第二十七話 第一章 第九節:幕末の嵐と明治維新
幕末――徳川幕府が崩壊の兆しを見せ、各地で倒幕の動きが激化していた。
政治的な動乱の中、冥府機関もまた時代の荒波に飲まれつつあった。江戸時代の安定が終わりを迎えると同時に、妖怪たちの動きも活発化していた。それは黒羽根の女が再び影響力を広げ始めた兆候でもあった。
新たに冥府機関を率いることとなったのは、「水島鏡馬」という若い術士だった。彼は霊術を極めた実力者でありながら、幕府と新政府の対立という難しい状況下で、冥府機関の舵取りを任されることとなった。
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「妖怪の脅威に関しては、新政府側も幕府側も変わらず無関心だ。この混乱の中で、どちらが勝とうとも、私たちがその裏で闘い続けるしかない」
鏡馬は、幹部たちを前にそう語った。冥府機関は政治的な立場を持たないことを原則としていたが、戦乱の中で妖怪を利用する勢力が現れることが予測されていた。
実際、倒幕派の一部では、「戦争を有利に進めるために妖怪を使う」という危険な計画が進行していた。妖怪の力を兵器化し、敵の士気を削ぐ目的で利用しようとする動きだった。
妖怪兵器:幽炎狐
倒幕派が使用したのは、「幽炎狐」と呼ばれる妖怪だった。その狐は、体から青白い炎を放ち、触れた者の生命力を吸い取る能力を持っていた。この妖怪が倒幕派の夜襲に使われ、幕府軍に甚大な被害をもたらしていた。
「これ以上、妖怪が人間の争いに利用されることは許されない」
鏡馬は即座に動き、冥府機関の中でも最精鋭のメンバーを編成して、幽炎狐を討伐する任務を命じた。
鏡馬自身が指揮を執り、選ばれたメンバーには、次の者たちがいた。
剣士・葛木彰: 無骨な性格で、剣術に長けた戦士。
霊術師・久我沙羅: 妖気の制御と封印術に優れる若き天才。
隠密・宮田隼: 情報収集と奇襲を得意とする忍びの者。
彼らは幽炎狐が潜むとされる、京都郊外の山林に向かった。
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深夜、山林に足を踏み入れると、そこには異様な静けさが広がっていた。木々の間を漂う冷たい霧の中、青白い光が不気味に揺れていた。
「これが幽炎狐か……」
彰が剣を抜き、警戒を強める。その瞬間、霧の中から狐の姿をした影が現れ、炎を纏った尾で彼らを襲い始めた。
「気をつけて!この炎に触れると生命力を吸われる!」
沙羅が叫びながら呪符を投げ、結界を展開する。結界が幽炎狐の炎を一時的に防ぐが、その威力は凄まじく、次々と呪符が燃え尽きていった。
「これじゃ持たない……!」
隼が素早い動きで木々を駆け抜け、狐の背後に回り込む。しかし、幽炎狐はその動きを読んで尾を振り、隼を吹き飛ばした。
「ここで引くわけにはいかない!」
彰が炎の隙間を縫って幽炎狐に接近し、剣を振り下ろした。その一撃が狐の体を捉え、青白い光が弾け飛んだ。
幽炎狐の核を破壊するため、沙羅が最後の術を準備し始める。だが、その瞬間、狐が最後の力を振り絞り、全身を炎に包んで暴れ出した。
「これ以上は私たちだけじゃ無理だ……!」
沙羅が呟いたその時、鏡馬が影喰いを手に現れた。
「この刀の力で終わらせる!」
影喰いの漆黒の刃が幽炎狐の体を貫き、その核を完全に破壊した。刀から放たれる黒い光が狐の炎を飲み込み、闇へと還していった。
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戦闘が終わると同時に、鏡馬の顔には疲労が滲んでいた。影喰いの使用による負担が彼の身体を蝕んでいたのだ。それでも、彼は静かに呟いた。
「これが……冥府機関の役割だ。どんなに時代が変わろうと、我々は闇に立ち向かい続けなければならない」
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明治に入り、冥府機関はさらなる変革を迫られることになった。文明開化とともに「科学」が普及し、人々は妖怪や怪異の存在をますます迷信として扱うようになった。その結果、冥府機関の活動はさらに秘密裏に行われることになった。
しかし、黒羽根の女の影響力は依然として残っており、明治政府の一部でも妖怪の力を利用しようとする動きがあった。そのため、冥府機関は「妖怪の封印と管理」に加え、「人間による妖怪利用の阻止」という新たな使命を負うことになった。
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鏡馬は、自身の命が長くないことを悟り、次の世代へと影喰いを託す準備を始めた。選ばれたのは、彰と沙羅、そして隼だった。三人はそれぞれの得意分野を活かし、冥府機関の新たな柱として成長していった。
「影喰いは道具ではない。その力を使う者には、覚悟と責任が求められる」
鏡馬は影喰いを手渡しながら、そう語った。
明治の世が進む中、冥府機関は新たな形での活動を模索しながら、黒羽根の女の脅威に備え続けた。科学と迷信、伝統と革新――その狭間で、彼らの戦いは形を変えながらも続いていく。




