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東京幻怪録  作者: めくりの
一章

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第十五話:「鳥妖との対峙」

 関東の郊外、薄曇りの日。灰色の空の下、わずかに冷たい風が吹き抜け、辺りには不気味な静寂が漂っていた。特務機関のメンバー、斎藤義明は高台から一望できる位置に立ち、妖気を込めた特製ライフルを手にして、視界の先をじっと見据えていた。


「……来るか」


彼の低い声がかすかに響いた。斎藤は40歳、機関の中でもベテランのスナイパーとして頼りにされる存在だ。冷静で寡黙な彼だが、長年の経験で培った判断力と射撃の腕前は抜群で、彼のライフルが外れることはほとんどないと言われている。


今、彼の視線の先には一羽の巨大な鳥が舞い上がっていた。それは鳥妖、通常の動物とは異なる、禍々しい妖気をまとった存在だった。その姿は恐ろしいほど大きく、鋭いくちばしと、まるで刃のような翼を持ち、空を滑るように移動している。風に乗って鳴き声が響きわたり、まるで斎藤たちを嘲笑うかのようだった。


「これで終わらせる」と、彼は静かに息を整え、スコープに目をやる。彼の手には妖気を込めた特殊なライフルが握られていた。普通の銃弾では到底太刀打ちできない相手であり、彼の持つライフルは妖気の力を使うことで敵の弱点を突くことができる特別なものだ。


斎藤の耳に小型の通信機からの声が届く。若いメンバーの風間亮の明るい声だった。


「斎藤さん、そっちはどうですか?鳥妖が一向にこちらに来ないんですけど!」


「落ち着け、風間。あまり動くな、あの鳥妖は気配に敏感だ。無駄に動けば標的になる」


無愛想ながらも、どこか安心感のある斎藤の返事に、風間は黙って頷いた。斎藤はこうして若いメンバーに厳しい指示を与えるが、内心では彼らの成長を誰よりも期待し、見守っていた。特に風間のような若いエージェントに対しては、失敗を恐れることなく大胆に動くことも時に必要だと考えている。


「……あの鳥妖はここまで手強いとはな」


斎藤は視線を鋭くさせながら、妖怪の動きを冷静に追う。鳥妖は風を切りながら空を自由に飛び回り、斎藤を見下ろすかのように回遊していた。わずかに笑っているようにも見えるその表情に、彼の目は一層厳しくなる。


しばらくして、斎藤は少し離れた位置に立っていた風間の位置を確認した。周囲の状況を読み、鳥妖が風間に気を取られている隙に、彼は照準を定め直した。風間がいることで鳥妖の注意がそれた今が最大の好機だ。


「風間、今から鳥妖がそちらに行く。大きく動かすな、ただ誘導するだけでいい」


「了解しました、斎藤さん!」


風間の返事に、斎藤は小さくうなずく。鳥妖は徐々に低空へと舞い降り、風間の姿に引き寄せられていく。だが、斎藤はすでに距離と風向き、鳥妖の軌道を計算し、狙いを定めていた。


「……よし、ここだ」


瞬間、静寂を破るようにライフルが火を吹いた。妖気を込めた弾丸が空を切り、正確に鳥妖の翼を捉えた。その一撃で鳥妖は羽ばたきを崩し、バランスを失って大きく揺れ動く。


「お見事、斎藤さん!」


風間が驚嘆の声を上げるが、斎藤は気を緩めることなく、鳥妖が動きを取り戻す前に再度照準を合わせた。ライフルのスコープ越しに見える鳥妖は、鋭い目つきで彼を睨み返している。その表情には凶暴さと怒りが漂い、さらに恐ろしい気配を放ち始めた。


「次は……本気か」


斎藤は冷静な目で、鳥妖が完全に回復する前に狙いを定め、再び引き金を引いた。妖気をまとった弾丸が鳥妖の胸元を正確に撃ち抜き、鳥妖の動きが徐々に鈍っていく。だが、最後の力を振り絞るかのように、鳥妖が斎藤の方へ向かって突進してきた。


「風間、今すぐ退避しろ!」


斎藤は冷静に風間に指示を出し、自らは動じることなく再び鳥妖に向かって弾丸を撃ち放った。鳥妖は弾丸を受けてふらつきながらも、狂ったように斎藤に突進してくる。その迫力に普通の人間ならば圧倒されてしまうだろうが、斎藤はその場で微動だにしなかった。


最後の瞬間、彼は落ち着いた手でライフルを構え直し、鳥妖の目元を狙った。これは逃れることのできない致命の一撃であり、斎藤の完璧な射撃がその全てを貫くことを意味していた。


「ここで終わりだ」


その言葉と共に放たれた弾丸は、鳥妖の目元を貫き、妖気を破り尽くしてその動きを完全に止めた。鳥妖は空中で体勢を崩し、大きな音を立てて地面に落下した。


地面に倒れた鳥妖を確認し、風間が駆け寄ってくる。「斎藤さん、さすがです!あの距離から目元を狙い撃つなんて……僕には到底真似できないっすよ」


「訓練を積めばいい。お前も、もっと精度を上げろ」


斎藤はあくまで淡々とした口調で言い放ち、風間を軽く叱咤するが、その目にはわずかながらも温かな表情が宿っていた。彼にとって若いメンバーたちの成長を見守ることもまた、リーダーとしての役割であると自覚しているのだ。


風間は少しだけうなだれながらも、「もっと頑張りますよ!」と、元気な声で答えた。その様子を見ながら、斎藤は彼がこの機関での役目を十分に理解していることに安心した。


斎藤は再びライフルを肩にかけ、鳥妖が落ちた場所をじっと見つめた。その瞳には、過去の任務で失敗した後悔も、今の自信も、全てが宿っている。

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