少しだけ澄み渡っているように見えた。





_______________________________________________


 冬の東京に、静かな朝が訪れていた。雪の気配すら感じる冷たい風が吹き抜ける中、冥府機関の東京本部では一つの節目が訪れようとしていた。多国籍戦闘組織「アトラス」のメンバーたちが、ついに帰国の途に就く時間が迫っていたのだ。


「結局、こっちに来てからずっと戦いっぱなしだったな」

アトラスのリーダー、レイモンド・カーターが肩をすくめながら、搭乗前の最後の準備を整えていた。その姿は相変わらず洗練されており、彼の穏やかな笑みは、激闘を共にした仲間たちへの感謝を滲ませていた。


「君たち冥府機関は想像以上にタフだったよ。まるで……怪物と戦うために生まれた組織だな」

カーターは微笑みながら、隣に立つ凛に手を差し出した。


「こちらこそ助かった。君たちの戦術と経験は、今後の作戦に大きな助けになる」

凛がその手を握り返すと、二人の間に短いが重みのある握手が交わされた。


「お互い、次に会うときはもう少し穏やかな場面だといいな」

カーターの言葉に凛は軽く頷いたが、その目には常に警戒を緩めない冷静さが宿っていた。


「亮、君のその風を使った戦い方、驚いたよ。僕も真似してみたいけど、あれは才能だな」

アトラスの副官で情報担当のエレナ・クライスが亮に話しかけた。彼女は冷静で理知的な性格だが、戦いを経て互いに親しみを感じるようになったようだ。


「はは、エレナさんが本気でやったら、きっと俺なんかよりすごいですよ!」

亮が笑いながら答えると、エレナは「今度教えてくれ」と冗談めかして微笑んだ。


一方、葵はアトラスの通信技術者、アイヴァン・ステルスキーと談笑していた。

「あなたたちの装備、すごかったですね。あのドローン、操作するの楽しかったです」

「それは光栄だ、だが君たちの妖気探知システムも興味深かった。技術交流の機会があればいいな」

葵の右手首を指し示しめすアイヴァンの言葉に葵は頷きながら、またの再会を願うような表情を浮かべていた。


やがて、車で送られたアトラスのメンバーたちは空港に到着した。チェックインカウンターで手続きを終え、搭乗ゲートへ向かう途中、最後に東京本部のメンバーたちが見送りにやってきた。


「元気でな!」

隼人が大きな声で手を振りながら見送ると、アトラスの射撃手で陽気な性格のジャック・ホールデンが「そっちもな!」と笑いながら返した。


麗奈はそっと微笑みながら、「皆さんの無事を祈っています」と丁寧に頭を下げた。アトラスのメンバーたちもそれに応えるように軽く手を挙げ、搭乗ゲートの向こうへと消えていった。




_______________________________________________


 アトラスが去った後、東京本部のメンバーたちはいつもの任務に戻った。

原宿での激戦から数日が経ち、街の修復作業が進む中、妖怪や怨霊の発生も以前と変わらず頻繁に報告されていた。


凛は本部に戻る車中で、仲間たちに語りかけた。

「特別な力を持つ存在がいなくても、俺たちのやることは変わらない。地道に進めるぞ。」


その言葉に全員が頷いた。隼人は窓の外を見ながら、「何だか、普通に戻るのも悪くないな」と呟いた。


東京本部では、負傷したメンバーたちも順次復帰し、再びそれぞれの役割を果たし始めた。

葵はエターナルリンクを腕に隠しながら、日常のパトロールを再開していた。彼女の中で異星人ルミエールとの共生はまだ完全に馴染んでいないが、少しずつその存在を受け入れ始めていた。


「さて、今日も頑張らないとね」

葵は明るく言いながら、タブレットを手にして原宿の街へと向かった。


こうして、冥府機関の東京本部とアトラスの交流は一区切りを迎えた。だが、黒羽根の女の脅威が消え去ったわけではない。

その足音は、再び近づいてきている。冥府機関の日常は、その先にあるさらなる試練へと続いていく—―

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