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東京幻怪録  作者: めくりの
三章

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第三十七話 「半額セコ宇宙人」(後編)

 葵は宇宙人を冥府機関の地下施設へと連行し、取り調べ室に案内した。そこは無機質な壁と一つのテーブル、そして椅子が置かれた簡素な空間だ。しかし、室内には特殊な封印術が施されており、いかなる異能の力も発揮できない仕掛けになっていた。


「さてっと、名前ぐらい教えてもらおうかな?」


葵が椅子にふんぞり返りながら尋ねると、宇宙人は無言で睨みつけてきた。青白い目がじっと葵を見つめるが、彼女は気にする素振りもなくニコニコと笑みを浮かべている。


「いやいや、ここ地球ではね、名前がないとちょっと不便なんだよねぇ。呼ぶ時に困るからさ。まさか“半額セコ宇宙人”とか呼ばれたいわけじゃないよね?」


宇宙人は一瞬、動揺したように目を泳がせたが、すぐに背筋を伸ばし、低い声で答えた。


「我の名は、ズール=カズトーク。銀河系バルム星から派遣された調査員だ。」


「ズールさんね!」葵は親しげに名前を呼びながら、タブレットを操作してメモを取る。「で、その銀河系バルム星ってとこでは、半額シールってすごい貴重な文化とかだったりするわけ?」


「……貴様ら地球人には理解できまい。我々の星では資源が限られており、効率的な分配が文化の中心なのだ。お前たちの“半額シール”の概念は、我々の社会に革命をもたらす可能性を秘めている。」


「ほーん、つまりバルム星ではシールが未来を変えるってことね。なるほどわからん。でもね、ズールさん、地球じゃ“順番を守る”のが大事なんだよ。あのスーパーでやってたことは、地球じゃ完全に反則だからね!」


葵は指を振りながらズールを軽く諭すように言ったが、その口調はどこか軽妙だった。


「じゃあさ、ズールさん。どうして地球に来たの?資源とか技術を持ち帰るためなら、もっと正規の方法があるでしょ。なんでよりによって半額セール狙いなのさ?」


ズールはわずかにため息をつきながら答えた。「正規の方法は非効率だ。我々の星では迅速に成果を出すことが求められる。だからこそ、“現地の文化を直接体験する”という任務が与えられたのだ。」


「いやいや、体験って言っても、あれズルしてただけじゃん。あのスーパーでの空間操作、正直アウトすぎて笑っちゃったよ?」


「……それは……お前たちの行列という慣習が非合理的であるからだ。我々の社会では効率こそが正義だ。」


「なるほどねぇ。でもズールさん、効率だけで生きてたら地球の良さは分からないよ。だって、半額セールを巡る争いって、緊張感とか、人と人の駆け引きとか、そういうドラマがあって面白いんだから!」


葵が得意げに語ると、ズールは不思議そうに首をかしげた。「……ドラマとは何だ?」


「例えば、他の人が狙ってるお惣菜を横目で見ながら、どのタイミングで手を出すか考えるでしょ?そのスリルがたまらないんだって!あと、半額シールを貼る店員さんの動きも読み取らなきゃいけないから、めっちゃ集中力いるんだよ!」


葵が身振り手振りを交えながら熱弁を振るうと、ズールはますます混乱した様子で目をぱちくりさせた。


_______________________________________


最終的にズールは、自らの行為が地球の文化において不適切であったことを認めた。「どうやら我々の社会と地球の価値観には大きな隔たりがあるようだ。我が星に帰還した際、報告書に記載しておこう……“地球人は半額セールに魂を懸けている”と。」


「おっ、それいいね!正しい認識だよ!」葵は満面の笑みで答えた。「でもね、ズールさん。これからはもう少し地球のルールを尊重してほしいな。分かった?」


ズールは静かに頷き、取り調べ室の空気が少し緩んだ。その後、ズールは冥府機関の収容施設へと連行され、地球文化に関する更なる教育を受けることとなった。


_______________________________________


取り調べを終えた葵は、仲間たちに任務報告を提出し、疲れた様子でソファに腰を下ろした。「ふぅ……まさか半額セールに宇宙人が絡むなんて思わなかったよ。でも、なんか面白かったなぁ!」


彼女の明るい笑顔は、今回の奇妙な任務を象徴するかのようだった。そして彼女の手には、取り調べ室でズールから差し出された「謝罪の品」としてのパック肉がしっかりと握られていた。

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