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東京幻怪録  作者: めくりの
一章

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第十三話 「コンビニの宇宙人」

 夜も深まったころ、灰島凛は任務帰りに最寄りのコンビニに立ち寄っていた。街灯の薄明かりの中、深夜営業のコンビニのガラス扉から漏れる明かりが、彼の表情を少しだけ照らし出していた。任務での疲労を感じさせない冷静な顔つきで、彼は店内を見渡し、必要な物を探して歩き始める。


「…ん?」


ふと、雑誌コーナーのあたりで、異様な気配を感じた。妖怪の気配とは違うが、何か普通ではない波動がある。凛は自然な動作で雑誌棚の近くに歩み寄り、気配の方向を探る。その目線の先には、一人の若い男性がいた。少しぼさぼさの髪に、服装も今一つ街に馴染んでいない。彼はコンビニの一角で雑誌を手に取り、じっと表紙を凝視している。


一見、普通の青年だが、凛の鋭い目にはその微細な違和感が見抜けていた。彼の動作がどこかぎこちなく、人間らしい自然さが欠けているのだ。まるで「人間らしさ」を真似しようとしているかのような、不自然さだ。


凛が無言で男性に近づくと、彼はふと凛に気づいたように顔を上げ、軽く微笑んだ。


「こんばんは」


凛は軽く頷き、視線を外すことなく静かに問いかけた。「…お前は、何者だ?」


男性は驚いたように目を見開いたが、すぐに表情を緩めて、やや苦笑するように口元を緩めた。「ああ、ばれちゃったか。さすが、見抜かれるんだねぇ」


凛は動揺することなく、ただ淡々とその場に立ち続け、彼の言葉の続きを待った。すると、男は手にしていた雑誌をそっと棚に戻し、目を少し細めて凛を見返した。


「実はね、私は地球の観察を任されてる、まあ、いわゆる宇宙人ってやつだよ。驚かないんだね?」


「地球人のふりが上手くないな」と、凛は冷静に返す。その眼差しは冷たくもなく、だが警戒心は消さないままに。


「いやあ、さすがに手厳しいなあ」と、男は肩をすくめる。「私たちはね、人間の習性や文化を学ぶために地球に来てるんだよ。でも、まだまだ難しくてね。たとえばさ…これを何に使うか、わかる?」


彼は不思議そうに手に取ったのは、なんと「おでん」のパックだった。どうやらその中にある具材が何なのか、まるで理解できていない様子だ。凛は少し眉をひそめ、「それは食べ物だ」とだけ答えた。


「食べ物? こんな、茶色くて、ぐちゃっとしてるのが?」と、宇宙人は少し眉をしかめ、まるで不満そうにパックを見つめる。「地球の食事って…意外と見た目が独特だね」


凛はやや呆れたように目をそらしつつ、淡々と答えた。「食べ物の見た目は人それぞれだろう。それに、これを選ぶなら、ちゃんとレジに行け」


「レジ、か。ああ、お金っていうものを渡せばいいんだったね?」彼は突然、ポケットから取り出した数枚の紙を見せた。だが、その紙は何故か異国の通貨だった。


「…これは使えない」と凛は冷静に言い、正しい日本円を見せるように指示した。彼はしばらく手持ちの紙を見比べてから、仕方なく財布を取り出し、日本円を探し始めた。


「いやあ、地球の経済って、まだ理解が追いつかないなぁ」と、苦笑する宇宙人。その様子をじっと見守る凛の目には、微かな好奇心と共に警戒が混ざっていた。


「ここで何をしている? ただの観察者というには不自然だ」


宇宙人は凛の質問に一瞬、思案するように視線を巡らせてから、少しおどけた表情で答えた。「いやね、最近、地球での仕事が増えてね。観察だけじゃなく、たまに現地の人と…こうやって話すことで、より深く理解しようとしてるんだ」


「だが、君が持っている異様な波動はただの観察者のものではない。もしも君が何か目的を持っているなら、答えを聞かせてもらう」凛は低い声で言い、手元の「影喰い」に軽く手を触れた。


「まぁ、まぁ、落ち着いて。君が持ってるその刀、怖いからさ」と、宇宙人はやや慌てて手を振り、凛の警戒心を解こうと努めた。「こっちは地球の平和を乱すつもりは全然ない。ただ、君たちの文化を知りたくて…ほら、地球って興味深い星だから」


「そうか」と凛は静かに返し、再び彼の動作を観察する。何か意図があるかどうかを確かめようとする目で、しかし敵意は持たずに見つめていた。


一方、宇宙人はコンビニの陳列棚を眺め、またもや興味深そうに品物を手に取っていた。今度は「かまぼこ」のパックを手にし、「これも地球の食べ物か?まるで何かの部品みたいだね」と感想を漏らした。


「それも食べ物だ。日本の食文化の一つだが、君の星には似たものがないのか?」


「んー、どうだろうね。私たちは液体で栄養を摂取するから、こういう固形の物には馴染みがなくてね」宇宙人はパックを凝視し、やがて「でも興味があるから買ってみようかな」と言い出した。


凛は黙って見守りつつも、この異星人が持つどこか憎めない性格に少しの警戒を緩めていた。彼の行動には危険が見えず、むしろ地球文化に純粋な興味を抱いているようだった。


「だが、何か問題を起こせば、こちらも容赦しない。君が学びたいなら、それは君の勝手だが、地球の秩序を乱すつもりなら即座に対処する」


宇宙人は頷きながら、「ああ、もちろん。私も君たちには敬意を払っているさ」と言い、さっき手にした「かまぼこ」を見つめた。「ただ一つ、もし可能なら…これの食べ方を教えてくれないか?」


凛は一瞬、微かな笑みを浮かべると「それは、レジで会計を済ませてからだ」とだけ返し、店内の出口に向かう。そして、宇宙人が彼の後を追い、凛は無言で見送った。


______________________________________________


この夜の出来事は、凛にとっては奇妙な出会いの一つに過ぎなかったが、彼の心に微かに残る異星人の「純粋な好奇心」は、一筋の笑いと共に彼の心に留まったのだった。

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