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東京幻怪録  作者: めくりの
三章

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第四十四話 「断ち切る斧、走る影」

 八王子の深夜、異様な静寂が街を包んでいた。

それは通常の夜の静けさではなく、不気味な重みを伴った沈黙だった。商店街の明かりが消えた通りには人影はなく、風も止まり、音のない世界が広がっている。突如として現れた異常な事件――何者かが夜の道を通ると、足元から鋭い音が鳴り響き、振り返った瞬間には消えている。だが、その後を追うのは必ず「テケテケ」と音を立てる何か。


結城隼人が現場に到着したのは深夜2時だった。

その巨体が降り立つと、静まり返った通りがわずかに揺れるような圧迫感を伴った。彼の手には重厚な戦斧が握られている。それは妖気を注ぎ込むことで異形を一刀両断にする力を持つ特別な武器だ。隼人はその刃を軽く確認しながら、周囲の霊的な空気を敏感に察知していた。


「嫌な空気だな……、この通り全体が飲み込まれそうだ」


短く呟きながら、隼人は通りの奥に目を向けた。月明かりに照らされたアスファルトの地面には、長い擦れた跡が不規則に広がっている。まるで何かが這いずり回ったかのようなその痕跡は、この場所に異常な存在が潜んでいることを物語っていた。


背後で突然、鋭い音が響いた。「テケ、テケ……」

隼人が素早く振り返ると、影のようなものが視界の端を掠めた。通常の人間の動きではない。壁際を這うようにして走るその影は、不自然に早く、音もなく移動していく。それが完全に視界から消える前に、隼人は戦斧を振り上げ、周囲の状況に集中する。


「おい、遊びのつもりなら相手を間違えたぞ……出てこい」


隼人の声は低く、響き渡るような威圧感を帯びていたが、周囲は再び静寂に包まれたままだった。だが、その時、背後の建物の上から奇怪な笑い声が聞こえた。それは人間の声に似ていながらも、どこか金属が擦れるような異音が混じっていた。


建物の上から突然、テケテケが現れる。

それは人間の上半身だけの姿をした異形だった。上半身が鋭利な爪のような手で地面を這い回り、下半身が欠損しているにも関わらず驚異的な速さで隼人に迫ってくる。その動きはまるで地面を滑るようで、しかも予測不能なジグザグの軌道を描いていた。


「なるほど……」


隼人は戦斧を構え、即座に攻撃の態勢に入る。その巨体に似合わない俊敏な動きで、テケテケの不規則な突進を紙一重でかわすと、戦斧を振り下ろす。妖気を込めた斧の一撃が地面を割り、その衝撃が波紋のように周囲に広がった。


だが、テケテケはその刃をぎりぎりで回避し、背後に回り込む。そのスピードは常軌を逸しており、普通の人間であれば反応する間もなく首を刈り取られていただろう。しかし、隼人は冷静だった。


筋肉質な身体から繰り出される動きは、巨体とは思えないほど軽やかだ。地面を強く蹴り、わずかに身を反らしながら再び戦斧を振るう。その動作には一切の無駄がなく、斧の刃が空気を切り裂く音が深夜の街に響き渡る。


テケテケは回避を試みるが、隼人の力強い一撃がかすめ、その片腕が地面に転がった。だが、それで終わりではなかった。テケテケは苦痛を感じることもなく、すぐさま動きを再開し、さらに狂気じみた速度で隼人に襲いかかってきた。


「タフだな……だが、まだ俺の全力は見せてないぞ」


隼人は戦斧にさらに妖気を込め、斧の刃が淡い光を放ち始める。それは周囲の霊的な空気を振動させ、次第にテケテケの動きにも影響を与え始めた。


隼人とテケテケの激しい戦いは続く。

テケテケは奇声を上げながら壁を駆け上がり、建物から建物へ飛び移る。隼人はそれを見逃すことなく、追撃を続けた。地面を砕き、壁を蹴り、時には自分の巨体を活かしてテケテケの進路を塞ぐ。異常な身体能力と判断力を駆使して、隼人はテケテケを追い詰めていった。


やがて、テケテケは行き場を失い、商店街の突き当たりに追い詰められる。隼人はその動きを見逃さず、戦斧を高く構えた。


「これで終わりだ……!」


隼人は全力で戦斧を振り下ろした。その一撃は地面を裂き、テケテケの体を真っ二つにするかのようだった。だが、テケテケはその瞬間、煙のように霧散し、隼人の視界から消えた。


しかし、戦いは終わりではなかった。

背後から再び「テケ、テケ……」という音が響き、隼人はすぐさま振り返る。そこには、先ほどのテケテケとは異なる姿が現れていた。より大きく、より異様な形に変化しているその姿は、まるでテケテケそのものが進化を遂げたかのようだった。


「くそ、まだ続くのかよ……面白いじゃねぇか」


隼人は口元に笑みを浮かべると、再び戦斧を構えた。その瞳には恐れの色はなく、ただ目の前の敵を討つという強い意志だけが宿っていた。


目の前に現れた新たなテケテケは、明らかに先ほどの個体を上回る異様な存在感を放っていた。その体はより長く歪み、血走った無数の眼が背中から覗いている。手足のように伸びた肋骨が、地面を這う度に鋭い音を立てた。


「なんてこった……これじゃまるで、魑魅魍魎の集合体みたいだ」


隼人は戦斧を握り直し、足元のバランスを整える。彼の体格と斧の重さが、アスファルトの地面にわずかなヒビを生んでいた。


異形は驚異的な速度で隼人に突進してきた。その動きは人間の限界を超えており、視覚で追うことが難しいほどだった。鋭い爪が振り下ろされる刹那、隼人は身を翻し、わずかにかわした。


「遅いな!」


隼人はその隙を見逃さなかった。全身の力を込めて戦斧を振り上げ、一気に叩きつける。斧が空気を切り裂く音が響き、地面を抉るほどの衝撃を伴って斬撃が放たれた。その一撃がテケテケの胴体をかすめ、霊気の煙が噴き出す。


だが、それでも動きを止めないテケテケ。胴体の傷は即座に修復され、まるで自らの妖気を糧に再生しているようだった。隼人は顔をしかめながら、わずかに息を整える。


「再生能力まであるのか……手こずらせやがる」


戦場は八王子の廃墟と化した商店街全体に広がっていった。

テケテケは地面だけでなく、壁や天井を駆け回り、四方から隼人に襲いかかる。その速度と軌道は予測困難で、まるで街全体がその存在に侵食されているかのようだった。


隼人はその巨体を活かし、壁を蹴って空中で姿勢を整えると、再びテケテケに向かって斧を振り下ろす。衝撃波が壁に直撃し、瓦礫が周囲に飛び散る。その瓦礫を足場にして、隼人はさらに追撃を仕掛ける。


「遊びはここまでだ! 全力で仕留めてやる!」


隼人は妖気をさらに斧に注ぎ込み、刃が青白い光を放ち始める。その光は周囲の霊気を浄化するように広がり、テケテケの動きに一瞬の鈍さが生まれた。その瞬間を逃さず、隼人は真っ向から斧を振り下ろした。


テケテケは大きく揺らめき、地面に崩れ落ちた。

だが、それはまだ終わりではなかった。倒れたかに見えたその体から無数の小さなテケテケが生まれ、周囲に散らばり始めた。隼人はその光景を見て舌打ちをし、即座に次の行動に移る。


「一体だけじゃ済まないってか……面倒な奴だ」


小型のテケテケたちは、高速で隼人の周囲を取り囲み、一斉に襲いかかってきた。その数は数十体に及び、まるで波のように押し寄せてくる。その中を隼人は力強く突進し、戦斧を旋回させる。巨大な刃が風圧を生み出し、小型のテケテケたちを次々と切り裂いていく。


全ての小型体を切り裂いた隼人の前に、再び巨大なテケテケが姿を現した。それは最初のものよりもさらに異様で、背中には無数の怨霊の顔が浮かび上がっていた。その目は隼人を睨みつけ、鋭い声で鳴き叫ぶ。


「これが本体か……上等だ!」


隼人は全身の妖気を戦斧に集中させた。刃が発する光は一層強くなり、周囲の空間を震わせるほどだった。本体が隼人に向かって突進する瞬間、彼は巨体を活かして足元の地面を蹴り上げ、一気に空中から斧を振り下ろした。


その一撃は轟音とともにテケテケの体を真っ二つにし、地面に深い亀裂を刻んだ。怨霊の顔が悲鳴を上げるように消え去り、テケテケの本体はついに崩れ落ちた。


隼人は息を整え、戦斧を肩に担ぎ直す。周囲には瓦礫と、かすかに漂う霊気の残骸だけが残されていた。月明かりが彼の背中を照らし、その大きな影を地面に落としている。


「まったく……当分は引退できねぇな」


隼人は苦笑いを浮かべながらその場を後にした。街には静けさが戻り、テケテケの恐怖も完全に消え去った。だが、彼の中にはどこか満たされたような達成感と、次の戦いへの準備を進める覚悟があった。


八王子の夜は静かに明けていく。だが、冥府機関の戦いはまだ終わりを迎えることはない。

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