第三十四話 第一章 第十六節:黒羽根の女の凱旋
冥府機関がついに黒羽根の女の居場所を突き止めたのは、東京の西部に位置する廃墟となった大規模な工業地帯だった。その場所は奇妙な黒い霧に包まれ、鳥の羽のような形状の黒い紋様が空に浮かび上がっていた。
「この霧……これまでのどの事件よりも濃い。奴はここで私たちを待ち受けている」
リーダーの藤堂一真は影喰いを手にしながらそう呟いた。
藤堂率いる精鋭チームは、火器を扱う榊原隼人、篠宮岳人、霊術を駆使する琴音、封印を担う瑞樹、爆破専門の千佳など、多彩な戦力を揃えていた。
「これで決着をつける……行くぞ!」
藤堂の号令のもと、チームは工業地帯の中心へと向かった。
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霧の中を進むと、建物の一つから低い囁き声が響いてきた。それは不気味で耳に残るような音で、精神を侵食する力を秘めていた。
「この声、気をつけろ!精神を乱されるぞ!」
琴音が警告する。だが、その言葉が終わる前に、霧の中から無数の影が現れた。それは「影喰兵」と呼ばれる、黒羽根の女が直接操る強力な眷属だった。
「来たな!撃て!」
榊原が狙撃銃「黒閃」を発射し、遠距離から影喰い兵を迎撃する。その正確な射撃で数体を仕留めるものの、影喰い兵は再生能力を持っており、すぐに復活する。
「再生する敵ばかりだな!」
篠宮が重機関銃「獄炎」で一掃しようとするが、数の多さに押し込まれる。
「核を狙わなければ終わらない!核を探せ!」
琴音が術式を展開し、影喰い兵の核の位置を探る。核は霧の奥深くに隠されており、そこに黒羽根の女が待ち構えているのが明らかだった。
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ついにチームは霧の中心部へと到達した。そこには黒い羽根で形成された巨大な玉座があり、その上に黒羽根の女が佇んでいた。彼女の姿はこれまでの幻影とは異なり、実体を伴っていた。
「ついに来たか。愚かなる人間たちよ……私の闇に挑むとは」
その声は冷たく、空間全体に響き渡った。
藤堂が一歩前に進み、影喰いを構えた。
「お前の計画はここで終わりだ。黒羽根の女……いや、闇そのものよ!」
黒羽根の女はゆっくりと立ち上がり、羽根を広げる。その瞬間、周囲の霧が一気に濃くなり、視界が奪われた。
「戦う前から敗北を悟れ。私に挑むなど……愚かしい」
彼女が手を軽く振ると、無数の黒い羽根が矢のように飛び、メンバーたちに襲いかかった。
「避けろ!」
藤堂が叫ぶが、羽根の速度は尋常ではなく、篠宮が持つ機関銃「獄炎」が弾き飛ばされ、彼自身も吹き飛ばされた。
「くそっ!なんて力だ!」
篠宮が苦しみながら立ち上がるが、再び羽根が彼を狙う。
「琴音、結界を張れ!」
藤堂の指示で琴音が結界を展開するが、黒羽根の女の力は結界すらも簡単に破壊する。
「このままでは全滅する!」
榊原が狙撃銃を構え、黒羽根の女の胸部を狙撃する。だが、弾丸は空中で羽根に弾かれ、届かない。
「私の力は、お前たちのような者には触れられない」
黒羽根の女が指を動かすと、霧の中から巨大な影が現れた。それは「闇獣」と呼ばれる、彼女の最強の眷属だった。
「俺がやるしかない!」
藤堂が影喰いを構え、闇の獣に突進する。その漆黒の刃が獣の体を裂き、部分的に破壊した。
だが、影喰いを振るうたびに藤堂の体に異常が現れ始めた。刀が吸収する妖気と黒羽根の女の力が共鳴し、彼の精神と体力を蝕んでいた。
「影喰いが暴走している!?止めて、藤堂!」
琴音が叫ぶが、藤堂は歯を食いしばりながら闇の獣に攻撃を続ける。しかし、その代償として体力が限界に達し、ついに膝をついた。
「無駄な足掻きだ。影喰いは私の力そのもの。お前たちがその力を振るえば振るうほど、私が強くなる」
黒羽根の女が冷たく笑いながら宣告する。
残されたメンバーたちは必死に応戦するが、黒羽根の女の圧倒的な力の前に次々と倒れていった。篠宮の重機関銃は完全に壊され、榊原の狙撃銃も使い物にならなくなった。
「私たちは……これ以上、どうすればいいの……」
千佳が呟く。彼女の手にはもう爆弾が残されていなかった。
藤堂が最後の力を振り絞り、影喰いを振り上げるが、黒羽根の女はその刃を手で受け止め、静かに呟いた。
「もう終わりだ」
黒羽根の女が力を解放すると、強烈な衝撃波が周囲を飲み込み、藤堂たちは吹き飛ばされた。
瀕死の状態で藤堂は最後の力を振り絞り、通信機を操作した。
「全員、撤退しろ……ここでは勝てない……!」
琴音が結界を展開し、瑞樹が転送術式を発動して何とかその場を脱出することに成功した。しかし、チームのほとんどが重傷を負い、影喰いも黒羽根の女に汚染される形で力を封じられてしまった。
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冥府機関はこの敗北によって多くの犠牲を払いながらも、黒羽根の女の真の脅威を知った。影喰いの力が彼女に繋がっている以上、これまでの戦術は通用しない。
「影喰いに頼らずに戦う方法を考えなければならない……」
藤堂は傷を負いながらも、次の戦いに向けて新たな道を模索し始めた。
黒羽根の女の冷たい声が遠くに響いたような気がした。
「闇は常にお前たちの側にある……私は決して消えない」




