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東京幻怪録  作者: めくりの
四章 東京・大阪交流会

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第五十七話 「交差する刃と神-前編」

 冬の冷たい風が吹き抜ける中、訓練場では東京本部と大阪本部のメンバーが交流会を一旦終え、休憩を取っていた。

テーブルの上には温かいお茶や軽食が並び、葵や亮はそれを囲みながら大阪本部のメンバーと談笑している。


「ほんま、東京の人らも体力すごいわ。でも、もっと大阪流の豪快さがあったら完璧やで!」

堂島が豪快に笑いながら、ついさっきの模擬戦の感想を述べる。


「いやいや、そっちこそ手加減してたんじゃないですか?」

隼人が笑いながら答えると、堂島は肩をすくめた。「まあ、ちょっとはな。けど、次はもっとおもろいこと見せたるで!」


そんな和やかな空気の中、凛は少し離れた場所で静かにお茶を啜っていた。

「リーダーさん、あんまり喋らへんのやな」

大阪本部の浪速翔太が茶を持って近づく。


「必要以上に話すのは苦手なだけだ」

凛が短く答えると、翔太は苦笑しながら「冷静でかっこええな」と呟いて席を立った。


その時、空が異様に暗くなり始めた。

まだ昼過ぎだというのに、夕刻のように太陽が雲に隠れ、訓練場の空気が一変する。風が強まり、どこからか低い唸り声のような音が響いてきた。


「なんや、これ……?」

沙羅が眉をひそめて空を見上げる。


次の瞬間、大阪本部の通信装置がけたたましい警報音を発した。全員が一斉にそちらに視線を向け、堂島が急いで通信を受け取る。


「こちら大阪本部別動隊、緊急報告!現在、大阪城公園にて異常発生!巨大な妖気反応が確認され……くっ……!援護を要請……!」

通信が途中で途切れ、雑音だけが響く。


「おいおい、どういうことや!」

堂島が怒鳴るように再度通信を試みるが、応答はない。


「大阪城公園……さっき別動隊が調査に行っていたはずだな」

凛が冷静に言葉を発する。


「そうや、向こうで妙な妖気があるっちゅうて、様子見に行ってたんやけど……」

堂島は通信機を握りしめながら舌打ちした。


その時、隣にいた浪速翔太が慌ててタブレット端末を操作し、妖気の反応を確認する。「隊長!これ……ただの妖怪やないで!規模がデカすぎる!怨霊とか妖怪の範疇の妖気やない!」


「見せてみろ」

斎藤がタブレット端末をのぞき込む。なにか心当たりがあるように眉をひそめる。


「こいつ、山の神の妖力にそっくりだ。そいつ以上の神クラスの化け物がいるのか」

斎藤が堂島の方に目線を向ける。


「死ぬ覚悟でやれよ」


「いわれるまでもないわ」

堂島が返す。


堂島は立ち上がり、全員を見渡した。「悪いけど、ここはうちの大阪本部が対応する!交流会どころやない!」


「いや、俺たちも手伝う」

凛が一歩前に出るが、堂島は手を振って止める。「リーダーさん、気持ちはありがたいけど、ここは地元の問題や。うちだけでなんとかする!」


「しかし――」

凛が言いかけたところで、斎藤が彼の肩を軽く叩く。

凛は静かに頷き、堂島たちが急いで出動の準備をする様子を見守った。大阪本部のメンバーたちは次々と装備を整え、それぞれの武器を手に取る。


「頼むで、無事で終わらそな」

浪速翔太が明るく言いながら双剣を構え、沙羅も「全力尽くします」と短く告げていた。


堂島は最後に振り返り、東京本部のメンバーに力強く言った。「悪いけど、うちらが戻るまで待っとってくれ。」


「わかった。」

凛が短く答え、堂島たちは大阪本部のトラックに乗り込み、冬の空の下、大阪城公園へと向かった。


______________________________________________


トラックが大阪の市街地を走り抜け、次第に大阪城公園が近づいてくる。しかし、車内の空気は普段の大阪本部らしい軽妙なやり取りとは程遠かった。全員が緊張した面持ちで、それぞれの武器を確認し、無言の準備を進めている。


「神クラスなんて話、そうそうあるもんやないな」

浪速翔太が双剣を見つめながら呟く。


「けど、どうせ相手にせなあかんねんやろ?」

堂島が雷鳴号を片手で軽く持ち上げ、隣の沙羅に目を向ける。「バリア、しっかり頼むで」


「ええ、わかってます」

沙羅は短く返事をし、鏡型の妖具を抱えるようにして目を閉じた。彼女はすでに、到着後に展開する結界の構想を練っていた。


後部座席では、此花鈴が数珠を手に祈りを捧げている。その様子を見た道頓堀照が軽く扇を揺らしながら声をかけた。「そんなに気ぃ張らんでええよ、鈴ちゃん。俺らの役割は何があっても皆を守ることや」


「でも……こんな規模の妖気、私たちだけで大丈夫なんでしょうか」

鈴が不安げに呟くと、堂島が振り返って豪快に笑った。「心配いらん!俺たちは大阪本部や!どんな相手でもぶっ倒したる!」


その言葉に車内の空気がわずかに軽くなった。しかし、全員が感じていた。今回の敵は、過去のどの戦いとも違う特別な存在であることを。


______________________________________________


到着した大阪城公園は、すでに異様な光景と化していた。あたり一面を覆う黒い霧、枯れ果てた木々、そして空を覆う重苦しい雲。霧の中からは何かが蠢いているかのような気配が伝わってくる。


「……こりゃひどいな」

堂島が雷鳴号を構えながら低く呟く。


「別動隊の人たち、どこにいるの……?」

沙羅が恐る恐る前方を見つめるが、霧の中には人影どころか、生物の気配すら感じられない。


浪速翔太がタブレット端末を操作しながら言った。「隊長、反応がある!でも、普通の妖気じゃない。まるで生き物そのものが妖気でできてるみたいや……」


その時、霧の中から一つの影が現れた。それは別動隊のメンバーだった。しかし――


「おい!大丈夫か!」

堂島が声をかけると、そのメンバーはこちらに向かって歩み寄ってくる。だが、次の瞬間、異様な笑い声をあげながら地面に崩れ落ちた。彼の体からは黒い霧が立ち上り、まるで何かに取り憑かれたかのように捻じ曲がっていく。


「くそっ……完全にやられてる」

堂島が悔しげに唸り、すぐに背後にいるメンバーに指示を出す。「全員、準備せえ!来るぞ!」


霧の中から次々と別動隊のメンバーだったと思しき人影が現れる。しかし、彼らはすでに正気を失い、異形の姿へと変貌していた。それは人間の形を残しながらも、手足が異様に長くなり、黒い液体を滴らせている。


「全員、構えろ!」

堂島が叫び、沙羅が即座にバリアを展開する。「月映の楯」が輝きを放ち、広範囲にわたる防御結界が張られた。


「来いや!大阪本部が相手したる!」

堂島が雷鳴号を撃ち放ち、一体の異形を吹き飛ばす。その一撃で霧の一部が晴れるが、さらに奥からは無数の異形が押し寄せてくる。


「こいつら、どんだけおんねん!」

浪速翔太が双剣を振るい、近づく異形を次々と切り裂く。その動きは素早く、まるで舞うような戦闘スタイルだった。


「数は多いけど、個々の力はそこまで強くない。全員、落ち着いて対処を!」

沙羅が指示を飛ばしながら、仲間たちを守るようにバリアを強化する。


その時、霧の奥から異形とは全く異なる圧倒的な存在感が現れた。それはまるで空間そのものが歪むような感覚を伴い、次第にその輪郭が見え始める。


「……本丸や。」

堂島が低く呟き、全員がその言葉の重みに凍りついた。


大阪城公園の中央に立つ大阪本部のメンバーたちの周囲は、黒い霧に覆われていた。風すらも凪いでいるような不気味な静寂の中、霧の奥から聞こえる低い唸り声が次第に大きくなる。


「……何や、この感覚」

浪速翔太が双剣を構え直しながら小声で呟く。その顔はいつもの明るさを失い、冷や汗が滲んでいた。


「邪神クラスの妖気……ただの感覚でわかるな。これは……桁違いや」

堂島が雷鳴号を構え直し、仲間たちに目を配る。


霧の奥から、徐々に巨大な影が姿を現す。それは人間の形をしているが、異常に長い手足と歪な頭部、全身を覆う黒い鎧のような質感の皮膚を持っていた。頭部には三つの目が縦に並び、その全てが赤黒い光を放っている。


その巨体が一歩を踏み出すたび、地面が低く唸り、震える。神の存在そのものが、この空間を支配しているようだった。背後に広がる大阪城が、まるで背景の飾りのように霞んで見える。


「……さすがに、洒落にならん規模やな」

堂島が唇を噛みながら呟く。


「これは……結界で防ぎきれるかどうか……」

沙羅が震える声で言いながらも、鏡型の妖具をさらに妖気で強化する。


「おいおい、これ一体だけで終わるんか?」

浪速翔太が冗談めかした口調で言うが、その表情は冗談を言っている場合ではないことを物語っていた。


神は一切声を発さない。ただ、その縦に並んだ三つの目が一斉に輝き、視線をメンバーたちに向けた瞬間――猛烈な圧迫感が全員を襲った。


「くっ……これだけで押し潰されそうになる……!」

沙羅が膝をつきかけながら、バリアを必死に維持する。


次の瞬間、神が腕を振り上げた。その動きは鈍重に見えたが、振り下ろされた瞬間、衝撃波が地面を抉り取り、周囲の木々をなぎ倒した。


「避けろ!」

堂島が叫ぶと同時に、全員が散開する。沙羅のバリアが衝撃波の一部を防ぐが、その余波だけで周囲の地形が変わるほどの威力だった。


浪速翔太が背後から双剣で斬りかかるが、邪神の黒い鎧に刃が触れると、火花を散らすだけで傷一つつけられなかった。


「こいつ、硬すぎやろ!」

翔太が叫ぶと同時に、神が振り向きざまに手を振り払う。その一撃で翔太は吹き飛ばされ、地面を転がった。


「鈴、翔太を頼む!」

堂島が命じると、此花鈴が駆け寄り、即座に治療を始める。


「どないしたら、この硬さを破れるんや……!」

浪速が呟く中、堂島が雷鳴号に妖気を込め、最大威力の弾丸を放つ。その弾丸は邪神の胸部を直撃し、爆風を巻き起こした。しかし、邪神は微動だにせず、ただ視線を堂島に向ける。


「全然効いてへん……!」

堂島が驚愕の声を上げる。


邪神は再び腕を振り上げ、大地に叩きつけた。その衝撃で地面に巨大な亀裂が走り、瓦礫が宙を舞う。沙羅が全力でバリアを展開し、何とかその攻撃を凌ぐが、バリアはひび割れ、彼女自身も膝をつく。


「もう……限界……」

沙羅が肩で息をしながら呟く。


「全員、後退せえ!」

堂島が叫び、浪速や鈴、照たちはそれぞれの距離を取りつつ、次の攻撃を考える。しかし、邪神は全く隙を見せない。むしろ、その存在感がさらに増していく。


「これ以上は持たへん……!隊長、どうする!?」

浪速翔太が叫ぶが、堂島も答えを出せずにいた。


その時、遠くから高く鋭い銃声が響き、神の肩口に妖気弾が炸裂した。


「これは……!?」

浪速翔太が振り返ると、霧の向こうから一団が現れる。


「やはり、間に合ったようだな。」

凛の冷静な声が響き渡る。その背後には東京本部のメンバー全員が揃い、各々が武器を構えていた。


「東京本部……!」

堂島が驚愕の表情で言う。


「大阪本部の先輩方、ここからは一緒にやらせてもらいます!」

葵がタブレットを掲げながら明るい声で叫び、隼人が戦斧を肩に担いで続ける。「そっちは休んでていいぜ!俺たちが相手してやる!」


東京本部のメンバーが徐々に戦線に加わり、神に向き直る。大阪本部のメンバーはその異常な身体能力と精鋭らしい戦い方に圧倒されつつも、心の中で安堵と期待を抱いていた。


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