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東京幻怪録  作者: めくりの
三章

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第三十六話 「半額セコ宇宙人」(前編)

 スーパーの営業時間が終わりに近づくにつれ、店内は静かな緊張感に包まれていた。半額シールが貼られるのを待つ人々の目には、狩りを目前に控えた獣のような鋭さが宿っている。パンコーナー、肉コーナー、惣菜コーナー、それぞれに小さな集団が形成され、誰もが目当ての品を狙っていた。


その中に、見覚えのある存在がいた。


「……なんで私、こんなとこにいるんだっけ?」


相馬葵は、小さく溜息をつきながらも、手にしている特殊タブレットを操作していた。画面には目に見えないエネルギーの波長が表示されており、近くにいるはずの「何者か」を探知しようとしている。


________________________________________


数日前、冥府機関に奇妙な報告が届いた。それは、「あるスーパーで夜になると不審な現象が起きる」というものだった。具体的には、半額セールの商品が不自然な速さで消え、買い物客が不満を漏らす事件が続発していた。目撃情報では、「普通の人間には見えない何かがいる」とのことだった。


「まあ、妖気とも違うけど、異常なエネルギー反応があるっていうなら見過ごせないよね」と葵は任務に志願した。だが、その言葉の裏には、個人的な興味もあった。


「だって半額シールって、生活の知恵みたいなもんじゃん。それを乱すなんて許せない!」というのが、彼女の正直な気持ちだった。


スーパーは広くもなく狭くもない、ごく普通の地域密着型店舗だった。人々は閉店間際の半額セールを狙って集まり、それぞれのコーナーで密かに戦略を立てている。葵もその中に紛れ込み、自然なふりをして様子を伺っていた。


彼女の目は、肉コーナーに陣取る一人の男に引きつけられた。男は背が高く、異様に細長い体型をしている。まるでスーツに包まれたマネキンのようだが、動きにはどこか不自然さがあった。その視線は、次々と並ぶパック肉に注がれており、何かを企んでいるのが一目で分かる。


「怪しい……!」


葵はタブレットを持ち、静かにその男に近づく。画面には微妙なエネルギー反応が表示され始め、彼がただの人間ではないことが確定した。


その瞬間、半額シールを貼る店員が現れた。手元には、キラキラと輝く半額シールの束。店内の空気が一変し、沈黙が訪れる。買い物客たちの視線が一点に集中し、心の中で計算が始まる。


「あれが狙いか……でも、なんか変だよね」


葵は再びタブレットを操作し、男の動きに注意を向ける。すると、彼の手が不自然な動きを見せた。まるで空間そのものを操作するかのように、手を振るうたびに肉パックが彼の手元に吸い寄せられていく。


「えっ、ズルい!それズルすぎでしょ!」


葵は思わず声を上げてしまったが、咄嗟に口を押さえた。男は店員の目を盗み、周囲の客に気づかれることなく肉パックを次々とカゴに入れている。その動きは、明らかに異常だった。


「確定、こいつ宇宙人だわ。てか豚肉ばっかり」


葵は静かに距離を詰め、男の背後に立った。「ねえ、お兄さん。半額戦争のルール、守ってる?」と声をかける。男はぎょろりと振り向き、その目が青白く光った。


「……人間ではない者よ、引き下がれ」


低く響く声。男の正体が宇宙人であることを隠す気はないらしい。だが、葵は怯むことなくタブレットを構える。


「いやいや、ここは地球だよ?ルール破ったら冥府機関が黙ってないからね!」


宇宙人は一瞬たじろいだが、次の瞬間、空間に手をかざして何かを操作し始めた。店内の空気が歪み、周囲の棚が微かに揺れる。葵は素早くその動きを察知し、タブレットでエネルギーの流れを解析した。


「この空間操作、やっぱりあなたの仕業か。なら、解析して終わらせるだけだよ!」


葵はタブレットにエネルギーを送り込み、宇宙人の空間操作を封じる術を発動した。その瞬間、男の動きが止まり、手元にあった肉パックが次々と地面に落ちる。


「くっ……!地球人の技術がここまでとは……!」


宇宙人が呻く中、葵は手際よく拘束用の特殊ロープを取り出し、男の手首を縛り上げた。周囲の血走った目の買い物客は何が起きたのか気づかないまま、半額商品の争奪戦を激化させる。


「さて、これでおしまいっと。冥府機関の収容所でじっくり話を聞かせてもらおうか」


葵は宇宙人を引き立てながら、満足そうに微笑む。店内のざわめきの中、彼女の勝利の余韻だけが静かに響いていた。

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