第十七話「炎に沈む街」(前編)
午後六時、新宿の街は一瞬の静寂に包まれていた。
普段ならば人々の活気で溢れるこの街が、不気味な暗雲に覆われ、赤黒い不穏な光が辺りを照らし出す。その瞬間、ビルの窓が突如として割れ、影のような異形が街の至るところで蠢き始めた。新宿の人々は混乱し、恐怖に駆られて逃げ惑うが、黒い羽根を纏った巨大な化け物が現れ、街全体を覆い尽くすように威圧感を放っていた。
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特務機関の基地に通報が入り、灰島凛がすぐさま行動を指示する。
「全員、準備しろ。どうやら新宿で大規模な妖気反応が出ている。おそらく黒羽根の女の仕業だ」
冷静に指示を飛ばす凛の横顔には、焦りを見せることなく、強い決意が宿っている。リーダーとしての彼は、どんな事態にも動じず、メンバー全員の信頼を集める存在である。
葵がタブレットを操作しながら、軽口を交えつつも分析結果を報告する。「妖気が新宿駅周辺に集中してるわね。おそらく異常な存在が待ち構えているはず。行くならしっかり準備してよ、凛!」
凛は小さく頷き、葵に安心感を与えるように冷静な眼差しを返す。そんな凛の姿に、葵はどこか頼りない兄を見つめる妹のような感覚を抱きながら、しかし彼への信頼を一層深めていた。
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新宿に到着した特務機関のメンバーたちは、街が崩壊の危機にあることを目の当たりにする。
ビルは倒壊し、道路は裂け、無数の影のような怪物が人々を襲っている。風間が指輪に妖気を込めて突風を巻き起こし、怪物たちを吹き飛ばそうとするが、その風さえも怪物たちの力の前ではかき消される。
「こいつら、普通の妖怪じゃねぇ……」
隼人が戦斧を振りかざしながら呟く。その大きな体を活かして怪物たちの前に立ちはだかり、力強い一撃で圧倒しようとするが、目の前の化け物は少しも怯むことなく彼に迫り続ける。その異常な耐久力と重さに、隼人も焦りを覚えつつも、何度も戦斧を振りかざして防戦を続けた。
夏菜も、双短剣を構えながら無駄な動き一つせず、怪物の隙を狙って麻痺毒を仕込んだ一撃を放つ。しかし、敵の巨大な体には毒が瞬時に回ることはなく、夏菜は何度も攻撃を繰り返しながらも、戦いが長期戦になることを覚悟していた。
「落ち着け、隼人。夏菜、葵、背後の動きも確認しろ」
凛の冷静な声が響き渡り、メンバー全員の動きがすぐさま整う。凛は彼らの背後に立ち、影喰いに妖気を込めて戦況を見極めながら指示を飛ばしていた。凛はリーダーとして全体を統率するだけでなく、自らの一撃が必ず命中するようタイミングを見計らっている。
戦闘が激化する中で、怪物がさらに強大な力を発揮し始める。
斎藤が遠距離からの精密射撃で怪物の弱点を狙うが、敵はその射撃さえも避けるように動き回る。そのたびに斎藤は冷静に射線を変え、仲間たちに向かって放たれる攻撃を次々と撃ち落としていく。彼の集中力と経験に裏打ちされた正確な射撃が、仲間たちを幾度も窮地から救っていた。
一方、真琴は護符を使って結界を張り、仲間たちを守ることに専念していた。戦闘中であっても、真琴の表情は微動だにせず、仲間たちの安全を第一に考えながら護符を次々と配置し、敵の攻撃を防いでいる。彼の結界はまるで静かに燃え続ける炎のようで、仲間たちに安定した戦闘空間を提供していた。
だが、ついに怪物の本領が発揮される時が訪れる。
巨大な怪物が両手を広げると、空が赤黒く染まり、無数の小さな影が新宿全体を覆うように現れた。その影は次第に形を成し、巨大な羽根を持つ異形の軍勢として具現化されていく。
「これは……まるで黒羽根の女の化身……!」
葵が驚きの声を上げ、タブレットの画面には異常な妖気の値が表示されていた。葵の無邪気な笑顔は消え、彼女の目には深い不安が宿っている。それでも葵は決して戦いを放棄せず、凛の指示に従って仲間たちの動きに合わせた妖気分析を続けていた。
麗奈は穏やかな表情を崩さず、数珠を握りしめながら浄化の祈りを捧げている。彼女の力が周囲に広がり、黒羽根の女の妖気に触れた者たちを癒し、徐々に士気を取り戻させていく。
「皆さん、信じてください。私たちの力は、決して無駄ではありません」
麗奈の声に全員が励まされ、心に新たな決意が生まれる。




