第六十一話 「統合への決断」
冷たい風が冥府機関東京本部の建物を吹き抜ける冬の朝。灰島凛は資料を読みながら、朝の静けさに耳を傾けていた。その静寂を破るように、通信装置から上層部からの緊急連絡が入る。
「灰島凛。至急、全メンバーを会議室に集合させろ」
無機質な声に僅かな緊張感を覚えた凛は、すぐに指示を実行に移した。全員が集まる中、凛は冷静な声で要件を伝える。「上層部から、重大な発表があるとのことだ」
葵が首をかしげながら口を開く。「なんだろうね。黒羽根の女絡みかな?」
「それとも、新しい任務か?」亮が言葉を続ける。
凛は二人のやり取りを無視しつつ、資料を手に取って本部長室へと向かった。
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本部長室のモニターには、上層部の代表が映し出されていた。重々しい声が、直接的な言葉で状況を説明する。
「現在、東京における魑魅魍魎の被害が急増している。加えて、黒羽根の女の活動が明らかに活発化しており、これまで想定されていなかった範囲で被害が拡大している」
「我々はこの事態を鑑み、東京本部を関東の全機関の統合拠点とすることを決定した。この統合により、人員・資源を東京に集中させ、対策の効率化を図る」
その言葉に凛は眉を潜めた。「具体的に、どの程度の規模の統合になるのですか?」
「関東に存在する全ての支部を統合する。これにより、東京本部は予備人員含めて現在の三倍以上の規模になると見込んでいる」
統合の背景には、三つの重大な理由があった。
・東京の被害拡大
東京における妖怪や魑魅魍魎による被害者が急増している。特に、都市部での怪異が頻発しており、住民への影響が日々拡大しているという。
・黒羽根の女の活動の活発化
黒羽根の女が各地で暗躍し、その力を利用した新たな妖怪や怨霊が出現している。東京を中心に活動が確認されており、放置すれば更なる被害が予測される。
・妖気の異常集中
東京に妖気が異常な濃度で集中しており、これが新たな怪異を生み出す原因となっている可能性が高い。上層部はこれを「自然な現象ではない」と結論付け、徹底した調査と対応を求めていた。
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上層部からの通達を受け、凛はすぐに全員を会議室に集めた。部屋の中には、緊張感が漂っていた。
「……つまり、東京本部が関東全域の拠点になるってこと?」
葵が驚いた顔で訊ねると、麗奈が静かに頷いた。「それだけ状況が切迫しているということなのでしょう」
「でも、急にそんな大規模な統合を進めたら、現場が混乱するんじゃないか?」
隼人が腕を組みながら不安そうに呟く。
「それはあるだろう。だが、現状を考えれば、これしか手段はない」
真琴が冷静に言葉を補足する。
凛は全員を見渡しながら話し始めた。「確かに統合は大きな変化だ。しかし、この決定は避けられないものだと俺は思う。東京は今、妖気が異常なまでに集中し、黒羽根の女の動きが加速している。これに対抗するには、全ての力を結集する必要がある。統合に伴い、これまでとは異なる任務の形が求められるだろう。だが、俺たちはこれまでと同じように、冷静に任務をこなしていくだけだ。」
凛の言葉に、全員が静かに頷いた。それぞれが緊張と不安を抱えながらも、彼らには戦士としての覚悟があった。
「……なら、今は統合がスムーズに進むよう準備するしかないわね」
沙羅が静かに言葉を添える。その言葉には確かな決意が感じられた。
葵がふと笑顔を浮かべ、「それにしても、人が増えたら賑やかになるよね! ちょっと楽しみだな!」と言うと、亮も「確かに! きっといろんな奴が来るんだろうな」と続ける。
その様子を見て、麗奈が柔らかく微笑む。「どんな状況でも、私たちが支え合っていればきっと大丈夫ですよ」
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会議が終わり、凛は一人資料室に向かった。手に取った地図には、これから統合される各支部の位置が示されている。
「東京が全ての中心になる……か」
凛は呟きながら、影喰いの柄に手を触れた。視線の先には、東京の地図に赤く記された危険区域。その一つひとつが、これから彼らが向き合わねばならない新たな戦いを象徴していた。
冬の冷たい風が窓を叩き、外には次第に雪が降り始めていた。東京を中心に、これまで以上に苛烈な戦いが待っていることを、凛は確信していた。
「俺たちの仕事が増えるだけだ。それでいい」
その言葉には、リーダーとしての決意が静かに込められていた。




