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東京幻怪録  作者: めくりの
三章

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第三十八話 「しゃべる化け猫大捕物!~特務機関末っ子の大奮闘~」

 深夜の街、静まり返った路地裏に、どこからともなく聞こえる奇妙な声が響く。


「やれやれ、また人間どもか。ちょいと悪さをしただけで、大騒ぎしおってからに!」


その声の主は、尻尾が二股に分かれた猫、いわゆる「化け猫」である。ただの化け猫ではなく、言葉を話し、どこか憎めない調子で人をからかうのが趣味という、特務機関でも報告が珍しいタイプだ。この「喋る化け猫」を捕まえるようにと指令が下ったのは、機関の中でも一番元気な風間亮だった。


風間は現場に向かう途中、楽しげな表情を浮かべていた。


「いやー、化け猫って話すんだな!なんか面白そうじゃん?どんな声してんだろ?高いのかな、それともおっさん声かな?」


誰にともなく喋りながら、軽快な足取りで指定された路地に向かう。彼の明るい性格は、周囲の空気を和らげる効果があり、今回のような少し変わった任務でも彼を不安にさせることはなかった。もっとも、彼自身が内心どれだけ緊張していたかは、彼のポケットで軽く震える指先が物語っていた。


現場に到着すると、そこには異様な空気が漂っていた。


月明かりの下、狭い路地にはゴミ袋が散らばり、どこからか魚の腐った臭いが漂う。暗闇の奥で、風間の目に一瞬だけ光る二つの赤い目が見えた。彼が軽量刀を握りしめ、一歩踏み出すと、その赤い目がすっと動き、次の瞬間、猫の姿が現れた。


「お前か、俺を捕まえようって奴は?」


低く、しかしどこか愛嬌のある声で喋るその化け猫は、尻尾をぴんと立てて堂々と立ちはだかった。風間は驚きを隠せず、一瞬呆けた表情を浮かべた後、にやりと笑った。


「すげー、本当に喋るんだな!すげーな、猫なのに!」


「感心してる場合かよ、人間。俺を捕まえるなんざ百年早いぜ!」


化け猫との追いかけっこが始まる。


風間が風を使って素早く動こうとすると、化け猫は軽やかにジャンプし、ゴミ箱の上に飛び乗った。その動きは俊敏で、まるで風間の動きを完全に見切っているかのようだった。


「おいおい、人間のガキよ。もっと本気で来いよ、退屈しちまうぜ!」


「なんだよ、ちょっと余裕ぶってんじゃねーか。いいぜ、風の力を見せてやるよ!」


風間は指輪に妖気を注ぎ込み、突風を巻き起こしてゴミ箱を一気に吹き飛ばした。しかし、化け猫はその風をものともせず、驚異的な跳躍力で屋根の上に移動する。


「おっ、なかなかやるじゃねーか。でも俺様には勝てないけどな!」


「調子乗ってんじゃねーぞ、化け猫!」


風間は一瞬考え込み、急にニヤリと笑った。「おい、お前。猫って魚が好きなんだろ?ほら、いい匂いだぜ!」そう言って、近くのゴミ袋を破ってみせると、強烈な魚の臭いが漂い始めた。


「な、なんだこの匂いは!お前、俺様をおびき寄せるつもりか!」


「まあな。でも、食べたくなっちゃったんだろ?ほらほら、近づいてこいよ!」


化け猫は顔をしかめながらも、ほんの少しだけ興味を引かれたように風間に近づいた。その隙を突いて風間が刀を振り下ろそうとすると、化け猫は軽快に後ろに飛びのき、尻尾を振りながら笑った。


「甘いな、人間。俺様がそんな罠にかかるとでも思ったか?」


コミカルなやり取りが続く中、徐々に追い詰められる化け猫。


風間は疲れを見せず、風を操って路地を封じ込める作戦に出る。化け猫の逃げ道を限定し、その動きを封じるように風を操ると、化け猫も次第に焦り始めた。


「おいおい、なんだよこれ!ずりーぞ、こんな狭いとこに閉じ込めるなんて!」


「ずるいも何もないだろ!お前を捕まえるのが俺の仕事なんだからな!」


風間の風がさらに強まり、ゴミ袋や軽い物体が舞い上がる。化け猫は空中でバランスを崩し、ついに地面に着地する。


「降参、降参!俺様を捕まえるってんなら、せめて条件を聞いてくれ!」


風間は刀を構えたまま、片眉を上げて化け猫を見下ろした。「条件だって?そんなの聞いてやる義理はねーけど、まあ面白い話なら聞いてやるよ。」


「お前、人間としてはなかなか面白い奴だ。俺様を捕まえてどうするつもりだ?」


「どうするもこうするも、俺の任務だからな。上に渡すだけだよ。」


化け猫は少し黙り込んだ後、しぶしぶ風間の手に捕まりながら、何かを呟いた。「俺様をただの悪さする妖怪と一緒にすんなよ。話してみりゃ、意外と役に立つかもしれねえぜ?」


風間は少し考え込み、最終的には笑いながら言った。「まあ、上に相談してみるか!お前、案外悪い奴じゃなさそうだしな。」


風間は刀を収め、捕獲した化け猫を軽く抱え上げた。「お前、案外軽いな。こんな見た目して、もうちょい重いかと思ったぜ。」


「失礼な奴だな。これでも猫界では割とスリムなんだぜ。触り心地くらい褒めたらどうなんだ?」


「お前、捕まったくせにまだ強気なんだな。」風間は笑いながら化け猫を背中に背負うと、そのまま特務機関の車両が待つ場所へと歩き出した。


路地を進む中、化け猫は喋るのをやめなかった。「なぁ、お前みたいな若造が、こんな妖怪退治なんて仕事をしてるのはどうしてだ?」


風間は一瞬考え込みながら答えた。「うーん、どうしてだろうな。まあ、俺は力を持ってるし、その力を活かして誰かを助けるのは悪くないって思ってるだけさ。」


「ふーん。助けるねぇ。偉そうなこと言ってるけど、結局俺みたいなのを捕まえて満足してるだけなんじゃねぇの?」


「おいおい、そんなこと言ってる暇があるなら、せめて反省でもしてろよ。」風間は軽く肩を揺すり、化け猫を揺らす。


その時、背後から妙な風が吹き抜け、何かの気配が彼らの後ろに現れた。風間が振り返ると、そこにはぼろ布のような姿をした影が揺らめいている。夜の闇に溶け込むその姿から、低い唸り声が聞こえてきた。


「なんだ?また妖怪か?」


化け猫が風間の肩の上でビクリと震える。「そいつだ!俺様を追いかけてた奴だ!こいつがいるから、俺はここに隠れてたんだよ!」


「はぁ!?じゃあお前、ただ悪さしてたんじゃなくて逃げてたのか?」


「そういうことだよ!分かったなら早く何とかしろよ、坊主!」


風間はため息をつきつつ、指輪に妖気を込め始めた。「こんな奴の言い訳を信じるのもどうかと思うけど……まあ、面倒ごとはさっさと片付けるに限るな!」



影は低い唸り声を上げながら、風間と化け猫に向かってじりじりと近づいてきた。風間は軽量刀を抜き、風を操って影を押し返そうとする。しかし、影は風の刃を避けるように動き、しつこく彼らを追い詰める。


「おい、化け猫!そいつの弱点を教えろ!」


「俺が知ってるわけねぇだろ!でも、こいつ火には弱いかもな!」


「そんな大事なことは早く言えよ!」


風間は近くに転がっていた鉄パイプを拾い、風の力を使って軽量刀と擦り合わせて火花を散らした。その火花が影に触れると、影は一瞬後退し、不快そうな音を立てる。


「当たりだな。じゃあ一気に決めるか!」


風間は風の力を操り、周囲の落ち葉や紙くずを巻き上げて小さな炎を作り出した。その炎を影に向かって送り込むと、影は激しく揺れ、次第にその姿を薄れさせていった。


影が完全に消え去り、周囲には静けさが戻った。風間は刀を収め、改めて肩に乗る化け猫を見下ろした。


「お前、もっと早く言ってくれりゃこんなに手間取らなかったんだぞ?」


「悪かったよ。俺様もパニックだったんだ。……まぁ、お前がいなかったら、俺はあの影に喰われてたかもしれねぇな。ちょっとだけ感謝してやるよ。」


風間は笑って軽く猫の頭を撫でた。「ちょっとだけかよ。でもまあ、助けた甲斐があったな。」


______________________________________


車両に戻った風間は、化け猫を上司に引き渡す前に最後に尋ねた。「なぁ、お前みたいなのがもっと悪さをしないようにするにはどうすればいいんだ?」


化け猫はニヤリと笑い、「簡単さ。腹いっぱい美味い魚でも食わせりゃ、俺様はどこにも行かねぇよ!」と答えた。


風間は苦笑しながら言った。「そんなの、俺の給料じゃ無理だっての。」


そのやり取りに笑いながら、風間は化け猫を連れて特務機関の施設に向かう。任務は完了したが、彼の中にはどこか化け猫との別れを惜しむ気持ちも残っていた。


「また会うことがあったら、その時はもっと簡単に捕まえさせろよ。」


化け猫は最後にニヤリと笑い、「その時は俺様が追いかけてやるさ、人間!」と言い残し、風間の手を離れていった。


______________________________________


風間はその日の任務を振り返りながら、一人施設の廊下を歩いていた。「化け猫って、意外と悪い奴じゃないのかもな……いや、俺が甘いだけか?」と笑いながら呟いた彼の表情には、どこか満足げな色が浮かんでいた。


彼の元気と明るさは、特務機関にとってやはり欠かせないものだ。

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