第六十五話 「アトラスの来日と怨の再燃」
アメリカ・バージニア州、CIA本部。
灰色の壁に囲まれた機密会議室で、一人の女性分析官がプロジェクターに映し出された画像を指し示した。画面には巨大怨獣の原宿襲撃時の模様と、その後に確認された青白い巨大な人型の存在が映っている。
「これが、問題の映像です」
分析官の声に、会議室内の面々が沈黙を保つ。室内の中央に座る男――アトラスの指揮官アレックス・ケインが、腕を組みながら画面をじっと見つめた。
「……ガキっぽい趣味だな」
隣に座るリアム・オサリヴァンが皮肉めいた笑みを浮かべながら口を開く。
「残念ながらモンスターパニックじゃないんだ」
ケインが低く静かな声で応じる。
「原宿で確認された巨大生命体。目撃者の証言では、何かの霊的な存在が合体して生まれたらしい。そして、その後の青白い人型の存在……こいつは、明らかに地球外の技術か力だろう」
「つまり、我々のターゲットは2つ――あの巨大な怨獣の正体と、謎の人型生命体。その両方を掘り下げるってことね」
セリーナ・カルデナスが、腕を組みながら冷静に言葉を続けた。
「そういうことだ。情報収集と解析は後回しにできない。日本政府もこれを機密事項として封じ込めた。だが我々は、裏に何が隠されているかを知る必要がある」
ケインの言葉に全員が頷く。
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冷たい冬の朝、羽田空港のプライベートターミナルに一機の軍用輸送機が静かに着陸した。周囲を厳重に警備する日本の自衛隊の隊員たちの中を、迷彩柄のジャケットを着た8人のチームが降り立つ。その胸に光るエンブレムには、「ATLAS」と刻まれた盾のマークが描かれていた。
彼らはアメリカ中央情報局(CIA)の要請を受け、超常的な脅威が頻発する日本に派遣された多国籍戦闘組織、「アトラス」の精鋭たちだ。
「日本は異常なほどの超常現象が集中している国だ」
リーダーのアレックス・ケインは、渡航前に渡された資料を思い返していた。巨大怨獣の目撃情報、謎の宇宙的エネルギーの痕跡、そして未確認生物。アトラスはこれらの脅威を調査し、封じ込めるために送り込まれたのだ。
空港の一角で待ち構えていた日本政府の高官たちとの形式的な挨拶を済ませると、冥府機関からの迎えの車両が到着した。その中には、リーダーの灰島凛をはじめ、数名の冥府機関メンバーが乗っていた。アトラスの隊員たちは無言で車両に乗り込み、都内の極秘会議室へと移動した。
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会議室に集まった両チームのメンバー。冥府機関の灰島凛が先に口を開いた。
「我々は冥府機関の東京本部です。この国の超常現象は、我々が長年対処してきました。あなた方の目的を伺いたい」
その声は冷静だが、明確な警戒心が込められていた。アトラス側のリーダー、アレックス・ケインも微笑を浮かべつつ、冷静に答えた。
「我々は国際的な視点から事態を分析し、可能な限りサポートするために派遣されました。情報共有と共闘を望みますが、独自のアプローチで任務を遂行するつもりです」
灰島の目が一瞬だけ鋭く光る。
「独自のアプローチですか。我々の手法とは異なるということでしょうね」
その場の空気が一瞬凍りついたが、冥府機関のムードメーカー、相馬葵が軽快な声で割り込んだ。
「まあまあ、皆さん。落ち着いて」
その場は一時的に和らいだものの、両チームの根本的な違いは明らかだった。冥府機関は伝統と霊力に基づく戦術を重視する一方、アトラスは科学と技術を駆使する。彼らの協力関係は、表面的なものにとどまる可能性が高かった。
一方で、葵の心の中では別のやり取りが行われていた。数日前に一時的に同化した宇宙人「ルミエール」の声が、再び彼女の意識に響く。
「葵、あの男…アレックスと呼ばれるリーダーは、私たちの存在に気づく可能性がある」
葵は表情を崩さないまま、心の中でルミエールに答えた。
「どうして?エターナルリンクは私しか知らないし、変身もしてないのに」
「彼のような人間は感覚が鋭い。彼らの装備が私の痕跡を検知することもあり得る」
葵は視線をアトラスのメンバーに向けた。冷静な表情を浮かべるアレックス、寡黙に立つヴィクトール、そして情報担当のセリーナの目線が、自分を鋭く観察しているように感じられた。
「でも、私たちが本当に危険な状況にならない限り、変身する気はないよ。エターナルリンクだって、必要な時にしか出現しないんだから」
ルミエールの声が少し柔らかくなった。
「その判断を信じる。だが、彼らが我々の力を敵とみなさないよう慎重でいてくれ」
葵は軽く頭を振り、心の中の会話を断ち切る。ルミエールとの共生関係は、まだ誰にも話していない秘密だった。それが自分にとっても、チームにとっても良いことだと信じていた。
協力の始まり?
会議の終盤、冥府機関とアトラスは仮の協力関係を結んだ。しかし、両者の間には根本的な隔たりが残っていた。
その夜、葵はふと自分の右腕を見つめた。もし、また怨獣が現れたら、またはアトラスが敵対者となったら――エターナルリンクが再び自動で装着され、変身することになるのだろうか。
彼女は小さくため息をついた。
「…ルミエール、あなたと一緒にいると、ややこしいことばっかりだよ」
「それでも私は君を守る。私の存在が脅威になることはない」
その言葉に少し救われた葵は、夜の静けさの中、戦いのために心を整えた。
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朝の陽射しが、瓦礫の山と再建工事の現場を照らしている原宿。数日前の巨大怨獣事件の爪痕がまだ色濃く残る街で、人々は日常を取り戻そうと努力していた。突如、空気に異変が走る。風が止み、低いうなり声のような音が街中に響いた。
「妖気反応が急激に上昇しています!」
葵がタブレットを見つめながら叫ぶ。デバイスに映し出された地図は、原宿の中心部に赤い警戒ゾーンを表示していた。
「何だ、この反応は…前回の怨獣よりもさらに巨大だぞ!」
深見夏菜が鋭い目つきで言い、双短剣を腰から引き抜く。すぐ隣では灰島凛が静かに剣の鞘に手をかけた。
その頃、冥府機関とは別ルートで原宿に向かうアトラスの隊員たち。ヴィクトールが運転する装甲車の中で、アレックスはGPSモニターを確認しながら指示を出していた。
「現場に到着したら直ちに敵を制圧する。冥府機関の手法は尊重するが、今回の主導権は我々が握る」
車内で微かに緊張が走る。アトラスと冥府機関の協力関係はまだ不安定だった。アメリカ発の多国籍組織であるアトラスは科学と技術に基づいたアプローチを重視する一方、冥府機関は長い歴史と霊的手法に基づいて敵と対峙する。互いの信念の違いがすでに軋轢を生んでいた。
怨獣の再出現
原宿の竹下通りに差し掛かった瞬間、アトラスと冥府機関の両チームは目を疑った。瓦礫の山の中心から、まるで地獄から這い出してきたかのような異形の姿が現れた。怨霊の塊で形成された巨体――無数の顔が絡み合い、怒りと絶望の叫び声が街全体に響き渡る。
「推定高さ、約30メートル。質量は不明…だが明らかに前回のものを超えている」
セリーナが素早くデータを分析し、通信で報告する。
怨獣がゆっくりと動き出す。脚部とされる部分が地面を踏みつけるたび、震動がビルの窓を砕いた。ヴィクトールが大型火器を構え、狙いを定める。
「先に動きを止める。全員、攻撃態勢に入れ!」
アレックスの声が響き、アトラスのメンバーが迅速に配置についた。
一方で、冥府機関の深見夏菜は怨獣の背後を狙い、忍び寄る。
「怨獣の体から発する妖気が、周囲の空間を歪ませている…攻撃は慎重に」
灰島凛が短く指示を出す。
作戦方針の対立
アトラスは最新兵器を使った物理的な攻撃で怨獣を制圧しようとし、冥府機関は妖気を封じ込める術式を準備していた。しかし、この二つのアプローチはすぐに衝突を引き起こした。
「物理的に動きを封じ込めれば、その後に浄化は容易になる!」
アレックスが自信を持って提案するが、夏菜は首を横に振った。
「それでは怨霊を完全に消滅させられません。一時的な解決では復活する可能性があります」
激しい口論の中で、怨獣が隙を突いて攻撃を始めた。地面が裂け、瓦礫が宙を舞う。その衝撃で二つのチームの間の緊張は一気に高まった。
葵の内なる葛藤
戦闘の最中、葵の右腕が薄く光を放ち始めた。変身アイテム「エターナルリンク」が自動的に反応している。ルミエールの声が彼女の心の中に響いた。
「葵、エターナルリンクを使えばこの状況を早急に終わらせることができる。だが…それは君の仲間にも私の存在を知られるリスクを伴う」
葵は心の中で答える。
「分かってる。でも、今変身したら、アトラスにバレる可能性が高すぎる。それに、これは私たちだけの秘密のはず」
ルミエールは静かに説得を試みた。
「だが、このままでは仲間の命が危険に晒される。それを君は許せるのか?」
葵は息を飲んだ。エターナルリンクの光がますます強くなる。深見夏菜や灰島凛が敵と戦い、傷を負いながらも立ち向かっている姿が目に入る。
しかし、葵は意を決した。
「ルミエール、ごめん。今は使えない!」
その瞬間、エターナルリンクの光は消え、腕は再び元の状態に戻った。
「君の判断を尊重する。だが、いずれ必要な時が来る。その時は迷わないでくれ」
葵はわずかに頷き、気を引き締めた。
共闘と勝利
アトラスと冥府機関のメンバーたちは、やがて互いの強みを活かし合い始めた。ヴィクトールの重火器で怨獣の動きを封じ、深見夏菜の双短剣がその隙を突いて妖気を弱める。アトラスのセリーナは冥府機関の術式を解析し、効率的な支援を提供した。
最終的に、灰島凛が怨獣の中心部に剣を突き刺し、封印の術式を発動。怨獣はゆっくりと消滅していった。
戦いの後で
静寂が戻った原宿。冥府機関のメンバーとアトラスが顔を合わせる。
「今回は協力できたが、次も同じようにいくとは限らない」
アレックスがそう言い残し、去っていく。
葵は少し離れた場所で右腕を見つめた。
「ルミエール、私はこの秘密を守り続けられるのかな…」
ルミエールの声が、そっと答える。
「君が選んだ道だ。私はそれに従うだけだ」
葵は深呼吸をし、歩き出した。戦いは終わったが、彼女の中には新たな葛藤が芽生えていた。




