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東京幻怪録  作者: めくりの
五章 彼方の光との共鳴

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第六十四話 「共鳴する魂:決着と共生の決意」

 竹下通りの瓦礫の山を越えて、冥府機関のメンバーたちは現場に到着した。目の前に立ちはだかる怨獣の巨体は、まるで悪夢そのものだった。ビルの三倍以上の高さを誇り、その胴体は熊のように巨大で筋肉質。獅子の頭部からは鋭い牙が覗き、鳥のような翼は一振りするだけで周囲の瓦礫を吹き飛ばしていく。さらに、その足元には黒い霧がまとわりつき、歩くたびに街路を腐らせていた。


「……何だ、これ」

風間亮が思わず足を止めて呟いた。彼の視線の先で、怨獣は尾を振り回し、倒壊したビルをさらに粉々にしていく。その圧倒的な威圧感に、全員が息を呑んでいた。


「動物たちの怨念が集合している……これほどの霊気、見たことがない」

真琴が冷静に状況を分析しつつ、護符を手に準備を整える。しかし、その冷静さの裏側には明らかな焦りが見え隠れしていた。


「全員、油断するな! 負傷者の回収を優先する!」

凛の声が響き渡り、メンバーたちは散開して行動を開始した。


「こっちだ! 怪我人がいる!」

隼人が声を上げ、瓦礫の中に埋もれた市民を発見する。戦斧を肩に担ぎながらも、慎重に手を差し伸べ、彼らを安全な場所へと運んでいく。その表情には怒りと焦りが入り混じり、怨獣への攻撃に転じたい気持ちを必死に抑えているようだった。


「隼人、下がれ! 今は無理に挑むな!」

凛の指示が飛ぶが、隼人は歯を食いしばりながら戦斧を地面に叩きつけた。「……こんな奴を放っておけるか!」


その一方で、麗奈は瓦礫に挟まれた負傷者を浄化の力で癒しながら、優しい声で励ましていた。「もう大丈夫です。すぐに安全な場所へ移動しますから、安心してください。」


彼女の手元から放たれる温かな光が負傷者の痛みを和らげ、その穏やかな態度は混乱の中で唯一の安らぎとなっていた。


凛は周囲を鋭い目で見渡しながら、状況を把握していく。怨獣の動きは遅いが、その一撃一撃は街全体を壊滅させるほどの威力を持っている。さらに、その体から放たれる霊気の波動がメンバーたちの動きを鈍らせていた。


「斎藤、距離を取って支援射撃を続けろ! 他の者は負傷者の回収を急げ!」

凛の指示に応じて、斎藤は高台に位置取り、特製の妖気弾を装填したライフルを構えた。冷静に狙いを定めるその姿は、まるで動じることのない機械のようだった。


「頭部の動きを封じられれば……だが、あいつは硬すぎる」

斎藤の呟きと共に放たれた弾丸が怨獣の眼窩に命中する。しかし、怨獣はその衝撃を物ともせずに頭を振り、さらに黒い霧を周囲に撒き散らした。


「くそ……これじゃあ近づけない!」

隼人が戦斧を握りしめ、苛立たしげに呟く。彼の体には怨獣の霊気がまとわりつき、動きを封じるような重圧を感じていた。


「隼人、今は前線を維持することに集中しろ!」

凛が冷静に指示を飛ばすも、隼人の表情にはまだ攻撃への衝動が見え隠りしていた。「……俺に守るだけってのは無理なんだよ!」


だが、隼人も凛の言葉の重みを理解していた。今は抑えるべき時だと。


一方、葵は負傷者を安全な場所へ誘導しながらも、頭の中で異星人の声を感じていた。


「君の力が必要だ。このままでは彼ら全員が危険に晒される」


葵は一瞬立ち止まり、瓦礫の山を見つめる。そこには必死に負傷者を助ける仲間たちの姿があった。


「……今のままじゃ、駄目だ」

葵は胸の中で密かに決意を固めた。この異星人の力を使えば、この状況を変えられるかもしれない。しかし、それを使うことは、仲間たちに自分が異星人と同化していることを知られるリスクを伴う。


「でも……やるしかない」

葵の瞳には揺るぎない意志が宿り始めていた。彼女の中で、異星人の力がさらに強く鼓動し始める。


怨獣は再び巨大な尾を振り回し、瓦礫の山をさらに粉砕していく。その衝撃で地面が大きく揺れ、隼人と麗奈がバランスを崩しそうになる。


「くそ……持たないぞ、このままじゃ!」

隼人が叫ぶ中、凛は刀を握りしめながら叫んだ。「全員、次の霊気波動に備えろ! 陣形を崩すな!」


彼らが耐え忍ぶ中で、葵は徐々に歩みを止め、異星人の力を完全に引き出す覚悟を固めていた。


「……次は、私の番だ」


_____________________________________________


黒い霧と瓦礫が広がる原宿。怨獣の巨体がゆっくりと頭をもたげ、その咆哮が街全体を震わせる中、葵は一人、人目を避けて狭い路地へと足を踏み入れていた。仲間たちは負傷者の回収や怨獣への対応に追われ、葵の異変に気づく者はいなかった。


「これしかない……」

葵は震える手で胸元に触れ、そこで確かに鼓動する異星人の力を感じ取っていた。そしてその時、眩い青白い光が彼女の腕に集中し、現れたのはブレスレット型の装置――エターナルリンクだった。


中央にはクリスタルのような青い宝石が埋め込まれ、その輝きは生命そのものを象徴するかのようだった。複雑に絡み合う銀と赤の模様が装置全体を覆い、その一部が葵の腕に溶け込むように固定されていく。


「……私は一人じゃない。この力でみんなを守る!」

覚悟を決めた葵は、装置に手をかざして力強く叫んだ。


その瞬間、エターナルリンクが眩い光を放ち、葵の体が光の粒子に包まれて浮かび上がった。銀色と青白いエネルギーが彼女の体を縁取り、まるで宇宙空間そのものが彼女の周囲に広がるかのような幻想的な光景が広がる。青いクリスタルから流れるエネルギーが体全体を覆い、葵の体が次第に巨大化していった。


彼女の体は左右非対称のデザインを持ち、銀色のラインと赤い模様が強調されたスリムで力強いシルエットを形成していく。胸の中心には青いクリスタルが埋め込まれ、光を放つたびに彼女の存在感をさらに強調する。


最後に彼女の背中に光の翼のようなオーラが広がり、地面に立った瞬間、その身長は怨獣と同等の巨大さに達していた。


_____________________________________________


瓦礫の隙間から、その異変に気づいた凛や他のメンバーたちは、一瞬その光景に言葉を失った。


「……なんだ、あれは?」

隼人が思わず戦斧を握りしめながら呟いた。彼の視線の先には、怨獣と対峙する巨大な存在――変身した葵の姿があった。


「まさか……誰かが操っているの?」

麗奈が怪訝そうな表情を浮かべる一方で、凛はその姿にただならぬ異質さを感じ取っていた。


「いや、これは……未知の力だ」

凛は冷静な判断でメンバーたちを退避させるよう指示しつつ、内心ではその存在が味方なのか敵なのか見極めようとしていた。


一方、遠くから見守る自衛隊と在日米軍も、映像に映るその巨大な存在に驚愕していた。


「……新たな怪異か、それとも援軍なのか?」

隊長たちが判断を保留する中、目の前で繰り広げられる戦闘に目を凝らしていた。


______________________________________________


怨獣は葵――いや、異星人へと変身した彼女に向かって大きな咆哮を放つ。その音波が周囲の空気を震わせる中、葵は一歩も退くことなく、静かにその場に立ち続けていた。


怨獣の尾が空を裂くように振り下ろされる。だが、葵はその一撃を巨大な腕で受け止めると、鋭い動きで怨獣の胴体に向かって拳を放った。

その一撃は重く、怨獣の巨体が大きく揺れる。だが、怨獣はすぐさま体勢を立て直し、今度は翼を振りかざして鋭い風の刃を送り出してきた。


異星人は風を受けながらも前進し、怨獣の頭部に向かって跳躍した。彼女の膝蹴りが怨獣の頭に直撃し、その巨体が一瞬バランスを崩した。


_______________________________________________


戦闘が激化する中、葵の胸のクリスタルがさらに強く輝き始めた。その輝きは周囲を圧倒し、彼女の右腕にエネルギーが集中していく。次第にそのエネルギーは長大な槍の形を取り、光の槍『イクリプスランス』として具現化された。


槍の先端は鋭利で、中心には青い光の核が揺らめいている。その槍を片手で掲げた異星人の姿は、まるで神話の英雄のようだった。


彼女は怨獣の方向に静かに槍を構えた後、一気に力を込めて投げ放った。その動作はしなやかでありながら、圧倒的な力を感じさせた。


槍は音を立てて空を切り裂き、怨獣の胸部に正確に命中する。瞬間、青白い光が爆発的に広がり、そのエネルギーが怨獣を包み込んだ。怨獣の咆哮が消え、巨体が崩れ落ちていく中、槍の光だけが空に残った。


__________________________________________


戦闘が終わり、瓦礫の山が静まり返る。葵はゆっくりと人間の姿へと戻り、瓦礫の間から姿を現した。誰にも何も言わず、彼女はただ静かに仲間たちのもとへ歩み寄る。


「葵、無事か?」

凛が冷静に尋ねる。葵は短く頷き、笑顔を浮かべてみせた。


だがその胸の中には、異星人の力を宿す者としての新たな責任が芽生えていた。彼女はそれを誰にも告げず、胸の奥に秘めることを決意した。


「これからも、私たちは戦い続ける。」

エターナルリンクが微かに輝く中、葵の中で新たな覚悟が固まる。そして、その輝きは、これからの未来への希望を象徴するものだった。


__________________________________________


戦いの終わりを迎えた原宿。かつて賑わいを見せていた街並みは瓦礫と煙に包まれていたが、怨獣が消滅した後の空は嘘のように澄み切っていた。冬の冷たい風が吹き抜ける中、葵は仲間たちと分かれ、一人で静かな路地に入った。


「……やっぱり、一人になりたくなるんだね」

頭の中に響く異星人の声は、どこか柔らかく優しい響きを持っていた。戦いの最中、互いの意識が深く交わったことで、葵は彼の存在を単なる「力」以上のものとして感じ取っていた。


「これからもずっとこうなのかな……?」

葵は腕に装着されたエターナルリンクをそっと見つめながら呟いた。その輝きは静かで、心を落ち着かせるような温かさを持っていた。


「君に負担をかけているのは分かっている。この力は、君の世界にとっても異質なものだ」

「でも、この力がなかったら……私はみんなを守れなかった」

葵は深く息を吐き、続けた。

「あなたの力がなかったら、もっと多くの人が傷ついてた。だから、私は……その力を受け入れるよ」


しばらくの沈黙が続いた後、異星人の声が慎重に、だが感謝を込めて答えた。

「ありがとう。君のその決断が、この星と私の存在を繋げるものとなる」


「でも……教えてほしい。」

葵は視線を遠くの空へ向けた。

「これから私がその力を使うたび、何かを失っていく気がするの。あなたがどれだけの存在なのか、私にはまだ全部分からない。だけど……」


「私は君を傷つけるために存在しているのではない。むしろ、君を通じてこの世界を救うために共にいる。それが、私がこの星に来た理由だ」

その声には、異星人の真摯な思いが込められていた。


「分かった。なら、もう迷わない」

葵は静かにエターナルリンクに触れ、その光が再び小さな波動を生むのを感じた。


葵はふと笑みを浮かべ、そっと呟いた。

「ねえ、あなたに名前をつけてもいい?」

異星人は一瞬戸惑ったように感じられたが、柔らかな声で答えた。

「君がそうしたいのなら」


「じゃあ……『ルミエール』。光って意味の名前よ」

その瞬間、エターナルリンクが一瞬強く輝き、異星人の声が少しだけ嬉しそうに響いた。

「ルミエール……悪くない名前だ」


葵はその後、静かに路地を抜け、仲間たちが待つ広場へと戻った。隼人が遠くから彼女に気づき、笑いながら手を振る。


「葵! どこ行ってたんだ? 俺たちで片付けは終わらせておいたぞ!」


「ごめんごめん! ちょっと風に当たりたくてさ!」

葵は軽い調子で返しながら、内心で新たな決意を胸に秘めていた。


「戻るぞ。次に備えなければ」

凛の冷静な声に全員が頷き、それぞれの役割を再確認しながら歩き出した。


葵はその背中を見送りながら、そっとエターナルリンクを握りしめる。


「ルミエール、これからもよろしくね」

「もちろんだ、葵」


葵と異星人の共生の旅は、これから始まる新たな戦いの中で、さらなる深い絆を育むことになるだろう。

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